君と僕の昨日と明日 -4-


《小山慶一郎Side》


 あーシゲ格好いいよぉ…。

 毎週毎週、テレビの前で溜息をつく自分がいる。

 シゲがあまりにも格好良すぎてポーッとなってしまったり、東新のような儚さを持っていない自分を嘆いたり、想いを伝えきれない自分の不甲斐なさを思い知ったり。

 金八先生…あの二人が共演してるトコなんてホントは見たくないんだけど、放映日の翌日はクラスの話題になるから、自分の知らないシゲの話を皆がしてるってのも気にくわなくて結局見てる。

 そんなある日、ドラマの放映日の翌日、いつものように学校でクラスの女子達が騒いでいた。

「ねえねえ、昨日の金八見たぁ? 昨日のハセケン、超格好良くなかった?」

「何? あんたお気に入りの加藤くんだっけ? 確かに可愛いよね。大人っぽいし」

「年下だなんて思えないんだよね〜」

 なんだ、シゲの話題…?

 机に突っ伏してウトウトしていたオレは、聞き慣れた名前にうっすら目を開けた。

「加藤くんてさ、彼女いるのかな? あ、ねえ小山くん!」

 オレ…?

 半分寝ぼけてたせいで、急に呼ばれてイマイチよくない反応を返してしまった。

「何…呼んだ?」

「呼んだよ。ねえ小山くんって加藤くんと同じグループなんでしょ。彼女いるかどうか知ってるよね」

「シゲのかのじょ…?」

「そ。いるの〜?」

 その時頭をよぎったのは東新の顔とあの噂。

『あの二人、ヨリ戻すんだってさ』

「ね〜どうなの小山くん。ちょっとボーッとしてない?」

「大丈夫?」

「あ、いや、今は居ないと思うよ。」

「ふ〜んそうなんだ。ねえ、加藤くんに言っといてよ。ファンですって」

「何言ってんの。『彼女になりたいです』でしょ〜? 小山くんに紹介してもらえば〜?」

「え〜? でも三つも年下だよ? 彼氏にするのはちょっとね〜」

「あ、やっぱ? 年下の彼氏って大変だし」

「それはあんたの彼氏でしょ〜? 加藤くんと一緒にしないでよ」

 言いたいことを言って席に戻る彼女らを苦笑いで見送る。

 年下の彼氏かぁ…。

 シゲって、オレより全然大人っぽいけど、まだ中二なんだよな。

 だから歳の離れたオレのことなんか…。

 そんなこんなしてるうちに、シゲはますますソロの仕事が増えていって、オレと一緒の時間は少なくなっているのに東新とは雑誌の仕事でもツーショットかましてる。

 シゲへの想いと東新への嫉妬心はどんどん膨らんでいって。

 …オレ、そろそろヤバイかも。






《武内幸太朗Side》


 ほんっと、かなわないっての。

 なんであんなに自信ないんだよ。

 端から見てりゃ明らかに両想いなのに二人して勇気がないんだから。

 おかげでJサポ通称アダルトチーム撮影時の居心地は最悪。

 まだ六人いれば草野に中和されるからマシなんだけど、その中和剤もいないし。

 横尾や草野じゃないけどさぁ、そのうちオレの方が切れるって。

 そんな折りだった。

 オレが楽屋に入ろうとした時、東新に呼び止められたのは。

 実を言うとBAD時代もあまり話したりするほどの仲じゃなかったから、オレとしては意外だった。

「武内くん、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな」

「あ、うん。別にいいけど何」

 オレの方が身長あるから東新は自然と上目遣いになってる。

 キョロキョロと辺りを見回すと、小声で話し始めた。

「シゲと小山くんのことなんだけど、武内くん知ってるよね」

 更に意外。

 よりにもよってコイツからそんな話が出るとは思わなかった。

 驚いたオレに彼が一からしてくれた話をまとめると、シゲは東新に小山くんのことを相談していて、更に東新は小山くんがオレに相談を持ちかけていたことも知っていて、いい加減早くまとまって欲しいと思っていたらしい。

 っつーかなんで小山くんがオレに相談してたことまで知ってんだ?

 …まぁいいか、この際。

「それで、シゲはオレが焚き付けるからいいとして。小山くんなんだけど、ちょっと考えてることがあるんだ」

 そう言って東新が提案したのは……。

「なるほど。いいじゃん、協力するよ。善は急げだな」

「頼むよ。待ってるから」

 そこでマネージャーから声が掛かって、東新はスタジオの方に走っていった。

 こんな計画を思いつくなんて、大したヤツだよ。

 オレは二人の幸せのため…というよりは自らの居心地のいい仕事場を取り戻すために、彼の計画に乗ることにした。

 何、自分本位過ぎる?

 …しょーがねーじゃん。

 息が詰まるようなあの現場、本当に居心地悪かったんだから。






《加藤成亮Side》


「なぁシゲぇ?」

 またまた金八先生の収録中。

 東新くんがべっとりと背中に負ぶさるようにくっついてきた。

「どうかしたの?」

 ゆっくりとその手を放して見下ろすと軽く睨まれた。何で?

「それはこっちのセリフ。小山くんに気持ち伝えたの? ってそんなわけないか」

 ちょっと、『そんなわけない』って…。

 何かこの人、僕と別れてから強くなってない?

「オレさぁ、お前の話聞いててずーっと思ってたことがあんだよね」

「何」

 僕、何か変なこと言ったっけ。

「お前さ、余裕ありすぎじゃない?」

 ……。

「はい?」

「だから、ほっといたら取られるとか、誰かに先越されるとか、全然考えないのかってコト!」

 そういえば。

「全然考えてなかった…」

 東新くんは今頃気付いたのか、とでも言いたげに大げさに溜息をついた。

 そうだ、そうなんだよね、誰かに取られる。

 そういうこともあり得るじゃないか。

「小山くんさー、ヤバイよ? 小中学生からのメンバーが多い中でただでさえ目立ってたのに、あの女装でジュニアの目が変わったこと、気付いてた?」

 女装。ミニスカートの婦警さん、婦慶一郎…とかってやってたね、確かに大人気だった…。

「あいつ、かなり狙われてるよ。早くしないと後悔すると思うんだけどな〜」

 ね、狙われてる!?

 大変! 東新くんの時もそうだったけど、僕が守ってあげないと!

「東新くん、僕小山くんに言う。気持ち伝える。そして彼を守る!」

「よっしゃ、その意気!」

 東新くんは軽くガッツポーズをして見せた。つられて僕も。

 言われて初めて気がついた危機感。焦り。独占欲。

 彼への告白に闘志を燃やし始めていた僕は、休憩時間が終わったことにも気付かなくて。

 心を隠した東新くんが隣で穏やかに微笑んでいたことも、全く知らなかった。











姦しい女子高生とよく分からない武内さんと結構単純なシゲ。特に一番最初のに力入れてたりします。慶ちゃんって共学で良かったのかな?男子校だったらどうしよう…(苦笑)慶ちゃんがミニスカートはいたっていうのはアレです。裸の少年でのコスプレ。正確には婦警さんではなくミニスカポリスなんですけどね、当時まだ裸の少年を見たことがなかったのでよく分かりませんけども。
さて、次回は東新くん(と共犯?の武内さん)が何やら計画を実行するようです…(笑)

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