君と僕の昨日と明日 -5- |
《小山慶一郎Side》
今オレはスタジオの廊下を歩いてる。 理由は、武内に頼まれたから。 『あ、オレ東新に返さなきゃいけない本があったんだ。悪いけど小山くん、INGの楽屋にこれ届けてくれないかな。オレこれからすぐ帰らなきゃいけなくってさ』 急に何を言い出すのかと思った。 オレに、このオレに自分から東新のところに行けと? そもそも武内、いつの間に本を借りるほど東新と仲良くなったの? それでも断る理由もなかったから、今こうして彼のいる楽屋に向かってる訳なんだけれども。 ING、INGっと…あ、あった。 「っでーマジ? マジで東新、またシゲ狙ってんの?」 年下ばかりのグループとはいえ、一応礼儀正しくノックをしようとしたところで手が止まる。 中から聞こえてきた会話に唖然とした。 「マジだって。こんな事嘘言ってどうするんだよ」 東新…! 「でもさー、ならどうして別れたりなんかしたんだよ」 「そうそう。俺もお似合いだと思ってたんだぜ?」 「そのときはね。でもまたシゲと共演してさ、やっぱいいなぁって」 「マジかよー?」 マジかよーって、こっちこそマジかよーだっつーの! 「でもさ、シゲだって他に好きな人出来てるかもしれないじゃん。そん時はどうすんのさ」 「潔く身を引くよ。でもオレよりシゲに相応しいかどうかによるけど」 「こっわー。東新を敵に回すんだぜ? 相手のコ」 何だよ何だよ何なんだよ! 一体何がどーなってんだ!? 混乱する頭の中。 確かなのは、あの噂が少なくとも東新については事実だったということ。 「可愛い顔してよくやるよね〜お前もさ」 「男なんてシゲ以外にもいるじゃん。ウチの事務所だったら選り取りみどりだぜ?」 「ふふっ、でもね、オレはシゲがいいの」 聞きたくない! これ以上聞きたくない! ガチャッ! 結局ノックもしないでドアを開けると、中にいた五人が一斉にオレを見た。 「あ、小山」 「どうかした? 珍しいじゃん。お前が俺達の楽屋来るの」 本当に珍しい物でも見るかのような視線を向けてくるINGの面々。 確かに、オレが東新のいるこの楽屋に来る事なんて今までなかった。 オレは震える指先で抱え持っていた本を東新に差し出した。 「これ、武内が返しておいてくれって」 声まで震えている感じ。 輪の真ん中で体操座りになっていた東新は、ゆっくりと立ち上がると本を受け取る。 「ありがとう。わざわざ」 極上のスマイル付き。 その笑顔が眩しくて、オレは用は済んだとばかりに彼の横を通って楽屋を出ようとした、そのとき。 「シゲに相応しいのはアンタじゃない。さっさと諦めた方が身のためだよ」 すれ違いざまに小さく囁かれた言葉。 ハッとして振り返ると、挑戦的な、かつ妖しい目をオレに向けている東新がそこにいた。 「じゃーね小山くん。本、どうもありがとう」 「おう小山、またなー」 「あ、ああ。うん、また…」 それは一瞬で、またすぐいつもの東新に戻っていた。 他のメンバーは気付いていないのか…? 半ば圧倒されて楽屋を出る。 オレが立ち聞きしてたこと、あの様子からしておそらく東新は気付いていたハズだ。 少しでも早くこの場から遠のきたくて、足早に自分の楽屋に戻った。
《東新良和Side》
足音が遠ざかる。 「行っちゃったね…」 誰かが呟いた。 「これで小山、決心つくかな〜?」 「バーカ、ついてもらわなくっちゃ困るだろ。何のためにこんな芝居したと思ってんだよ」 「それにしても東新は役者だね〜。さすがだよ」 「でもオレ達だって金八狙えなくもないんじゃない? いい線いってたと思うぜ〜」 「次の金八先生っていつの話だよ、オイ。っつーかあんのか?」 口は悪いかもしれないけれど、皆それぞれにホッとした様子が窺える。 そんな中、藁谷が発した一言で再び楽屋は静まり返った。 「でもさ、東新は本当にこれでよかったのかよ」 何だよ、本当によかったのかって。 「いいに決まってんじゃん。これで悩める子羊をまた一人救うことになるんだからさ」 オレがそう言うと、ますます沈黙が重くなる。 「無理すんなよ」 「別に無理なんかしてない。わかったようなこと言うなよ」 「わかってるよ」 「ばっ、何言ってんの? 何がわかってるって?」 「お前、シゲと小山くっつけるためにこんな悪役まで演じて…普通別れた恋人なんかのためにここまでやるか?」 だから、何が言いたいんだよ。 他の奴らまでそんな、憐れむような目でオレを見ちゃってさ。 「東新くん、本当はまだ加藤くんのこと好きなんじゃないの…?」 暫しの沈黙の後発された服部の言葉は、オレの心に音を立てて突き刺さった。 ずっと見ない振り、気付かない振りをしてきた、オレの本当の気持ち。 『シゲに相応しいのはアンタじゃない。さっさと諦めた方が身のためだよ』 さっき小山くんに向かって吐いた、我ながら酷いセリフ。 小山くんがシゲに相応しくないなんて思ってない。 さっさと諦めた方がいいのは本当はオレ…。 シゲの喜ぶ顔が見たくて、笑顔が見たくて、願いを叶えてやりたくて。 シゲが幸せなら、隣にいるのがオレじゃなくたっていい。 オレなんかよりも、シゲを幸せにしてくれる人が側にいるんだ。 「…っ泣くなよ、オイ」 藁谷が手を伸ばして涙を拭ってくれる。 いつの間にか流れていたんだ…。 「お前また恋人作れよ。さっきも言ったけど、お前だったら選り取りみどりだって」 「ふふっ、じゃあ藁谷がなってくれる?」 「ばっ、ばかっ、冗談でもそういうことは言うな」 泣き笑いで返すと、逆に慌てる藁谷が可笑しい。 他の三人も笑ってる。 「大丈夫だって。オレだって仮にも腹筋兄弟の三男なんだよ? そんなに弱くないんだから」 でもありがとう。 このメンバーでよかったよ。 口には出さないけど皆大好き。 素直に、そう思ってる。
はて、私は東新くんをどういうキャラにしたいのでしょう(笑)何故かオトコ漁ってそうな女王様と化してます。すいません。今はもう半消滅状態のINGですが、このときはまだちゃんといます(苦笑)ちなみにINGでのもう一人のイチオシは藁谷さん。だから扱いが良いようです。 |