君と僕の昨日と明日 -6- |
《小山慶一郎Side》
コワイ…。 楽屋に戻ると、既に皆帰った後だった。 オレは泣きそうな気持ちで荷物をまとめると一目散に家に帰った。 自室の鍵を閉めて完全に閉じこもるとケータイで武内に電話をかける。 コール音が鳴ってから気付いた。 武内、用事があるって言ってたじゃん…。 借りたものを返しに行く時間がないほど急いでたのに、出るかどうか分かんないよ。 だけど数回のコール音の後。 『はい』 聞き慣れた声が聞こえた。 と同時に堪えていた涙が溢れてくる。 「…っけうちぃ…っく」 『小山くん!? どしたの泣いてんの?』 武内の優しい声が胸に染みる。 『とりあえず落ち着いて、何があったのか言ってみてよ』 言われた通り、オレはさっき起こったINGの楽屋でのことを武内に洗いざらい話した。 人に喋ったことで少しは楽になったけど、でも何か、凄く怖いのはなくならない。 『そっか…』 「オレ、オレ、今凄く怖いよ。東新にシゲを取られるかもって思うと、怖くて怖くてたまんない…」 『落ちついてって。だったら東新より先にモノにしちゃえよ』 「え」 オレとしたことが、何とも間抜けな返事。 『え、じゃないよ。恋愛は早い者勝ち、みたいなとこあんじゃん?』 は、早い者勝ち…。 そんなんでいいんスか、武内さん…。 『だーかーら、頑張れ』 プチッ、ツーツーツー…。 き、切れた。切りやがった。 頑張れって言われても、シゲがまだ東新好きなら玉砕するだけだし…。 そういや、当たって砕けろって言葉があったっけ。 うぅ、もうこんな事で悩み続けるのなんてイヤだよぅ。 確かに今は東新の方がシゲといる時間が長いけど、取られるのなんて絶対にイヤだ!! もーいいやっ、こうなったら当たって砕けてやるさ!!
決行したのは翌日。 仕事が終わって、皆それぞれ帰り支度をしている。 オレはもう仕事はないし、確かシゲも今日はドラマなかったはずだ。 勇気を振り絞って声をかけようとしたら。 「小山くん、話があるんだけど、一緒に帰らない?」 先越された。 何で? 今までシゲにこんな改まって言われたことなかったのに。 でも戸惑ってる場合じゃない。オレだって。 「あ、オレも、話…あるんだ」 「そう? じゃあいこうか」 「う、うん」 何やってんだオレ〜! 完全にシゲに押されてるよ。 オレの方が三つも年上なのに情けない…。 そんなこんなで、一緒に帰るというよりは、オレがシゲの後を追っかける感じで、人通りの少ない道を通って、ある公園に出た。 ここも人の気配は全くなくって、自販機のライトも点滅してるような、そんなさびれたところ。 どうしてシゲがこんな所に連れてきたのかわからないけど、オレにとっては非常に都合のいい場所。 「で、シゲの話って何?」 そうそう、まずはそれを聞かなくちゃね。 オレが告白して、シゲに逃げられたりなんかしたら、オレはシゲの話聞けないじゃん。 なのにシゲのヤツ。 「あ、いいよ。小山くんこそお先にどうぞ」 なんて譲ってくれたりして。 譲るのはいいけど、でもこっちとしては譲られても…って感じ。 「オレは後でいいから、お前先に言えよ」 「僕の方こそ。小山くんの話の後でいいよ」 「いいって」 「いいってば」 ……。 さっきから何回同じ事繰り返してるんだろう、オレ達。 いい加減イライラしてきた。 「あーじゃーもう、こうなったら同時に言おう」 「いいよ」 少々切れ気味にオレが提案すると、意外にシゲはあっさりOKした。 オレはシゲに気付かれないよう深呼吸をして。 「いいか? いくよ、せーの」 掛け声をかけて思いっきり告白した。 「「好きです! 付き合ってください!」」 おおぅ、見事にハモった(笑) って、え? ハモった!? オレもだけど、シゲもびっくりして大きな目をぱちくりさせてる。 …どういうこと? 「こ、小山くん、今なんて…もう一度言ってくれない?」 「お、お前こそ。もう一度言ってくれない?」 恐る恐る確認してくるシゲ。 でもオレも同じだよ〜。どうなってんの。 「僕…小山くんが好きだっていったんだけど…」 「オレも…シゲに付き合って欲しいって…」 ってことは。
サブタイトル、「慶ちゃん、混乱するの巻」…いや、最初と最後にパニくってますので。なんだかんだいいつつ最後はいい加減ですね武内さん(笑)混乱したり不安になったりする慶ちゃんをもっと可愛く書きたかったです。自分で読み返していてやはり精進が足りないなぁと再確認しました。次がラストです。 |