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秘書:呼び覚まされた記憶

事態が動いた。
セフィロスによっての神羅の混乱。
それがルーファウスの元に一報として届いた時、ルーファウスは神羅邸にてクラウドの残した痕跡を調査していた。
パスコードに守られた神羅の実験室。
何時の間にこんなものを……と思う程に多岐に渡って作られたそれらに、人を人とも思わない実父と宝条に憎しみのような感情すら覚える。
ただ実験の為にのみ作られた、無機質な部屋。大きなカプセル。
その内部に刻まれた、クラウドの文字。
「ザックスが……守ってくれていたのか……」
今になってやっと明かされた真実に、ルーファウスは一人のソルジャーに感謝する。
しかしそのザックスの遺体が、このカプセルを見つけたと同時期に発見された。
既に放置され暫くの遺体は、ニブルヘイムの郊外にて。
クラウドの姿はその側にはなく、ザックスの遺体を手厚く葬った後に、いまだクラウドの捜索が続く。
どうやらタークスの方でも何かしら掴んだようで、事態は確実に動いていた。



「戻る」
側に居たグレンに良い、ルーファウスはニブルヘイムを出る。
とりあえず、神羅本社の様子を見にいかなくてはならなかった。
届けられた一報は、セフィロスについて語られていたが、セフィロスとてニブルヘイムの一件で行方不明となっていたのだから。
「本当にセフィロスが?」
てっきり死んだと思っていた。遺体は発見されなかったものの、魔晄炉の外に出た痕跡もなかったからだ。
地形的にあそこから痕跡を残さずに逃げることは不可能なはずだ。
となれば、地中に眠るライフストリームの中を通って――だが、それは考えられない。
膨大なエネルギーの元となるライフストリームは、実験段階で人の精神を狂わせるとの結果が出ている。
その中に逃げ込んで、果たしてセフィロスが通常の精神状態を保っていけるか?
いけるわけがないのだ。普通の人間ならば……。
だがセフィロスが普通の人間か? と言われたら、それは断言できかねる。
何故なら、彼は神羅の実験のサンプルだからだ。
人より大きな力を持ち、一見英雄としてあがめられてはいたものの、実際となると化け物に等しい存在であった。
神羅は力こそすべてと達観した企業だからこそ、セフィロスに居場所を与えていたが、普通の社会であの力は人外故の恐怖になるだろう。
それ程の力を持っていた――となれば、予想外ではあるが、ライフストリームの中ででも、正気を保つことが出来たのかもしれない。
「その後に何か報告は?」
ヘリコプターに乗り込みながらグレンを見れば、システムファイルを開きながらグレンは首を振る。
「入っていないようです。本社機能が全てストップしている為、情報を送れないのかもしれませんが……」
「そうか……」
一報が入って直ぐ。
ここから神羅本社に戻るには、どうやっても半日近くかかる。
果たして間に合うか?
いや、それよりも……。
「親父の様子はどうだ? 確か今は本社にいるはずだが?」
「それなのですが……」
システムファイルを操作しながら、グレンの表情は険しい。
「医療部から配信されるいる生態反応シグナルが――社長を含めて数名、途切れているのです」
「……成る程」
「もしかして……と思いますが……」
「いや、死んだな」
「!?」
無情に言い放つルーファウスを驚きで眺めやり、しかしグレンは頷いた。
「そう考えるのが妥当でしょうね」
「ああ……」
ヘリコプターは飛び立ち、ミッドガルへ。
最中、無言で考え込むルーファウスに、それきりグレンは声をかけられなかった。



同刻、神羅社屋にて異変を感じたエレノアは、通常方法とは違った方法で社屋に入ろうとしていた。
本当なら本社正面から社員証提示で中に入るのだが、どうも会社機能がストップしているように感じられた。
それ以上に中から漂ってくる不穏な空気。
――戦闘があったのかしら?
思いながら、裏手から、ある一定以上の権限を持つ者にしか与えられない生態キーを使って中に入る。
と……。
「どうした!?」
エレノアは倒れている社員を見つけ、駆け寄る。
「せ……セフィロス……」
「セフィロス!?」
それは、数年前に消えた英雄の名。そして、それと同時に姿を消したクラウド。
「セフィロスが来たのか?」
「う……上……に…………」
そういったきりガクリと力を抜いた社員を床に、エレノアは近くのインターコムに駆け寄る。
医療部に通信裂きを設定して繋げるると、無反応だった。
「何故?」
辺りを見回せば、明るい。ということは、電気の系統がいかれたわけではない。
ならば、何故?
エレノアは社員を放置していくことに多少の抵抗を覚えたが、それよりも先にしなくてはならないことを思い、小さく「ごめんなさい」と呟き、走り出した。
行き先は通信室。きっと、社内の通信網が、何者かによって遮断されたのだろう。
隠し階段から地下に降り、曲がりくねった廊下を走って数分。目の前に見えてきた通信室に、エレノアは愕然とした。
一目で見て取れるおびただしい血飛沫。
その端に触れて、まだ乾いていないことを知る。
「まだ……いる?」
10年近く眠らせていた戦う者のカンを働かせて、エレノアはかつて愛用していた武器を取り出す。
掌に軽く収まってしまう程の大きさのそれは、一見はただのペンであった。しかし、一度振るえば先端部が割れ、なかから無数の針が飛び出すしかけになっている。勿論、針はただの針ではなく、先端部には即効性のあらゆる薬が塗られている。
そしてもう一つ――ナイフ。
既に戦いをやめて暫く。恐らくカンは恐ろしく鈍っているだろうが、ここで負けるわけにはいかなかった。
まだ彼女にはやることがある。クラウドを、見つけるまでは……。
思いながら、通信室のドアに近付く。
耳を当て中の音を伺うが、誰もいないのか無音であった。
だが、通信室のドアは厚い。ある意味、情報の最先端であるこの部屋は、他のどの部屋よりもセキュリティがしっかりしていた。
油断は出来ない。
ゆっくりと体重を異動させ、ドアのノブの方へ体をずらす。
ノブの上、パネルが設置されているそれに、三桁のキーを打ち込む。
このキーは、社長・副社長秘書にのみ与えられる。緊急パスコードだ。
ぴぴぴ。
軽い電子音を響かせて入力されたパスにより、扉がゆっくりと開く。
1、2、3。
ゆっくりとエレノアは数え、4を数えると同時に中に飛び込んだ。



遠く眼下に見える社長室に、ルーファウスは目を凝らし、目を見開いた。
――クラウド!?
ガラス張りの社長室の中、彼のものとは思えない長刀を手に、クラウドがいた。
見間違えではない。姿は成長しているものの、クラウドに間違いはない。
「クラウド!」
叫んだルーファウスに、グレンは驚いて顔を向ける。
驚愕の顔をしたルーファウスの視線は、社長室に。その視線を追い社長室に視線を移したグレンは――納得した。
聞いていた通りの人物だった。
淡い金の髪。瞳の色は見えないが、細身の体を覆う色素は、薄い。
「……生きて……いた……」
震える声が、歓喜を伴ってグレンの耳に飛び込む。
「生きて……」
窓に身を寄せ、必死に遠い社長室を覗き込むルーファウス。
これで……長い捜索に終止符が打たれる。
グレンですらそう思った一瞬。
しかし、ヘリコプターの音に気付いてクラウド達が外に飛び出してきて、ヘリコプターを見上げた目を見て、ルーファウスは表情を強張らせた。

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