ラグナロクを降りて、スコールは溜息をついた。
――やっと戻ってこられた。
子供が生まれて育児期間を過ぎて、何故かバラムガーデンの最高責任者の責務を果たせ、とかなんとかで、今度はガーデン側に拘束されて数週間。
その間、息子はラグナに任せてはおいたのだが、果たしてちゃんと面倒見てるだろうか?
不安に思いながら大統領執務室に赴けば、そこには何故か、キロスがわが子をおぶってウォードがあやしている姿が見られた。
「あのな……」
低く呟けば、キロスは苦笑して首を振る。
「ラグナ君も頑張ったのだよ」
「今、頑張ってないようだが?」
「油切れでね?」
ちらりと視線を向けたところには、執務机。その上でラグナは、ぐったりと臥せっていた。
「とにかく、君に会いたいとそればかり。息子の方が余程聞き分けが良い」
見れば息子の方は元気にスコールに向って手を振っている。
その理由は良く判らないのだが、どうやらこの息子は、キロスが大のお気に入りらしく、夫婦の他には彼に良く懐いていた。
「とうことでね。油を注入してやって欲しい」
キロスは意味深な視線で言うと、息子をおぶったままウォードを促して部屋を出て行ってしまう。
油の注入――というと、やっぱりあれなんだろうな……とスコール。
仕方ない、と吐息してラグナに近付くと、その耳元で「ただいま」と囁いた。
がばりと勢い良く起き上がったラグナは、スコールを見ると目を潤ませる。
「さみしかったぞ!」
子供じゃあるまいし、そんな風に言って抱きついてくるのに、情けないなぁと思いながらスコールはラグナの頭を抱いてやる。
「悪かった……少し手間取って……」
「もうガーデンの責任者なんて、辞めろ!」
「そうは言ってもな……」
スコールもそうしたいところなのだが、学園長が許してくれない。
納得のいく後任を見つけたら、それでも良い――とか言いながら、スコールの選んだ後任をことごとく突っぱねるのだ。
まるでスコール以外は認めない、とでも言いたげである。
正直、大統領夫人とガーデン最高責任者の二足わらじは辛い。その上、母と妻の責務まで果たさなくてはならないのだ。
幾つ体があっても足りなくらいだ。
「ま、そっちは追々なんとかするよ。で、するか?」
「勿論!」
油注入の儀式である。とは言え、注入するのはラグナの方なのだが……。
勢い良く立ち上がったラグナは、スコールの体を楽々抱き上げると、最近作ったという執務室内にある仮眠室へ。
作成する時は、そんなものが必要なのか? と思っていたそれだったが、実際あって良かったと思うのは、二人して家に戻るまで我慢が利かないから。
仮眠室に入り鍵をきっちりと閉めた二人は、どちらともなく唇を重ね合わせベッドに転がる。
激しく舌を絡め、互いの衣服を脱がせ合って――。
一度唇を解くと、ラグナは脱がせたスコールの裸体に見入る。
「相変わらずどこも崩れてないな……普通子供を生むと……」
「良かっただろ?」
「勿論!」
まだ十代だからだろうか? それとも他に理由があるのか。子供を生んだというのにスコールの体には何の変化も見られなかった。
スレンダーの綺麗なラインを描き続けるそれに、ラグナは喉を鳴らすと、むしゃぶりつく。
「ちょ、もっと落ち着け!」
「落ち着けるか!」
飢えているのである。もうひたすら飢餓感との戦いだったのだ――と叫びたいくらいに。
新婚夫婦なのに、育児に追われその後はスコールの仕事が愛しい妻を奪っていったラグナにしたら、もう我慢も限界ギリギリだった。
「これ以上待たされたら、ガーデンに突っ込むつもりだった」
いかにもなラグナの直球に、スコールは苦笑すると。
「突っ込む場所が違うだろ?」
言いながら、本当にギリギリらしいラグナの――いまだ男らしくみなぎったそれに、細い指を絡めたのだった。
互いに荒い息を収めるべく、抱き合って横になる一時。
ラグナはスコールの背を撫でながら、その愚痴を聞いていた。
長くガーデンに監禁状態だったスコールも、実のところ限界ギリギリで、脱走未遂に及んだ回数は一度や二度ではない。
仕事は単調で、しかもSeeDの派遣要請に対し、スコールは出てはならない、とまで言われ、やっているのは事務仕事と命令系統の統率だけである。
「本当に俺が必要なのか、ってくらいな仕事ばかりで、嫌になる」
どちらかというと、スコールは机にかじりついての仕事よりも、派遣先で任務をこなす方が向いている性質である。
「……やっぱ、俺がかっさらったからかなぁ……」
「なんか、学園長に恨まれることでもあるのか?」
「ほら、いやよ……エルのこととか、さ。ママ先生って人がさ、一時でもガーデンの敵に回った原因が、俺になかったわけでもないだろ?」
確かにそういえなくもないが……だが、どちらかと言えば、それはアルティミシアの所為ではないだろうか?
「大体、長くお前を放置した俺がさ。父親の権利振りかざすだけならまだしも、息子を女にしてしかも結婚じゃ……常識人としては……」
「まぁ、一理あるな」
だが、学園長はそれ程心の狭い人間でも、理解力が皆無な人間でもない。
ただ……前々からスコールのことを高くかっていてくれたことは確かだ。その辺の因縁なのだろうか?
「祝福して、もらいたいんだけどな……」
呟くスコールに、済まなそうな顔をするラグナ。
本当はラグナだって、万人から祝福を受けてスコールと過ごしていきたい。
だがそれには、理解してもらうしか方法がないのだ。
「ま、そっちは長期計画で何とかしようか……」
よいしょ、とラグナは起き上がると、再びスコールを組み敷く。
「なに? まだやるのか?」
「勿論! 全然足りない」
「あ、そ……」
本当は、そろそろ愛しいわが子を受け取りに行きたいのだが……拗ねた夫も面倒見なくてはならないだろう。
それになにより、スコールも足りないと思っていた。
まだ、ラグナが足りない。
上から見下ろす夫の首に腕を絡め、誘うように唇を開くと、直ぐにキスが振ってくる。
互いの口内を愛撫しあい、舌を絡めあって、同時に四肢を絡ませる。
余裕のない互いに、微笑み合って――。
「なんか、獣みたいだ……」
呟くスコールに、ラグナは頷く。
「もっと獣になるぞ」
猛ったイチモツをスコールに示すと。
「直ぐ入れるのと舐めるのと、どっちが良い?」
臆面もなく尋ねてきたラグナに、スコールは淡く頬を染めた。
「舐める……」
「よし」
直ぐに体勢が入れ替わり、互いの下肢が眼前に示される。
スコールは既に猛ったラグナを口に含み、ラグナはスコールの先刻の名残の露な狭間に、舌を差し込んだ。
「一体何時まで、愛し子を放置しておくのかね?」
とはキロス。
二人してグテグテになるまで絡み合った後、漸く仮眠室から出て直ぐのことだった。
さすがにあらゆる防止効果を持つ仮眠室だけに、声は漏れていないようだが、様子を見れば一目瞭然という辺り……。
スコールは妙に色気たっぷりに疲れを滲ませているし、ラグナは逆に元気はつらつである。
「いや、すまなかったな。おいで、レイン!」
両手を広げてラグナがキロスに近付くと、その腕に抱かれた子供は首を振った。
「え?」
「まーま!」
驚くラグナを他所に、二人の子供――レインはスコールに腕を伸ばす。
長く不在にしてはいたが、流石に子供、母の姿を忘れることはない。
スコールは苦笑するとレインを受け取り。
「すまなかったな。ほうっておいて」
囁いた。
レインは嬉しそうににっこりと笑い、ぎゅー、っとスコールに抱きつく。
因みに、男の子である。
しっかり母を独占し、得意満面なレインに、ラグナは不満そうに抱き合う母子を見やり。
「言っておくが、スコールは俺のだからな!」
悔し紛れに呟いた。