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結婚生活:NOT SWEET 2

「馬鹿か?」
スコールは言った。
「いや、確実に馬鹿だな。馬鹿以外あり得ない。それとも阿保なのか?」
唐突に俯いてそう呟き始めたスコールに、さすがのラグナも引く。
馬鹿だ阿保だと、馬鹿にしたような言葉を放ってはいるが、スコールの表情は呆れたというよりは、非常に嬉しげであったのだ。
「あの……スコールさん?」
思わずらしくなく声をかけるラグナに、スコールは「ふふふふふ」と笑い始め、ついには「ふはははははは!」に笑いは変わっていった。
何を考えているのか、判りたくもないのに判ってしまったラグナは、困ったように背後のキロスを振り返る。
キロスは……引き攣った笑みで首を振った。その腕の中で、母親の始めて見る姿に息子はキョトンとしていた。
「スコール?」
もう一度声をかけたラグナに答え、スコールは笑いを収めると、ふ、と夫と息子+夫の補佐に微笑みかけて、手元にある赤いボタンを押した。
『御用でしょうか? 統括?』
統括補佐官であるなじみの声が聞こえ、スコールはボタンの側に設置されたインターコムに向って言った。
「キスティスを除いた幹部全員を呼び戻せ。同時に情報部員を各国大使館へ配置。動きを探れ。期間はこの三日。特にエスタ周辺の人員を多く配置すること」
『了解しました』
「報告はガーデンの学園長室に。俺もそこにいる」
『了解!』
ぷっつりと切れた通信の後、スコールはモニター向こうの夫を見やると、一言。
「俺はSeeD統括責任者を辞任する」
と言い切った。
「出来るのか?」
怪訝に問いかえすラグナ。
当然だろう、これまで何度も辞表を提出したスコールは、一度としてそれを受理されたことがない。
「辞められる理由が出来たからな」
「は?」
「直ぐ帰る」
断言したスコールは、ラグナの了承も得ないままモニターの電源を切り、すくっと立ち上がった。
行き先はガーデン統括者であるシドのいる、学園長室。
「粗末な喧嘩を売られるとは、俺も舐められているのか?」
先程の笑いはどこへやら。不機嫌そうに呟いたスコールは、ツカツカと統括執務室を出るのだった。

本来なら用事は殆どないはずなのに、懐かしくも思えない程に歩きなれたガーデンの順路を辿り、スコールは学園町室に到着した。
「スコールです。入室許可を願います」
音声型認証システムに断りを入れて、個人証明であるカードを差し込むと『SeeD統括責任者スコール=レオンハート。入室を許可します』と声が返る。
変わっていない自分のファミリーネームに、学園長のこだわりを見た気がして、スコールは自分の確信を強め、室内に。
そこには、執務机に座ってにこやかにスコールを見る、狸がいた。
「これはスコール君。随分と久しぶりだね」
告げてくるシドに、スコールは呆れる。
「10日前にお会いしたはずですが?」
確かエスタに帰る前に挨拶したはずであるのだ。
「そうだったかね?」
小首を傾げて考える仕草のシドに、この狸、とスコールは内心で罵倒する。
全く年だけを無駄に経てきた狸は、策略に秀でていて困る。そしてそれを恥ずかしくもなく素知らぬ振りをするものだから、全くやってられない。
そう言えば、この学園長はスコールがただの派遣要員だった時も、良いように使ってくれていたな、と思い出す。
初任務が期間無制限のレジスタンス(とは思えないお粗末な団体)への協力。期間無制限ってなんだよ、人生全てレジスタンスに協力か!? と当時やっぱり心内で叫んだのを覚えている。
かと思ったら、何がどうなってそうなったのか判らない、ガーデン責任者への着任。
委員長と良いように呼ばれ、奔走したのを思い出す。
それで最後にはSeeD統括責任者。
嫌味としか思えない。
「本日は、辞表を受け取って頂きたく、参上しました」
スコールが言うのに、シドはさも驚いたとでも言いたげに目を見開く。
知っていたくせに。
心で毒づいたスコールは、やや呆れを含んで目の前の狸を睨み据えた。
「何故、と聞いても良いかね?」
「理由は……もう結婚したのですし、子育て一本に絞りたいから、ですか」
「しかし君には理解ある夫がいるのではなかったかね?」
「そうですね。帰れば泣きついて我ままを言う夫と理解がありすぎて将来が心配な息子がいます」
「なら、良いではないかね?」
さらりと却下するシドに、スコールは柔らか――に見えるような笑みを浮かべる。
「……先日統括秘書官のイルダが結婚退職しました。ご存知ですよね?」
「そうだったかね?」
「俺が退職願を受理したので、間違いありません。学園長にも書面でお知らせしましたが、ご存知ありませんか?」
暗に仕事の怠慢を責めつつ言えば、さすが狸。
「日に見る書類の数が多すぎてね。私はSeeDの派遣処理はしていないから、そちらの人事についてはすっぽ抜けてしまうのだよ」
言い訳としては、実に妥当な言葉だ。確かにシドにはSeeDの人員への責任はない。それはスコールの管轄で、スコールが理解していれば良いからである。
「SeeDの契約基準には、本人の意志によって退職が認められるとありましたが、俺はそれに適用されませんか?」
「されないね。統括責任者はそう簡単に変わっては困る。何か問題でもあれば別だがね」
「問題……ですか」
ニヤリ、と。得られた答えにスコールは笑った。
真面目なスコールは、仕事となるとどうしても手が抜けない状態で、これまでさしたる問題を起こさないどころか、むしろ指導者として最高の采配をふるってきてしまった。
それが自身の首を絞める結果になったのだっが、だが、それも今日で最後だ。
「実は現在、世界を股にかけた盗賊団が暗躍しているそうです」
「そうかね」
「その盗賊団は各国を隔てる言葉や人種の壁を軽く飛び越えて活動しているようで、俺はこれに対して一つの仮説を立てました」
「どのような?」
「その盗賊団は、SeeDではないのか、という仮説です」
「まさか」
シドは笑って否定する。否定の仕方がやけに軽い。
更に確信を強めたスコールは、エスタに送られた脅迫状のことまで話した。
こんなにおかしい話はないのだ。
スコールは現在SeeDが最大限に力を生かせる勢力地にいる。移動にはエスタの協力を得てラグナロクを使っているから、近隣住民は知りたくもないのにスコールがバラムにいるのだ、と判る。あれだけ目立つ移動法は他にないからだ。
近隣住民が知っていることを、盗賊団が知らぬはずはない。情報に疎くては盗賊活動など出来はしない。盗賊団というのは、していることが犯罪なのであるから、早々表立って活動をしない変わりに、情報だけは最優先で所有する必要がある。
ということは、盗賊団はスコールがバラムというSeeDの勢力地にいることを知っていながら、スコールの命をを盾にしてエスタに脅迫状を送ったことになる。
これは明らかにおかしい。
いかに巧みな策略で活動していようとも、さすがにSeeDに対して表立って仕掛けてくる者達は少ない。相手は戦闘の専門家であるのだから。
要するに、余程の馬鹿か阿保でない限り、SeeD勢力圏にいるスコールを狙うなんて考える馬鹿はいない、ということだ。
更に先ほど書類を整理していて気付いた、各国の動き。
「俺がSeeD勢力地にいることを知りながら、脅迫状を送ることが出来るのは、その居場所を知りつつ、なお、俺を拘束出来ることを確信している者。更に、エスタの電波塔に設置された技術について知りうる人物。ということになります」
「電波塔のことなど、誰でも知っているだろう?」
「そうですね。俺も最初はそう思いました」
だが、おかしいのである。
スコールはその電波塔のことは知りながら、電波塔に設置された新技術の話は聞いたことがなかった。
ラグナが出産前後と言っていたから、おそらくわざわざ知らせなかったのだろうと予測出来る。しかしそれにしても、ラグナ以外から耳にする機会はいくらでもあったはずなのである。
ということは、ラグナは電波塔に設置したあの技術のことを、ある一定以上の人間には言わなかったと予測される。
例えば実装実験をする為に、その影響を受けるかもしれない国の要人や、その技術に関わりを持つ者以外は、電波塔に設置された装置の存在を知らない。
他に電波塔の閉鎖を願うような意味合いは、あの電波塔にはないようだし、もしもただたんに電波塔の閉鎖が目的なら、脅迫状がエスタにだけ届くというのは不自然だ。
それと、武器庫が襲われた件。
エスタの件がなければ、不審にも思わないところだったが、繋がりが見えれば不審なこと。
武器庫を襲われたのは、この平和の時代の中にありながら、いまだ兵器を多く産出しているガルバディアだった。
かのガルバディアは国家元首が平和推奨の穏健派でありながら、その直下の補佐はその理念を否定している。
ともすれば直ぐに宣戦布告しそうな程の危険思考を持つ補佐を警戒して、SeeDは国家元首の依頼の元、開戦の危険を回避する為にあらゆる手段をもってこれに対抗している状態だった。
そしてそのガルバディアの武器庫が何者かによって襲われた。
最初は余程盗賊団の活動が巧みなのだと思われたが、裏を返してみれば非常に納得出来ること。
盗賊団はSeeDである。それも、団体として組織された者達が各地で動いているのではなく、恐らく各国の大使館に詰めている護衛用のSeeD。
「命令を……下しましたね?」
シドはにこやかに笑って口を閉じる。
「だんまりですか?」
「証拠がないからね」
「証拠、ですか……」
証拠なら、直ぐに来る。
スコールは背後――学園長室への入り口を見た。
程なく統括補佐官がやってきて、大使館の動き――大使館の護衛用SeeDの動きを、情報として運び、更にはゼル以下幹部がやってきた。



見事エスタに帰還することに成功したスコールは、しかし非常に不機嫌だった。
エアステーションに向かえにやってきたラグナは、受けた知らせから事情を既に理解しており、苦笑で愛妻を迎え入れる。
「ま、良いじゃないか。出向かなくても良くなったんだから」
「だからって普通、SeeD本部をエスタに移すなんて、そんなこと、考えるか!?」
明らかにスコールを抱き込んだままにはするのにはどうしたら良いのか? 考えに考え抜いた、という感じだ。
「どうしてそこまで俺にこだわるんだ? 別にそれ程尽くしてるわけじゃないのに……」
「いや、十分尽くしてると思うぞ?」
真面目が故に自分の真面目さんに気付かないスコールは、実に真面目に仕事をする良い上司に違いない。その上、かつて世界を危機に陥れた魔女を排除した英雄扱いである。
当時共に戦ったSeeDの中には、いまだスコールを崇拝している者が少なくないと聞く。
人を率いるのに十分なカリスマを備え、尚且つ仕事に真摯なスコールは、これ以上ないという程にSeeDの指導者向けなのである。
結局、統括責任者だけは逃れることが出来なかったスコールは、仕事場だけは近くなったのでエスタでの居住が可能になった。
「ということで、奥さん。そろそろ家に帰ろうか?」
「ああ……」
「今夜は川の字になって寝ような?」
言うラグナに、スコールは何とも微妙な表情を浮かべ、それでも頷いた。

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