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中嶋×啓太編3


サラシ

「ほら」
渡されたものに、啓太は首を捻った。
「何ですか? これ?」
「通称、サラシと呼ばれるものだ」
「はぁ……」
そりゃ、見ればなんとなく判る。
「じゃなくて! これをどうするんです?」
「巻くんだが?」
「どこに?」
「胸にだ」
「なんで?」
中嶋はちらりと啓太を見やると――至極当然と言った具合に。
「体育の時間じゃないのか?」
と言った。
「あ……」
これまで一度として体育の授業には出ていなかったが、そろそろ授業を休む理由も尽きてきた。
体育と言えば、準備運動の段階で誰かと体を触れ合わせるのが絶対条件となるから、だから、出られなかったのだ。
だって、胸があるのがばれてしまうかもしれないではないか?
それを、どうやらサラシで解決させるつもりらしい。
「でも、本当にこれで大丈夫ですか?」
「まぁ……やってみないことにはな」
そんな無責任な……。と啓太は思う。
「もしもばれたら、どうするんですか?」
不安そうに啓太。
しかし中嶋は。
「丁度良いじゃないか? どうせなら、何時ばれるとも知れない危険を犯して学園に残っているよりも、家に嫁入りのことでも考えながら、他校に転校しろ」
「えー……」
せっかく入ったのに――と啓太。
憧れの学校に入り、これから頑張るぞ、と思っていたところにそれでは、思い残すことが多すぎて、生きていても自縛霊と化しそうだ。
「他に、方法はないんですか?」
大体にして、一番の解決法といったら、啓太の体が元に戻る事に他ならない。
しかし、中嶋にはそっちの解決法について考慮することはないらしい。
何故か知らないが、どうも中嶋は、啓太に自分の子供を生んで欲しい――と思っているようなのだ。
だからエッチに容赦がないし、避妊もしてくれていない。
何時出来るのではないか、とビクビクしている啓太のことなんて、何処吹く風。
今も、他の解決法を望んだ瞬間から、ニヤニヤとよろしくないことを考えている。
「他の方法か?」
笑いは、実際には声を伴っていないが、なんだか顔を見ているだけで、ないはずの声が聞こえてきそうである。
――ふっふっふ。
なんて感じに。
「ないわけではないな……」
言う中嶋の、その方法が判ったような気がして、啓太は一歩引く。
「俺、サラシをつけて、授業に出ます!」
思い切り言ってみる。
しかし、もう遅かった。
「いや。大事な啓太の体を、誰かに触れさせるわけにはいかないとは思っていた」
事実か方便か、微かに顔を歪める中嶋に、啓太は驚く。
中嶋は、喜怒哀楽の表情の感情の内、喜と楽については非常に屈折した表現をするくせに、怒の感情表現は非常にストレートである。それが微かであろうがおおっぴらであろうが。
因みに、哀についてはまだ一度も見たことがない。
ということは、それが――飽くまでほんの微かであろうと、言っている言葉に嘘はないということだ。
要するに、啓太の体を他の誰かに触らせたくない、と本気で思っているということ。
――やばい、喜ぶな、俺!
啓太は思わず歓喜に震えそうになる己の気持ちを、慌てて引き締める。
ここで啓太が喜んでいるのを知れば、今現在中嶋の頭の中で展開されているだろう、あれこれ色々を、実行させるきっかけになってしまう。
それは絶対的に、啓太の精神肉体を共に疲弊させることに間違いはなくて――。
「それは嫌です」
まるで中嶋の頭の中を覗き込んだように断言する啓太に、中嶋は眉根を寄せる。
「……何故だ?」
「だって……」
このところもう、毎日のようにやっている。それはもう、日々濃厚に。
啓太はまだ十六で、出来ればまだ青少年の時代を楽しみたいと思っているのだ。
なのに、このままでは本当に、若くして母親にされてしまう。
いずれ、本当にもっと先の未来に、もしも自分の体が元に戻っていなくて、それでも中嶋に求めらるのだったら、子供を生むことに否はない。
けれど、今は――。
「お願いですから、中嶋さん……」
思わず泣きそうになりながら懇願する啓太に、中嶋は溜息を吐く。
「俺の子を生むのが嫌なのか?」
ということは、やっぱり中嶋の言う”他の方法”とは、過度のセックスで啓太の体を役立たずにする――ということで。
「やっぱりそっちの方法なんですか!」
思わず叫んだ啓太に、中嶋は当然とばかりに頷いた。
「大体、何で俺を妊娠させようとするんですか!」
まだ学生である。高校も一年の、子供から一歩踏み出した程度の。
そのくらいの年齢なら、如何わしい淫行にふけるよりも、もっと楽しい事が沢山あるし、大体からして中嶋の年齢でも子供が欲しいなどとは望まないはずである。
なのに、啓太のこの問いに、中嶋は呆気なく答えた。
「お前を俺につなぎとめる為だ」
「はい?」
「毎日のように、ふらふらと俺以外の男に尻を振り、何時誰かに乗り換えられても面倒だ。ならば、形に残る形でつなぎとめておくのが一番の方法だろう?」
「って……」
まさか……。
啓太の脳裏を過ぎったのは、体が変化するきっかけとなった薬のこと。
「まさか、中嶋さん……」
あのクスリは……もしかして。
「中嶋さんが、あのクスリを……海野先生に……」
断片的な啓太の台詞だけでも、言いたいことは判ったのだろう。
中嶋は薄笑いを浮かべて頷いた。
「開発にはそれなりの時間と金がかかったが、成功したのは幸運だった」
――やっぱり!
「なんでそんなことするんですか!」
「言っただろう? 全てを使ってもお前を俺につなぎとめておくためだ」
男同士には、明確な繋がりはない。たとえ真剣に愛し合っていたとしても、果てにあるのは互いの気持ちだけで、形になる何かはないから、心が変わればその繋がりは呆気なく切れてしまう。
だが、男女の間となると話は別だ。
結婚に出産。
どちらも形に残り、なおかつ心変わりがあってもそう簡単に繋がりは切れなくなる。
「そんな……たったそれだけのことで……」
啓太は愕然と中嶋を見やる。
目の前に見える男が、何時も見ている中嶋とは別人のようで、啓太はその誰かに怯えた。
こんな男は、知らない。
中嶋は何時だって過剰過ぎる自信の上に成り立っていて、だから、啓太をただ傍に置きたい為だけに、他人である啓太の人生を、己の思うがままに変化させようとしている中嶋なんて、想像も出来なかった。
けれど、それは確かに中嶋で。
――ああ、駄目だ……。
女の体と気持ちは、男であった時とは明らかに違う動きを見せる。
以前の啓太だったら、怯えの裏には明確な怒りが湧き上がるはずだ。誰かに追従することを許さない、攻撃的な部分が、男というものには少なからず存在する。
けれど、女は――。
啓太は己の心の中。怯えの向こうに、きっと男であったなら考えられないだろう――愛しさを感じていた。
愛されている。
その事実の前に、啓太は怯え、そして歓喜した。
「中嶋さん……」
震える手を伸ばし、中嶋の頬に触れる。
さらりとした前髪が手に触れ、啓太の震えは激しくなった。
「俺が怖いか?」
見下ろしてくるのは、そっちこそが怯えの色を含む瞳。
堪えきれない愛しさが湧き上がってくる。
「……嬉しい……です」
そんなにしてまで思われている自分を、啓太は信じられないと思う。それでも中嶋の目は真剣で。
伸ばした手を掴まれ、強く抱きしめられれば、体中に充足感が広がる。
自分が愛し、愛されている相手と、抱き合っている――その事実は、啓太の心を満たし、同時に陥落させた。
「俺……中嶋さんが、好き……」
必死になって中嶋の首に縋りつき、何度も何度も囁く。
その度に啓太の腰を引き寄せる力が強くなり――。
何時しか、唇が触れ合っていた。

自覚してしまった女の気持ちに、啓太の抵抗は薄れていた。
これまでは、何度体を重ねようと、抵抗が先にあった啓太が、今は自ら体を開く。
中嶋が、啓太の体に合わせて作ったという制服を自分から脱ぎ、さらに中嶋の脱衣を助けるまでに。
「中嶋さん……」
何度も何度も名を呼び、そこかしこに中嶋の愛撫が伸びる度に震え、濡れた。
互いの吐息と、行為独特の水音だけが全ての空間。
何時もよりも濃厚な、中嶋の与える行為。
「ふぁ……あ、あ…ぁ……」
声が堪えられない。
「そこ……も、やぁ……」
迎え入れた中嶋の舌が、啓太の陰核周辺を嬲る。
未だ女の体の快感に、その大きすぎる感覚に慣れない啓太は、身を捩りそれから逃れようとする。
しかし中嶋の手ががっちりと腰を抑え、足を固定しているので、それは叶わず、啓太はただ細く声を上げるだけしか出来なかった。
滑らかな舌が、その後に備え膣口を潜る。
既に愛液でしとどに濡れているそこに、更なる刺激が施され、どっと量が増える。
どこもかしこもがジンジンと痛みに似た快感を伝えていて、啓太の体は今、全身がそれを享受している。
「んぁ……あ…中、嶋さ……ん」
男の肉体の下で、悶える体。
「啓太……」
呼ばれる名は、確かに自分の名なのに、その名前の持つ男の気配に、違和感を覚える程、今、啓太の体は女だった。
濃厚に排出された愛液の滑りを借り、中嶋の先走りに濡れたものが啓太の入り口に当てられる。
それだけで、ぴくりと細い体が震えて――。
「良いか?」
許可を求める声に、がくがくと必死に頷く。
やがて押し入ってきた熱に、言い様のない程の充足感を覚える。
やっと――やっとだ。
ぐいぐいと押し込まれる熱は、狭い啓太のそこには大きすぎたけれど、痛みはあまりなかった。
ただただ、イイ。
「ふ……ん、んっ……っ」
結合の最も深いところまで推し進められ、抽挿が始まった時には、もう熱に思考が飲まれていた。
自分がどんな声を上げ、どんな媚態を中嶋の前に晒しているか、なんて、考える余裕もない。
ただただ、押し入るものを必死に締め、中嶋の感覚を促すことしか出来ない。
自分の体を得て、気持ち良くなって欲しかった。
それだけが、今の啓太の望み。
「中嶋……さん……な……かじま……さんっ」
必死に名を呼び、縋りつく。
下から腹壁をこすられるように挿入され、啓太はその良さに震えた。
全ての感覚がそこに集まってしまったよう。
「啓太……名前を、俺の名前を呼べ……」
ぐいぐいと腰を動かされ、熱に浮かされる最中で、その言葉を聞く。
啓太は涙で潤みはっきりとしない視界の中で、中嶋を見上げた。
そこに見えるのは、自分の男である。自分を心の底から愛する――男。
「英……明…さ……っ」
意識しないでも、その名が零れた。
一度口にすると、その名は思った以上に馴染み、啓太は何度も名を呼び続ける。
そして呼ぶ度に、体が浮き立つような、そんな感覚が増した。
「う……うっ……ひ、ひで……あっ…きさ……ぁ…」
思考を埋める空白が大きくなってくる。
既に満足に名を呼ぶことも困難になってきて。
中嶋の動きは激しく直情的になり――。

己の内を濡らす、その感覚の鋭さは、啓太に男の執着の強さを教えた。
それが嫌ではない――そう気付いた時。
――俺、中嶋さんの子供を生もう。
啓太はそう決意した。

「とはいえですね……」
行為後、動けない体を抱きかかえられ風呂に入れられ、その後――。
啓太は中嶋の腕枕の中で、ブツブツと自分の気持ちを告げた。
「まだ十六で生むのは、早いと思うんですよ」
触れ合う素肌は、最中とは違った穏やかな温度で二人を包んでいる。
啓太は甘えるように中嶋の胸に顔を埋め、その空気の甘さとは違った言葉をとうとうと告げる。
いかに愛していても、決意はしても、やっぱり年齢的には早いと思うのだ。
「それに俺、出来ちゃった後の結婚とか、嫌ですから」
「……お前、俺と結婚するつもりか?」
「え? じゃ、俺、未婚の母!?」
予定外の切り返しに愕然とする啓太。
「いや……そういうつもりじゃないが……嫌じゃないのか?」
「何がですか?」
「少なくとも、お前は俺の妻になるんだぞ?」
本来は男の身の上で。
そう言われれば、啓太は拗ねたように唇を尖らせる。
「だって、仕方ないじゃないですか……。今は女だし……」
奥さんにして欲しいと思ってしまったのだ。
きっと幸せに成れる。中嶋と一緒なら。
そう、思ってしまった。
「中嶋さんこそ、本当は男の妻とか、嫌とか?」
「俺か? それはない」
くっきりと浮かび上がったのは、滅多に見られない中嶋の、純粋な笑み。
啓太はこの笑みが優しげで好きだったが、滅多に見られないものなので、今この瞬間に見せられたことに驚き、同時に嬉しくなった。
言葉よりも何よりも、この笑みこそが中嶋の本音。それが、判る。
「もう……」
啓太は己の中に湧き上がった温度の高い気持ちに、溜息を吐いた。
「これ以上俺を女にして、どうするんですか……」
言えば、中嶋の手が髪に伸び、優しい仕草で撫でられながら「それは良いな」と答えが返った。
「もっと女になれば良い。後戻りできないくらいに」
そして、続いて振ってきた頬へのキスを、くすぐったく受け止めた。

2006/11/13
女体化10のお題

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