一人えっち
告白――をされてから、七条はやけに啓太に女の子扱いをするようになった。
それでは本当は困るのだが……。
今も中庭のベンチに座るだけだと言うのに「待ってください」と言われ、ハンカチを敷かれた。
「えっと……あの……」
「制服が汚れては困りますから」
「はぁ……」
以前なら、平然と二人で腰掛けていたのに、この変わりよう。
だが、啓太も女の子。特別扱いをされているようで、嬉しくはあった。
「どうも、ありがとうございます」
「いいえ。いいんですよ」
にっこりと笑った七条が、啓太が腰を下ろすのにさえ手を貸してくれる。
やんわりと腰を抑え、ちゃんとハンカチの上に腰かけられるように。
なんだか過剰とも取れる態度に、啓太はやっぱり困ってしまう。
「えっとですね。俺……一応男なんで……」
「ああ、そうでした。油断すると直ぐに忘れてしまうんですよ」
と七条。
いや、忘れるなんてありえない。中嶋との口喧嘩の際「あの時は」「この時は」と前例が出てくるのは、その全てを覚えているからに他ならない。
ただでさえそのおつむの出来が他と違う、パソコン関係においては天才的なものを持つ七条だ。記憶力は悪くないはず。なのに忘れてしまうと言うのは……。
――嘘か意図的に忘れた振りをしているんだろうな。
理由は明白、啓太を落とす為――なのだろう。ちょっと信じがたいが。
「あの、七条さん?」
「はい?」
「俺の……あの、とこが……好き……なんでしょうか?」
そこが問題だ。
啓太には人に自慢出来るようなところは一つもない――と自分では思っている。
顔は十人並みだから、中学時代は一度だって告白を受けたことはないし、短い公立高校生活の時だって、なかった。あっちでは一応女生徒用の制服を着ていても、だ。
おまけに性格も可愛いからかけ離れていたし、BL学園に自力で入れる程に何かに突出しているところもなかった。
なのに、どこに好きになる要素があると言うのだ?
というのが、啓太の本心。
しかし七条は酷く嬉しそうな顔をすると。
「ありきたりですが……全て……ということになるのでしょうね」
と答えた。
「全て……ですか?」
「ええ。初めて会った時は、なんて可愛い子なのでしょう……と思ったんですよ。だからつい、キスをしてしまいました」
食堂で……西園寺からの誘いを受けた時に……。
啓太はその時のことを思い出し、頬を染める。
和希の手前平静を繕いはしたが、あれは恥ずかしかったと記憶にある。
まるで騎士が姫にするような、手の甲へのキス。
「本当はね? 手の平にキスしたかったんですよ? 知ってますか? 手の平へのキスが何を示すか?」
「え? いいえ?」
「あなたが欲しい。その思いが篭っているキスです」
「え? ええっ!?」
あなたが欲しいって、それって。
啓太はあたふたする。
「本心でよす。着替えを覗いてしまったのは失礼でしたが、見れて良かったとも思っています。君はとても魅力的で……ともすれば襲い掛かってしまいそうでしたよ」
益々頬を染めた啓太は、無意識に自分の胸辺りを両手で隠す。
別に、七条を避けてそうしたわけではないが……。
「早く君が、僕を好きになってくれれば良いのに……そう、思っています」
言うと、素早く動いた七条は、啓太の頬に掠めるキスを。
啓太は慌てて飛びのいて、もうこれ以上紅くなれないという程に紅く染まった頬で、俯いた。
なんだか、七条の態度のいちいちが恥ずかしい気がするのは気のせいなのだろうか?
しかも、意外と露骨に表現する人間だったらしい。
本人からはハーフと聞いているが、外見同様、性格もフランスの血の方が濃いのだろうか?
日本人と違い、彼らは恋愛に奔放だと聞く。
出会って互いに恋心を自覚したら、体を合わせるのは当然のことで、それに対して日本人のように罪悪感を感じることはないそうだ。
して当たりまえ。勿論、年齢的な倫理はあるのだろうが、それすら、心の前では無力になりえるのだろうか?
「もう少し……考える時間を下さい」
かろうじてそう答えて、啓太は逃げた。七条の前から。
ドキドキしてる……。
啓太は部屋に駆け込んだ後、胸を押さえてベッドに飛び込んだ。
全体重を受けて、ベッドがギシギシいっている。
する時も、こういう音がするものなのだろうか?
七条と? する?
思えば、せっかく収まった赤面がぶり返す。
今まで考えたことはなかったが、七条は誰かと経験したことがあるのだろうか?
一つ年上の七条はまだ十七。啓太は十六。
啓太は、一度だって誰かとしたことはない。未経験だ。いわゆる処女。
中嶋辺りの噂だと、男女構わず色々していると言われているが……本当に?
だって中嶋だって十八なのに?
和希は? 同じ年の和希は、経験があるのか?
考えると、判らなくなる。
十六でしてないのは、もしかして遅い?
清純そうに見える西園寺も、実はもう経験があったりとかするんだろうか?
「だ、駄目だ……俺、そういうことしか考えられなくなってる……」
だが、もしも啓太が七条を好きになったら、する――ことになるんだろう。
「俺、出来るの?」
初めてなのに?
「笑われちゃったりとか、しない?」
啓太は大混乱中だった。
よくよく考えれば、まだ好きとも嫌いとも判じていない相手に対し、行為の有無を考える必要もないのだ。
興味が優先する年頃なので仕方ないとも言えるが、啓太の思考は進みすぎた。
「七条さんって、どういう風にするのかな?」
やっぱり紳士のように、女性重視なのだろうか?
ベンチにハンカチを敷くように、優しく女性の体を……。
思考が昂ぶりすぎていた。同時に体も。
若い体は暴走しやすいし、同時に快感に溺れやすい。
啓太は自身の興味が赴くままに行動した。
ベッドに仰向けになり、ズボンを下着ごと脱ぎ捨てる。
足を立てて開くと、その間に手を……。
「ここ……だよな……」
つるりと触れてみると、そこは濡れていた。
「なんで? 漏らしちゃった?」
慌てて覗き込むと、そこは排泄物とは違う透明なもので、てらてらと濡れていた。
「何、これ?」
するりと掬い取ってみれば、ねばねばと啓太の手で糸を引く。
愛液と呼ばれるものだったが、啓太はそれを知らない。
「どこから出てるんだろ?」
慎重に後ろから前に向って指を滑らせると、粒のようなものに触れた。
それが何かも知らず、摘んでみて――啓太は身を強張らせた。
感じたのだ。啓太の初めての、快感だった。
一度そこが感じると知れると、興味はそこに集中した。
気持ちが良い。それだけで、啓太は何度もそこを責めた。
やっている内に快感に慣れてくる。そうなると更に方向を変え、方法を変え。
やがてうねりのようなものがやってきて、耐え切れない感覚を運ぶそれに、足を閉じて準備した。
きっとそれが、絶頂なのかもしれない……と思いながら。
後少し――もう少し……。やってくる波が巨大になり啓太を飲み込もうとした瞬間だった。
「ちょっと良いですか?」
七条の声が聞こえ、ノックの直ぐ後にドアが開いた。
啓太は、呆然と、七条を見上げた。
2007.06.16
女体化10のお題