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俺の妻だ文句あるか 2

 ダアトが一瞬にして壊滅状態に陥った。
 この事実は、瞬く間に世界に知れ渡ることとなった。
 生き残ったのは教会から離れていた信者達と、教会内部にいはしたが、瓦礫に守られた少年少女の二人きり。
 この事態は、預言には欠片も詠まれてはおらず。計らずもここから、人々の預言に対する疑惑は深まっていく。

「……生き残ったのは、本当にそれだけなのか?」
 ダアトからの救助要請を受けて派兵したマルクトでは、深刻な被害を受けたダアトの生き残り達を今後どうするかの会議中であった。
 とは言え、生き残った者達は余りにも少ない。ローレライ教団の導師エベノスは勿論のこと、次期導師であるイオンの命も失われたと聞く。
「本当にございます、陛下」
 沈鬱な表情を浮かべる兵は、先日交代でダアトから戻ってきた者だ。報告の為召喚したときから酷く疲れた様子で。語られるダアトの様子は、予想していた以上に酷いようだった。
「まだ元教会部の瓦礫撤去が終わっていませんので、正確な数は出ませんが……1000人には到りません」
「それ程か……」
「はい」
 ダアトに居を構える殆どの者が、教団の信者や教団に勤める者だった。よって、事が起こった日中には殆どの者が教会に詰めていて、被害は予想以上に深刻な事態に陥ったということなのだろう。
 原因は何か、と、当然最初の段階で調査があった。が、ダアトから離れたマルクトでは勿論のこと、キムラスカでもその原因を知ることは出来なかった。
 唯一、間近に見た者にそれを問えば「神の光が……」と震えながらうわごとのように繰り返すばかりだ。
 恐らくは、爆発が起こったのだろう、と派遣されたマルクト軍は、瓦礫の状態から見てそう判断したのだが……。
 辛うじて難を逃れれたダアトの者が、神の光、を繰り返すので、ダアトを見舞ったこの災厄は、後に神の光と言われるようになる。
 そしてその神の光は、教会内部で起こった。しかも、状況から考えるのに、かなり深部で。
「では……ダアトで生き残った者達は、我がマルクトにおいで願うことにするが……」
 それしかなかろう、ということになった。キムラスカは、ダアトからの要請にも答えることが出来ない程、内部が混乱しているらしい。何でも、1貴族の子息がその神の光に巻き込まれたとかで。
 異論が上がるかと思ったが、思ったよりもマルクトの貴族は善良だったようだ。誰もが難しい顔はしながらも、異論は唱えないまま、会議は終わり――。
「ちょっと宜しいですか?」
 最後に退出した皇帝を、廊下で呼び止めたのは、懐刀として名を馳せるジェイドだった。彼もまた、先日までダアトに派遣されていた。
 常になく緊張をしているような、難しい顔をしたジェイド。
「何か……あるのか?」
「……とりあえず、人払いをした部屋で」
「なら、会議室をそのまま使おう」
 ピオニーは護衛に扉を任せると、ジェイドと二人、会議室に戻った。

「で? 何が判った?」
「……そうですね。色々判りました。例えば、生き残った少年少女が、アッシュとルークであること」
「!?」
「少年と少女だというから、違うだろうとは思ったのですが、彼らを救い出した人物の話では、どうやらアッシュとルークで間違いないようです」
「……どういうことだ?」
「双方共赤毛で緑の目。キムラスカの王族ですね。女児の方は、色合いが少し薄かったと」
「ルークか?」
「だと思います。それが劣化だとするのならば」
 そして、既に確定しているようなものだが、もしも本当にその男児と女児がアッシュとルークならば……。
「ダアトの神の光は、恐らく超振動の光でしょう」
「……そういうことに、なるだろうな」
 溜息交じりに頷くピオニーに、ジェイドは苦々しく笑う。
「……どうしてこんなことになったのか、私は追求しようとは思いません」
「しても、正解は得られないだろうけどな」
「それもありますし……神の光によってダアトがほぼ最初の時点で滅びたことについても、です」
 本当ならば、ダアトはヴァンが暗躍し世界に未曾有の混乱を引き起こした後も、その最たる原因でありながらしぶとく生き残り、最終的に世界を滅ぼすまでの軌跡を作った図太い自治区だ。
 だというのに……。
「……最初の時点か……そう言えるだけ、俺達も相当おかしな存在だな」
「そうですね。まさか過去と未来の記憶を持ちながら、再び過去を生きる。そして可能性としては、アッシュもまた……」
 きっと自覚してはいないのだろうがアッシュは。
 ルークが命をかけ救い、そして一見救われたように見えた世界。しかしながら、預言によって良くも悪くも押さえられていた人の欲望が解放され、更なる騒動となって世界の存在を揺るがすべく起こった戦争。
 その最後の時――自らが血色の涙を流していたことを。
 最後の怨嗟の声が、まるで救いを求める求道者の言葉に聞こえた。
 そしてその時、ジェイドもまた、思ってしまったのだ。ピオニーの亡骸を抱きながら。
 もしも、ルークが生きていたならば……と。
「アッシュはきっと、許さないでしょう。この世界に生きる者を……」
 特に、最後の戦争を仕掛けるのに至ったキムラスカとダアト。そしてそれに扇動されてしまったレプリカ達。
「あれは酷い戦争理由だったからな」
「ええ。酷いものでした。私ですら、醜悪だと思う程に」
 酷いなんて言葉では言い表せないくらい、人間の醜さを具現したもの。もう、二度とは見たくない。
「……それで? 俺達はどう動く?」
「動きません。静観しようと思います」
「静観? らしくないな」
「どう思われようが、私は今度こそ、己の望む道を選びます」
 その道は、きっとアッシュの行いに繋がっていると信じているからこそ。
「それに、来ますよアッシュは、近い内にこのマルクトに」
「……そうか?」
「ええ。必ず。最後に彼と一緒にいたのが、私達なのですから」
 彼の最期を知る者――ジェイド。だからこそ、会いに来る。確認のために。



「俺の妻だ」
 アッシュは笑ってそう言った。己のレプリカを、それと知らせずにバチカルに連れ戻って。

「どういうことですの、お父様!?」
 行方不明になっていた婚約者にして幼馴染。求めても手に入らないキムラスカでの栄光を、最初から手に入れていた羨むべき者。
 ナタリアは、誘拐されたルークが発見されたと聞き、素直に喜んだ。その裏にどんな感情が潜んでいようとも。
 だというのに、ルークは戻った時には同年齢程の少女を連れていて、その少女を、婚約者のナタリアがいるというのに、よりにもよって「妻だ」と言い切ったのだそうだ。
「どうもこうも……アッシュは戻ってきた時、王位継承に最も必要である色を持った子供を、連れて帰ったのだ」
「誰の子とも判らないものなのに、だからといって……」
「ナタリア。赤は遺伝学上最も遺伝され難い色だということを、知っているだろう?」
「それは……」
 父は赤い髪。母は黒い髪。片親に赤毛がいても、ナタリアは金髪に生まれた。いや、ナタリアの持つ色合いこそが、奇跡の遺伝だとも言われている。生まれるのは極まれだからだ。赤と黒で金など。
「そう。かの少女は、両親が共に赤を持ち、かつ過去に遡り赤の遺伝子を持たない限りは生まれない環境の中で存在している。それが例えば庶子であろうが、キムラスカで優先されるべきは、赤い髪なのだよ」
 全くもって、下らない因習である。だからといって、今この時をもってその因習を排除することは、王インゴベルトにも難しいことだ。
「しかしお父様。突然現れたどこの誰とも知れない者を、調査もせずにルークの妻に、など……」
「悪いがナタリア。国の決定は王女の我を超えるものだ」
 どころか、金の髪を持つナタリアよりも、赤い髪を持つからこそ、どこの誰とも知れぬ少女の方が、高い権限を持つことになるのだ。これは、キムラスカの法に等しく、いくら王女であろうが、異を唱えても変えられぬことである。
 この件に関して、しかしインゴベルトはあまり愁いを持っていなかった。
「暫し我慢するが良い、ナタリア」
「……どういう、ことですの?」
「かの少女はルークと同じ年。ならば、心配するに及ばないだろう」
 色にしろ資質にしろ、ルークは間違いなく次代のキムラスカを担う者である。王女ナタリアと婚姻を結べば、王家直系の血は継がなくとも、その地位は磐石。
 だが、ルークには死に繋がる預言が詠まれていた。
 これにより、キムラスカは次代を担う王の候補を失うところであったが……。
「この際、男児であろうが女児であろうが、問題はあるまい。要するに、その力を奮い……」
「お父様?」
「いや。大丈夫だナタリア。お前の望まぬ未来が来ることはないよ」
 呆れた考え方ではあったが、インゴベルトの中では、悪い考えではなかった。
「キムラスカは次代の王と繁栄を。悪い話じゃないだろう」
 恐らく、息子を失うと落胆していた公爵にすら、希望を与える考え方となるだろう。そう信じて疑わないインゴベルトは、その預言をルークが連れ帰ったという少女に担わせるという愚考に至った。
 そしてその話を前提にして、少女には、ルークという名が与えられることとなった。

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