※多少エロ的表現があります。
ご注意!
やたら爽やに、歯をきらりと光らせてガイが戻ったのは、驚くことにデオ峠に差し掛かった時だった。
左手にイオンを抱え、右肩にアッシュを担いでいる。
これには命令したルークも驚いた。
「良くもまぁ……アッシュも捕らえてこれたな? しかもデオ峠に間に合うなんて……」
誉めてはいないのだが、誉められていると感じたのだろう。ガイは女性が見たら卒倒するだろう輝くばかりの笑顔で頷いた。
「萌えは世界を救う!」
さすがファブレの使用人。
ジェイドが呟くと、ルークは「あははははは……」と空笑いした。
ガイの非常識は、ルークの想像を越える勢いだったらしい。
所謂変態。
「誉めて誉めて」といわんばかりにルークに縋りつくガイに、それまでルークが持っていた荷物を背負わせ、褒美の一日自由権は、さすがに行程を遅らせるわけにはいかなかったので、アクゼリュスまでの夜で分割、ということになった。
因みにアッシュの調教も一緒に済ませよう、とルークは思っていたりする。
ファブレに無駄な時間は存在しないのだ。
テントの設営を終えて、それぞれが引き取っていったあと、ジェイドはテントの中で考え込んだ。
ルークはガイに褒美を与えると同時に、アッシュの調教を済ませる気満々だった。
ルークがやるのだから、調教=下僕化、は当然として。ならばその方法は十中八区じらしに違いない。
ルーク得意の荒縄技でアッシュを縛り上げ、その前でガイといちゃいちゃ――という方法が、ルークは好きそうに見える。
今まさにその最中なのだろう。響く声が――多少冷めているきらいのあるジェイドにも、堪らない。
ともすれば暴れそうな下半身をどうにかなだめつつ、これは、アッシュだけでなく、そういう経験がないだろうティアにも、相当な勢いで影響するのではないか、とジェイドは思う。
「若いとは、良いことですね」
ふ、と笑ったジェイドは、既に眠りの中にいるイオンの耳を、確認した。
耳栓が取れていたら、まずいので。
「で、どうでした?」
翌朝、あくびをしながら起きてきたルークに、ジェイドは尋ねた。
「なにが、ですか?」
「守備ですよ」
「ああ……」
ルークはにやりと笑い「楽しかったけどな」と答える。
「楽しい……ですか。成果は?」
「うん。まぁ……一日目。だからな」
「おや、あなたらしくない言葉ですね。バチカルの……」
「だからそれは言うな、っつーの。あれはさすがにファブレの者だとばれるわけにはいかないんから、勘弁してくれ」
「おや? ということは、私はあなたの弱みを握ってしまったということに?」
「そうくるか」
「そうきますよ。勿論」
「でも、俺が皇帝とそれなりに仲良しだってことも、忘れるなよ」
「忘れていませんよ」
ジェイドは苦笑する。
ルークの後に続いて出てきたガイは、実にすっきりとした様子で朝食の支度を始める。
もう、ルークの世話をするのが己の天命だとでも思っているかのような従順振りである。
そして……ガイに続いて出てきたアッシュは――。
「……拘束は外したのですね」
「ああ。逃げる心配だけはなくなった。戦闘も頑張ってくれるだろうぜ? でさ」
「はい?」
「俺、アッシュにレプリカって言われたんだけど、それってマジだと思うか?」
ジェイドは怪訝そうな顔をする。
「あなたが、ですか?」
「レプリカ作成技術――フォミクリーだっけ? あれってお前が立案確立したものだよな?」
「……ええ、過去の汚点ですがね……」
「そうなのか? 現皇帝も喜んで使ってるって話じゃないか」
「……言わないで下さい。おかげで皇妃が決まらなくて……」
「…………苦労するな」
「……………………ええ……」
「最近中でも赤毛のレプリカにご執心で。名器らしいんですよね」「へぇ、会ってみたいな」
「あなたがマルクトに来た時点で、そのレプリカは用済みになるかもしれませんがね」
何言ってるんだ、とルークは笑うが、実際のところ冗談ではない。
かの皇帝は、ケセドニアの某店で出会った赤毛で緑目の誰との戯れの一夜が忘れられず、やんごとなき身分であることは確実なのだから、名前を調べてついでに生体情報を盗み出してこい、と勅命を受けたのは、紛れもないジェイドであったのだから。
その生体情報によって作り出されたレプリカが、現在皇帝の寵愛を一手に引き受けている、というわけである。
「でも、生体レプリカって禁忌扱いじゃなかったっけ?」
「蛇の道は蛇って言うではありませんか」
「……皇帝って、怖いな」
「ええ……本当に……。で、あなたがレプリカの可能性ですが……実はあなたの方がオリジナルじゃないんですか?」
「なんでそう思う?」
「ファブレは穢れて何ぼ、なのでしょう?」
「うん。まぁ……そうだな」
「ですが、アッシュは一見、潔癖に見えますから。それに……あの年には不思議な程、禁欲的です」
「教団育ちだからなぁ。人生損しているよな」
「……そうとも言い切れませんよ。別に性的満足だけが楽しみとは限りませんから」
「ま、な」
「結果的に言えば、あなたと彼との間が、実はレプリカとオリジナルの関係だったとしても、不思議はないと思いますよ」
「それなりに似てるからか?」
「ええ。内容は全く違いますが、見かけは似ていますからね」
「似てる程度?」
「そっくりとは……」
ジェイドはちらりと、一人で朝の稽古に――何故か必死に――いそしんでいるアッシュを見て、頷いた。
「そっくりとはいえませんね。あなたの方が、余程人生を楽しんでいるようには見える」
「そっか。ま、その通りだけど。でもさ、アッシュが思う通りに人生を楽しみ出したら、なんか、怖いと思わないか?」
怖い、と言いながら実に楽しそうに言うルークに、ジェイドは怪訝に振り返る。
「どういう、意味ですか?」
「感度は良いし素質もある。オリジナルだというのなら、俺を超えるかもしれない」
「至宝……ですか」
「そう。実に楽しみだよなぁ」
「で、あなたが調教すると」
「俺以外に誰が? 俺は父上が相手だったけど、やっぱり若い方が良いだろ?」
ジェイドは吐息した。
「アッシュにはアッシュの選ぶ人生がありますよ」
「俺には俺の人生があったけど、否が応もなく、だったぜ?」
「あなたはそれに順応したのだから。ですがアッシュは、順応できないかもしれませんよ?」
「冗談! なんで俺が、拘束を外したと思ってる?」
まさか……と振り向いた先には、ガイとアッシュの鋭い視線が、ジェイドに向いている。
ルークと親しくしているのが、どこか気に入らなさそうな顔で。
「陥落した……んですか」
一晩で?
「100%とは言わないけどな」
「ガイと同じ方向で?」
「……オリジナルは尽くすのが好きらしいぜぇ」
笑って歩き去るルークを見て、ジェイドは肩を竦めた。
本当、ルークが言う通り「ファブレの名を舐めるなよ」である。
アッシュの視線の中には、ルークに対する憎悪に加えて、以前には見えなかった欲望のようなものが宿っている。
「ファブレの血、ですか……」
ジェイドは呟いて、ルークの後を追いかけた。