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罪深し至宝 6

「さぁ、一緒に来てもらうか、ルーク?」

うっそりと――まるで奴隷を前にしたルークのように――笑ったヴァンは、そう言ってルークに手を伸ばした。
ルークはそんなヴァンを酷く冷めた目で見て、小首を傾げる。

「それは、命令ですか?」
「……命令などと……お前に命令できる人間が、この世界のどこにいると言うのだ?」
「なら、お願いですか?」
「そうだ。ここでお前が持つ超振動という力で、瘴気を中和すれば、お前はこの世界にとっての英雄になれる」
「……………………」

真面目に言っているのだろうか? とルークは更に首を傾げた。
本気で言っているのだとしたら、これ程滑稽なことはない。既にバチカルで、ある称号を得ているルークに対して、英雄などという肩書き?
英雄というものが、ヴァンにとって何を意味するのか知らないが、少なくともルークには、その英雄という肩書きにしろ代名詞にしろ、あって嬉しいものではない。
むしろ、有名税として払うものが多すぎることを考えれば、英雄などという無駄に大仰な肩書きなど、ないほうが余程良い。
なのにヴァンは、その英雄というものを、さも良いものがごとくルークに押し付けようとする。
いや、この場合は餌であろうか。

「ヴァン師匠?」
「なんだ?」
「俺はレプリカというものだそうです」

ぎくり。ヴァンの笑みが凍りつく。

「七年前に誘拐された、本物のルーク=フォン=ファブレ。彼から抜かれた情報によって、俺は作られた。ご存知でしたか?」
「……いや? 今初めて知ったことだ」
「そうですか……では……」

ルークはこっそりと背後の剣――いや、その剣の鞘に手を伸ばす。
掴んだのは、鞭の握り。

ND2018
ローレライの力を継ぐ輪キムラスカ者、人々を引き連れ鉱山の街へと向かう。
そこで若者は力を災いとし、キムラスカの武器となって街と共に消滅す。
しかる後にルグニカの大地は戦乱に包まれ、マルクトは領土を失うだろう。
結果キムラスカ・ランバルディアは栄え、それが未曾有の繁栄の第一歩となる。

そこまで言い切って、ルークはヴァンを眺める。
見開かれた瞳が、何故? と語っている。
親善大使を任じられた王城謁見の間にて――バチカルを出る前、ヴァンはルークを呼び出し(そう、呼び出したのだ。公爵子息を、長の肩書きを持つとは言え、たかだか軍人風情が!)今ルークが口にした言葉の半ばまでを伝えてきた。

「俺がこの秘預言を知っているなんて、思いもしなかった……とでも言いたげですね?」
「何故……誰が……?」
「誰が?」

はっ、とルークは笑う。

「何度も言っていることなので、もう言いたくないんですけどね……俺は一応、公爵の息子です。貴族の子息ってのはね、どんなに幼くあろうが、腹心の部下というものが存在するのですよ。その部下は、主がどのような状況にいようが、守り、主に有利な情報を集め、主の為に命をかける。お前には到底無理だっただろうがな! ヴァンデスデルカ=ムスト=フェンデ!」

ヴァンが隠し、秘めた名を告げられ、さすがのヴァンも危険を悟る。
人形だと思っていたレプリカが、既に自立し貴族として存在していた事実を、ここで初めてヴァンは悟った。

「……馬鹿な振りは、演技か?」
「そりゃね。あんたは怪しすぎたし、俺には穢れた血が継がれている。俺は三つ分だけ人格を作り上げ、あんたとその他に割り振った。あんたとティアの前では、ひたすら馬鹿な坊ちゃんの振りを貫き、屋敷では貴族たる存在であるべく振舞った」

簡単だった、とルークは笑う。

「穢れた血は隠されるべきもの。その為に、古来からファブレの者は人格を作り上げ分ける術に長けていた。俺も例外じゃない。あんたはあからさまだったんだよ。視線も態度も、何時だってあんたの内心を相手に知らせていた。他の誰が騙せても、そういう術に長けているファブレの者はごまかせない……まぁ、アッシュは、そういう教育を受ける前にあんたに誘拐されたんだろうけどな」
「……何故、私がアッシュを誘拐したと?」
「いや、あんた……普通疑うならあんた以外いないだろ? つーかさ……」

なんで判らないかな? と呆れた表情でルークは、してやるつもりもなかった説明を、してやることにする。

「誘拐された子息を探し出してきたのがあんた。それまでファブレの誰が探しても、それこそマルクトに存在するファブレの家臣に探させても、どこからも痕跡すらなかった。なのに、どうしてキムラスカでもマルクトでもないあんたが、探し出せた? しかも、キムラスカ人の方が明らかに地理に詳しいコーラル城で?」

ファブレで組まれた捜索隊も無知でも馬鹿でもない。当然コーラル城は捜索の範疇に入っていた。
だが、見つからなかったのだ。
要するに、子息は誘拐された後、誰にも発見されないように方々を移動していたということだ。
移動する誘拐犯程、捜索するのが難しいものはない。
なのに、何故ヴァンがたやすく発見できたのか?
しかも、ファブレ家に入城許可も得ていないコーラル城に勝手に入って見つけてきた。
更に、ヴァンは子息の誘拐を「マルクトの仕業」と報告した。
本当にマルクトが誘拐したなら、どんなに子息に有用な価値があろうが、身の内に入れておくだけで危険なのだから、生かしておくはずがない。
大体、マルクト人にとってコーラル城はまさに鬼門。城の外に放置するならまだしも、中に入るなどありえない。

「何もかもが、あんたが怪しいと言ってる。だからあんたは警戒の的だったわけだ」

コーラル城を発見の場所にしたのは、ヴァンの苦肉の策だろうとは判る。判るが、だがもっと他にやりようはあったはずなのだ。
だが、それをしなかった時点でヴァンは自らの怪しさを証明することとなった。
どうせなら、バチカルの入り口辺りで放置すれば、余程自然だったものを、その後のファブレとの繋がりを欲するが故に、間違えた。

「……知れてしまったものは仕方ない。だが……超振動は使ってもらうぞ……」
「嫌ですね。お断りします」
「許可は求めていない。無理にでも、やらせる」

すらりと抜いた剣をルークに向けたヴァンは、ルークの隣に立ちすくんでいたイオンを振り向く。

「導師イオン、この先の扉をお開け下さい」

ルークを人質にして言うのを、イオンは怯えた目でただ、見つめた。
ヴァンはイライラとイオンを促そうと再び口を開き――しかし、言葉を発することは出来なかった。
伸びた紐――だとヴァンには見えた――が首に巻きつき、締め付ける。
呼吸すらがままならなくなったことによって、声は封じられた。
ルークの鞭だ。
こそりと鞘から解いた鞭を、ヴァンの意識が反れたと同時に放ったのだった。

「イオン。そのまま戻ってジェイドに伝えてくれ」
「ルーク……」
「……さっきから地面が揺れてる」
「え?」
「もしかすると、ここの地盤が緩くなって、地盤沈下が落ちる可能性がある。もしも落ちたら……穴だらけの坑道は埋まるだろう。このことをジェイドに告げて、出来るだけ早くアクゼリュスから出るように伝言を頼む」
「ルークは……どうするのですか?」
「俺? 俺はこいつと一緒に後から行く」

早く、とルークに急かされ、イオンは走り出した。
背後から「走らなくても良い!」と鋭い声が飛んでくるが、イオンはその声を無視して走った。



魔物を避け、坑道から広場に走り出ると、驚きの表情を見せてジェイドが駆け寄ってくる。

「大丈夫ですか?」
「僕はっ!」

上がった呼吸がうまくいかなくて、倒れそうになった体を支えられながらも、イオンは叫ぶ。

「僕は、どうして、本当のルークを見せてもらえないのですか!」
「イオン様?」
「人によって演じていると、ルークは言いました。……僕に見せていたあの顔も、演技だったと、そう言うのですかっ!」

そんなの、求めていなかった、とそう言うイオンに、ただならぬものを感じたジェイドは、ルークの居場所を尋ねる。
だが、イオンの耳には届かない。
ただただ、バチカルに至るまで共にいたルークが、そしてファブレ邸で語り合ったルークが、あれは実は演技だったのだと知らされて、ただただショックが大きくて混乱だけがイオンを支配していた。

ジェイドは、イオンの混乱振りを見て何かがあったことを悟った。
言うことをまるで聞かないティア同様、同じく指令系統にあるルークに気を配れなかったのはジェイドのミスだ。
だが、まさか姿が見えなくなっていたルークとイオンが、坑道の中に入っているとは思いもよらなかった。
同様に、先程ヴァンの率いていたキムラスカの救助隊が街に入ったことを聞いたが、誰の姿も見ていない。それこそ、ヴァンの姿すら。
辺りを見回し確認をすれば、アクゼリュスから軽度の瘴気中毒者を運び出すアッシュとその部下の姿が見えた。
あの一団を終えれば、後は重度瘴気中毒患者だけだ。
アクゼリュスにて動ける者達は既に街を出て、後は親善大使の一行とキムラスカからの救助隊、そして街の責任者だからと最後まで残っているパイロープとその息子を逃がすだけだ。
ジェイドはイオンをパイロープに預け、坑道に入ることにした。
まだルークの姿が見えないからだ。
イオンが飛び出してきた坑道に逆に駆け込み、ルークの姿を求めながら深部まで。
袋小路に行き当たり、そこでルークの姿を確認した。ヴァンと共に。

「ルーク?」

問い掛ければ、二人の間に流れていた空気に別の流れが加わる。
ヴァンの首を鞭で拘束するルークは、上着の内ポケットからナイフを引き出した。
同時に、ヴァンが苦痛の中で剣を振り上げる。

「ルーク!」

ナイフでは剣は防げない。
焦ったジェイドが槍を具現化させてヴァンの剣の軌道を読んで槍を投げる。
わずかに反れた軌道によって、剣はヴァンの狙った軌道を反れた。
ルークの投げたナイフはヴァンの手を貫き、痛みにうめいたヴァンが、剣を取り落とす。

「もういい加減に大人しくしてください……」

呆れたような声が言って、ルークの膝がヴァンのみぞおちに入った。
がくりと膝を落としたヴァンを支え、ルークが振り向く。

「来てくれたのか……」
「ええ。姿が見えなかったので」
「救助の方は?」
「ほぼ終わりました」
「ほぼ……? まだ終わってはいない?」
「ええ。これから最後の一団を外に出します」
「……間に合わないな……」
「え?」

ぐらり、と地面が揺れる。

「これは……」
「崩落が危惧される。上はそうでもないみたいだが、この辺りはかなり振動が酷い。そろそろまずいだろうな……」
「それでイオン様を先に?」
「ああ。ついでにジェイドに、先に救助を済ませるように伝言を頼んだんだけど……伝わらなかったか?」
「……イオン様は混乱中です」
「混乱? ……いや、先にここから出よう。出口がふさがれたら目も当てられないからな」
「そうですね」

背丈の足りないルークの変わりに、ジェイドがヴァンを背負って、坑道を逆に辿る。
道中、イオンの告げたことを伝えれば、ルークは苦い笑みを浮かべた。

「そういう捕らえられ方をするとは、思わなかったな……」

そんなつもりじゃなかったんだけど……とはルークの言だ。
ルークが人格をつくり、人によって演技を続けていたのは、その人人によって差別をしていたのではなく、ルーク自身の身を守る為だった。
貴族は、貴族であるというだけで敵が多い。特にキムラスカで最高位を頂いているファブレの子息となると、自身が何もしないでも恨みを買える程の権力が約束されているのだ。
それらの恨みつらみから逃れる為、自己の保身の為に人自分を偽らざるを得なかったのだ……と、そう言ってもイオンには通じないのだろう。混乱している様子を聞けば。

「何故イオン様を伴って、坑道に?」
「ヴァンから呼び出しがかかった。アクゼリュスの瘴気を止める方法があるとな。そう言われて」
「瘴気を止める方法?」
「その為にはイオンが必要だとも。怪訝には思ったけど、でも瘴気を止められるなら、これ程良いことはないかと思って、一応呼び出しに応じてみた。みたら……実に下らない方法だった」
「下らない?」
「超振動。よりによって秘預言に詠まれている力を使って瘴気を止めると言われた。馬鹿か……」

ジェイドはそれこそ怪訝にルークを振り返る。

「超振動? あなたは確かに第七音素資質保持者ですが……超振動を使えるのですか?」
「面と向かって肯定されたことはなかったけど、使えることは使えるらしいな。過去――といっても、これはアッシュだろうが……超振動の実験に使用されて、随分と苦しい思いをしていたそうだ」
「アッシュが?」
「アッシュ……なんだろ? 誘拐以前のことだ、ってんだから」
「……しかし、超振動……」

超振動は、二人以上の第七音素資質保持者がその第七音素を放出し、それぞれの響きで共振を起こして発されるものである。共振そのものに、二種類以上の響きが必要なことから、一人では発動不可能とされている力である。
それをたった一人で使えると言う不思議。
突き詰めて言えば、それは要するに、アッシュやルークは、それこそ二種類の響きを持つ第七音素を使えるということになる。

「最低ですね……」
「何が?」
「驚くべき破壊兵器です、あなた方は」

ルークは肩を竦め、口を閉ざした。

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