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愛人 2

絶叫絶頂 これ以上ないほどの悦楽を与えて



小旅行。行った先は、グランコクマからそれ程離れていない、森の直ぐ傍に建っていた屋敷。

「こんな屋敷、ありましたっけ?」

かつて旅と称し世界を巡っていたルークにすら、初めて見るそれ。この辺りなら、何度も訪れたので、なかったことに間違いはないはずなのだ。

「ああ、お前がガイラルディアに嫁いでから作らせた」
「え?」
「籍の上でのお前の夫は、間違いなくガイラルディアだが、実際の夫は俺だからな。妻に屋敷の一つくらい贈るのは当然だろう?」
「そう、ですか……」
「不満か?」
「いえ、そういうわけでは……」

不満というよりは、今の皇帝の言葉によって、やはり名目上はガイの妻であるルークが、よりにもよって皇帝と密会。さらには体を通わせていることは、あまり宜しくない事実ではないかと、自覚してしまっただけだ。

「それにこの屋敷は、お前が孕んだ後は出産の為のものとなる。最初は俺の子を、次はガイラルディアの子を、ここで人に知られずに生むんだ」
「知られずに、ですか……」
「ああ。お前には済まないと思うが……」

既に結婚するつもりは欠片もない皇帝。ならば子供だけでも愛する女の子を――と、それが皇帝の願いらしい。

「だけど本当に、俺が生んでも……」
「お前以外の女に、産ませるつもりはない」

決意は固いらしい。
ルークは苦笑して、頷いた。
それにしても……。

「誰もいないんですか?」
「掃除と今日の分の仕事は終え、皆には戻ってもらった。常時は数人のメイドと護衛がいる」
「戻って?」
「邪魔をされたくないからな」

意味深な言い方をする皇帝に、思わず頬を染めつつも、だけどそれで本当に良いのか? と疑問にも思う。
皇帝だ。国の要人だ。今は平和の中にあるから、そう物騒なことも簡単には起きそうにないが、だが国は一見平和そうに見えても陰謀渦巻く魔窟でもあるのだ。
グランコクマからここまで来るのには、軍とは無関係な皇帝直属の情報部隊という護衛がついていたが、彼らは屋敷に着くなり姿を消してしまった。
もしも何かあったら、守りきれるだろうか?

「それよりもルーク」
「はい?」
「これから明日の朝までは、この屋敷の中で身につけて良いのは、これだけだ」
「は……い?」

唐突に言い出した皇帝が手に持っていたのは、エプロン。真っ白な小柄のフリルつきである。

「え……?」
「下着類も全部脱いで、これ一枚で過ごせよ?」
「いや……どうして?」
「俺が楽しいから」

言うが早いかルークの背後に回った皇帝は、ルークのドレスの留め金をはずす。
脱ぎ着のしやすいようにと作られたそのドレスは、直ぐにストンと床に落ち、下着姿のルークだけが残された。

「ちょ、陛下!」
「良いから良いから。それにこの方が、絶対に楽しいぞ?」
「何を……」
「もっと感じてみたいだろ?」

首筋に唇を這わせられながら注ぎ込まれた声に、ルークは震える。
ジワリと滲み出したものは、欲望そのものであり、逆らえない強烈なそれに、従うようにルークは下着に手をかけた。





ルークは、自室だと案内された場所で、ぼーっとしていた。
することがないのである。
ガイとの屋敷であるのならば、まだすることはあった。それこそ本を読んだりとか庭の仕事をしたりなど、探せばいくらだって。だが、この屋敷ですることなど、何一つとしてないのだ。
何を持ってくる必要もないからと、着替えすら持っていない。裸同然だから外に出ることも出来ず、かといって屋敷の中なら歩き回れるか、と言われるとそうでもなく。

「やることがない……暇だぁ……」

ルークはぽすんとベッドに横になった。
大体、この旅行は、ゆっくりとスルために来たんじゃないのか? とルーク。皇帝も言っていたじゃないか。邪魔をされたくないだろう、と。
ならば、するべきことは一つであるのに……。
いや、とルークは首を振った。

「なんだよこれ、まるで俺、したい為についてきたみたいじゃないか……」

実際にはそういうことなのだが、あまりにも羞恥が大きく首を振って思考を散らす。
そんな、やることばかりを考えていたら、皇帝に嫌われてしまうじゃないか。
いや、そういうことでもなく……。
ルークはベッドから勢い良く起き上がる。

「顔でも洗ってこよう……」

一人で悶々としていると、ろくなことを考えない。
それと、もう少しまともなものを身に纏いたい。風呂場にならば、バスローブくらいが用意されているかもしれない。
そうして訪れたバスルームは、窓のない電気の灯りだけが頼りの部屋だった。

「珍しいな、こういう作り……」

キムラスカのファブレ邸でも、ガイの屋敷でも、バスルームは上半分がガラスに覆われた、作りになっていた。昼日中なら自然光が照らし、夜ならば電気に頼るというタイプのものだ。
しかしながらこの屋敷のバスルームには、窓が一つも存在していない。
最近流行りの建築様式は、とかく不思議なものが多いというから、そう言う関係なのかもしれない。出来たばかりだとも言っていたし。
ルークは気にすることなく、まずは顔を洗おうと洗面台に身をかがめた。
その時である。パチンと小さな音がしたと同時に電気が切れ、辺りを闇が覆った。

「あれ?」

唐突に暗闇に放り出された為、視界が確保できないながらも、身を起こし辺りを見回そうとしたルークは、しかしながら次の瞬間硬直した。
両腕がつかまれ、腰の後ろに回された挙句、何かで縛られてしまった。

「誰? 陛下ですか!?」

二人きりで来たのだ。だから通常なら、これは皇帝の仕業であって間違いがないはずであった。だが、皇帝がまさかルークを縛るようなことをするのか?
それに……護衛についてきてくれた情報部隊という人間達は、最初から最後まで値踏みするようにルークを見ていた。もしも彼らが、皇帝の愛人のようなルークを気に入らなかったとして、皇帝が居ない場所でルークをどうにかしようと思ったら?

「へっ……」

助けを呼ぼうと口を開いた時、口に何かが詰め込まれ、声を出すことが不可能になった。挙句、目が何かを覆い……。

「うーっ!」

ふさがれていながらも、何とか声を出し助けを呼ぼうとしても、くぐもってその意味をなさない。
背後からルークの無駄な努力を笑うような声がして、頭に血が上った。
こうなったら……。体当たりでも食らわせて、せめて風呂場から出よう。そう思ったルークが身をよじった時、エプロンの両端から気配が忍び込むものがあった。

「っ!?」

手、なのであろう。見えないから定かではないが、それはルークの脇からエプロンにのみ隠された胸を辿り、乳房を包み込んだ。

「うーっ、うーっっ!」

慌てて暴れて逃れようとするも、既に体の殆どの自由は奪われている。手は背後に回り、口も目もふさがれた。
それに……。
誰のものかも判らないその手は、思いの外優しいものだった。

――誰?

必死に問い掛けてみるも、声は言葉としては届いていないのだろう。答えはない。
手は、あまり大きいとはいえないルークの乳房をもみ、先端を摘み上げ、確実にルークの官能を高めるべく動いている。
相手が誰かも判らないのに、わからないからこそなのかもしれない。ルークは、全身に響き渡るようなしびれを感じ、ひたすら震えることしか出来なかった。

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