休日の過ごし方7

「龍将、どうする」
「走りに行こうぜ」
「集団はヤバイんじゃないの」
「だけどよー、せっかく集まったのに」
 30人くらいの黒い集団は龍将を囲んで、口々に話し出した。

 あっ、行きに見た暴走族!
 どっどうして暴走族がここにいるんだろう。そしてどうして龍将に話しかけてるんだろう。
 なんて疑問に思っていたら、龍将は友達のように会話しだした。

「来てくれてありがとうな。でもまだ明るいし、今日は帰るだけにしようよ。それに俺、今日は絶対外せないんだ」
「なんで〜」
「何が外せないんだよ」
「だって今日は美姫ちゃんがご飯作ってくれるんだぜ」
「おお〜」
 一斉にどよめく黒集団。美姫さんのことも知ってるんだ。

「羨ましいだろ〜」
 龍将が得意げに自慢すると、
「いいなぁー」
「悔しい〜」
「俺も行きてー」
 等々の反応が返る。龍将が「お前らには食わせてやらない」と意地悪を言うと、もみくちゃにされた。


 俺はわけが分かんなくて、虎王先輩に聞く。
「ね、先輩。どういうこと。なんで龍将が暴走族と仲良さそうにしてるの」
「冬哉には言ってなかったがな、龍将は族のリーダーやってるんだよ」
「ええええ〜〜っ。暴走族のリーダーぁ?」
 俺の声のでかさに龍将が気付いた。

「だって、この間まで中学生だったのに」
「暴走族って聞こえが悪いから止めて欲しいなぁ。俺のチームはね、姫龍(きりゅう)って言って美姫ちゃん親衛隊なんだから」
「なっ何それ」
「言った通り。美姫ちゃんを悪の手から守る男の集団なの。な、みんな」
「オォー!」
 龍将の軽い呼びかけにも一斉に声が返る。すっ凄い。圧倒される。虎王先輩にも親衛隊って出来てたけど、それよりもっと気合いを感じる。

「だっだけど、みんな龍将と同い年なの?」
「うん、ほとんどがね。年上もいるけど」
「じゃ、免許無いじゃん」
「あはは、そこら辺は族って言われても仕方ないけど」
「だけど龍将はバイク扱うの、超上手いぜ」
「ウイリーもジャックナイフもお手の物。もちろん走らせてもそこら辺の奴にゃ負けねぇ」
「一回走るの見たら惚れるって。メッチャ格好いいから」

 ふーん、龍将‥単車なんて乗るんだ。この間まで中学生だったのに。何かビックリ。

「あ、来るときに言ってた、美姫さんも狙われそうになった時に、もしかして親衛隊を作ったの?」
「そうそう、みんな兄貴が悪いんだ」
「なんだよ。俺のせいにばっかするんじゃないよ。どっちにしろ姉貴はヤバイ奴に目を付けられていたから、俺たちがこの辺でナンバーワンにのし上がるしかなかったろ」
「俺たちじゃなくて俺が、だろ」
「龍将〜、そんな硬いこと言うなよ」
「何言ってんだよ。種蒔くだけ蒔いて、刈り取りは全部俺がやったんだぜ」

「龍将ってケンカ強いの?」
「当たり前じゃん。それじゃなくっちゃ美姫ちゃんを守れないでしょう」
「龍将は姉貴を守るのは自分しかいない、とか言って、小さい頃から武道全般手当たり次第に習って、段取って、また運動神経がいいから小さくても強いんだわ、これが。俺が中学へ上がったときにはもう勝てなかったから」
「小さいって言っても兄貴や王ちゃん達がデカイだけで、俺だってクラスじゃ平均以上って言うか高い方だったんだぜ」

「しかし健気だよなぁ。3つの時から美姫ちゃんと結婚するって言い続けて12年。無理なのに‥未だに姉貴一筋なんだから」
「いいの、俺は美姫ちゃんが好きなんだから」
「近親相姦は止めてくれよ」
「俺がそんなことするわけないだろう。それならケダモノの兄貴の方がヤバイよ」
「ケダモノなんて、酷いこと言うね。でも龍将、お前だってキスするくせに」
「だって、子供でいたらチューくらいしたっていいでしょ」

「みっ美姫さんとキスするの?」
「アメリカじゃ挨拶だよ」
「姉貴の中の龍将はまだ小学校低学年の駄々っ子なんだよ。またこいつってばそれを崩さないし」
 え、この子供っぽい態度ってわざとなの。
「龍将はシスコンでブラコンだからな」
 虎王先輩が間に割って入る。
「うん、まあそう言うことかな」
 全然隠そうとしない龍将って凄いかも。

「鷹神のことも好きなんだ」
「兄弟のこと嫌いな奴なんていないでしょ。でも俺は特別かもしれないけどね。血が繋がってると思うと熱くなるんだ。だから兄貴なら抱けるかもしれない」
「やっ止めてくれよ‥。俺はケツ掘られたくないぞ。俺は掘る側がいいから。でも男は冬哉先輩だけで充分」
「冬哉さん、ほんと抱き心地いいよね」
「ちょちょっと、こんな所で大きな声で言うの止めてよ」
「いいよ、みんな知ってるから」
「しっ知ってる?」
 焦る俺に黒ずくめの集団の視線が集中する。

「ビビッたぜ。男でもあんな色っぺー顔が出来るなんて」
「足しか見えなかったけど、あんな所でああも大胆にヤってるとは」
「すげーよ、4人も相手するなんて」
 嘘、なんでみんな知ってるの。だって電車の最初の駅くらいは混んでたし、見たとしても周りの数人しか無理っぽいのに。なにより見ようと思わないと後ろは振り返らないと思う。

 でも、あ‥あの裸のあられもない姿を見られたなんて‥。俺は穴があったら入りたい心境に駆られ、虎王先輩の陰に隠れた。
「そんなに虐めてやるな。お前らの美姫と一緒でうちのアイドルなんでね」
「そうそう、それだから今回のライブもただで入れたんだから」
「ウィ〜ッス」
「ありやしたっ」
 虎王先輩に向かって礼をする一団。

「どっどう言うこと?」
「ん、こいつらの分は俺が払った」
 ええっ、先輩がチケットさばいてくれるなんて変だと思ったんだけど、売ったわけじゃなくて全部先輩が買ってくれたのか。まあ先輩にとっちゃ微々たる額かもしれないけど。

「でもなんか‥サクラみたい‥で、省吾に悪い」
「そんなことないよ。ちゃんとヘビメタが好きな奴に声掛けたんだから。なあ、良かったよな」
「俺来てよかった。また来たいって思った」
「おお、俺も」
 そっそうだよね。切っ掛けは何にしても、見ないと分からないし。省吾のファンが増えたのならいいことなんだし。

「見てよ、この格好だってみんなで揃えたんだから」
「それって、走るときの格好じゃないの?」
「こんな暴走族丸出しの格好で走りません。俺たちいつもは赤のスタジャン着てるの。ちゃんと姫龍って背中に書いてあるし」
 そっそれだってかなり族丸出しな感じだけど‥。
 だけどだからビス付きのパンクのような格好してる奴もいるんだ。
「それでその手錠も持ってたの?」
「うん、これは王ちゃんがくれたから。この姿ならぶら下げていても似合うでしょ」
 虎王先輩が‥? 前に買ったことあるけど、なんでだろ。

「だからちゃんとライブを楽しみにしてたんだよ、いいでしょ」
「うん、分かった。そう言うことなら省吾も喜ぶよ」
 だけどほんとに凄い集団で。俺は一生こういう集団とは無関係だと思っていたけど、簡単に関係あることになってしまった。世間は狭いというか、驚いたなぁ。

「で、ケンカ強いって言ってたけどナンバーワンになれたの?」
「そりゃ地域ナンバー1は当然のごとく制覇しました。俺たち武闘派だし。この強さを見せつけて、誰も美姫ちゃんに指一本でも触れようなんて思わないように」
「龍将がキレたらもう手がつけらんないぞ。それこそ止められるのは姉貴しかいないって。近くにいた奴は血の海に沈む」
「そっそんなに‥?」
「俺、逝っちゃっていい? って台詞が出たらもうダメ。怖い怖い」
 ひえ〜、なんか漫画みたい。
「でも高校生とかもいたんじゃないの?」
「高校生だって勝てないことはないんだけどね。でも集団でとなると無理だから。そこら辺は王ちゃんが仕切ってくれたし」

 虎王先輩、そんなことまで仕切れるってどういう人なんだろう。俺は先輩の全てをまだ見ていない様な気がする。
 だけど龍将はほんとに美姫さんが好きなんだなぁ。姉弟なんて報われないのに‥。

「それで見事一番になったから、美姫ちゃんには虫一匹寄りつかない予定だったのに」
「だったのに?」
「美姫ちゃん‥ずっとあのぼんくらと切れない」
「姉貴はさ、王ちゃん達とか、俺たちとか見慣れてるから、ハンサムには興味ないんだよなぁ。信じられないほど平凡な男が好きなんだよ」
「俺だって王ちゃんクラスなら認められるけど、あんな平々凡々な男なんて」
 みんな揃って泣き真似をする。
「それでもみんなまだ美姫さんの親衛隊なんだ?」
「うん、まあみんなでいるのが楽しいってのもあるし、走るのは好きだし。今年はようやく免許が取れるから」

 ふ〜ん、龍将ってよく考えたらあんまり話したことないんだよね。エッチするときしか一緒に居ないから。
 珍しく沢山話したら、こんなに驚くことばかりだったなんて。そうか‥、美姫さんが好きなのか。しかもかなりの本気で。

 俺は届かない想いがあることを知った。

 なんでも頑張れば叶うわけじゃないんだ。

 例え叶わなくても好きだと言い切って、想い続ける龍将は、すごく男らしいかもしれない。

 もっもしかして、狼帝もそうなのかな。叶わないって‥狼帝も美姫さんが好き? え、でもいとこは結婚できるんだよね。じゃあ‥もしかしたら、虎王先輩のことが好きなの!?
 でっでもそれなら今までの行動は全部辻褄が合うかもしれない。中学2年までは凄く先輩のことが好きだったのに、3年になったら突然無視するようになって。そのとき恋だって気が付いたんだろうか。だから他の子と付き合う気も起こらないんだろうか。

 でもほんとだ。頑張れって応援するわけにはいかない。もしどうしようかって相談されたら凄く困る‥。心配することを先に心配されてるなんて。狼帝の思いを聞いてあげることも出来ないなんて。俺って頼りないんだなぁ。
 そう思ったら凄く落ち込んでしまった。


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