「龍将、どうする」 「走りに行こうぜ」 「集団はヤバイんじゃないの」 「だけどよー、せっかく集まったのに」 30人くらいの黒い集団は龍将を囲んで、口々に話し出した。 あっ、行きに見た暴走族! どっどうして暴走族がここにいるんだろう。そしてどうして龍将に話しかけてるんだろう。 なんて疑問に思っていたら、龍将は友達のように会話しだした。 「来てくれてありがとうな。でもまだ明るいし、今日は帰るだけにしようよ。それに俺、今日は絶対外せないんだ」 「なんで〜」 「何が外せないんだよ」 「だって今日は美姫ちゃんがご飯作ってくれるんだぜ」 「おお〜」 一斉にどよめく黒集団。美姫さんのことも知ってるんだ。 「羨ましいだろ〜」 龍将が得意げに自慢すると、 「いいなぁー」 「悔しい〜」 「俺も行きてー」 等々の反応が返る。龍将が「お前らには食わせてやらない」と意地悪を言うと、もみくちゃにされた。 俺はわけが分かんなくて、虎王先輩に聞く。 「ね、先輩。どういうこと。なんで龍将が暴走族と仲良さそうにしてるの」 「冬哉には言ってなかったがな、龍将は族のリーダーやってるんだよ」 「ええええ〜〜っ。暴走族のリーダーぁ?」 俺の声のでかさに龍将が気付いた。 「だって、この間まで中学生だったのに」 「暴走族って聞こえが悪いから止めて欲しいなぁ。俺のチームはね、姫龍(きりゅう)って言って美姫ちゃん親衛隊なんだから」 「なっ何それ」 「言った通り。美姫ちゃんを悪の手から守る男の集団なの。な、みんな」 「オォー!」 龍将の軽い呼びかけにも一斉に声が返る。すっ凄い。圧倒される。虎王先輩にも親衛隊って出来てたけど、それよりもっと気合いを感じる。 「だっだけど、みんな龍将と同い年なの?」 「うん、ほとんどがね。年上もいるけど」 「じゃ、免許無いじゃん」 「あはは、そこら辺は族って言われても仕方ないけど」 「だけど龍将はバイク扱うの、超上手いぜ」 「ウイリーもジャックナイフもお手の物。もちろん走らせてもそこら辺の奴にゃ負けねぇ」 「一回走るの見たら惚れるって。メッチャ格好いいから」 ふーん、龍将‥単車なんて乗るんだ。この間まで中学生だったのに。何かビックリ。 「あ、来るときに言ってた、美姫さんも狙われそうになった時に、もしかして親衛隊を作ったの?」 「そうそう、みんな兄貴が悪いんだ」 「なんだよ。俺のせいにばっかするんじゃないよ。どっちにしろ姉貴はヤバイ奴に目を付けられていたから、俺たちがこの辺でナンバーワンにのし上がるしかなかったろ」 「俺たちじゃなくて俺が、だろ」 「龍将〜、そんな硬いこと言うなよ」 「何言ってんだよ。種蒔くだけ蒔いて、刈り取りは全部俺がやったんだぜ」 「龍将ってケンカ強いの?」 「当たり前じゃん。それじゃなくっちゃ美姫ちゃんを守れないでしょう」 「龍将は姉貴を守るのは自分しかいない、とか言って、小さい頃から武道全般手当たり次第に習って、段取って、また運動神経がいいから小さくても強いんだわ、これが。俺が中学へ上がったときにはもう勝てなかったから」 「小さいって言っても兄貴や王ちゃん達がデカイだけで、俺だってクラスじゃ平均以上って言うか高い方だったんだぜ」 「しかし健気だよなぁ。3つの時から美姫ちゃんと結婚するって言い続けて12年。無理なのに‥未だに姉貴一筋なんだから」 「いいの、俺は美姫ちゃんが好きなんだから」 「近親相姦は止めてくれよ」 「俺がそんなことするわけないだろう。それならケダモノの兄貴の方がヤバイよ」 「ケダモノなんて、酷いこと言うね。でも龍将、お前だってキスするくせに」 「だって、子供でいたらチューくらいしたっていいでしょ」 「みっ美姫さんとキスするの?」 「アメリカじゃ挨拶だよ」 「姉貴の中の龍将はまだ小学校低学年の駄々っ子なんだよ。またこいつってばそれを崩さないし」 え、この子供っぽい態度ってわざとなの。 「龍将はシスコンでブラコンだからな」 虎王先輩が間に割って入る。 「うん、まあそう言うことかな」 全然隠そうとしない龍将って凄いかも。 「鷹神のことも好きなんだ」 「兄弟のこと嫌いな奴なんていないでしょ。でも俺は特別かもしれないけどね。血が繋がってると思うと熱くなるんだ。だから兄貴なら抱けるかもしれない」 「やっ止めてくれよ‥。俺はケツ掘られたくないぞ。俺は掘る側がいいから。でも男は冬哉先輩だけで充分」 「冬哉さん、ほんと抱き心地いいよね」 「ちょちょっと、こんな所で大きな声で言うの止めてよ」 「いいよ、みんな知ってるから」 「しっ知ってる?」 焦る俺に黒ずくめの集団の視線が集中する。 「ビビッたぜ。男でもあんな色っぺー顔が出来るなんて」 「足しか見えなかったけど、あんな所でああも大胆にヤってるとは」 「すげーよ、4人も相手するなんて」 嘘、なんでみんな知ってるの。だって電車の最初の駅くらいは混んでたし、見たとしても周りの数人しか無理っぽいのに。なにより見ようと思わないと後ろは振り返らないと思う。 でも、あ‥あの裸のあられもない姿を見られたなんて‥。俺は穴があったら入りたい心境に駆られ、虎王先輩の陰に隠れた。 「そんなに虐めてやるな。お前らの美姫と一緒でうちのアイドルなんでね」 「そうそう、それだから今回のライブもただで入れたんだから」 「ウィ〜ッス」 「ありやしたっ」 虎王先輩に向かって礼をする一団。 「どっどう言うこと?」 「ん、こいつらの分は俺が払った」 ええっ、先輩がチケットさばいてくれるなんて変だと思ったんだけど、売ったわけじゃなくて全部先輩が買ってくれたのか。まあ先輩にとっちゃ微々たる額かもしれないけど。 「でもなんか‥サクラみたい‥で、省吾に悪い」 「そんなことないよ。ちゃんとヘビメタが好きな奴に声掛けたんだから。なあ、良かったよな」 「俺来てよかった。また来たいって思った」 「おお、俺も」 そっそうだよね。切っ掛けは何にしても、見ないと分からないし。省吾のファンが増えたのならいいことなんだし。 「見てよ、この格好だってみんなで揃えたんだから」 「それって、走るときの格好じゃないの?」 「こんな暴走族丸出しの格好で走りません。俺たちいつもは赤のスタジャン着てるの。ちゃんと姫龍って背中に書いてあるし」 そっそれだってかなり族丸出しな感じだけど‥。 だけどだからビス付きのパンクのような格好してる奴もいるんだ。 「それでその手錠も持ってたの?」 「うん、これは王ちゃんがくれたから。この姿ならぶら下げていても似合うでしょ」 虎王先輩が‥? 前に買ったことあるけど、なんでだろ。 「だからちゃんとライブを楽しみにしてたんだよ、いいでしょ」 「うん、分かった。そう言うことなら省吾も喜ぶよ」 だけどほんとに凄い集団で。俺は一生こういう集団とは無関係だと思っていたけど、簡単に関係あることになってしまった。世間は狭いというか、驚いたなぁ。 「で、ケンカ強いって言ってたけどナンバーワンになれたの?」 「そりゃ地域ナンバー1は当然のごとく制覇しました。俺たち武闘派だし。この強さを見せつけて、誰も美姫ちゃんに指一本でも触れようなんて思わないように」 「龍将がキレたらもう手がつけらんないぞ。それこそ止められるのは姉貴しかいないって。近くにいた奴は血の海に沈む」 「そっそんなに‥?」 「俺、逝っちゃっていい? って台詞が出たらもうダメ。怖い怖い」 ひえ〜、なんか漫画みたい。 「でも高校生とかもいたんじゃないの?」 「高校生だって勝てないことはないんだけどね。でも集団でとなると無理だから。そこら辺は王ちゃんが仕切ってくれたし」 虎王先輩、そんなことまで仕切れるってどういう人なんだろう。俺は先輩の全てをまだ見ていない様な気がする。 だけど龍将はほんとに美姫さんが好きなんだなぁ。姉弟なんて報われないのに‥。 「それで見事一番になったから、美姫ちゃんには虫一匹寄りつかない予定だったのに」 「だったのに?」 「美姫ちゃん‥ずっとあのぼんくらと切れない」 「姉貴はさ、王ちゃん達とか、俺たちとか見慣れてるから、ハンサムには興味ないんだよなぁ。信じられないほど平凡な男が好きなんだよ」 「俺だって王ちゃんクラスなら認められるけど、あんな平々凡々な男なんて」 みんな揃って泣き真似をする。 「それでもみんなまだ美姫さんの親衛隊なんだ?」 「うん、まあみんなでいるのが楽しいってのもあるし、走るのは好きだし。今年はようやく免許が取れるから」 ふ〜ん、龍将ってよく考えたらあんまり話したことないんだよね。エッチするときしか一緒に居ないから。 珍しく沢山話したら、こんなに驚くことばかりだったなんて。そうか‥、美姫さんが好きなのか。しかもかなりの本気で。 俺は届かない想いがあることを知った。 なんでも頑張れば叶うわけじゃないんだ。 例え叶わなくても好きだと言い切って、想い続ける龍将は、すごく男らしいかもしれない。 もっもしかして、狼帝もそうなのかな。叶わないって‥狼帝も美姫さんが好き? え、でもいとこは結婚できるんだよね。じゃあ‥もしかしたら、虎王先輩のことが好きなの!? でっでもそれなら今までの行動は全部辻褄が合うかもしれない。中学2年までは凄く先輩のことが好きだったのに、3年になったら突然無視するようになって。そのとき恋だって気が付いたんだろうか。だから他の子と付き合う気も起こらないんだろうか。 でもほんとだ。頑張れって応援するわけにはいかない。もしどうしようかって相談されたら凄く困る‥。心配することを先に心配されてるなんて。狼帝の思いを聞いてあげることも出来ないなんて。俺って頼りないんだなぁ。 そう思ったら凄く落ち込んでしまった。 |