まんせいか2

 今日も例のゴツイ二人は俺の後ろに立っていた。この場所に決めたのかな。楽できるからそうしてくれると嬉しいな。二人とも天井に直接付いてる棒に楽々掴まっている。ただカバンを俺のそばで持ってるみたいで腰の辺りがもぞもぞする。混んでるんだからそれぐらいはしょうがないか。なんて思っていたらとんでもない間違いだったんだ。

 次の日になってもやっぱりカバンが当たってる。するとカバンは俺の足の間に入ってきた。えっ、ちょっと。カバンじゃないっ?
 そう、これはどう考えても人間の手だ。ちょっと待って。何、どういうこと。頭がパニクるけどすぐに周りを見回した。俺から見える範囲にはゴツイ二人の背中しかない。むこうを向いていてこの手は無理だと思う。じゃあどっから。
 うわっ。手はどんどん伸びてきてお尻の割れ目から先へ進む。縫い目とか、蟻のとわたりとか言われてるところを通り、袋の前で止まった。そしてまた戻っていく。しっかりと圧力をかけながら。
 やっ止めてよ。俺は女の子じゃなーい。まさかじゃないけど痴漢に遭ってるみたい。どうしよう。手から逃れるために体を動かしてみたが悲しいかな、俺の力じゃ全然動かない。そんな儚い努力をしてる間もゆっくりと手は往復する。
 いやっ、その辺はけっこう感じる。服の上からでもクる、ちょうどいい力加減だ。もしかして男を触るのが慣れてるのか。手はかなり大きそうだ。痴女ってのも考えたがこれは男の手だと思う。日本のお父さん達をほめたけど撤回する。こんな卑劣なことをするなんて、しかも見境なく。

 狼帝に助けを求めようかとも考えたが、男なのに痴漢に遭ってるなんてとても恥ずかしくて言えない。しかも美姫さんも聞いてるし。自分でそれぐらい何とか出来ないのかって思われそう。公表するってのはこんなに抵抗あるもんなんだ。
 少しずつでも身をよじって防衛する。もう二十分は経ってるだろう。気持ちの悪さと恐怖心でいっぱいのくせに体はその事実だけに反応する。終点の寸前に俺自身も触られて、少しだが反応しているのも知られてしまった。
 がっくりと力が抜ける。男だから実害があるわけじゃない。それに今日だけなら社会勉強をさせてもらったって事にしよう。途中から喋らなくなったことについて尋ねてきた狼帝には邪魔したくないから、と答えておいた。

 俺の考えは甘かった。狙われてしまったみたい。次の日も同じように触られて、一生懸命犯人を捜したがまったく無駄だった。だけど今日は運良く体の向きが変えれたんだ。座席を背にして美姫さんと横並びになる。向きを変えたとたん手は引いていき、犯人らしき人は見つからない。例の二人の背中が見えてるだけだ。
 ホッとした直後お尻を殴られた。ビックリして振り向くと同じ高校なんだけど、いかにも悪そうで怖そうな奴が睨んでいた。
「おめぇ、よくこの俺に汚いケツを向けれるなぁ」
 ひぇっ。俺って不幸のかたまりみたい。狼帝が一瞬気色ばんだがそれを制して元の位置に戻った。
 するとすぐに手は戻ってきた。殴られたところを撫でてくれる。そして元の位置に戻る。ちょっとなんでそんなに上手いの、良く知ってるの。必死に閉じた足をものともせずに一番感じるところをぐりぐりと指圧される。もっヤダってば。今日も終点ギリギリまで痴漢され、成果を確かめるように最後は前を触られ解放された。

 次の週に入ってもそれは続いた。もう止めて。俺は男なんだよ。男なんて触って何が楽しいの。女の子に行ってよ。ふと美姫さんと目があった気がした。
 そうだ、そんなこと言っちゃいけない。俺を触りにきてるって事は、確実に女の子が一人助かってるって事なんだ。俺が我慢してれば誰かを助けてることになるんだ。
 体のあちこちが触れ合ってるこの電車の中でちょっと普通では当たらない所も当たっただけ。人助けにもなってる。仕方なくそう思うことにしたら、気持ち悪さで一杯だったのが少しましになってくる。週末にはかなり反応していて当然それは確かめられた。
 それがまた甘かった。敵は俺が感じてくるのを待っていたみたいなんだ。

 ゴールデンウィークを過ぎた初日。半月も触られて、大義名分も立ってしまったし、もう抵抗するって事を諦めかけてた頃。逆に毎日毎日マメだなぁなんて思えたほどだった。これ以上はどうにもされないなんて勝手に思ってた。それが、手は、いつもの行為を五分程で終えるとブレザーをめくり、なんとシャツを引っ張り出した。
 えっ、えっ、なにするの。背中の部分だけ出すとそこから侵入してくる。座席から見えないように左側を通って、お腹までくるとトランクスの中に入り込んだ。
 やだっ。思わず声に出そうになって飲み込んだ。狼帝が俺の変化に気が付いた。何かを尋ねられたが上手く言葉が出ない。お腹が痛いと告げると、たどたどしい言い方が真実味を増したのかあっさり納得されてしまった。
 俺は気づいて欲しかったんだろうか。安心と失望が襲う。手も襲ってくる。誰にも気づかれないよう顔を伏せた。
 胸に抱いたカバンの下側で手と手の攻防戦が繰り広げられる。シャツがあるので引っ掻くこともできやしない。必死で動かしていたら美姫さんが小さく悲鳴を上げた。
 俺の手が彼女のスカートにまとわりついていたのだ。いっぺんに不審であふれた顔になる。狼帝にしがみつく。俺は誤解を訴えると同時に無実を証明するため、手を元の棒に戻した。もう応戦の手段は残っていない。
 お腹から下に、自由になった指が伸びる。お願いだから止めてよ。辛うじてズボンのベルトが防御する。手の厚みで親指の付け根ぐらいまでしか入らなかったんだ。もう少しで根元に到達する所だったそれは、名残惜しそうにその辺りを撫で回した。自分と同じモノなんて触りたいんだろうか。
 下に行けなくなると手はそのまま横に移動する。骨盤のへこみを撫でられてぞっとする。骨の出っ張りを過ぎるとお尻の割れ目に沿って上下する。俺はなすがままだ。
 そんな動作をやっぱり終点まで繰り返された。最後はいつもと同じように確かめられたが、今日は衝撃が大きくて縮こまっていた。


 次の日は直に触ることに慣れさすためか、ズボンの中と外を行ったり来たりして、宥められた。足の間から感じさせてそれから素肌を触る。大きくなったらシュンとする、を繰り返す。しかしやっぱり週末になると慣れてしまった。とくに手を入れられたとき、初めはあんなに気持ち悪かったのに、今では届くか届かないかのきわどい感じが緊張と期待がともなってたまらない。
 触られたいわけじゃないのに、どうしてこんな風に感じてしまうのだろう。俺はもしかすると好き者なんだろうか。
 理由がもう一つあった。直接触られた感触から言うと、手は割と若そうだった。とは言っても四十以上ではなさそうってぐらいだけどね。てっきり脂ぎったオヤジだと思っていたのに。これが気色悪さを減少させたのだ。

 次の週になると二カ所の行為を十分ぐらいで終え、新しい段階に進んだ。週ごとに計画を立てて実行する痴漢、なんているんだろうか。この手の最終目的は一体何なんだろう。想像もつかないけど考えると鳥肌が立つ。俺はどうなっちゃうんだろうか。
 手はズボンの中から出ると肌に沿って上に登ってきた。なに、今度は何がしたいの。恐怖で身がすくむ。手はジリジリと、本当にゆっくりと肌をなめるように進む。
 あっ、あぁっ‥。ひゃあ、ヤッだ‥。体が震える。もうこんなの耐えられない。絶対に顔を誰かに見られないよう、カバンにつっぷした。
 まず手は左の胸を見つけて止まった。乳首の両側に指が置かれ押された。盛り上がった中心の先端に何かを感じた瞬間、俺の胸に刺激が走りきゅっと締まるのが解った。きっと間の指の腹が当てられたのだ。指はそれを待っていたのか。胸が変化すると、先端は指に貼りついたままでその動きをトレースする。
 ゆっくりと小さくのの字を書くように回され続ける。こんなに神経が集まっていたなんて。あたってる乳頭が燃えるようだ。先端が向きを変えるたびに小さな電流が走る。いやだっ、ダメ、これは直接クる。逃げ出したい衝動でどうにもならなくなる。
 せめて腕で挟んで動けなくしようと思ったが、手はそこから微動だにしない。二本の指で基礎を作り、中の指だけが黙々と回り続ける。
 しばらくするとリズムが判ってくる。刺激をかまえてるあいだは自然に空気が入ってくる。微妙な電流が通るまで気が付かない。通った瞬間、一気に出ていく。のどを通過するとうわずった声が出そうになる。堪えることに必死になる。
 そのため何の対策も取ることが出来ず、終点までそのスタンスは崩せなかった。

 週末には本人より感じ方に詳しくなっていたかもしれない。先端が上を向くときに一番感じてしまう。なぜ分かったんだろう。指の軌跡が円から卵形になって、上に行くときに力がこもるようになったのだ。それに加えて動きに緩急がつけられると本当にどうしようもない。

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