まんせいか3

 また月曜日がやってきた。もう週が変わると電車に乗りたくなくて、乗りたくなくて‥‥憂鬱な気分でいっぱいだ。どうか今日は乗っていませんように。手を出してきませんように。
 俺の願いも虚しく、いつものように手はやってきた。股上を撫で、背中から入り、かすめるように触ると、胸に上がる。そして回す、という方法では最大限感じるやり方で嬲られて、俺は抵抗を奪われる。
 性急にそこまでこなすと、とうとう摘まれた。
 あんっ。んっ、とりたての魚みたいに体がビクビクと跳ねる。お願い。もう一般大衆の中でする限界を超えてるよ。膝の力が抜けるが両足を上げたって浮いてるこの中では倒れない。後ろのゴツイ背中にもたれてしまう。俺に残されてるのは、左手のカバンと右手の棒をただ握りしめることだけだ。
 柔らかい物を練るように、指は乳首から乳頭へとずれていく。潰しながらまた根元に戻ってくる。挟んでる二本の指が違う方向へ動く。
 あっ‥。捻られる。
 くっ‥。引っ張られる。
 ひっ‥。揉まれる。
 やっ‥。捏ねられる。
 うっ‥。擦られる。
 ありとあらゆる事を試される。どれが一番クるのか探ってるみたいだ。
 いっいやっ‥、くっ‥。やめて、勘弁して、もう許して。一体俺が何をしたって言うの。最初に感じちゃったのがいけなかったんだろうか。それが狙われてしまった原因か。本当に立ってることがつらい。外から見ても分からなくて良かったとは思うけど、前もトランクスの裾に引っかかって、とてもつらい。

 終点の駅で慌ててトイレに駆け込んだ。狼帝には前からずっと、ラッシュが合わないのか電車に乗るとお腹の調子が悪くなると言ってあった。だってそうでも言っておかないとあまりにも態度が変だったんだもん。この状態で平静を保っていられる奴なんていないと思う。
 まさかトイレで抜く羽目になるとは‥。高校に受かった当時は考えも付かなかった。
 どうしたらいいんだろう。こんな事ならもっと早くに狼帝に言ってしまえば良かった。彼ならどうにかしてくれたかもしれないのに。もう今は絶対に言えない。だって痴漢されて感じてるんだもん。もし狼帝が捕まえてくれちゃったりして、その犯人が言い訳をしたら‥。「こいつだっていい気持ちになってるんだぜ。その証拠に」なんて。俺はそれが好きだと言うことになってしまう。

 そして木曜日には、上の方に倒しといて親指ともう一本の指で揉まれるのが一番感じると分かってしまった。なぜならそのやり方でされた最初は、刺激が強すぎて首がのけぞり喉をさらけ出してしまったから。その後必死でカバンにあごをつけ、耐え続けた。
 また週があける。いつも月曜日には一段階進むのだ。このままいくとどうなるか解らない。これ以上進むって言っても、もうどうしようもない気がするが油断は禁物だ。それにこれを三年間続けられたらたまらない。
 よし、頑張って起きて一本早い電車に乗ることにしよう。もしかしたらもう少し空いてるかもしれない。狼帝にそう言うと自分も一緒に行くと言ってくれた。だけど美姫さんもいるし、もう彼女を守る自信はない。このままいけば俺自身が勃てたものをなすりつける変態になってしまうだろう。丁寧に断りを入れた。
 すると、珍しく食い下がられた。あれから毎日トイレにも寄ってるし、何度ラッシュのせいだから、と言っても聞いてもらえない。こっちもだんだん苛立ってきちゃった。だって俺だけこんな目に遭ってるんだよ。狼帝が何も知らないのを棚に上げて、何で解ってくれないのって本気で思う。
 言葉がきつくなってくる。思ってもないことを言ってしまう。とうとう一人で行くなら絶交するとまで言われてしまった。
 ガーン。狼帝ならたとえわがままでも聞いてくれると思っていたのに。それに狼帝になんの損もないはずなのに。
 高校に入ってはじめて狼帝と話さないお昼をすごした。いや、いつもそんなに会話はないんだけど一緒には居るんだ。俺たちは言葉数が少なくても疲れない、安心できる友達なんだ。

   帰りも一人で帰るつもりでいたけど、狼帝が見てる気がする。教室で彼が出ていくまで待ってようと思ったけど、いられなくてトイレに行く。廊下で知らない奴に呼び止められた。
「都築先輩が体育館で待ってるって」
 えっ、何だろう。虎王先輩からの呼び出しなんて初めてだ。俺は嬉しくて急いで体育館へ行った。
 先輩はそこでバレーをしていた。そうだ、虎王先輩はバレー部だったんだ。一学期で引退しなくちゃいけないからか、猛練習の最中だ。俺を見つけるとすぐにそばまで来てくれた。
「良く来たな。初めてだろう。うちの練習見るの」
「はい」
「何で高校ではやらないの? うちにおいで。中学の時みたいに一緒にやろう」
「だって‥狼帝だってやらないのに、俺なんか背も足りないし‥」
 え〜ん。先輩が誘ってくれるなんて凄くすごく光栄なことなのに。ほら、他の一年生が睨んでる。虎王先輩も他の人にはそっけないんだ。そういう所、兄弟でよく似てる。
 先輩と部長らしき人なんかと数人で、部室に連れてかれた。
 一年に買いに行かせたスポーツドリンクを出される。飲みながら学校のことや、狼帝のこと、通学電車のことまで聞かれた。
 俺は痴漢のことを思いだして、せっかく幸せな気分だったのにへこんでしまった。

「どうしたんだい。何でも困ったことがあったら言ってごらん。相談にのるよ。力ならうちの部で、知恵なら生徒会で。俺に言ってみるといい。解決できない事はないと思うが」
 さっ、さすが先輩。言うことがきまってる。力強い。自信にあふれてる。やっぱり憧れちゃうよ。
 一本早い電車は空いているかどうかをまず聞いてみた。
「おい、どうだ?」
 虎王先輩は他の人に聞く。あんまり変わらないそうだ。でも先輩は?
「俺はな、これは内緒だぞ。この春から電車の区間は単車で行ってるんだ。だから最近は乗ったことがない」
 えーっ、そうだったんだ。優等生なのにいいのかなぁ。だから狼帝は教えてくれなかったんだ。
「乗せてってやりたいが見つかるとヤバイからな。夏休みに遊びに行くならいいぞ」
 そう言ってウィンクをよこす。どんな仕草も本当にかっこいい。
「何で早いのに乗りたいんだ?」
 俺は狼帝にした言い訳と同じ事を繰り返す。それでケンカになったことも。
「ふーん、あいつには俺からも言っといてやるよ。そんでそれだけでそんなに暗い顔をしていたのかい」
 先輩に全て話せたらどんなに楽になれるだろう。だけど絶対に軽蔑されちゃうよね。

 でもせっかく先輩達がいるんだから一つだけ、勇気を出して聞くことにした。
「あっあの、虎王先輩。変なこと聞いてもいいですか?」
「ああ、だからさっきから言ってるだろう。何でもどうぞって」
「おっ、男の人が男をさっ触るのってどう思いますか?」
 俺の真面目で真剣な質問にみんなは爆笑で答えてくれた。
「そっそれは気持ちがいいかって事かい」
 虎王先輩ですら笑いを堪えてる。
「もう、いいです」
 すねちゃうんだから。俺がそっぽを向くと先輩は立ち上がってすぐ横まで来た。
「試してみないと分からないな。どうやって触るんだい」
「えっ、あの‥、お尻とか、こっ股間とか、胸‥とか‥」
 先輩は納得の顔を作ると手を伸ばしてきた。
「お尻とか‥」
 俺に確認を取りながら、イスとの間に手を差し込んでお尻を掴んだ。
「せっ先輩?」

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