まんせいか5

 一本早いに電車に乗った俺は、またトイレに行かなくちゃならなかった。今度は違う目的で。大変なことになってしまったんだ。
 今週から衣替えで半袖のシャツにネクタイを締めて出かけた。朝の一時間はきつい。眠くて頭がぼやける。それでなくても朝は弱い。
 狼帝のうちの前を通り抜けようとした。先輩が単車を磨いてた。俺は挨拶する。
「おっ、早いな。今日からか。頑張れよ」
 先輩はこの間のことなんかやっぱ何とも思ってないみたい。でも俺の方は思い出すと恥ずかしい。だって先輩の手で‥‥。俺も「頑張ります」と答えて駅へ急いだ。
 おかげで目がすっかり覚めた。俺は前の方に乗って、背を壁に向けて立つつもりだった。だけど俺の乗る駅ではまだ空いてるとはいえ、当然イスは空いてなく、もたれられる場所も詰まっていた。残念だけど仕方ない。吊り輪のあるところで我慢する。

 驚異の二つ目の駅でドッと乗ってきて、前のスペースのど真ん中になぜかきてしまった。見回すと、うちの学校の人たちが結構乗っていてびっくりした。みんな朝練にでてるんだ。えらいなぁ。
 感心していると電車が揺れた拍子にカバンが引っ張られた。俺は必死で引っ張り返す。頑張ってるうちにもう一つの手首が握られた。
 何?
 とっても嫌な予感。周りは朝練に出るぐらいだから何かスポーツをやっている人たちだ。かなり体はしっかりしていて、そんでもって何故かでかい。掴まれた腕の先、自分の手ですら見えなかった。
 突然にシャツが引っ張り出された、全部だ。うそっ、誰か嘘だと言って。焦って後ろを向いても背中ばかり。あっ、バレー部の部長がいる。向こうをむいてて分からないが、誰かと喋っている。やっぱり犯人が解らない。

 俺はショックで目がくらんだ。誰か気がつかないの。腕を伸ばしてるなんて変じゃない? もしかして同じ駅から乗ってきてるの。一時間も毎日待っていたの? それとも違う人間なの? 
 そうなら俺って狙われやすいんだろうか。だけど男なんだよ。何度も呟いた言葉を繰り返す。でもそんなことしても状況は良くならない。
 今までの手とは違うのだろうか。いつもは順を追って触りにきてたのに。肌を撫でられてないので手の感じがよく分からない。いつもの手なら、大きくて指が長くごつごつしてるのだ。
 いきなり手を突っ込んで胸を触るなんて。そんでもって摘むなんて。
 やだっ、やめて。違う人間だと思うとまた前の恐怖が襲ってくる。
 ぞっとして鳥肌になる。そんなになってるくせに乳首は感じてしまう。そして上に押しつぶされて揉まれた。

 あつっ‥っ、‥っん。
 もう、言葉が出ない。これが弱いって知ってるって事は‥‥。同じ奴なんだ。

 慣れっていうのは恐ろしい。同じ人間、同じ触り方だと解ったとたん、恐怖心が消えていった。それどころか同じ人だ、って安心すらしてしまった。これがイヤで逃げてきたはずなのに。どうしちゃったんだろう。
 手は少し物足りないと思ってしまう程で、あっさりと下にさがる。
 えっ、と思ったときにはベルトのバックルが外されていた。ええっ、ちょっとホントに何するの。自由にならない腕を振る。
 そうこうしてるうちにズボンも全開になってしまった。下着に手が入ったら、五十パーセントぐらいになってるモノを上に向けられる。
 触られてまたゾッとする。確かに楽にはなったけど、変な気を遣ってくれなくていい。そんなことより触らないでくれ。俺の言葉を聞いていて反抗するようにそれを触る。八十ぐらいになると引いていった。

 なんだったんだろう。その間にズボンを何とかしたかったのだが、相変わらず腕は掴まれたままだ。
 残念ながら手は戻ってきた。モノの先端に何か当てる。輪っかのような物がくるくると根元に向かって下りてきた。カリを乗り越えくびれた部分にくると止まった。輪っかが通った後はなんだか締め付けられる。大事な部分を触られて九十ぐらいになる。
 また手は引いていった。こんな格好で、しかも先になんかつけられて。情けなくて泣けそうになる。暫くするとお尻を直接触りにきた。混んでるせいで自分の下半身すら見えない。全開にされたズボンもさがっていかない。

 手は割れ目に沿ってどんどん侵入してくる。いっイヤだ。なんか最悪な事態が想像できて冷や汗が流れてきた。
 指が俺のお尻の穴を押す。なんと肛門に向かってきたのだ。
 どっどうしよう。少しぐらい振っても割れ目に食い込んでる指は離れない。それどころか、皮膚の感じとは違うなにかがついてる一本が、凄い力で押してくる。

 おかまを掘られるって事。もしかして‥。最悪な最終目的が解ってしまった。
 俺は必死で肛門に力を入れる。指は対抗する。その辺の皮膚が体の中に伸び切って痛い。
 やだ。やだよ。やだ、やだ、やだーっ。
 伸びるだけ伸びるとつるんと指は入ってしまった。ぐいっぐいっと入り込み、長い指の付け根まで俺のお尻の中だ。中で指は好きなように動いた。
 なんかっ、変。どこかに当たるとカーッとなる。他の指もその周りを刺激する。その味わったことのない変な感触に慣れた頃、指は向きを変えた。

 手のひらがお尻に当たっていたのに、指を突っ込んだままひっくり返したんだ。いっ痛いっ。痛いってば。
 その痛みが引くと同時にもの凄い快感が頭を突き抜けた。
 うわっ‥っぁん‥。お腹の方を内側から指が撫でるたびに俺自身も動く。ほんの少しずつ漏れて飛ぶ。
 あああっ、ああっ。掴まれた腕に頼り、勝手に前の人にもたれる。もうひざが抜けて自分で立ってない。声を殺すことだけで精一杯だ。
 こんな、こんなに感じるなんて。中で蠢いていた指はまたしても一番感じるところを探し出した。
 んんっ、んんんんっ。ダメっ、ダメって。そこはやめて。刺激が強すぎて気持ちいいとか言えないぐらい。もっ、だめ‥だ。
 こんな所で俺は漏らしてしまった。
 指はそんなこととは気がつかないのか、まだそこの部分に刺激を送ってくる。
 もうやめて。ホントに。お願いだから。あまりの快楽に頭の思考能力がカットされる。
 俺のモノはどくどくと液を吐き出し続けた。一体どれくらいの時間そうしてたんだろう。放送が入ってやっと気がついた。
 その放送で指も、腕を握っていた手も一斉にいなくなった。お尻と前になにかを残して。朦朧としていたが、人が捌ける前に慌ててベルトを締めた。


 今までとは違う理由でトイレに入った。ズボンをおろして前を見ると、コンドームがかぶせてあった。なるほど、これならいくら出してもいい。そしてお尻の穴に残されたモノも引っ張り出した。同じ物だった。
 やっぱり俺って淫乱なんだろうか。こんなに感じてしまうなんて。自分の液が入った物を見てドッと落ち込む。凄く沢山だったから。
 狼帝の言うとおり一緒にいれば良かった。いまさら後悔しても遅い。虎王先輩にまで仲に入ってもらって元には戻れない。こんなに大変なことになっても、もうこれに乗るしかないのだ。


 俺は毎朝、毎日出し続けた。一日も休まずに。どこに乗っても必ず襲われるのだ。そしてそのうち指は二本に増えた。もう快楽に溺れてしまう。こんなに快感を感じるなんて。イヤなのに、こんなことされたくないのに。
 諦めと開き直りが俺の頭を麻痺させる。恥ずかしいとか、逃げようとか、そんなことは考えられなくなっていた。だって絶対にこの魔の手からは逃げられなかったのだ。

 一度だけ寝坊して元通り、狼帝と行った。その時は指は中に入ってこなかった。コンドームも出てこない。眠い大変な思いをしてあんな事をされるだけならここに戻ろう、そう考えたらそれは儚かった。
 美姫さんに知られてしまったのだ。痴漢に遭ってることを。背中側に揺れたとき少し力は抜けたが、落ちることはなかったはずのカバンが何故か落ちそうになった。その時美姫さんに見られてしまった。俺のシャツの下の胸の辺りに居座っている手を。
 あの軽蔑のまなざしは一生忘れない。そりゃそうだろう。手が入り込んでてもなにも抵抗してないんだから。でも俺にとっては少ない被害だったんだけど。
 きっと好き者に思われただろう。もしかしたら前をおったてているのもばれてるかもしれない。美姫さんの顔は見れなかった。
 早いのはどうかと狼帝に聞かれたが、少しましだからこれで行くと答えるしかなかった。
 指が侵入してから夏休みまで一ヶ月半、たっぷり嬲られた俺だった。いや痴漢に遭ってからは三ヶ月、良く耐えたなと自分で思った。


 夏休みに入ると、何事にも悩まされず幸せを感じていた。
 しかし一週間もすると悶々とした何かが俺につきまとい始めた。

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