「冬哉さんがね、色々と受け止めてくれたってのもあるし、学校が楽しいって想わせてくれたのも冬哉さんだしね。このまま兄貴のものにならない? って言うかなって下さい。お願い」 龍将は身体を丸め、俺の顔を覗き込んだ。この時ばかりは指の動きも止まった。 えっ‥、やっ‥、ちょっと待って。いくら鷹神のことちょっと分かったからって、最近いい男だなとも思えるようになったからって、男と付き合うのは無理。虎王先輩なら少しは考えるけど、俺はゲイじゃないし。 「兄貴の心のテーマソング知ってる?」 「ううん、知らない」 「K○nK○ K○dsの硝子の△年(※下記参照)。自分とダブって泣けるんだって。誰にも言わないけどね」 歌詞は覚えてないけど切ない歌だったような。もう一押しされても駄目。ほんと泣けるけど、でも無理なものは無理だから。 困った表情で分かってしまったのだろう。龍将は真剣な顔つきを一変させた。 「兄貴と付き合ったらいつでも二人で可愛がってあげる。毎日ご奉仕付きだよ、どう?」 「そっ、そんなの付き合ってるっていわない」 「うん、兄貴がマジメに付き合ったら誰にも貸さないだろうね。例え狼ちゃんにだって」 龍将の方が振られたみたいに険しい表情になると、指の動きを再開する。 「あっ、ああっ‥」 すっかり気が緩んだところへきたので、身体は酷く痙攣した。 「俺はね、狼ちゃんより兄貴の方が大事だから。このまま嘘も付き通せば本当になるよ」 何処へ向けたらいいのか分からない悲しみを俺にぶつけてきてるかのように、龍将の指の動きは激しくなる。 「やっ、やめて」 疲れ切って硬くなってる前立腺はその激しさに付いていけず、悲鳴を上げている。ダメ‥、もう止めて。 鷹神のことや、狼帝より大事って兄弟だから当たり前のことをわざわざ宣言した意味なんか考えることも出来なくなる。 「ねっ、冬哉さん。ずっとここにいてよ。そしたら兄貴もずっといてくれるし。年寄りになってもちゃんと奉仕してあげるから。こうやって」 虎王先輩は歳よりもグッと若く見えるけど、今の鷹神は年相応な感じ。30歳くらいになっても格好いいんだろうな。 狼帝の渋さを少し足して考えると自分の中でピッタリ来た。 ああ、どんなに格好良くても渋くても、俺は女の子と一緒になりたい。どうしてこんなに当たり前で当然で普通のことを願わなきゃならないんだろう。でもこの調子で4人に抱かれ続けたらそんな当たり前のことも叶わなくなる。 龍将は憂さを晴らすように俺を喘がせ続け、もう一度頂点に昇ってから記憶が無くなってしまった‥。 「兄貴はね、狼ちゃんの味方だけど、俺は兄貴の味方だから。狼ちゃんにも誰にも渡さない」 霞んだ頭は龍将のその台詞を覚えてはいなかった。 「冬哉くん、食べるって言ったんだからちゃんとして」 目の前には美味しそうなオムライス。赤いチキンライスの上に黄色いタマゴ。その上を滑るようにナイフが走り、オムレツは自重で綺麗に開いていく。中からトロトロのタマゴがあふれ出す。 ああっ、すんごい美味しそう。メチャクチャお腹が減ってる気がするのに、何故か手が動かない。しばらく匂いを嗅いでいたんだけど、別の匂いに気が付いて手が伸びた。 後から考えれば自分の前じゃないって分かったくらいは離れていたんだけど、その時は無性に喉が渇いていた。 そして惹かれた匂いの元、きっとウーロン茶か麦茶。だって茶色っぽかったから。それを一気に飲み干した。 「美味しい。おかわり」 トクトクとその琥珀の液体は注がれ、また一気飲みする。 「なにこれ、めっちゃ美味しい」 立て続けに4杯飲んだところで注いでくれた人に気が付いた。 「あれ、鷹神やっぱ30歳になっても格好いい」 んんっ? 30よりももう少し上。いや、もっと上かな。でも渋さも加わっていい感じになってる。 「もう一杯飲むかい?」 ええっ、大人の深みが増した声も凄くいい。ハスキーさが増えて、も一つ低くなったのだろうか。 「うん、飲む」 グラスを差し出してその高さがあまりないことに違和感を覚えた。そうウィスキーでも入っていれば似合いそうなロックグラス。そんなことを思いながら5杯目も飲み干した。 「噂通り強いんだね。5杯も一気に飲んで全く変わらないとは」 うわさ? 鷹神、俺が飲んでるところは見たことあるはずなのに、何言ってんだろ。それにしゃべり方がなんか変。周りの雰囲気も笑いを堪えているような‥。 そこでようやく俺の頭は覚醒し、その人物の顔をマジマジと見た。そして青ざめた。 誰!? そう、俺が鷹神と勘違いしてたその人は似てるだけで全くの別人。 「すっ、すいません」 立ち上がって頭を下げる。元の姿勢に戻るとよりハッキリ顔が見えた。身長は180強くらいだろうか。鷹神よりは低いけど、この年代の人にしては高い。横幅は随分違うけど、うちの父さんと同じくらいかな。 どこかで見た感じがしてやっと分かった。 そうだ、王帝兄弟のお父さんにそっくり。それでもって鷹神にもそっくり。周囲を見回すと比べたかった鷹神はおらず、龍将と美姫さんだけだった。 「気にしなくていい。いくらでもあるし。だが明日も学校があるんだろう? 程々にしておいて早く帰った方がいいんじゃないのかい」 「ほんと冬哉くんってばお腹すいたって言うからご飯作ったのに、お酒の方が良いなんて」 「冬哉さん、そのウィスキー高いよー。その分は身体で払ってね」 龍将のニヤリは怖かったけど、まずはおじさんに挨拶しなきゃ。 「初めまして。冬哉と言います。挨拶より先にアルコール飲んじゃうなんて、しかもおじさんの分を。ほんとすいません」 鷹神のブカブカのジャージで格好悪いったらありゃしない。なにしてたかバレバレだよ、まったくもう。 それからこの飲み物はウィスキーじゃなく、ブランデー。龍将はお酒に詳しくないのだろう。高いってのは合ってるけど、身体で払ったって足りないくらいの高級酒。このビンの形。一本ん十万だったような‥。そりゃ美味しいはずだよ。 「いやいや、こちらこそ悪かったね。立ったままで。うちのバカ息子達がお世話になってるそうで。これからも仲良くしてもらえると有り難いんだが」 はい、と頷こうとして龍将が割ってはいる。 「そうでしょ。そう思うならどっか離れ小島にでも別荘買ってよ。冬哉さん閉じこめておけるように」 龍将は立ち上がって物騒なことを訴える。 するとおじさんは龍将の頭をこつんと叩いた。 「お前は考えることが危なすぎる。犯罪だけは犯してくれるなよ」 会社から帰ってすぐだったんだろうおじさんは、スーツ姿のままだった。それがまた格好いいんだけどね。ネクタイだけはほどいて、片手でグラス掴んで、もう片方の手にはタバコがあった。火は着いてなかったけど。髪もきっとサラサラなんだろう。整髪料で横から後ろへ流してあるのに元へ戻る力の方が強いのか、前髪はいくつか束になって落ちてきてる。それがまた色っぽいって言うのか、セクシーって言うのか。声も合わせて大人の鷹神、有りかも知れない。 「お父さん。吸うなら部屋へ行ってね」 美姫さんに責め口調で追い立てられ、おじさんはグラスを持ったまま自室へと消えた。 立ったままだった俺は、ようやく気付いてストンと椅子に落ちた。 「緊張した。おじさんが居るなら居るって言ってよ」 「言ったよって言うか、ご飯食べる寸前に帰ってきたんだからしょうがないでしょ。冬哉さん目が覚めないし」 「鷹神とそっくりだね」 「うん、顔はね、メッチャ似てる。でも中身は俺の方がそっくりなんだ」 ニッコリ笑った龍将を見て納得した。人と対面しても緊張なんて滅多にしないのにしちゃったのは怖さを感じるオーラがあったから。 龍将のことを何をしでかすか分からない怖さがあるといつも思ってたけど、それを隠しつつ相手を威嚇するため、上手に滲み出させている感じ。王帝兄弟のお父さんは虎王先輩みたいに人を引き付けるカリスマ性を感じたけど、似てるのになんか違う。 光と闇って言ったらピッタリくるかな。闇とは言い過ぎかもしれないから白と黒くらい。 とにかく王帝父はカリスマ(虎)、真面目(狼)、陽気(鷹)って感じで、神将父は策士(虎)、表面とは違う得体の知れない怖さ(龍)、見た目プレイボーイ(鷹)ってイメージ。話したらまた変わるかもしれないけど、でも二人とも経験値も積んで頭がキレッキレって感じなのは共通かな。 「それで鷹神は?」 「兄貴ね、親父のこと嫌いだから顔合わせたくないんだよ。帰ってきた途端、部屋へ引っ込んじゃった」 なんでそんなに嫌ってるんだろう。若くて格好いいお父さんで羨ましいけどなぁ。 もちろん、俺の父さんだって最高だよ?! ちょーっと見た目が丸ヤの人っぽくても、年いってても。俺や母さんのこと、死ぬほど大事にしてくれるもん。めちゃくちゃ優しいんだよね。 鷹神のお父さんだって二人のこと心配してたし、虐待とかしてる奴は別だけど、一般的な親と言っていい気がするのに。 美姫さんが作ってくれた超美味いオムライスを平らげて、鷹神の部屋へ行くと彼はそこにいなかった。でも周りを見れば窓の外に人影があった。 夏のあの日、裸で恥ずかしい姿で縛られて遊ばれたアルミの鋳物のテーブルセットにいた。思い切りタバコを吹かしてる。 ガラス窓を開け、鷹神のそばに行く。 「寝ちゃってごめんね」 「ああ、冬哉先輩。起きたんだ。あいつに会ったの?」 俺の心配そうな表情で全てを察知したのだろう。その顔の原因に当たりを付けてくる。 「うん、鷹神にそっくりでびっくりだよ。鷹神も年取っても格好いいと思えた」 褒めたつもりだったのに、鷹神は自嘲気味に笑う。 「あんな奴に似てても全然嬉しくない」 そんなに嫌いなの? 俺は母さんじゃなく、父さんに似たかったと思ってるんだけど。 「どうしてそんなに嫌いなの?」 「あいつさあ、俺には偉そうに王ちゃんの上を行け、とかなんとか言ってたくせしやがって、自分は裏で汚いことばっかしてるから」 夜空に向かって煙をスパスパ吐き出しながら愚痴る鷹神。こんな風に本気で愚痴を言ってる姿は始めて見た。でもすぐにハタと気付いて俺の方を向くと、コロッと態度を変えた。 「まあ、性に合わないだけ。冬哉先輩が気に掛けるほどの事じゃないよ」 そう言うとニコッと微笑んで、俺の頬に音を立ててキスをする。 おじさんも美姫さんも居るのに! どこで見られててもおかしくないのに。何か言いたかったけど家庭内のことは分からないし、龍将から聞いたことは内緒だし、何にも言えないでいたけど、今のキスで全部吹っ飛んじゃった気がする。 「なっ、何するの」 ほっぺを押さえ焦る俺にタバコの煙を吹きかけてきた。 「たっ、鷹神」 「俺、知らなかったなぁ。冬哉先輩がタバコ吸ったことがあるなんて。王ちゃんに言っちゃおっかなー。冬哉先輩って不良だよって」 「だっだめだよ。虎王先輩、タバコだけは吸うなって言ってるし。ばれたらどんなお仕置きされるか分かったもんじゃない」 「ふーん、どうしようかなあ。黙ってて欲しい?」 「うん、絶対言わないで」 「それなら明日からも俺の印、ちゃんと付けておいてね」 「なっ‥、そんなの酷い!」 「だって恋人なんだからいいでしょ。三ヶ月くらいしたらピアスにしようね。絶対取れないように」 「ヤッヤダ。そんなの絶対しないから」 ほぼいつも通りの状態に戻った、と言うか鷹神の気遣いだったとは後で気が付いたけど、そこで龍将が呼びに来た。 「冬哉さん、そろそろ帰らないと。送ってってあげるから」 時間を聞いて驚いた。 |
※ 伏せ字について。 別にジャ○ーズに何らかの感情を持ってるわけではなく、タダの検索よけです。子供やヤオイについて知らない人がキ○キについて検索掛けてこんな所へ出てきてしまったら! と思ったら伏せ字にしないと不安で。 ただそれだけです。ほんと、個人的には男性アイドルは光○くんとスマ○プの中○くんが大好きです。(笑) |