快楽のいばら街道 21


「寝てる間もちゃんと感じていて下さいね」
 そう言ってスタッフは俺の尻に白いプラスチック製の何かを入れた。
 それは入れるだけで前立腺に丁度当たるようになっていた。

「ああ、聡さんはさすがに上手いですね。これの経験があるんですか?」
 こんなもの、知るわけがないだろう。そもそも俺はゲイでもホモでも何でもないのだから。尻の快感なんて、欲しいと思ったことなど無いのだから。

 クッと前立腺に当たった拍子に肛門に力が入った。すると白いモノはするりと奥まで入ってきた。よりいっそう中は押し付けられ、しかも会陰にも圧迫を感じる。そしてそれは独りでに動き出したのだった。
「ほら、ちゃんと動いてる。自分で出し入れするのは難しいらしいですよ」
 腸や脈の動きに合わせてそれは勝手に出入りする。
「ほんとに上手いですね。快感を味わう術が分かってる。これで好きなだけ刺激を送って下さい」
 スタッフはそう言って尻にそれを突っ込んだまま部屋から出て行った。

 それは‥いわゆる前立腺マッサージ器。たしかエネマグラと言う奴だ。
 自らの腸の動きによって軽く出入りを繰り返す。変わった形状は前立腺と射精管と会陰を同時に刺激する。
 俺はここに来てからというもの、何人か同時に弄られたりしているので、それに比べたら少ない刺激なのだが、規則正しく終わることが無くこの刺激は繰り返される。
 10分ほど経つと、それまでにも高められていたこともあり、あっさりとドライオーガズムに達した。

 ううっ‥。

 中で擦り付けられるのが分かる。その度に切ないほど絞り出される感じがして、キューっと股間が痺れる。
 それは10分ほど続いて俺を苦しめる。身体は緊張で強張り、刺激に耐えるために身構える。息が短く荒くなり、どれだけ抜いて欲しいと願っても叶わない。
 実際にはそんなに長い時間は経ってないのかもしれないが、俺には果てしなく感じられた。
 中には入りっぱなしなのだが、達し続けるとそれは一端終了した。終わりがないかと思って恐れていたが、取り敢えずホッとした。

 しかしエネマグラは休むことなく前立腺を刺激し続ける。電池が切れるバイブの方がある意味マシかもしれない。これは俺が生きている限り動き続けるので、ずっとずっと刺激が無くなることがない。
 休んでいる間はほんの少しに思えた。しかしあとで話しを聞いてみれば、両方とも10分ずつの間隔で波のように刺激が来るそうだ。10分達したら、10分休む、と言った感じで。

 その少しに思えた時間を過ごすと、あっさりと頂点に導かれる。身体にまた力が入る。
 射精をしていないので、何回でも絶頂を見ることが出来るのだ。男は普通なら射精することによって快感を得る。何度も得ようと思ったら、それだけ精液がないといけない。精液が無くなった時点で不能となるわけだ。
 だがこのドライオーガズムを感じる前立腺マッサージは、理論上果てしなく達し続けることが出来るのだ。
 止めてくれ!
 こんなままで一晩中置かれたら、俺は本当に死んでしまう。

 それでも快感は背筋を這い上がってくる。止めたいのに、逃れたいのに、俺の直腸は蠕動運動を続け、すなわちエネマグラを動かし続けるのだ。

 達すると言うことは体力の消耗も半端ではない。一度快感の波が終了したときには、心臓は大きく鳴り呼吸は短く荒くなり、身体はそれ以上力を入れることが出来なくなり、グッタリと弛緩する。
 それが何度も続くのだ。二度、三度、となるとどれだけ快感と呼べる刺激でも、もうイきたくなくなってくる。

 それでも俺は達し続ける。

 三度目の休憩のときには、最初に飲まされた睡眠薬が効いてきた。もう眠りに落ちる‥その寸前で四度目の快感が襲う。そして俺は睡魔と快楽とに襲われて本当に朦朧とした。
 もう休憩の時が分からなくなったのだ。
 俺は一晩中、その快感に苛まされ続けたのだった。

 その次の日、何度目なんて分からない絶頂で目が醒めた。腹は先走りで汚れ、吐き出して乾いた上からまた重ねられて、白く硬くなっていた。
 そこからの液は途切れることがないのだろうか。そして俺のペニスは勃ちっぱなしでも大丈夫なのだろうか。そんな疑問でいっぱいになる。俺の身体は生殖器だけしかないように思えてきた。
 この時は終わるまで教えてもらえなかったのだが、本当は俺が寝てる間は抜かれていたらしい。そして起床時間の少し前に再度挿入されていたと言うことだった。
 そうだよな、いくらなんでもこんなことがずっと続いていたら、人間終わってしまう。
 しかしそれを知らなかったその時は、本気で殺される、とまで追い詰められていた。
 快楽の地獄で悶絶死する‥。
 そんな光景が何度も俺の頭に浮かんで消えた。
 また、その日も1日目と同じように過ぎていった。

 2日目はイかせろと怒っていた。けれど3日目になるとイかせてくれと泣いていた。そして4日目はもう止めてくれと本気で泣いていた。
 はぁ、はぁっ、っと短い息しか出てこない。下半身を占める甘酸っぱい刺激はきゅーっとくる。
 お願い。もうダメ。もう止めて。
 俺は俺でなくなって、本当に生殖器だけになってしまったようだ。
 性的刺激を受ける神経だけが俺の身体に張り巡らされているようだ。身体中が感じてしまう。それでもまだ、俺は4日間吐き出さずにいたのだ。
 今考えるとよく4日も過ごしてきたな、と思う。最後の日なんてあんまり記憶がない。とにかくイきたくて仕方なかった。それだけを考えてなんとか生きていた。
 明日になったら吐き出すことが出来るんだ。これだけを頼りに乾いた絶頂を繰り返していたのだった。
 また苦しいくらいの刺激の中で眠りについた。いつ寝たかなんて分からなかった。けれど目が覚めたら明日こそはイかせてもらえるのだ。

 朝からまた絶頂を感じて目が覚めた。中だけで感じる切なさ。男はやはりきちんと射精してこそ、男としての快感を得るのだと思う。
 それが女のように、中だけでずっとイかされるなんて‥。
 その頃には既にそんなことを考える意識はなく、飯を食うのも風呂に入れられたのも、覚えてない。
 ただ外へ連れ出されたときに、押さえつけられていないと自然と振ってしまう腰が、より悦んでいたのを覚えている。
 地面に四つん這いにさせられ、沢山のスタッフの手が伸びてくる。
 その一回目の射精は、本当に涙が出るほど気持ち良かった。これが、これが欲しかったんだ! とどれだけ幸せだったかしれない。北岡さんのカメラはそれを確実に捕らえていた。
 写真集を見ればよく分かる。イった瞬間と言うよりは、幸福が訪れた瞬間という感じ。非常に満足げな顔をしている。

 だがそれはそのイってる瞬間だけで、終わったすぐから次の射精を目指していた。
 それほど俺は追い詰められて、吐き出すことだけを考えていたのだ。
 どれだけ吐き出しても物足りなかった。俺はこれだけのために今まで存在してきたかのようだった。まさしく本能のみで生きている、野獣そのものだったのだ。北岡さんの思惑は大成功だったと言えるだろう。
 俺はどれだけの回数イったのか、どのくらいの時間そうしていたのか、全く記憶がない。
 気が付いたときにはマネージャーの部屋のベッドの上だったから。
 
 だが、おかげで写真集は大ヒットだった。

 しかしその恥ずかしい写真集を目の前に突き付けられながらのインタビューは本当に苦労した。
 どれだけ嘘を取り繕うかを商売にしているとは言え、やっぱり生身の人間だ。その時のことが思い出されて、段々顔が下を向いて、赤面してしまう。そんな態度を取ったらそれが本当だと証明してしまうのに!
 必死でなんでもない振りを続け、演技だと言い切った。だけどその裏で身体が熱くなっていたことは隠し通した。

 マネージャーの磯谷は、俺が他の男の手で悦ばされていたのが気に入らなかったらしく、帰ってきてからどれほど抱かれたか分からなかった。あいつがこんな無茶な写真集を企画したというのに。
 まったく勝手にもほどがある。
 しかし、まだまだ枯れるまで吐き出したかった俺としては丁度良かった。死ぬほどフェラもしてもらって満足だった。

 思う存分、好きなときに吐き出せるというのが、こんなに幸せなことだとは今まで気づきもしなかったのだ。
 一回イくたびに、我慢をしなくていいことに感謝した。次も出せると思うとより興奮した。俺は一度イくと立て続けに限界まで吐き出さないと我慢できない身体になってしまったのだ。

 そんな結果で締め括られた写真集だったが、興行的には成功だった。そして俺は超大物監督の映画に出演することが決まった。
 一体どんなコネを使ったのかその時の俺には分からなかったが、クランクアップしたらそれはあっさりと理解できた。
 そう、俺は自分のこの身体でその役をゲットしたのだった。


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