ここに繋がれたのはどうやら役の中でのことらしい。と言うことは監禁されるのはここなんだろうか。そのシーンの本番になったらこのセットを利用するのだろうか。 とにかく今はカメラも回ってない。練習なのかテストなのか分からないが、藤原さんのおめがねに適うまでは解放してもらえそうになかった。 俺を吊している鎖は、スタジオに張り巡らされている梁から下がっていた。両手は革の拘束具を付けられて、そこに丸い金具が付いておりそこから鎖に繋いであった。 切れるとか外せるとかはまったく思えない代物だ。教授はアキラを一歩も出さないつもりなんだろう。 冷たい笑みを浮かべた片桐教授は見ただけで俺が固まるオーラを漂わせていた。 「や‥止めて‥」 「おや、らしくないね。そんな怯えた顔をして。いつも通り元気なアキラでいて欲しいな。痛いことなど何もしないよ。私が君を傷つけるなんて少しでも思ったのなら、それは悲しいな。こんなに君のことを愛しているのに」 片桐教授はそれまでは2歩くらい離れていたのだが、俺のすぐそばに歩み寄った。そして俺の顔をそっと撫でる。指先でさえ感じてしまう。一体どんな電波が出ているのか‥。 頬やまぶたを愛おしそうに滑る指。それは片桐教授の表情にも寄る所が大きいだろう。 完璧に酔ってる訳じゃないのだが、これから愛する者を好き勝手に出来る喜びが溢れている。だがそれはただ単にマニアックなだけじゃなく心から愛おしいと感じられるのだ。だからアキラは真剣には怒れない。そこまで思われて心はゾクリとする。 この時、教授の心は全て自分のものだから。 滑っていた指は頬の上で止まり、そのまま包むように手の平全体で覆われる。スーッと顔が近づいたと思ったら唇を唇で塞がれた。 焼けるようなキス。 片桐教授の煮えるような思いが伝わってくる。 熱い、熱くて火傷する。 けれどアキラにとってはそれが喜びなのだろう。教授を自分に狂わせたい。心からそれを望んでいるのだから。 自分なくてはいられないようにしたい、それはアキラも同じ思いなのだ。 「ん‥ん」 鼻からしか抜くことの出来ない息。それすらも熱くて。 口内で蠢く舌はそれはいやらしく、そして甘美だ。情を通わせる相手とはキス一つでもこんなに感じるものだとは。 俺の下半身は熱く脈を打って、硬くなっていた。 しばらくそのキスに酔っていた。自分の状況など忘れて。 そう、俺はアキラではなく。そしてこれは映画の撮影とも関係が無く。俺はただ単に藤原さんに演技の手ほどきを受けてるだけなのだ。磯谷だって俺がここにいるなんて知らないだろう。俺だってここが何番のスタジオなのかまったく分からない。撮影だって抜け出していていいものかどうか。 惑わされていたが、すっかり現実に帰った。ここではどうなったらオッケーがもらえるのだろうか。やはりこのままアキラとして藤原さんのイジメのようなテクに耐えきったら解放してもらえるのだろうか。早く撮影に戻らないと拙いと思うし。 現実に帰った俺の反応が悪いと思ったのだろう。しっかりと抱き締めていた教授の腕が緩んだ。 そして俺の硬くなった所を握る。 「んんっ‥」 「私と共にいてくれると約束しない限り、解放してあげない」 藤原さんは俺の疑問がすっかり分かっているようで、心の中で考えていたことに答えてくれる。 「こんなの‥犯罪‥」 俺が話すときは握った所を動かす。それは直接の刺激でいつもいつも俺が欲しているものだ。写真集の撮影でそんな身体にされてしまった。まるで砂漠で渇水状態を経験した人がいつでもそばに水がないと不安なように、俺もそこに刺激がないとあの地獄が迫っているのだと身構えてしまうのだ。 だからそこを刺激してもらうと身体中で悦びを表現し、当然だが顔も満足な表情を浮かべてしまう。 「犯罪なんかではないだろう。アキラ‥君はこんなに快感に酔っているのに。それとも私に酔ってくれていると思っていいのかい」 その間も藤原さんの手は休まない。そこにくるものは全てが甘美でとろけそうになる。 「ん‥ん‥、ちっ‥違う‥。酔って‥な‥んか、いな‥い‥」 物欲しげに腰を突き出して、快感に鼻を鳴らして違うと言っても微塵も説得力がない。 「本当に君は頑固だね」 教授は諦めたように肩をすくめた。 「そして大バカ者だよ」 「どっどうして」 「ちょっとおじさんを喜ばせるようなことを言っておけばいいだろう。適当に会って、適当なこと言って、小遣いもらって、美味しい食事をとって、プレゼントもらって。どうしてそれが出来ない」 「俺は‥あんた‥と、愛人‥契約‥を‥、結んで‥い‥る、訳じゃ‥ない」 「おや、前に言ったことと随分違うようだが」 しまった‥、何か間違えただろうか。 「私達の間には愛情はなく、需要と供給があっただけと。君は単位が欲しかっただけだと言ってなかったかい。その関係のどこが愛人契約と違うんだい」 台詞の最後には少しの嫌みと意地悪も込められていたのか、握った先端を親指で強く撫でられた。 「あぅっ‥」 鈴口が割られて、凄く感じる‥。 「それともそれが君の本音なのかな。契約なんかではなく愛情があったと」 藤原さん、フォローが上手い。さすが舞台俳優。何かあったときの咄嗟のアドリブは、生でやってないと鍛えられないだろう。 「ちっ‥ちが‥う」 ひっきりなしに動き続ける手が快感をずっと運んでいる。冷静にどうやって演じるかなんて考えられない。アキラなら‥と考えることを止め、この快感に浸り、教授の愛情を堪能する方を選びたい。こんな風に好きな相手から想われたら、それだけで幸せだと思う。 けれど今は藤原さんに合格をもらわないといけない。失敗は取り返さねば。 「た‥だの‥欲求‥不満‥を、吐き出‥す‥とこ‥ろ」 教授はそれまでも普段見せない冷たいオーラを漂わせていたが、今度こそ本気で怒った。 「そうか。あくまで君は身体だけの関係だったと言うんだな。それならどれだけ好きか見せてもらおう」 そう吐き出すように言ってから、俺のモノをフィニッシュへ導く。 もう少し‥と思っていたら、それは悲惨な状態にされてしまった。 「やっ‥ヤダ‥っ、やっ止めて」 教授は吐き出す寸前まで高めると、腰が引けてきた発射するだけの俺のモノにリングを嵌めたのだ。 「止めてっ‥。頼む‥からっ。お願い」 あの‥地獄が蘇る。もう‥二度と味わいたくないと思っていた快楽の地獄。イけないままで放置される絶望。イける寸前で止められる悲痛。 腰をムチャクチャに振って暴れる。嵌められたリングを弾き飛ばすくらいにペニスも振る。それでもキッチリと嵌められたリングはビクともせずにそこを締め付ける。 俺は狂ったかと思われるほど、本気で泣き叫んだ。もう映画の撮影なんて頭の片隅にもなかった。ただただ、そこを止められたことが酷い衝撃だったのだ。 「取って、これ‥取って。イヤ‥嫌だ。これだけは嫌」 俺が暴れる様をジッと見つめていた藤原さんは、しばらくしてから口を開いた。 「アキラ、身体の関係が一番で欲求不満を吐き出すだけだと言っただろう。私との関係は君の人生の中で一番気持ち良かったと覚えてもらおう。またそれは君自身が望んだことだ」 「なっ‥やだっ、止めろ。こんなの‥快感でも、なん‥でもないっ」 「そうかな、今後を想像するだけで君はもうこんなに興奮しているのに。これが快楽でなくてなんというのか」 教授は俺の吐き出せない出口を愛おしげに撫でながら、そばに置いてあったビンを取る。いったん俺から手を離すと、そのビンから粘度のある液体を手の平に零す。それを俺の尻に撫で付け、それから恐ろしい物にも塗り付けた。 「やっ‥や‥だ。お‥ね‥がい、それだけは‥止めて」 後ずさりたいけど今の状態ではそれは叶わず、出来る限り教授から離れる。 「何言ってるんだい。これが一番好きだっただろう」 どうして藤原さんがそんなことを知っているのだろうか。しかしこの時の俺にはそんなことを考える余裕はなく、ただ怯えた子供のように嫌々を繰り返していた。 教授は再度俺に近づいてくる。手には凶器を持って。 逃げられる一番後ろまで行っていたが、抱き締めるようにして元の位置へ戻される。そして左足を抱えられて、閉じられた部分が丸出しになる。 そこへ、その凶器を教授は埋め込んだのだ。 「やっ‥止め‥て」 「こら、あんまり暴れると中を傷つける」 それから足を降ろされた。 「ほら、ジッとしてごらん。だんだん気持ち良くなってくる。それにこれは振動もするんだよ。新製品でね、アキラに是非とも味合わせてあげたいと思っていた所だ」 なるべく静かに息をして、入口がヒク付かないよう努力してみる。だが、そんな努力はまったく無駄に終わる。 中に入れられたモノは静かに動き出したのだ。 ああっ、もう‥ダメ。 それは、写真撮影で4日間の禁欲をさせられたときに使われた物。 そう、エネマグラだ。しかも自らの力で動くだけでなくそのもの自体が振動するという。それを振動させられたら、一体どうなるのだろうか。 恐ろしさに身が縮むが、勃ち上がった所はしっかり止められていて、萎えることはなかった。 それどころかもっともっと硬くなってくる。中からは前立腺を擦り上げるエネマグラがとても静かに休むことなく動いている。 両足を閉じて腰を振る。達したくないのに、慣れてしまった身体は乾いた絶頂を目指して駆け上がる。 教授はそんな俺をジッと見ていた。愛おしさを込めた優しい目つきと、憎しみを込めた怖い目つきとを繰り返しながら。 本当に教授なんだ‥。 そう思えた。 そして俺はアキラなんだ。 そう頭は誤解した。 アキラもこのエネマグラに悩まされたことがあったのだ。そうだ、それは教授に無理矢理されたのだ。 ベッドに寝かされて、両手両足は拘束されて、永遠に絶頂をみる。規則正しく10分置きに襲うさざ波。最初は快感と思えるがだんだんそれは苦しくなってくる。 |