快楽のいばら街道 30


 泣いて懇願して、それでも抜いてもらえなくて、そのまま失神したのか寝てしまったのか、分からないが記憶がない。

 あの禁欲の4日間が教授との生活にすり替わる。
 嫌だ、このままいたらまたあの地獄をみる。
 でも身体はそれを求めているのか、高まっていくのが分かる。
「お願い‥抜いて‥。抜いて‥下さ‥い」
 心の底から教授に頼んだ。
 それなのに教授は一瞥しただけで返事もくれない。
 欲求不満を吐き出すためだけの相手、と言われたのがそんなに気に入らなかったのだろうか。
 だけど事実じゃないか。俺は教授の愛人なんだから。
「こんな‥に、頼んで‥る、のに‥。ほんと‥に、あんた‥って‥俺の‥こと、思ってる‥の?」
 教授の顔が変わる。パッと輝いた気がした。
「君のことを一番思っているのは私だという自信はあるよ。だが、その当人の君は私が必要でないと言う。なら必要な存在になるために、君に私でないと味わえない経験をしてもらおうとしてるだけだよ。なんにも酷いことなどしてないだろう」
 これが酷いことじゃなかったら、一体どんなことが酷いのだろうか。俺には想像が付かない。

 あ‥ああっ、この感覚‥。も、もうじき迫り上がってくるのが分かる。
 身体が勝手にびくびくと震える。
「気持ちのいいことを知れば、身体の方が私を忘れない。そして君は自分から私を求めに来るって寸法だ」
 そっそんなの、勝手な言い分だ。これほどキツイ感覚をまた味わいたい、なんて思うはずがない。そもそもドライオーガズムに達すると凄く疲れる。本人の意志ではなく、身体中が勝手に強張るし、痙攣するし、抜け出したい一心になってしまう。
「ほんとに君はいい顔をする」

 教授は俺の顔に手を掛けると、またキスをする。
 イヤだ‥、他に気を取られていると油断した隙にすぐに頂点に達しそう。
 けれど教授のキスは熱くてとろけそうだ。そう、アキラはこれを独り占めしたかったんだ。
 同じキスを他の人間にもしているかと思うと、頭の中がおかしくなる。そんな気分を味わうくらいならいっそ別れた方がいいと思ったのだ。
 教授は狡い。狡くて卑怯だ。自分ばかり好きなことをして、相手の気持ちなんて考えていない。それなのに自分と同じ気持ちを返してくれないと怒るなんて。でもその思いは一人だけなんじゃないかと勘違いするほど大きい。だから狡いのだ。
 また長いキスが終わった。その途端、俺の身体はガクンと腰が抜けた。
 キスに熱くなった身体は堪えることを忘れ、予定よりも早く達してしまったのだ。
「腰が抜けるほどの口付けだったかな」
 教授はしてやったりと言わんばかりの笑みを浮かべた。
 けど、俺はそれをジッと観察する余裕はなかった。

「あぅっ‥ううっ‥ぅく‥」
 頂点をみた身体はビクンと震え、そして膝が抜ける。吊されている両手に全体重が掛かる。それが辛くて、必死になって足で立とうとするのに、その度に俺の意志とは関係のない波が襲って立ってられない。
 震える身体と格闘していると教授は俺の後ろに回って、両足を抱き上げた。まるで何かに見せつけるように。
「ああっ‥んんっ」
 それでも身体は震える。股間が全開になった事など気にならない。こんなに恥ずかしい姿でイっちゃってるなんて。本当なら羞恥心で身が縮むはずなのに。
 それから教授は止められているモノを扱きだした。
「あああっ」
 背中が仰け反る。
 イヤだ、お願い。止められているのにそこに刺激が来ると、もう苦しい以外の何者でもない。
 肝心なモノは吐き出せないくせに、先走りはいくらでも垂れてくる。
 教授はそれを塗り広めるかのように、先端からくびれまでをヌルヌルと擦り上げる。
「やっ‥ああっ‥ん‥」

 中からの絶頂と外からの刺激と、もう俺の性感帯はショート寸前まで燃えさかっていた。
 ダメ‥だっ。これ以上この両方からの攻めが続いたら、神経が焼き切れる。
 俺は耐えきれなくて、教授に持ち上げられた足を振って暴れる。けれど中心を強く握られたら力が入らない。足はすぐに大人しくなってしまう。
「おっ‥お願‥い。イかせ‥て‥」
「止められているとこの快感がずっと続くんだよ。君が一番求めていたことだろう」
「も‥、もう‥ダメ」
 苦しくて苦しくて、それでも快感を追ってしまう身体が恨めしくて。あの地獄を思い出している中心は吐き出したくて死にそうになっていた。
 何度もイかせてくれと教授にお願いする。

 それでも教授は聞いてはくれない。

 だんだんこの絶頂に抵抗する力が抜けてくる。教授が持っている足に全てを預け、前倒しになった身体は吊された両手が支える。ダラリとしているのに時折痙攣したように身体中が引きつる。

 もうどこにも力が入らない。体力を使い切ってしまって、震えるだけで精一杯だったのだ。
「そろそろ限界かな」
 そこまで嬲ってから、教授は俺のモノを堰き止めているリングを外した。
 そして扱く。
「あああああっ」
 それまで力が抜けていた身体に一気に電流が走って、全身に力が入る。
「うううっ‥、ぅあああっ」
 俺は言葉を持たずにその心境を獣のように吼えて表す。もう‥吼えるしかなかったのだ。
 ダブルの絶頂の刺激は余りにもきつすぎて、またそこから記憶が無くなった。

 それから何度も教授は俺が失神するように嬲った。
 それは快感などと呼べる代物ではなく、痛いくらいの爆発だった。
 エネマグラはそんな俺の気持ちも身体も関係なしに規則正しく動き続ける。きつすぎると思っているくせに、中だけを刺激されて外を止められるとイきたくて仕方なくなる。
 イヤだと叫びながら、イかせてくれと頼み続ける。
 一体何度失神したのか。一体何度イったのか。もう数なんて数えられなくなっていた。身体は怠くて重い。それでも手に付いた拘束器具は外してもらえなかった。足に力が入らない。立つのもやっとな有様で、あそこだけは常に硬く勃ち上がっていた。
 また‥中からの乾いた絶頂が俺を襲った。来るのが分かる。小刻みに震えだした俺を見て、教授も達したのが分かったのだろう。
 ほんのりと微笑を湛え、リングを嵌める。
 もう‥もうイヤだ!

 イヤでも腰が迫り上がる。猛ったモノを前へ突き出す。尻に力が入り締まる。
 ググッと身体中に力を入れ、準備が終わった所でそれは来た。
「ああっ‥、うあっ‥」
 身体中がビクビクと震え、中だけで達する。前立腺が俺の全てを支配している。どれだけ怠くても、どれだけ重くても、身体は疲れを知らないロボットのように震え続ける。
 こうなるともう何も出来ない。疲労は蓄積され、波のように遅う絶頂の第一陣が過ぎ去るまでいいようにされる。
 動き続けるエネマグラと、自分で振り続けてしまう腰と、発射したくて堪らないペニスと。
 全てが終わることがないのだ。
「く‥うっ‥、うぁぁっ‥。も‥や‥めっ、て」
 ほとんど理性なんてものは残っていない。まともに会話だって出来ない。ただ俺は止めてとイかせてを繰り返す。

 どんな酷い人間なのか、と言いたくなるほど教授は冷酷だった。堰き止めたリングは、中だけで達し高まるだけ高まってからしか外してくれなかった。
 そして俺は乾いたオーガズムを味わいながら、射精させられるのだ。
 それは何度体験させられても慣れることのない強すぎる刺激。何回来ても耐えられなかった。
 言葉らしきものを発する前に、またしても俺は吼えながら気を失った。


 腕も持ち上がらないほどの疲労。こんなに疲れたことはない。
 絶好調時、1日の睡眠時間は2〜3時間だった。秒刻みのスケジュールで動いていた。
 だが、だがこんなに動けなくなるほど疲労困憊したことはなかった。芸能人は身体が資本だ。売れる要因の中には健康という項目が絶対条件なのは周知のことだと思う。それは同じ人気ならくたばりそうな奴よりも元気のいい奴を使うと言うことで、そこから露出度が違ってくる。

 人前での露出度が多ければ多いほど売れてると判断されるわけで、俺は心底丈夫な身体に感謝していた。
 その俺がここまでくたばるなんて‥。
 それだけ快感を味わうと言うことは大変なことなのだ。それだけ性的刺激はきついのだ。
 それをすっかり分かっているくせに、ここまでする教授は一体何者なんだろうか。
 頭はそんなことをふわふわと考えていた。そこへゆっくりと目が開く。
 俺はいつの間にか浴槽に漬けられていた。
 今、ここはどこかと訊ねられたら、俺は漠然と教授の別荘と答えていただろう。それほど頭は朦朧としていて、この世界を現実のものと取り違えていた。
「アキラ‥。本当に気持ち良さそうだね。これほど善がってくれるとは予想できなかったよ。気を失うほどの快感。どんな感じだい?」
 目を開いた俺に、教授は片手だけを浴槽に浸けた洋服を着たままの姿で質問する。

「きっ気持ち良くなんかない! どれだけ辛いか、あんたも味わってみたらいいんだ」
「残念ながら私は君ほど楽しめる自信がない。あれだけのモノを受け入れられる器がないと無理だと思うよ。あれほど気持ち良さそうにしておいて、よくないなんて。ほんとに素直じゃないな、君は」
 実際に気力体力ともに使い果たすからこれだけへばっているのに。どうして気持ちがいいなんて言えるのだろうか。
「イかせてくれと何度言ったか数え切れないだろう。それほど快感を感じたのだろう?」
「酷いことをしたと思わないのか」
「何故だい。感謝されても恨まれる覚えはないと思うのだがな」
「かっ、感謝なんてするか!」
「ふ〜ん、これだけ元気ならまだ頑張れそうだね」
「なっ、何を‥」
 教授は焦る俺の顔に濡れた手を掛けると、唇を重ねる。
「ん‥」
 濡れることも厭わずに教授は俺を抱き締める。けれど俺には抱き返す腕がない。
 俺の両手は妙な拘束具を付けられて、頭の上で壁から吊されていたのだ。


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