狂宴 1

 あれは相当前、俺がまだ18歳で高校3年生の頃だ。
 この話しをするとみんなが笑うのでしたくなかったんだが、鋭侍が知らないと言うので、仕方なく話す。

 俺は別にこの辺を治めようとかそんなつもりは毛頭無かったのだが、ただ余りにも争いごとが多く、直面することもしばしばあって。
 それはうちの工高と生馬と鋭侍が通っている工高との諍いから始まっていた。

 ここら辺一体は昔からうちの水龍工高と生馬たちの火龍工高とで、どっちがどっちの配下に付くか揉めていた。そのまたもう一昔前なら番長がいて、タイマンで勝負をして毎年どちらが上かを決定していたのだが、そこまで学校でのまとまりはなくなっていた。
 なので必然的に小競り合いが多くなり、その度にケンカの強そうな奴が駆り出されることになり、ケンカ助っ人屋なるものまで登場していた。

 俺は入学当時からその助っ人屋に目を付けられていた。と言うかスカウトされていたという方が正解だろうか。身長は180を超えていたし、生馬に付き合って空手を習っていたし、大会ではそこそこいい成績を残していた。だから当然と言えば当然だったのだが。
 しかしケンカにケンカで応えていてはその波紋は大きくなるだけだ。だから俺はそれには入らず、仲裁屋を勝手に名乗りだした。
 名前は違えど、やってることは一緒で結局毎日ケンカ三昧だった。ほぼ勝ちを収めていた俺の名は有名になり、ついには仲裁の大馳と呼ばれるようになった。この名前を出せば戦わずにしてケンカを引くことが出来る。2年になると火水とも名前だけで引かないのは数人に絞られてきた。
 そして2年のうちにその残りの奴らとも一線まみえる機会が出来、それを伸した俺は名実とも頂点に立ってしまったのだ。
 両工業を押さえてしまうと、必然的に暴走族の連中も俺の顔を見れば挨拶する。なんだか本当に俺は総番長なるものになってしまったようだ。

 そんな俺に女どもはこぞって抱いてくれと寄ってきた。総番長の女、と言うポジションに憧れていたようだ。しかし、俺には彩乃という彼女がいた。
 高一の仲裁屋をやり出した頃にナンパされたのだ。不思議だった。寄ってくる女なんてヤンキーばかりで真面目な子は俺のことを避けて通る。しかも思い切り派手にケンカをした後だったのだ。
 確かに美人が困っていると思って仲裁に入ったのだが、自分でも情けないくらいに気が短い。切れると打ちのめすまで止まれない。美人の前で多少はカッコつけたかったのに、結局いつも通り拳で片を付けてしまった。
 それなのに彩乃は俺に声を掛けてきた。美人なお姉さんにクラリと来た俺はそのまま最後までいってしまった。彩乃は綺麗で知的で優しい癖にキッパリしていて、俺には勿体ないほどの女だった。
 俺の女、と言うことはこの界隈の高校生なら知らない者はいないと思うほど、彩乃は密かに有名だった。しかしその内訳は俺の彼女と言うことが有名なのではなく、彩乃が美人だから名が売れてしまったのだ。
 彩乃の顔が出てしまってからは言い寄ってくる女は減った。誰もこの彩乃に勝てるとは思わないのだろう。生馬や鋭侍のように女に囲まれて喜ぶ、なんてことのない俺には都合が良かったが。

 しかしそんな俺に驚くことを言ってくる奴がいた。
 麻生選(あそう すぐる)16歳。うちの工高の1年生で俺と同じ機械科だった。うちは工高の中でも建築やインテリアを有しレベルはそこそこあった。火龍はヤンキーばかりだが、水龍は真面目な奴も結構いたのだ。
 見た目は女と言っても通りそうなくらいに可愛らしかった。だが、やはり男には違いなく、俺はこいつが言った言葉がすぐには理解できなかった。

「あの、あなたが大好きです。おそばに置いて下さい」
「ん? 悪いが仲裁屋はガタイのイイ奴限定だ。本気でしてるケンカの中に入っていくからお前が考えているより怖いぞ」
「違うんです。そんなケンカなんて怖いです。俺が言うそばに置いて欲しいって意味はこうです」
 麻生は仲裁屋のたまり場にしていた工作室で、鉄の工作台に腰掛けていた俺のそばへ来ると、ズボンのベルトに手を掛けた。
「何をする?」
「奉仕させて頂きます。これからいつでも、ご用があるときもないときでも呼んで下さい」
 可愛らしい顔で必死の形相でその続きをしようとする。‥奉仕と言えばそれしかないだろうなぁ。

「俺には恋人がいるって知らないのか」
「知ってます。けれど凄くインテリな彼女なんですよね。こんなコトしてくれないですよね? 俺のことはいつでも使ってくれたらいいですから」
 頭が痛い。この歳でそんなことを覚えてどうすると言うんだ。しかも俺と彩乃のセックスの仕方まで口出しやがって。
「おい、お前な。んなことやってタダで済むと思ってるのか」
 胸ぐらを掴むとひょいっと身体が浮いた。軽い。こんなに小さな身体で俺のモノを銜えようなんて百年早いだろう。
 するとよほどの決意でここまで来たのか、さっきまで図々しいくらい図太い態度だったのに、めそめそと泣き出したのだ。
 俺は男ばかり四人兄弟で、おまけに鋭侍も加わって五人で暮らしてきた。ハッキリ言ってうちには泣くような男はいない。

「男のくせに泣くな。その根性を鍛え直してやりたくなる。金玉が付いてるならビシッとしろ」
「‥鍛え直して下さい‥。金玉なんて好きで付けてる訳じゃないんです。だって、俺‥男が好きなんです。男の人に抱かれたいんです。あなたが理想なんです。でも俺は男なんで、どうあっても受け入れられることはないって分かってました。だからせめて奉仕するくらいならそばに置いてもらえるかと思って」
 ベソベソとしてた割りには言いたいことはきちんと言えてるようだ。
「別に男を好きなのが悪いと言ってるんじゃない。そう言う奴は案外どこにでもいるもんだ。だからお前のことをちゃんと好きでいてくれる奴に抱かれた方がいい」
「こんな俺なんて誰にも好かれるはずがないです」
「なんでそんなに自分を卑下するんだ」
「だって、俺ってオカマッぽいっていっつもからかわれて‥。男が好きだなんて変態って言われて」
 そう言うことは隠しておくもんだが、素直に言っちまったんだな。
「分かった。俺がお前の相手を捜してやる。けれどお前もへこたれるなよ。お前のクラスには一度顔を出してやる」
 麻生はパァッと晴れやかな顔になって帰っていった。

 するとすぐに他のメンバーが入ってきた。
「大馳〜。フェラくらいさせたらいいだろう。勿体ない」
「舐めさせるだけだぜ。抜けるんだから得だろう。まったくお前のせいで大損こいた」
「いやいや、大馳くん。君は偉いよ。あの美人な彩乃さんを裏切るわけにはいかんよな」
「お・ま・え・ら〜。もしかしたら俺を賭けの対象にしてたんか。しかも手引きしてあいつにいらんことを吹き込んだな」
「わはは、悪い。俺の弟の知り合いなんだけどな。クラスでもからかわれていて可哀想なんだと。だから本当に大馳が相手をしてやったら、誰も麻生をからかおうなんて思わなくなるだろ」
 ったく‥。仕方ねぇな。

「麻生に相手を見つけてやるって約束しちまったんだ。手分けしてゲイかバイで男もいける奴で、恋人募集中の奴を捜してくれ」
 俺はそこに密かに、と付け加えるのを忘れていた。


「へぇ〜、大兄に言い寄るなんて大胆な奴もいたもんだ」
「しかも男だもんな。すげえよ。勇気ある」
「大兄はその気にならなかったのか」
「ああ、なってもいいくらい可愛い男だった」
 鋭侍の質問に生馬が代わりに答える。すると鋭侍はムッとする。

「なんだよ、おめぇ。男もいけたんかよ」
「んなわけないだろう。例え話だよ。それくらいに可愛い野郎だったって」
 すかさず取っ組み合いが始まりそうな二人を睨んだ。
「あ、ごめん。続けて」

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