狂宴 2

 それから次の日。俺は麻生のクラスへ行き、戸口で麻生を呼んだ。麻生は嬉しそうに寄ってきた。少し声を掛け、それから頭を撫でてやる。麻生はまるで子犬がしっぽを振っているようだ。
 まあこれでこいつがクラスで虐められることはないだろう。俺の知り合いだと分かったら誰も怖くて手出しできないはずだ。

 そして二週間が経った。仲裁屋のメンバーから候補が揃ったと報告があった。
「おおっ、捜せば案外いるもんだな」
「ここらの暴走グループが主になってたみたいだがな」
 とにかく指定された廃倉庫へ向かう。麻生を連れてその倉庫へ入った。
 すると‥その大きな倉庫は何故か人で一杯だった。俺が来たと分かると歓声があがる。
 すぐに暴走グループのリーダーがやってきた。
「沢田さん。待ってたよ。みんな沢田さんのためなら尻でもなんでも差し出す覚悟だから。俺だって悩んだよ」

 はぁっ? 一体こいつは何を言っているのか。
 訳が分からないまま中心へ連れてこられた。その俺の前に男がずらりと並ぶ。
「オス。総番長にお会いできて光栄ッス。これから一人ずつ挨拶しますんで、気に入った奴を選んで下さい」
「ああ、分かった。だが今時総番長はないだろう」

 麻生は俺の隣でビクビクしている。一般人には馴染めないか。なるべく怖くなさそうな奴がいいなと思ったんだが、集まった奴らはかなり極端だった。
 思い切り羽目を外して悪そうな奴か、反対に男でも綺麗系と言ってもいい奴か。そのどっちかしかいない。
「良さそうな奴はどれだ」
「え、あの、さっき挨拶した人とか、左から二番目の人か」
 どっちも逞しい男って感じの奴だった。まあ俺のことを好きだと言うのだから、そう言う奴が好みなんだろう。
 だが、さっきからみんなが俺に気に入られるといいんですが、と言っている。俺は麻生の相手を捜すとは言ったが、俺が選ぶとは一言も言ってないのだが。

「大馳の兄貴に気に入られるなら何でもします」
「沢田さんになら尻の一つや二つ‥。いくらでもお願いします」
 なにやら毛色がおかしくなってきたと思ったら。

「兄貴に抱かれるなら本望ッス」
「大馳さんのモノがこの身体に欲しい‥」
 そこで俺は何かが間違っていることにようやく気が付いた。
「ちょっと待て。お前ら俺の相手に立候補してるのか」
「そうッス。大馳さんが男の相手を捜してるって勧告が出たんで、その気のある奴はみんなこうして集まったんス」

 呆れて口がきけない状態とはこういうことを言うんだな。
 絶句して数秒。倉庫の人間全てが俺の動向を窺いシーンとしていた。
 そこへ「あはは」、と軽い笑い声が響いた。女の声だった。

「誰だっ」
 笑われてすぐにカチンと来る奴ばかりだ。数人がそう叫んだ。
「だっだって、呆然とした大馳なんて初めて見たわ。可愛かった」
 まだクスクスと笑いながら、凌駕と生馬に守られるようにして彩乃が出てきた。
「なんで彩乃が」
「ご免なさい。こんな所までお邪魔しちゃって」
「彩乃さんは悪くないんだ。俺がつい大兄が男を捜してる、って言っちゃったから」
「そんでもって俺が一緒に見に行こうって誘ったんだ」
 凌駕と生馬が彩乃を庇うように弁解する。

「お前ら知ってたんなら何故教えてくれない」
「だってさぁ、こんな面白そうなこと。中止になったらつまんないぜ」
 生馬の野郎。単純に楽しんでるな。
「でもこれで大兄が男もいけるってここら辺の奴みんなが思ったぜ」
 ああ、そうだろうな。これからも、麻生のような奴が増えるかもしれない。
「俺だって最初に聞いたときは驚いたよ。まさか大兄がホモだなんて」
 ホモなのはお前だろうが、と反論もしたかったが、まだ生馬は鋭侍とそう言う関係ではなかった。

「みんな悪い。どこでどう間違ったのか知らないが、俺の相手ではなくここにいる麻生の相手を捜していたんだ。お前とお前。麻生が気に入ったようだが、お前らはどうだ」
「大馳さんじゃなきゃ男なんてゴメンです」
 一人は断ったが、もう一人はその気があった。
「俺は可愛い子も好きです」
 何だかまとまりそうな雰囲気にホッとした。がそれも束の間で、俺は倉庫から逃げ出すのに苦労する。

「大馳さんのために身体中磨き上げてきたんです!」
「俺を男にして下さい!」
 いや‥それは違うと思うぞ‥。

 そんな風に懇願する野郎ども。男に囲まれてあちらこちら撫で回されて、当然だがあそこも伸びてきた手が掴んできて。だが俺の頼みで集まってくれたんだ。気色悪さを堪えつつ、文句も言えず、どうしようかと困っていた。
 するとその俺を中心とした固まりにザバッと水が掛けられた。
 一瞬にして静かになる。

「私の男に手を出さないで欲しいわ」
 水を掛けたのは彩乃だった。
「彩乃、格好いいな」
「ありがと」
 びしょ濡れの俺に彩乃は腕を絡める。濡れるからと言っても離れなかった。
「水も滴るいい男ってほんとね」
 彩乃は倉庫を出ると俺に抱き付き、唇を寄せる。
「ほんとは少し妬いてたかも」
 ちょっと照れくさそうに笑う彩乃にまた一段と惹かれたのは言うまでもない。


「あっあの彩乃さんが? おしとやかで優雅な彩乃さんがそんなことするんだ」
「だが彩乃は勝ち気で強気だぞ」
「うっうん‥そうだった。彩乃さん美人だし格好いいなぁ」
 鋭侍は本当に彩乃が好きで、憧れている。ま、鋭侍だけじゃなく生馬もかなり彩乃のことが好きだし、凌駕に至っては惚れているかもしれない。それくらいいい女なのだ。
「しかし笑えたなぁ。大兄が男を捜してるなんて。俺もその中に加わりたかった」
 鋭侍は倉庫で最初の挨拶を聞いたあたりから想像が付いたようで、ずっと笑いを堪えていたのだ。そしてそれは身体中磨き上げて、の所で爆発した。
「お前が加わってどうするんだよ。大兄と寝たいのか」
「なんでおめぇに、んなこと言われなきゃならねぇんだよ」
「だって加わりたい、なんて」
「よく考えてみろ。大兄をからかえるチャンスなんて滅多にないんだぞ。俺だって焦ってる大兄が見たかったよ」
「そっそっか」
「だろ、おめぇだって楽しんだんだろ」
「まあ‥な」
 なんだかこいつらも少しずつ素直になってきたし、こんな話しをするハメになったが、まあいいかと部屋を出る。

 無性に彩乃に会いたくなって車に乗った‥。

 ちなみに麻生はその時の男と上手くいったようで、今も付き合っているらしい。まあこれだけ大事になったんだ。その甲斐がなきゃな。

終わり


 siesta様閉鎖に伴い、こちらにアップしました。粉雪様へのお見舞いの品だったのですが、お見舞いになったのかどうか‥。(^_^;) 思い切りノーマルな話しで、すんません‥。(汗)
 本当はギャグを思いついた、とか大きなことを言っていたのですが、ギャグを書けるほどの腕はなく‥。(:_;) ちょっと中途半端な出来になってしまいました。けれどノーマルな大兄がごつい男に囲まれて焦っている姿を想像して、ちらりとでもニヤリとして頂けたらそれで幸せです。(笑)
 そのギャグと言えるイラを粉雪さんが描いて下さったのですが、展示させてもらってもいいかなぁ。見たい人はネタバレ板で見たい! と声を大にして言って下さい。見たい方がいたらきっとオッケーを下さるかと。(^^)
 それではこれにて。感想など頂けると嬉しいですv

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