嫉妬3

「ほら、銀次。風呂まで運んで」
 俺は銀次の首に両手を絡めると抱き上げるようねだる。結局銀次も俺には甘い。俺の我が儘を聞いてくれなかったことはない。諦めてトシの目の前で子供を抱くように抱き上げてくれる。
 トシを置き去りにして風呂に向かって歩き始めると、銀次は前を向いていて、俺は残されたトシの顔を見ることが出来る。目の合ったトシは何かを言いたそうな顔をしていた。
「なんだ、トシも一緒に入るか?」
 俺が話し掛けたことで銀次は足を止める。元々風呂に入りに来たわけじゃないし。
「おっ俺は‥男と風呂に入る趣味はありません」
「そっか、だから俺とも入らないのか」
 トシは風呂へ何度一緒に入ろうと誘っても入らないんだよね。

「その人は‥一緒にお風呂へ入るような関係なんですか?」
「そう、幼馴染みだけど恋人だから」
「こっ、恋人? 新しい恋人ってことですか」
「それは違う。古い恋人って方が正解かな」
「それじゃ‥俺とは‥終わりってこと‥ですか?」
「いや、お前とは別れない。俺が一番思ってるのはトシだから」
 それを聞いてトシは少しだけホッとした表情を見せた。

「徹さん‥、この間浮気はしないって言ってくれましたよね」
「そう、だから今悩んでるんだよね。お前にしようか銀次にしようか。今はトシが正妻で銀次が愛人って所かな。お前はどうして欲しい」
「俺‥は、徹さんが決めたことに従う‥だけですから」
 ま〜だ、そんなことを言うのか。この馬鹿野郎が。

「それじゃこのまま3人で暮らすって言ったらどうする?」
「3‥人‥で‥、です‥か?」
 トシは俺の言ったことを噛み締めるように反復する。
「そ、お前は毎日俺が銀次と風呂へ入るのを見ることになる。耐えられるか」
「大丈夫‥だと思います」
 トシはそんな決意はしなくていいのに、覚悟を決めた表情を浮かべる。
「そのまま俺が銀次とエッチしていても?」
「そ‥のときは外へ出てます」
 腕がピクリと揺れ、両手を握りしめる。ほんと面白くないな、なんでこんなことを我慢しなきゃならないんだろう。
「ふ〜ん、頑張るな。俺はお前が辛いと思っても別れないし、この家から出て行くことも許さない。ずっとここに住むんだぞ?」
「徹さんが別れないと言ってくれるなら、俺はずっとここにいます」
 ここにいることについては、しっかり俺と目を合わせ、固い意志だと伝えてくる。

「お前さぁ、そんなこと言ってると俺は銀次を選ぶかもしれないぞ」
「俺は徹さんがしたいと思うようにしたいだけです」
「それじゃ銀次を選んだらどうするんだよ」
「そしたら‥俺はここを出て、田舎に帰ります」
「何にもせずに?」
「あ、ちゃんと家の中は綺麗にしていきます」
「そう言うことじゃなくて」
 なんだか気が抜けるなぁ。マジでこいつってば俺に惚れてんのかよ。銀次の肩の上で頬杖付いて溜息も付く。

「お前さ、銀次にヤキモチ妬いたりしないの? 悔しくないの?」
「そりゃ‥徹さんのこと何でも知ってそうで、凄い仲良くて、羨ましいです。でもそれだけ仲がいいのなら、その方が徹さんが幸せになれると思ったら何にも言うことが出来ません。悔しいかと聞かれれば悔しいです。きっとその辺で見掛けたら殺したいと思うくらい」
「ひっ」
 銀次の身体が震え、俺を抱く力が強くなる。トシの台詞を聞いてビビッたんだろう。ったく、どっちもどっちで情けないっていうか、何というか。

「それだけ悔しいなら、何かすればいいだろう?」
「なにを‥ですか?」
「例えばだな、俺の方が徹さんを愛してるって言うとか、徹は俺の物だって銀次に宣言するとか、銀次を追い出す手段を考えるとか。本気で惚れてるなら戦えよ」
「俺は俺だけの幸せを願って大失敗しました。俺は徹さんだけの幸せを願うと決めましたから。だから徹さんのいいようにして下さい。いつでも俺は徹さんに従います」
 ほんっと、馬鹿な奴。どうしてこいつってこんなに馬鹿なんだろう。俺が嘘を付いてるとか、俺がトシに惚れてるとか、そう言うことが分からないんだろうか。本当に俺の幸せ願うなら、何故俺が言って欲しい、して欲しいことが分からない?

「それじゃこの話し、俺が銀次に弱みを握られていて、無理矢理恋人にさせられたって言ったらどうする?」
「本当‥です‥か?」
 うあっ、トシの身体から熱が噴き出したのが分かった。今まで堪えていたものが一気に噴出する。濃度の違いでトシの回りの空気が淀んで見える。ゆらりと動いた身体は腕に全ての力をため込んでいる。
 ほんの少し、針が地に落ちるほどの何かがあれば銀次に殴り掛かっているだろう。
「嘘、大嘘だから」
 耐えられなくなった銀次が振り向いて全てをばらす。
「何が嘘なんですか‥?」
 敵と認識してしまったトシは戦闘態勢を崩さない。
「おい、徹。もういい加減にしてやれよ。これだけお前のことを思ってる奴もいないだろう。下手すりゃ純よりも思ってるんじゃないか」

 う〜ん、こういうパターンになれば戦うわけね。
 振り向いた銀次から少し身体を離し、二人してトシを見る。
「お前があんまり歯痒いことばかり言ってるから、銀次に恋人の振りをしてもらったんだよ。俺がお前のもの‥、いやお前が俺のものだと言う自覚があるなら取り返しに来い」
 トシはさっきの噴き出した熱をまだ身体に纏ったまま銀次に抱かれた俺に近づく。そして手を伸ばし、言われたままに俺を抱き抱えようとする。
「ほら、なんか言うことあるだろう?」
 トシはまだ熱を持っているので返事はせず、俺を睨むようにして焦点を合わす。
「ひぃ〜、とっ徹‥怖いって」
 トシの睨みは現役ヤクザでもビビる。ご多分に漏れずヤクザにお友達がいる銀次だってビビる。
「ちゃんと銀次に宣言しなきゃお前の所には返ってやらない。マジで銀次とくっついちまうぞ」
「とっ徹‥。俺をダシに使うのは止めてくれ。よ〜く分かった。こんな怖いのに注文付けるお前が一番怖い」
 それからトシに向かって俺を渡そうとする。
「徹はあんたのものだから。ちゃんと返すよ」
「徹‥さんは、誰のものでもありません。神様のものですから。そう、天使は神のそばにいるものと相場が決まってます。でも俺は徹さんのものですから、その徹さんが取り返しに来いと言うのなら、何の遠慮もしません。徹さんを返してもらいます」
 なんだか宣言と言うにはちと押しが弱い感じだけど、まあこれくらいで許してやるか。まだ少し不満は残ったけど、諦めてトシの腕に抱かれてやる。

「トシがライバルが来ても俺のことを離さないで戦うかどうか知りたかった。だから俺が頼んで恋人の振りをしてもらったんだ。銀次はずっと幼馴染みでそれ以上でも以下でもないから」
「えと、全部‥が嘘‥ですか?」
「そう、全部うそ。でもトシが一番ってのはほんと」
 トシにニッコリと微笑みかけると、張っていた気が抜けるのが分かった。

「お前がヤキモチ妬いて、嫉妬に狂う姿が見たかった」
「そんなみっともないところ、徹さんには見せられません。でも徹さんが望むなら‥」
 トシはちょっと照れくさそうに言うと、キッチンへ俺を連れて行く。そしてゴミ箱のフタを開くと中を見せた。その中にはまな板が真っ二つになって収まっていた。
 不燃物からは新聞に包まれたものを取り出した。そこからは刃先が折れた包丁が出て来た。トシの包丁ではなく、昔からあった奴だったけど。

「風呂が沸く前にやっぱり‥ちょっと気になって‥、部屋の前に行ったら、銀次さんが徹さんのことが好きで、良い関係でいたいって言ってたのを聞いてしまって‥。それでここで暴れました」
「お前‥マジで怖い‥な」
 包丁って焼き入れしてある鋼だぞ? まな板だって厚さが3センチはある硬い木だぞ? どうやったら折れたり、真っ二つになったりするんだよ。
「ええ、俺は自分でも自分が怖いです。徹さんと別れたらその持て余した気持ちを何処かにぶつけなきゃいられないと思うんで。対抗してくれる人を求めて、ヤクザの事務所にでも出入りに行ってるかもしれません」
「ああ、分かった。俺が悪かった。そんなことには絶対ならないから。俺はトシと一緒に年食っていく予定でいるから」
 なんでこいつはこんなに馬鹿なんだろう。どうして俺はこんなに馬鹿な奴が愛おしくて仕方ないんだろう。

 トシの服の襟ぐりを掴んで屈ませると頭を抱いてキスをする。しばらくするとトシは頭を離し、俺を抱き締めた。
「徹さん、俺は徹さんが大好きです。これからも変わることなく、徹さんが言うことに従います。でも俺の愛情を疑ったりしないで下さい。俺は徹さんにしか惚れてませんから。徹さんの幸せしか願ってませんから」
「馬鹿、ほんとバカだな。俺の幸せ願うより、自分の幸せ願えよ」
 それだけ言ってから、またキスを仕掛ける。存分に味わってからトシの顔をジッと見つめた。
「俺の言うこと、なんでも従うんだろ?」
「はい、徹さんの言うことなら」
「それじゃ、今から一緒に風呂へ入ろう」
「えっ、ええっ、ふっ風呂‥ですか?」
 今まで一度も一緒に入ったことのないトシは焦る。

「そうだ、俺の言うことはなんでも聞くんだろ?」
「そっそれはそうですが‥。それとこれとは話しが違うじゃないですか」
「お前、俺のことが好きなんだろ? じゃあなんで風呂くらい一緒に入れない?」
「だっ、だけど‥、そんな‥明るいところで‥」
「明るいのがイヤなら、暗くしてやる。行くぞ」
 嫌がるトシを引き摺って風呂場へ向かう。部屋の方を見たがもう銀次はいなかった。邪魔しちゃいけないと思って帰ったんだろうな。あいつもいい奴なんだがなぁ。
 トシは最中の自分の顔や勃ったモノを見られるのが非常に嫌いなんだよね。それが分かってからというもの、なんとかして明るいところでやってやろうと頑張っていたんだが、これだけは頑として譲らない。

 でかすぎるモノはどうにもトラウマになってるらしい。顔も腑抜けるのを見られたくないんだって。確かにあの怖そうな顔が崩れるのはギャップがある。でもそれが可愛いんだけど。
 逃れさせてやったのは昨日まで。今日こそは、風呂の中でやってやる。

 そうして俺は満足するまでトシを虐めたのだった。
 うーん、トシにしてみれば今日はずっと虐められてる気分だったかな。
 まっ、いっか。俺は満足したから。俺が幸せならトシにはそれが一番なんだろうから。

終わり (もしかしたら続くかもですが一応)

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