まったくもう‥トシはどうしようもないな。お前は俺の下僕じゃないだろう。 昨日のことを思い出すとどうしても納得がいかない。そりゃ少しくらいのことで勘違いした俺は悪いよ。だけどあの言い様はないだろう。この俺が戦ってやると宣言してるのに、どうして俺のことを離さない、くらいの台詞が吐けないのか。 もし俺が他の誰かとくっついちまったらどうするんだろう。本当に何もせずにあっさりと引き下がるのだろうか。それはなんだか面白くないな。 トシがそこまで俺に惚れてない、と言うなら話しは分かる。だがどこからどう見ても俺にぞっこん、ベタ惚れなのに。 パチ屋でもよく言われるんだよな。俺と話してるとトシがどっからでも睨んでるような気がして気が気じゃないって。ハッキリ言って男同士で気持ち悪いって言われるより先に店員の土方は俺に惚れてるってのが先に来る。それくらい普段はしっかり意思表示してるくせに、どうして俺がちょっと言ったくらいで引っ込まなければいけないのか。 確かに今回俺もトシに女の子が付いたと思ったら、引くしかないと思ったよ。それはしょうがないと思う。だってやっぱり今の世の中ノーマルじゃないと辛いことが多いだろうから。 だが、男が相手なら戦うべきだろう。 まあ全然戦闘意欲がないかと言えばそうでもないんだけどね。あいつとは張り合ってるみたいだから。でもそれにはきちんと理由がある。俺の相手ならまっとうな人間を、と思ってるようだから。自分の方が核心持てるほどマシ、ってな場合は色々と牽制してるようだ。 俺は腹の虫が治まらなくて連れに電話を掛けていた。 「よ、銀次(ぎんじ)。久しぶり」 「なんだよ、最近ご無沙汰だったじゃねぇか」 「うんまあな。色々と忙しかったから」 「忙しいって言ってもパチンコしてたんだろう、どうせ」 「あはは、それはそうなんだけど」 「で、今回はどうした」 「さすが、話しが早い」 そこで俺は新しい恋人の役をやってくれと頼んでみる。 「ええーっ、お前の恋人ー?」 「あんだよ、俺の相手じゃ不満なんかよ」 「不満に決まってるだろ。徹が瑠璃子さんだってんなら考えるけどさ。俺に男の趣味はねぇ」 なにが瑠璃子さんなんだよ。俺の母親だぞ、もうばあさんだぞ。 「なんにも本当に恋人になれって言ってるわけじゃないだろ。振りをするだけだよ」 「そんなことしなくたって徹に惚れてんだろう?」 「それはそうなんだけどさ。ちょっと面白くなくて」 「徹に引っかかったら一生離れられないって。そんな虐めてやるなよ」 「虐めるわけじゃない。自分の思いを確認させるだけだ。それに俺が引っかけたんじゃないぞ。向こうから言ってきたんだからな」 「向こうからって、どうせフェロモン垂れ流してたんだろ。どうしてみんながみんなお前に惚れるかな。小中高と俺の好きな女はみんな徹が好きだった。おまけに純(じゅん)までたぶらかして」 「銀次の話しを聞いてると俺がすげープレイボーイみたいじゃないか。俺は一度だって自分から言ったことはないぞ。それから純は特別。お前だって知ってるだろう」 「そうそう、その純だ。もしも今回振りじゃなくて恋人になった、なんて伝わってみろ。俺は殺されるぞ」 「殺されるなんて大げさな。せいぜい今まで見逃してくれていた売春斡旋で逮捕されるくらいだ」 「ひーっ、恐ろしい。やっぱダメだ。そんなこと出来ない」 「ほー、断るって言うのか。それなら今すぐ、耳を揃えて100万返せ」 「とっ、徹ちゃ〜ん‥。そんな冷たいこと言わないで。使い込んだのばれたら、マジで命が危ないって」 「ほんとお前ってバカだよな」 この銀次って男はまともな道を歩んでないくせにどっかお人好しで、年上の女に騙されてお金を巻き上げられたのだ。その女の子供が病気で大金がいると言われて、言われるままにお金を渡してしまったらしい。おまけに自分の貯金だけじゃ足りなくなって、勤め先のキャバレーの売上金にも手を付けてしまったのだ。それでばれそうになって俺に泣きついてきたのである。 「わっ分かったよ。やればいいんだろ、やれば」 よおし、トシ。覚悟しておけよ。絶対離れられないって言わせてみせる。 俺はこう見ても負けず嫌いで、戦闘好きなんだ。俺は新しい企みに血が踊るのを感じていた。 その次の日。 トシは俺がパチ屋へ寄らなかったので心配して電話を掛けてきた。電話が嫌いな奴なので珍しい。これだけ俺に惚れてるってのに。ほんと歯痒い奴。 その電話で俺は連れを一人連れて行くから、夕飯も余分に作ってくれるよう頼んだ。トシは珍しいとは思っただろうけど、分かりましたと返答をよこす。大体さ、どうして両思いだと分かって、なおかつ一緒に暮らしてまでいてまだ敬語使ってるんだよ。おかしいだろ。 別に五つ違うくらい、どってことないじゃないか。名前だって呼び捨てでいいし。 銀次と待ち合わせして家に帰る。 「トシ、ただいま」 玄関で銀次を紹介する。 「こいつは銀次。幼馴染みって奴で小さい頃から悪いことやりつくしてる。頭もシンナーでやられてちと呆けてるから」 「徹〜、その紹介は酷いだろ。よろしくな。住む家がなくなっちまって、ちょっと居候させてもらうから」 銀次が打ち合わせ通りに挨拶すると、トシはここに住むと初めて聞いて面食らっている。 「えっと、俺は土方歳三です。よろしくお願いします」 戸惑いながらも俺の連れだ。失礼があってはならんとか思ってるんだろうな。トシは丁寧に挨拶を返す。 マンションの狭い玄関に大の男が3人立ち並んでいては身動きが取れない。おまけにトシもデカイけど、銀次もデカイ。 「ったく、こんなところで溜まってたら狭くてしょうがない。お前らごつくて鬱陶しいぞ」 俺はごついの2人を掻き分けて中に入った。 銀次はポン引き兼用心棒が務まる見てくれでごつい。身長は188センチ、体重は百キロある。けど身長があるから決してデブではなく、貫禄があって中々に格好いい。だがこの見てくれに反してムチャクチャ気が弱いのだ。ケンカだって立ってるだけで勝てる、っていつも言ってるのに結局俺や回りの人間が死ぬ気で戦ってる。 だけどもの凄いお人好しでいい奴なので、仲間が傷つくと切れて暴れる。まあ、そこまで誰かが怪我しないと動かないってのも問題なんだけどさ。 俺とはとにかく気が合ってさ、よく一緒にストリップ覗きに行ったり、女湯や更衣室も覗いたりしたな。授業サボってパチンコだってよく行ったし。タバコも必需品で2人でプカプカやってると純が怒りに来たりして。純も同じ幼馴染みなんだけど、こいつは真面目なんだよね。今は刑事なんてやってるし。 恋人役は純でもよかったんだけど、こいつはシャレにならないんだ。何故かと言えば、本当に俺に惚れてるから‥。初めてトシを見た時も凄いブツブツ文句言ってたし。 でも結局はトシなら俺を守ってくれる、とか言っちゃって。トシに頭下げてたなぁ。ったく、俺は誰かに守ってもらわなきゃならないほど情けなくはない。でも、まっ、純も俺のこと心配してくれてるんだから、有り難いと思わなきゃな。 トシが用意してくれた夕飯を3人で食べる。テーブルにはトシがキッチンに近い方で、俺と銀次が遠い方へ並んで座った。テーブル一杯に並んだ料理の中の一品が酢豚だった。俺の好物のうちの一つだが、ピーマンが嫌いなんだよね。なくていいじゃん、っていっつも言ってるんだけど、トシは栄養がどうのこうのと言って抜いてくれない。 俺の分として付けてくれた皿からピーマンを抜いて、銀次の皿へ移す。 「徹、お前まだピーマン嫌いなんかよ」 「なんだよ、そう簡単に人の好みが変わるわけないだろ」 「ったく、まったくだよ。こいつもデカイもんなぁ」 「分かったか。その代わりタマネギ食ってやるから」 「おお、ついでに肉もくれ」 「イヤだ、肉がなかったらなんで酢豚なんだよ」 言っておくけどこれは別に意図してイチャイチャしてるわけじゃない。単純に幼馴染みとしての会話だ。昔から気心知れてるってのはこんなふうになっちゃうものなのだ。 どうやって見せ付けようか、なんて考えていたけど、全然そんな必要はなくて。銀次は1から10まで知り尽くしてる仲。ハッキリ言えば尻の毛から、チンコのホクロまで知ってる。 でも全然俺の好みじゃない。確かにデカイのはいいけれど。顔がなぁ、トシとは全然違う。トシはピリリと胡椒が効いてしっかり締まってる。銀次は睨んだ顔はごついから怖そうだけど、結局はお人好しが出てるんだよね。締まってないっていうか。どう見比べてもトシの百倍勝ち。 そんなトシの顔が険しくなってきた所でご馳走様と言った。 トシが洗い物をしてる間に銀次を俺の部屋へ連れ込む。 「おっおい‥。メッチャ怖いやん。なにあれ、ホンマもん?」 「いいや、ただのパチ屋の店員」 「イヤだなぁ。もう帰してくれよ。俺‥、あんなの相手に戦えない」 「何言ってるんだよ。これからじゃないか」 「けど‥凄い顔して睨まれたぞ」 「当然だろ。俺に惚れてるんだから」 「そこまで分かってりゃいいじゃんもう」 「いんや、あと一押し欲しい」 まだ渋ってる銀次を逆に一押しする。 「おし、それならちゃんと成功したら借金半分にしてやる」 「おお〜っ、って言いたいけど金はダメ。貸し借りはきっちりしないと。お前がどうでもいい奴ならラッキーって思うけど、俺は徹が好きだから。ちゃんとした関係でいたい」 「お前ってなんでそんなに馬鹿なくせに、変なところで律儀なんだよ。そんなこと思うなら、そもそも女が金をたかってきた時点で気づけよ」 「いや、いい女だったんだよ〜」 銀次はもうとっくにとんずらしてる女を思い出してうっとりする。 「なんだよ、顔かよ、身体かよ?」 「身体に決まってんだろ。ナイスバディのボインボイン。あそこもなぁ、すげぇ締まるの。突っ込んだらたまんない」 そこで子供産んでないって気がつけよ。この馬鹿やろう。 「何回くらいやったんだよ」 「もうさ、やり出したら止まらなくて、朝まで盛ってたなぁ。5回くらい頑張ったんだぜ? 俺」 ったく、単純な男ほど回数こなせば偉いと思ってる。だけど涎でも垂らしそうな程うっとりしてるから、つい悪戯したくなる。 「そんなにここは役に立ったのか」 そう言いながら銀次の股間に手を伸ばすと、思い出しただけで硬くなっていた。 「ちょっ、ちょお、ヤメろって。神聖な思い出を男の手なんかで汚すなよ」 「なんだよ、どうせ自分の手でやってたんだろ」 抵抗されてついムキになる。銀次のズボンの前をはだけ手を突っ込む。銀次も仕返しに俺のモノに手を絡めてくる。 ベッドの上でプロレスでもしてるようになって、俺が銀次の上に覆い被さり、互いのモノを握りしめていた。 「ほら、いけよ」 「止めろって。お前がいけ」 俺たちにとっては全然お遊びだったんだが、トシにしてみれば大変な出来事で。 丁度そのシーンをドアを開けたトシがバッチリ目撃した。 「ふっ風呂‥が沸いたんで‥。ノックは‥したんですが」 「ああ、悪い。ちょっと騒いでたから全然聞こえなかった。よし、銀次、一緒に入るぞ」 「ええ〜っ」 驚いて叫んだのは銀次とトシと2人の大男だった。 |