部屋の電気が消えた。‥玄関からトボトボ出てくる奴が見える。バカめ。俺の女に手を出すからだ。‥インターホンが鳴る。ドアを開けると製図道具一式を抱えて立ってる奴がいた。 「きたな」 「おじゃまします」 「誰もおらんぞ」 「何だ、早く言えよ。それとこいつだけどさー。明日もかけないと無理だぞ。俺、約束があるんだよ」 俺はむっとする。 「何だよ。約束って」 「ああ、前島たちと映画に行くんだ」 こいつは女にだけじゃなく男にだってよくもてる。誰にでも好かれていて、嫌いと言う声を聞いたことがない。 「そりゃ行けねぇな」 「そんなー。明日までなんだぞ」 「んなこと俺が知るか。負けたのはお前だ」 「ちきしょー、お前ってほんとにイヤな奴だな」 「お互い様だろう。ほら特別にドラフターを提供してやるんだ。さっさと描けよ」 生馬はまだブツブツ言いながら俺の部屋に入りドラフターに向かう。こいつもここには俺に負けないぐらい来ている。親のいない俺んちは悪いことをするには最適だった。 12時を過ぎると輪郭が出来上がった。俺は一休みを命じる。 「じゃ、帰ってもいいか」 「いいと思うか?」 「‥‥わかったよ。好きにしろよ」 そう投げ捨てるように言うと生馬は服を脱ぐ。素っ裸になってベッドに寝た。 「気持ちいいか?」 獣の交尾の形になって俺は聞く。 そう、これがケンカの最終目的だ。愛されるために生まれてきた生馬を蹂躙、陵辱する。みんなの物であるこいつを俺だけの物にする最高にイケてる瞬間だ。 「いい‥わけないだろう」 「それじゃここは?」 「‥うっ‥」 生馬がうめくと根元が締まる。両手で胸を嬲ってやってるのだ。小さいながらも硬くなって自己主張しているそこは、こいつの泣き所である。優しく回したり、摘んだり放したりして揉み解してやると必ず泣きが入る。 「やっ、止めろって」 「イくまでやめてやらない」 俺の指の動きで背中が弓ぞりになったり、山なりになったりする。それに合わせて息も漏れる。 どっちがホモに適しているか。 生馬は中に入れても俺ほど感じることがない。手で扱いてやれば出るけどな。その代わり愛撫に弱く、俺が体を触っても感じるのだ。 俺は男に体を触られると鳥肌が立ってしまうほどぞっとする。例え相手が生馬でもだ。その代わり中に入れられるとものすごく感じてしまう。いわゆる前立腺って所に刺激がくるとダメなのである。 しかしどっちも入れる方は気持ちがいい。女と比べても勝つほどに。だから余計にケンカが止められねぇ。 「イけよ」 程々に腰も使いながら命令する。 「‥簡単に、言うな」 まだ可愛がり方が足りないようだ。俺は体を折り曲げると耳たぶを甘噛みする。触られるのはいやなのだが触る方はそうでもない。相手の反応が楽しいからだ。しかし男を相手にするのはこいつの他は勘弁してもらいたい。 女にするように丁寧な愛撫を施してやるとすげぇ敏感に反応する。それを楽しみながら窓を見る。カーテンの隙間から憧れだった庭をまた見る。 一番年下だろうその子がとてもうらやましかった。そいつが小学校に入学したら同じクラスにいたのだ。嬉しくてつい顔を見つめていたら、何を勘違いしたのか生馬の野郎は突っかかってきた。そうなのだ。俺の顔はきつい。睨まれていると思われても仕方がなかったのだ。 だが小さいころの俺にはわからない。友達になりたかったのに、ケンカを売られる。あげく、この俺の前でさんざん家族の自慢をしやがった。気の短い俺が我慢できるわけがねぇ。 しかしこうして幸せの象徴を手に入れた。この瞬間、俺に欲しい物はない。 「いくぞ」 そう声をかけると追い込みをかける。一発抜いたら終わりというのがルールになっているから、これまでは達しない程度にゆっくりと動かしていたのだ。一人でさっさと終わってしまってはつまらない。いじめる時間は長い方がいい。 俺だけすっきりするのもおもしろい趣向だが(当然試していじめてやったことはある)、一緒にイくのが筋ってもんだろう。 俺の腰の動きに合わせて手で扱いてやる。こっちはそろそろ限界だ。生馬の方はどうか、そんなことが頭をかすめたときには俺は精を放っていた。それから後を追うようにこいつも果てた。 手に入れた象徴はすぐに離れていく。さっとシャワーを浴びるとドラフターに向かう。俺はその背中に声をとばす。 「仕上がるまでだぞ」 「チッ、わかってるよ」 生馬は苦々しく呟く。 窓から覗くと灯りのついた沢田邸が見える。 今、俺は一人じゃない。しかし手に入れたのは体だけだ。それに気がついていらいらと指が机をたたく。 大兄のせいだ。そう今まではここまですれば気が済んだのだ。心まで求める、こんな自分の首を絞めるような恐ろしいことは考えたこともなかった。生馬を見つめて思う。こいつにそんな弱みを握られたら、どんな目に遭うか。小学生でも分かるだろう。 「おい、うっとーしいぞ。向こう行ってテレビでも見てろ。そんなに手持ちぶさたならタバコでも吸え」 バッカヤロウ。吸っていいもんならとっくに吸ってるわ。誰のために苦しい禁煙生活を送ってると思っていやがる。 「俺は吸ってねぇだろう」 「あっそうか、お前も嫌いだったっけ」 なにをのんきな事を言ってやがる。無性に腹が立ってきた。なんも解っちゃいねぇ。 俺は立ち上がると生馬のそばまで行った。大兄の言葉が脳裏を走る。おし、ハッキリさせたる。 何事かと見上げる生馬の肩に手を置き、イスに縫い止めておいて、大兄にそっくりな、いやこっちが本物のくちびるに俺の口を押しつけた。 ビックリしているのか動きがない。 もちろんキスするのは初めてだ。しかもこっちから仕掛けてしまった。これでばれたと思って間違いないだろう。もう後にはひけねぇ。 だけどずっと欲していた物なのだ。さっきの余韻が下半身に広がる。舌を差し込むとやっと抵抗があった。だが上から押さえ込んで首を折っているので動けるわけがねぇ。 力尽くで体をかき抱き、歯列を割って中で暴れる。夢中になってるうちに気がついた。生馬の腕がいつの間にか俺の背中に回されてる。勝手にすごい抵抗があると決めつけていたが、そうではなかった。ハッと気がついて目を開けた。俺の雰囲気が伝わったのか生馬も目を開ける。 一瞬の間を置いて勢いよく離れる。まじまじと生馬を眺める。 「なっなんだよ。おっお前が変なことするからだろう。文句あっかよ。このアホ侍!」 なおも顔を見つめ続ける。 「バカ野郎。何見てやがるんだ。もう帰っちまうぞ」 「いっ、いや。そのまま続けてくれ」 図面を指さすと生馬は真っ赤になりながらドラフターに向かった。 そっか。‥‥そっかー。なあんだー。生馬も‥‥そうだったんか。そう思うと幸福がじわじわと上ってくる。もう‥真似する必要もないな。生馬が一番仲のいい大兄の。 俺は大兄になりたかったんだ。こいつを可愛がって、でも一兄や凌兄みたいに模範的なんじゃなく、悪いことも何でも教えて全てに関わっている大兄に。 だけど羨みながら、Hなことも(きっと手取り足取りだろう)教えてしまった大兄に嫉妬を感じてたのも事実だ。いつも俺より一番近いところにいたのだ。 しかしさっきの地雷は、踏めば弟を二人いっぺんになくすようなもんだぜ。嘘じゃないだろうな。 『好きだと言えればくれてやる。うちは男なんて捨てるほどいるからな』 いいのか? 大兄。本当にもらっていくぞ。 今なら礼を言えるかもしれない。 「何だよ、何ニヤニヤしてんだよ。アホ面さらして」 口の減らない奴だな。いい加減あきらめろ。 「俺の方が上手いだろ」 さっきのキスのことだと気がつくと、ムキになってくる。 「んな訳ないだろう。俺のが上手いに決まってる。何ならもっかい試してみるかっ」 俺は息がつまる。だがおくびにも出さずに切り返す。 「へぇ。アンコールされるほど良かったとはね」 「バッ、バカ野郎。俺が負けるわけないからだ」 「それじゃあ、まあいっぺんするか?」 俺はまた唇をよせていく。触られると鳥肌もんのくせに、キスは好い。一番感情が伝わる手段だ。今度はしっかりと味わって、不足していた心に栄養を補給した。 「なんか‥お前やりたがってないか」 しまった。調子に乗りすぎたか。しかしまだ弱みとして活用するとこまで頭が回ってないようだ。 「自分が言ったんだろう。あんまり上手いからもう一度してって」 この挑発にはもう乗ってこない。生馬は何か考えている。 「なんかおかしい。凌兄の言ってた変なことと関係ある気がする」 ちえっ、珍しく聡いじゃねぇかよ。しかし凌兄にもばれてるとなれば一兄も知ってるな。 結論が出たのか生馬は用心深そうに口を開いた。 「もしかしてお前、俺に惚れてるんか? じゃなきゃキスなんてしないよな」 くそっ、まだ完全降伏するのはちと悔しい。 「んな訳ねぇだろう」 「そうだよなー。やっぱ凌兄の言うことはおかしいんだよな。‥う〜ん。あっ、ちょっと待て。まさかお前、他の男ともこんな事してるんか。俺に触られただけで鳥肌になってる奴が男とキスするなんて。ホモになったんかよ」 「何バカなこと言ってやがる。男はお前だけだ」 この台詞でなぜか生馬はいっぺんに調子に乗った。 「そっかー。俺だけか。いいぞ、いいぞー」 「なに喜んでやがるんだよ。この勝負は俺の勝ちだろう」 生馬は《勝ち》と言う言葉に敏感に反応する。 「何だと。決着つけようってのか」 「おう。いつでも受けて立つぜ」 俺たちの関係はそう簡単には変わらない。しかし内容が変化していくのは容易に想像できる。 俺はまたお前を手に入れるためにケンカを売るだろう。 そして必ず勝つ。 終わり
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