「嫌だ、いやだ、イヤだ〜!」 「だってそんなこと言ったって、きんちゃんがそっちでいいって言ったんじゃないか」 「絶対、そんなモノ入んない」 「でもこれは気持ちいいんだろう」 俺は中に入れた指を動かす。かなり時間をかけて解したソコには2本の指が入り込み、見付けたいい場所は熱く蠢く。 「‥あっ、うっうん‥。そっそれは気持ちいい」 抜き差しを繰り返すと、いやらしい音が響き、俺の相手はそれを自分の体が出していることに羞恥を感じているのか、真っ赤になる。 「でっ、でも‥そんな、デカい‥もん、‥入るわけない」 湿った音と、掠れた声とで俺の方が我慢が利かない。 目の前で震えてるモノを銜えた。 「ああっ、イっ‥イっちゃう‥って」 髪を引っ張り引き剥がそうとする手を無視する。 舌を広げてくまなく舐め回す。指の速度も速めていく。頭を上下に動かす。 「おっ俺だけ‥なんて‥‥嫌だーっ」 また嫌だと叫びながら、口の中のモノは苦みのある液体を吐き出した。 「一緒にイくからセックスって言うんだろう」 「交互にイったっていいじゃない」 「お前はどうすんだよ」 「俺も同じようにして。それかしたかったら入れてくれてもいいよ」 「だからあ、ヤっただけならホモじゃなくてもいいけど、ヤられちまったら完璧ホモになるんだって。それに俺の一生の記念にするから、中に入れて」 あんなに嫌だと騒いでおきながら、なんでヤられる側に拘るんだろう。 「一生なんて大げさな。これからいくらでもチャンスはあるだろう。それにホモになるのが嫌なんておかしいじゃないか。俺が、俺1人がきんちゃんのことが好きだったのに」 「だからきんちゃんって呼ぶな! 俺の名前はひとしだーっ」 きんちゃんこと、「加藤 均」とは小学校が同じだった。5年、6年と同じクラスで、体は大きくても鈍くさい俺は随分庇ってもらったのだ。 例えば学校の帰りとか、遠足とか、じゃんけんで荷物を持ちあいっこする。俺は力があるのでいい荷物持ちにされていた。後出しとか、都合のいいこと言われたりしても気が付いてないときが多い。 いつもいつも大量の荷物を持ってる俺に同情してくれたのか、均ちゃんはそばについててくれるようになった。そして不正を発見する。その相手に必ず持たせる。 いつしか鞄持ちから解放されていた。 例えば教室の掃除。お前は力があるから、そういっていつも机を運ぶ役目をさせられていた。掃除が済んでみんなが遊んでいるのに、俺だけが机を運んでいた。それに気が付いた均ちゃんは怒った。そりゃあもう滅茶苦茶に。 それからそんなこともなくなった。でも俺も怒られた。嫌なことはちゃんと言えと。なんのために柔道なんて格闘技やってるんだよと。だけど均ちゃん、俺はそんなにイヤじゃなかったんだよ。だって頼られてるってことだろう。それに柔道はケンカするために習ってるわけじゃない。そういうと怒るから黙ってたんだけどさ。 均ちゃんは元気で明るくて活発で、正義感にあふれ、サッカーが大好きで、みんなから好かれていた。そんな均ちゃんに目をかけてもらった、それだけで舞い上がりそうなくらい嬉しかった。 それからずっと好きだった。 とてもいい友達が出来たと思っていたのに、均ちゃんは俺に何も言わず、引っ越してしまった。同じ中学へ行けると思っていた俺はショックでグレるところだった。 均ちゃんにとって俺はただ、可哀想な子供だったんだ、って。友達でもなんでもなかったんだ、って。 1年の時の担任はとてもいい人で、俺の様子がおかしいことにすぐ気が付いてくれた。何をしても気が抜けているし、掃除なんかさぼって帰っちゃう。その頃には170センチ、60キロを超えていて、しかも柔道が強いという噂が立っていた俺に、文句を言う奴はいなかったのだ。 とても悲しかった俺は均ちゃんと同じように気にかけてくれた先生の態度が嬉しくて、その思いを全部吐き出した。 「友情にだって片思いはある。お前は両思いじゃないとその友達の厚意は信じられなくなってしまうのか?」 衝撃を受けた。自分の体がバラバラになっていくのが分かった。俺は自分で均ちゃんのしてくれたことをなかったものにしていたのだ。あれだけ親切だったのに。優しかったのに。あの大事な宝、1つ1つを。 「今度会ったときには両思いになれるように、お前も頑張ってなきゃ。その友達が頑張っていたように。認めてもらえるように」 そうか、均ちゃんとはまた会えるかもしれないんだ。その時には均ちゃんに恥じない男になっていよう。 俺は立ち直ると柔道に精を出した。鈍くさいのは直らなかったが、均ちゃんがいなくても利用されるようなこともなかった。初めの印象が悪かったからかなり後にはなったけれど、ちゃんと友達も出来た。 でもすごく均ちゃんに会いたかった。ずっと均ちゃんに会いたかった。俺はそれだけを願って過ごしてきたのだ。 ずっと会いたかった均ちゃん。だから俺は均ちゃんが嫌がることはほんの少しでもしたくないんだ。 「別に嫌がってないだろう。入れてって言ってるのに」 「ほんとにいいのか?」 俺は差し込んでいた指を引き抜くと、代わりに自分の雄を宛った。 「ヤダッ、じゃない、‥いっいや、いいよ」 「痛かったら言ってよ。すぐに止めるから」 ここまで来て本当に止めれるかどうかは疑問だったけど。 均ちゃんの肩を押さえ、俺自身を無理矢理ねじ込む。潤滑剤の力を借りてそれはすっぽりと入り込んだ。均ちゃんは荒い息をしてとても苦しそうだ。 「はっ早く、お前もイって」 「動いて、いいの?」 「とにかく早く」 何故急ぐのか、分かったような気がして言うことを聞いた。 均ちゃんの上半身は、足に負担がかからないようにベッドに乗っており、俺は後ろから突き上げる。均ちゃんはシーツをグッと握りしめ、口でも噛みしめているようだ。痛そうなことは早く終わらせてあげたくて、無理に動いた。 そして、熱い均ちゃんの中の幸福を味わうこともそこそこにイった。 「ううっ‥くっ、うっ」 俺の下で均ちゃんはすごく苦しそうな声を出す。 「均ちゃん?」 俺は慌てて体を離し、ベッドへ抱き上げる。均ちゃんは左足を抱かえこんで苦しがる。顔色は真っ青だ。 「だっダメみたい。やっ‥ちゃった」 慌てて服を着せ、自分も着る。均ちゃんを抱き上げて1階に下りる。部屋にいて何で? そういう顔をして見られているようで、お兄さんとお母さんに連れられていった病院には付いていかなかった。 均ちゃんは膝蓋骨(しつがいこつ)反復性脱臼と言う、膝の怪我をしているのだ。簡単に言ってしまうと、膝の脱臼が慢性化している。何かあると外れてしまい、とても痛い思いをするのだ。 やっぱり無理をさせてしまった。1つになれた喜びよりも、後悔の方が大きかったのに。サポーターを付けた均ちゃんは、次の日学校へ出てきてとても幸せそうだった。 それを見ていたら、俺も良かったように思えてしまった。俺って単純で自己中なのかな。 小学校を卒業して突然にいなくなった均ちゃんは、高校に入ってまた突然現れた。 俺はそんなに成績がいいわけじゃなく、勉強も好きではなかった。だからすぐ就職できるように工業高校に入ったのだ。 男ばかりで感動する。嬉しいってことじゃなく、男っぽい空気が初めてのことで新鮮だった。その入学式で俺は均ちゃんを見付けた。 俺の身長はすでに180センチを超えていた。人の頭の上から抜け出していて、見間違うことはない。黒ばかりの中でも均ちゃんはしっかり目に飛び込んできた。 均ちゃんも170センチくらいはあるのだろう。スリムな体つきは俺とは正反対だった。俺は見た目よりずっと筋肉が付いている。体重もある。柔道をやっているせいだろう。 均ちゃんはサッカーを続けているのだろうか。あんなに好きだったから止めてるはずがないと思いつつ、日に焼けてない白い顔が気にかかる。でも精悍さを増した顔は、昔よりもっと格好良くなっていた。 早く、早く式が終わってくれ。そう願ってジリジリした。とにかく話しかけてみないと、ここにいるって実感しないとまた消えてしまいそうで。夢なら冷めて欲しくなかった。 |