「乙女の肖像」事件  −3−
                     
           

「そう、でも君に怪我がなくてよかったよ。」
明智刑事はそう言うが小林少年は自分が情けなかった。

「詳しいことを聞かせてくれるかな?」
その言葉に頷いたはいいが、ほとんど自分が何も覚えていないことに気付き、青ざめた。
覚えているのは黒いタキシードに黒のシルクハット、黒のマントに黒のサングラス。
たしかとても端正な顔だったと思ったが、「目は大きかった?鼻は?口は?」と細かに聞かれると何も答えられなかった。
何よりも服装に気をとられ、ほかの事は何も覚えていなかったのだ。

「気にしなくていいんだよ。バロンがあんな服装をしているのは、見られたときに相手に服装の印象を強烈に与えて、他の特徴をあやふやにさせる目的があるんだろうって話も出てる。」
だから本当に気にしなくていいんだよ、と微笑む明智刑事に小林少年はやっと顔を上げた。
「何か・・・、何か思い出せたらすぐに連絡します!!」
それくらいしか言えなかったが。



「もう、こんな時間だし送るよ。」
明智刑事がそう言って小林少年の肩にコートを掛けた時にはもう時計の針は3時を指していた。

「今日は満月だったね。」
車に乗り込む時に明智刑事が言ったその一言に小林少年は首をかしげた。
(満月・・・。だれかも満月がどうの・・・って言ってなかったっけ・・・?)
深く考え込むが思い出せない。

「さあ、着いたよ。ここだよね?」
気付けばもう小林少年が住んでいるマンションの前まで来ていた。
「一人で大丈夫かい?」
また同じ質問をされた小林少年は内心少しうんざりしながら答える。
「大丈夫ですってば。」
「でも・・・・。やっぱり心配だな。」


小林少年はすでに両親が他界しており、今は叔父夫婦に引き取られている。
間の悪いことに彼らは今、夫婦水入らずで海外に旅行に出かけてしまっていて連絡が取れないので、明智刑事がここまで送ってくれたわけだが。どうも心配性の気があるのか、署からここまでの道のりでも何度も「大丈夫か?」を連発された。

「僕、もう17歳なんですよ?」
ここまで心配されると、ちょっぴり傷付く。
「うん、そうだね。わかってるんだけど・・・。そうだ・・・!!」
明智刑事はそう言い、何やらごそごそと取り出し、小林少年に手渡した。
見ると、彼の名刺のようで。
「裏にケータイの番号と、自宅の番号と住所が書いてあるから。何かあったらすぐに連絡して。」
名案だとばかりにニコニコ笑っているのに断るのも気が引けて、小林少年は頷いた。
(別にここまでしてくれなくても大丈夫なんだけどな・・・。さっき警察署の番号も教えてろらったのに。)
こころの中でそう呟いていると明智刑事がゴホンと咳払いをした。
「その・・・。よ、用事がなくて電話してきてくれて構わないよ。」
「え・・・?」
用事がなくても電話しろとはどういうことだろうか。
不思議に思い、明智刑事を見ると、一瞬声が裏返ったのを恥じてか、しきりに咳払いをしている。
「だから・・・暇な時にでも・・・。」
「・・・・・・・?」
「だから、だから・・・っ。君とまた話したいんだっ!!」
イメージに似合わず顔を真っ赤にさせて叫んだ明智刑事を見て、
(明智刑事ってちょっと変わってる人なんだ・・・。)
内心そう思ったが悪い人ではないのだろうと小林少年にも分かったので、一応微笑んで頷いた。
「じゃあ、お電話させてもらいます。」


小林少年の言葉に顔を輝かせた明智刑事は、上機嫌で帰っていった。
最後まで「心配だ」、を繰り返してはいたけれど。




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