完璧な男 −5−



「何やってんだ・・・?」
顔を青ざめさせながら、敦彦が鋭い視線を投げかける。

その言葉と視線に樹は今の状況がどうゆうものであるかにやっと気付いた。
樹のパンツはズボンと共に足下に下ろされているので、ようするに下半身は丸見え。
しかもその上には邑井が圧し掛かっている。
これだけでも十分にあやしい状況だが、樹には極めつけがある。
敦彦が樹がゲイであることを知っているということだ。

それだけの条件がそろえば敦彦が誤解するのも無理はない。

「・・・・・・・」
何からどう説明すればいいのかわからず樹は黙って答えない。
「えっと・・・これは誤解というか・・・」
やっと樹の上から退いた邑井が代わりに説明しようとする。

「同意か?」
だが敦彦は邑井の言葉をさえぎり、樹に向かって疑問を投げかける。
「・・・・・・・・・・」
やはり樹は黙って答えなかった。

同意も何も、誤解なのだから。
だが敦彦はその沈黙を肯定と受けとったようだ。
嘲るよな笑みを口の端にのせたあと、「邪魔して悪かったな」とどこかへ立ち去ってしまった。

「あ〜あ、あれは確実に誤解したな。」
邑井が溜息をつきながら言う。
「それよりお前、早くパンツはけよ。」
言われて樹はまだ自分が下半身を晒したままであることに気付き慌ててパンツをはいた。

「でも、なんであっちゃ・・・・・牧田くんはこんなとこに来たんだろ?」
樹は体育の為に持ってきていたジャージに履き替えた後、疑問に思ったことを口にした。
「ああ、俺と2人でこんなとこ入ってくのをたまたま見て、つけてきたんじゃねぇの?」
チャイムがもうすぐなるという時間に教室から離れた部室棟に向かう人間がいたら樹でも不思議に思うだろう。
だが、自分も遅刻してしまうかもしれないのに、後をつけたりするだろうか?
樹がよくわからないという顔をすると邑井は「ま、お前ってそういうやつだよ」と、もう一度溜息をついた。

「とにかく急ごう。もうチャイム鳴っちゃったよ。」
樹が時計を見て慌てて汚れたズボンをビニールの中に入れて立ち上がった。
「邑井、はやくっ!!」
「はいはい。」
樹は急いで部屋から出て行く。

「俺、牧田に殺されるんじゃねぇ・・・?」
だから邑井の呟きは樹の耳には届かなかった。




「学校に来る時に転んでズボンを汚してしまったので着替えに言ってました。」
そう言うと教師は樹のジャージ姿を見て納得したように頷いた。
邑井に付き添ってもらったと、邑井の遅刻も取り消された。
その後自分の席につき、授業を受け始めた樹だったが、教師の声は耳に入っては来るものの、頭には全く入ってこない。

敦彦に声をかけられたのはとても久しぶりだというのに、何もあんな状況でなくてもいいと思う。
立ち去る時の敦彦の表情が忘れられない。
やはり樹はゲイなのだと軽蔑されたのだ。
あんな顔を見たくなかったからこそ、敦彦から離れようと決意したというのに。





そんなことばかりをずっと考え気付けば邑井の呆れたような顔が目の前にあった。
「おい、もう昼休みなんだけど。」
「・・・・・・えっ!?」
「お前がぼーっとしてる間に授業はもう終わった。」
邑井に言われ回りを見渡すと確かに教室には人が半分くらいしかおらず、そのほとんどがもう弁当を広げていた。
後の半分はきっと食堂に食べに行ったのだろう。

「ほら、俺らも食おうぜ。」
邑井が弁当をひょいっと掲げる。
「あ、うん」
樹も鞄から弁当を取り出した。

樹と邑井はいつも屋上で昼食をとっている。
2人並んで屋上への階段を上る。
いつものように邑井がどこからか手に入れたという鍵を取り出し、屋上への扉をあける。
その様子を見て樹はまた今朝のことを思い出してしまった。
そんな気持を誤魔化すように、
「そう言うのってホントいつもどこで手にいれてるの?」
樹がいつもと同じ問いを投げかけた。
邑井も「企業秘密です」と同じ答えを言った。



弁当を食べ終わりごろんと寝転ぶと見事な快晴が目に飛び込んでくる。
(このまま寝ちゃいたいな・・・。
そんなことを考えながら樹が気持良さそうに伸びをすると、邑井が世間話のような軽い口調で「牧田ってお前のなんなの?」と言った。
樹は聞こえなかったふりをして目を閉じた。
いつもならこういう態度をとれば邑井はそれ以上は追求してこない。
だが、邑井も今日こそはと思ったのか、さらに追求してきた。
「おい、ちゃんと答えろって。」
仕方なく樹は起き上がった。
だが邑井の方は見ないでぼんやりと前方を見た。

「別になんでもないよ。」
「うそつけ。」
「ほんとだって」
「あのなぁ・・・。なんでもないやつが、なんでいつも俺のことを睨むわけ?」
その言葉に樹はやっと邑井の方を向いた。
「俺、にらんでる・・・?」
そんなつもりは全くないのだが。
もしかして自分では気付いていないが目つきが悪いのだろうか。
だが、そんな樹に邑井は今日3度目の溜息をついた。

「誰が、お前が睨んでるって言ったよ?」
「え、だって今・・・。」
「そうじゃなくてっ!!牧田だよ、牧田。アイツがいっつも俺のこと睨んでくんの。」
「え・・・・?」
「お前とつるむようになってからずっとな。」

知らなかった。
では敦彦はずっと、樹と邑井がそう言う関係だと思っていたのかもしれない。

「ごめん、邑井、やっぱ俺のせいだと思う・・・。」

「それなら俺には聞く権利あるだろ」と言われれば樹は頷くしかなかった。





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