完璧な男 −6−
「俺、実はゲイなんだ・・・。」
恐る恐る口にしたのに、邑井の反応はそんなの知ってると言わんばかりのものだった。
「知ってたの・・・?」
驚く樹に邑井は困ったような顔をした。
「まぁ、なんとなくそうかなーってくらいだったけど。
「そうなんだ・・・。」
「まぁ、気にすんなよ。俺は別にそう言うの気になんねぇし。」
本当に気にしてないだろう事がその口ぶりから分かって、樹は勇気付けられた。
「それであっちゃ・・・その、牧田くんは俺の幼馴染で・・・・。」
「あ、そういうつながり・・・?」
「うん、それで昔は仲良くって・・・。だから、俺がゲイだって言うのも知ってるんだ」
「えっ!?」
そこで初めて邑井は驚きの声を出した。
「アイツも知ってるわけ!?」
「う・・・・うん。」
「なんだよ、それ!!アイツはなにやってるんだ!?」
どうも邑井が興奮し出した理由がわからず樹は首をかしげる。
「・・・・・・・・・・?」
「・・・・まあ、いい。それで俺が睨まれてるって訳だな。」
「うん、牧田くんはゲイとかそういうのがきとダメなんだと思う。俺、小学生の時にはもう自分がゲイだって気付いてて。そのときに牧田くんに、好きな子の子と聞かれて言っちゃったんだ。その時は別にそんなに気にしてなかったみたいなんだけど、中学あがってしばらくしてから段々俺のこと避けるようになって・・・。だから邑井のことも俺と一緒にいるからゲイだと勘違いして睨んでるんじゃないかな。」
自分のせいで邑井まで誤解を受けているのだ。
そう思うと樹はやりきれない気持ちになる。
だが邑井はそんな樹を見て、こいつはなんて鈍いのだろうと思っていた。
(アレは明らかに嫉妬してるって顔だけどな・・・。)
邑井には大体のことの事情が読めてしまった。
(どうせ中学に入って意識し始めたのはいいものの元宮には好きな男がいたとかで、手が出せなかったんだろう。しかもその態度を元宮に誤解されて、離れていってしまったと。それで元宮の今の男は俺だと思ってるわけだ。)
考えて邑井は「馬鹿じゃねーの、こいつら」と樹に聞こえないくらいの声で呟いた。
相思相愛のくせにお互いに誤解しあってるのだ。
そしてその巻き添えを邑井は食ってるわけだ。
樹にその事を教えてやろうと思ったが邑井は次の瞬間にはニヤリと笑った。
(巻き添え食わされてんだから、わざわざ教えてやることもねぇな。)
そう結論付け、樹に笑顔を向けた。
「俺は大丈夫だから気にすんなよ。」
樹は感動したように「ありがとう」と目を潤ませた。
「樹。」
家に帰り門を開けようとすると、声をかけられた。
見なくても相手が誰かは分かっている。
樹は聞こえないふりをして門を開ける。
「待てよ、樹」
無視して逃げようとする樹の腕がぐっと掴まれた。
逃げるのを諦めた樹は仕方なく振り返った。
「なに・・・」
「何で無視するんだよ?俺なんかとは口も聞けないってわけか?」
どうやら激昂しているらしい敦彦に樹は戸惑った。
こんな風に家の前で鉢合わせてしまうことは何度もあった。
だが、樹はいつも敦彦の方を見ないようにしていたし、敦彦から話し掛けてくることもなかった。
それなのに突然話し掛けてきて、しかも怒っている。
用件は今朝のことに違いなかった。
異常だと、罵られるのだろうか。
想像に怯え、身を竦ませた樹に敦彦は更に詰め寄った。
「アイツと付き合ってるのか。」
「・・・・・・・・。」
「言えよ、樹。アイツと付き合ってんのかよ!!」
今朝の情景はここまで敦彦を怒らせてしまうほど、嫌悪するようなものっだたのだ。
樹は泣きそうになった。
「アイツのどこがいいんだよ?別に頭がいいわけでも、運動が出来るわけでも、女にもてるわけでもないだろっ」
樹は、正直腹が立った。
確かに敦彦は完璧な男だ。
樹本人のことを蔑まれるのは仕方ない。
だが、ゲイであることを認めて、友達でいてくれてる邑井のことまでけなされるのは嫌だった。
たとえそれが敦彦であっても許せなかった。
だから。
「でも、邑井の方がいいやつだよっ!!」
そう叫んでしまった。
その言葉に敦彦が固まった。
「あっちゃんみたいに完璧じゃないかもしれないけど、邑井の方が一緒にいて安心できる!!」
樹は泣きながらそう叫んで家の中に飛び込んだ。
家の中には誰の気配もなく少しほっとする。
あんな会話を親に聞かれていたら大変だ。
自分の部屋に入ってベッドに突っ伏し、樹は声を殺して泣き続けた。
敦彦は泣きながら家に入ってしまった樹を引き止めることが出来ずに、ショックを受けていた。
『邑井の方が一緒にいて安心できる!!』
樹が泣きながらそう叫んだのだ。
敦彦は固まったまま、1時間以上その場に立ち尽くしていた。