愚かなる狂宴 8
ロイが眼を覚ました時、背中に柔らかいものを感じていた。
ここは…?ベッドの上…?
辺りを見回すと、見慣れた風景が眼の中に飛び込んでくる。
私の…部屋…?でも、どうして…?
「眼が覚めたか…」
枕元で声がして、ロイは驚いて顔を向けた。
「エ…ド…?」
「心配したんだぜ?あんた、2日間も目を覚まさないから。」
「2日間?」
ロイは記憶の糸を辿っていた。
あの日…地下室での行為は夢だったのか…?
夢であって欲しい…
よりによって、お前に見られるなんて…
「アル!大佐が眼を覚ましたから、ホークアイ中尉に知らせてきてくれよ!」
分かったと頷きながら、アルは部屋を後にする。
「中尉に怒られるだろうな…また仕事が溜まっていると…」
「仕方ねぇだろう?ずっと眠り続けてたんだからさ…」
それよりもどうして自分はこの部屋に戻ったんだろう…
部屋や自分のオフィス以外でブラッドレイとする時、自分が気を失うと、大抵は眼が覚めるまで放って置かれていた。
『お前が運んだのか…?』そう聞きたかったが、あの日の事を蒸し返すのが怖かった。
何も言えずにエドの顔をただ見つめているしかなかった…
「アルが…アルに大佐を運んでもらった…俺じゃ運べなかったから…」
ロイの気持ちを察したのか、エドの方からすべてを話し始めた。
エドが気を失った後、ブラッドレイは当然のようにそのまま手を触れずに自白室を後にした。
程無くして、アルがその部屋に駆け込んできた。
『兄さん!?』と駆け寄りその声でエドは眼を覚ました。
その時、エドは半裸状態だった…
だが、アルは何も聞かずにエドの服を拾い、立ち上がる力も残っていなかった兄に服を着せていった。
誰にも知らせなかったのに、どうしてアルがこの地下に来たのか…
アルによると、『大佐とエドが地下室でリンチにあっているからすぐに行け』と言う匿名の電話があったらしい。
大総統が電話をかけたのか…?まさか…
あいつはそんな奴じゃない…
びくともしないロイと、エドを抱えて、アルはロイの部屋へと連れて行ったのだった。
「それから大変だったんだぜ??あんたの体を洗って、後処理して、寝巻きを着せてやっとベッドに寝かせられたんだ。」
くすくす笑いながらまるで人事のようにエドは話した。
「その後、全然眼を覚まさないから、ホント、心配したんだ…」
「もうこのまま眼を開けないんじゃないかって…」
エドが優しくロイを見つめる。
何気なく前髪を撫で、額にそっと口付けをする。
「大総統閣下は…?」
おもむろに尋ねたロイに、エドはあからさまに不快感を示した。
「何だよ!あんな目にあってもまだ大総統との関係を続ける気かよ!」
「私自身の問題だ。お前に言われる筋合いはない…」
冷たく突き離すロイにエドは何も答えられなかった…
「もう随分と前の話だ…」
静かに語り始めるロイにエドは黙って聞いていた。
「軍のやり方に耐え切れなくなって、私は一度だけ死を選ぼうとした…」
「発火布の手袋をはめられなくなり、軍服を着られなくなり、生きている事すら出来なくなっていった。」
「そんな私を救ったのが大総統閣下だ。」
「自分が生きている証を、あの方は示して下さった。」
だから自分は今まで生きてこれた。それが両の手を血で染めているとしても…
今にも泣きそうな目で見ているエドをロイは子供っぽい顔で笑う。
「それに私の野望達成には、あの方の地位が必要だ。」
「いつの日かあの方に取って代われるように、常にあの方の一番近い所にいなくてはならない。」
そう答えたロイの眼は、あの日とは全く違う、強い輝きを秘めていた。
「焔」の二つ名を持つロイ…
その焔に値する強い輝き…
内なる焔を秘めたその眼は、決してあの男に負けてはいない。
エドはそう感じていた。
暫くの沈黙が続いた後、最初にそれを破ったのはロイだった。
「エド…」
「ん?」
「大総統閣下と寝たのか…?」
ロイの突然の質問に、エドはどう答えていいのか一瞬迷った。
『寝た』とは言えない屈辱の行為…
あの時の事は一生忘れられない。いや、忘れてはいけない。
何よりも愛しき人を理解する為に…
「気をつけろよ…あの方との情事は命がけだぞ…」
「あはは!あいつも同じ事を言ってたよ?大佐との情事は命がけだって…」
それがあんた達の愛し合い方なんだろ…
俺にはよくわかんねぇや…
傷つけ合わなければ愛し合えないなんて…
「大佐…俺、あんたを抱いた。」
「あぁ…分かっている。」
「だから等価交換の原則。俺は大佐に何をしてあげられるかずっと考えてたんだけどさ…」
ロイはエドの言葉を遮る様に手を伸ばし、エドの頬にそっと触れた。
「死ぬな…」
「何があっても死ぬな。」
「必ず生きて私の所へ戻って来い。」
「お前が私に出来ることはただ一つ…」
そういうと、気だるい体を起こして、自らエドに口付けをした。
お前が私に触れる時…それだけで生きている喜びを知る…
だから死ぬな……
「…アルが中尉を連れて戻ってくるぞ?」
「お前なら5分で終わるだろう?」
エドは苦笑しながらも、その求めに応じ首筋へ唇を落とす…
少しでもあいつを忘れさせる事が出来るなら、何度でもあんたを抱くよ…
今まで見たこともないような至福の笑みを浮かべて、ロイは静かに眼を閉じた。
To be continues.
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