腐った林檎たち  15











        何の進展もないまま3日が過ぎた。





        流石のアルもイラついている。そりゃそうだろう。





        俺だってイラついてんだ…ハボックなんて煙草の量が一気に増えている。







        ユノー将軍からは何も音沙汰なし。リストをくれるって言ってたがどうなったんだ…?

        オフィスに伺っても「外出中」で追い返される。



        軍事演習が近いから仕方がないとはいえ…





        「中佐!一体どうなってるんです!?何の進展もないじゃないですか!」

        「焦るな。こっちだって遊んでいる訳じゃないのはよく知ってるだろう?」

        「そりゃそうですけど…」



        あぁ…ハボが切れ掛かっている…マジでそろそろ何か進展がないと…







        まったく…ロイもエドもどこ行きやがった!俺の苦労も考えて捕まってくれ!!







        「とにかく一度頭を冷やそう。ほれ、みんな外の空気吸いに行くぞ。」

        アルとハボックを連れてオフィスの外へと足を運ぶ。

        清々しい風がそよそよと吹いている。昼寝には持って来いのいい天気だ。



        軍曹の車が向った先…その方向でめぼしい所は調査した…

        ここまで調べて何もないって事は街中じゃないのか…?





        セントラルから離れていったのか…



        それとも他の街まで遠のいて行ったのか…?



        犯人は何故10人以上の人間を意のままに操るよう仕向ける必要があったんだ…?







        「わかんねーな…全く…」





        ヒューズが大きく伸びをしてふと前方を見ると、黒塗りの車が入り口付近に止まっているのが目に入ってきた。





        中から降りてきた人物にヒューズは眼を見張る。





        「ユノー将軍!!」

        大声で声をかけ、足早に司令部に入って行こうとするユノーを振り向かせた。



        ヒューズを見つけたユノーは一瞬眉をひそめたが、すぐに笑顔を作り温厚な将軍の顔となる。



        「やぁ、えっと君は…」

        「ヒューズ中佐です!マスタング大佐失踪の件で色々とご協力を頂いております!」

        大急ぎで駆け寄り、はぁと息をつきながらさっと敬礼をかざす。



        ユノーは少し考え、そして何かを思い出したように手を打ち傍にいた秘書を呼び寄せた。





        「たしか大総統府の印の件だったよね。すまない。遅くなってしまった。」

        秘書が持ってた鞄から一枚の紙を取り出しヒューズに手渡した。

        紙には数人の将軍の名前が記されている。



        「ありがとうございます!将軍閣下!これで解決に向けての第一歩が踏み出せそうです!」

        「いやいや。3日後の軍事演習の準備が忙しくて渡すのが遅くなってしまった。返って迷惑をかけたな。」

        

        にっこりと笑うユノーにヒューズは心から敬意を払い再び敬礼をかざす。

       

        「とんでもありません!お忙しいところ本当にありがとうございました!」





        そう告げた時、ハボックとアルもヒューズの元に到着し、目の前の将軍に敬礼をかざした。

        「ハボック、例の印のリストだ。すぐに背後関係を調べよう。」

        「はい!これで少しは進展しますね。」



        ハボックがリストを手にして少し安心した表情を見せると、ユノーがフッと微笑んだ。





        「頑張ってくれたまえ。君達のような若い力がこの軍には必要なのだよ。」

        「平民出の君のような若者が軍の中枢を担う。素晴らしい進歩だ。以前の軍ではそんなことは許されなかったからね。」



        ハイ!ありがとうございます!とハボックはホクホクしながら敬礼をする。







        だがアルはそのユノーをじっと見つめるだけだった。





        軍とは関係ないので敬礼をかざす必要もないのだが…







        「では、失礼するよ、演習の打ち合わせがあるのでね。」

        そう言ってユノーは身を翻し、司令部の奥へと入っていった。











        ヒューズたちはすぐにオフィスへ戻り、リストの人物の背後関係を調べていた。







        忙しく動く二人に対し、アルはじっと考えているのかソファーに座ったままだった。



        「どうした、ある。仕事はいっぱいあるんだぞ?少し手伝えよ。」

        「ホントだぞ!?エドの大将の事も心配なのは分かるが、今は皆で解明していかなきゃいけないんだぞ?」





        アルはその顔を二人に向け、ただじっと見つめていた。





        「…?どうした?アル…何か気になることでもあるのか…?」



  





        「…ウン…あのユノーって将軍の事…ちょっと気になって…」

        「将軍が?何でだ?あの方は軍の2の地位であるのに、気軽に俺たちのような下っ端に声をかけてくれる、

         軍の中でもとても温厚な方だ。」

        「イシュバール戦線でも国家錬金術師投入に最後まで反対したって聞いてますよ。」





        そんな素晴らしい方の何が気になるんだ…?





        「…僕達は賢者の石を探して色んな街に行って話を聞いてきた…」





        静かに語り始めたアルに、ヒューズもハボックも耳を傾ける。

        アルは兄のエドとは違って何事にも冷静に対処し、その言葉に重みがある。

        とても14歳とは思えない程…





        それだけの苦労を重ねてきた何よりの証拠…





        「色んな人に会ってきたよ。優しい人。気難しい人。面白い人…」

        「そして差別意識の強い人…兄さんが国家錬金術師と判るまで僕らを見下していた人。」

        「見た目では温厚な人が実際にはとてつもない悪人だった時もある。」



        僕らは表の顔に振り回されない。その奥の心を見抜いて真実を探る。







        「さっきの将軍の言葉の一つ一つに、僕らを蔑む意思が見えたんだ…」





        表には現さない…心の奥底で…





        「そんな馬鹿な!ありえない!ユノー将軍に限ってそんな事は…」

        「ありえない事なんてありえない…僕達が石を探す時の合言葉みたいなものだ。」



        アルはじっとヒューズを見つめていた。自分の意見を主張するわけでもなく。

        ただ冷静に何事も囚われずにもう一度考えてみようと…





        「大佐を最期に見たのはいつ?」

        「ユノー将軍のところだ。将軍は帰ったと主張したが。」

        「大総統府の印を持っている人は?」

        「…リストの人物と…あとユノー将軍もだ…」

        「近いうちに大掛かりな何かの行事ってありますか?」





        「軍事演習!その責任者はユノー将軍だ…」

        「ユノー将軍が黒幕だと仮定して、その軍事演習で何が行われると思う…?」







        「恐らくクーデターだな…演習と銘打っておけば街中に戦車や兵士がいても不思議とは思わんだろう。」





        ロイも…行方不明になった兵士達もそれの巻き込まれているのか…









        「……何てこった…俺たちは陰謀の黒幕に調査依頼をしてたのか…」

        「こっちの情報は筒抜けだったって訳っすね…」







        ヒューズもハボックもソファーに座り込み、がっくりと肩を落とす。

        ヒューズはユノー将軍から貰ったリストをビリっと破り捨て、セントラル郊外まである地図を机に広げた。





        「黒幕が判った以上、車が向った先もかなり絞り込めるはずだ。」

        「それよりユノー将軍を締め上げた方が早くないですか?中佐。」



        タバコに火をつけ、ようやく落ち着いてきたハボックがヒューズに問いかけた。



        「馬鹿!相手が悪すぎる。確たる証拠もないんだ。下手に動けばロイもエドも無事にはすまない。」

        「二人がいる所を押さえて現行犯にした方が得策だ…」







        「にしても、クーデターなんか起こして何になるって言うんだ…ユノー将軍…」





        









        「ユノーがどうかしたのか…」









        いきなりのその言葉にヒューズもハボックも心臓が飛び出すほど驚いて立ちすくんでしまった…







        「だ、大総統閣下!?どうしてここに…!?」

  

        慌てて直立不動になり敬礼をかざす。アルはきょとんとしてソファーに座っていた。

        

        「いや、廊下を歩いていたら気になる言葉が耳に入ってきてね。軍事演習がどうとか、陰謀がどうとか…」

        「いつもなら気にもせず通り過ぎていたのだが『ユノー将軍』と言う名前も聞いたのでな。」







        長年私を救ってきた勘が『話を聞け』と囁くのだよ。



        そう話すとにっこり笑ってアルの隣へ腰を下ろした。

        ヒューズのいるオフィスの皆が立ちすくんで敬礼をかざしている。



        あぁ、敬礼はいいから私のもコーヒーを一杯くれないか?

        傍で震えながら敬礼している女性兵士にコーヒーを強請る。その姿があまりにも滑稽で…





        ヒューズは思わず苦笑した。





        『ロイが蹴落とそうと目指している人がロイを救うかもしれないな…皮肉な事だ。』



        上を目指すと誓った二人。その上とはこの国の頂点。大総統の地位。







        それにはまず、今その地位にいる者を蹴落とさねばならない。







        その人物は目の前にいる。そして今まさに陰謀によってその地位を脅かされているかもしれないのだ。

        陰謀を見逃せば、ロイが野望を達成するのを後押しできるかもしれない。





        この人に話すべきか…否か…









      



        「…実は半年前から事件は遡ります…」







        ヒューズは今まで知りえたすべてをブラッドレイに話し始めた。



        今回はこの人を味方につけたほうがいいと判断したからだ。





        大総統の地位を狙うなら誰かの命令でやるより、自分で奪い取った方がいい。

        あいつならきっとそう選ぶだろう。







        この陰謀で今の大総統を失うわけにはいかない。

        あんたを殺すのは俺の親友なんだからな…









        すべてを話し終えた後、ブラッドレイは腕を組み暫く考え込んでいた。        

     



        



        「確証は…?」

        「ありません。すべて推測の域を出ていません。」



        「君の見識はどうだ。ユノーは黒か白か…」





        鋭い眼力がヒューズの眼を貫く。ヒューズは唾をごくりと飲み込んだ。





        凄まじい…なんて威圧感なんだ…これがこの国の独裁者…

        こんな人を相手に駆引きを繰り返していたのか…あいつは…



        「俺の見たところ、ユノー将軍は限りなく黒です。証拠は何一つありませんが…」







        あたりの雰囲気に緊張感が漂っている。



        ユノー将軍と大総統は数多くの戦渦を潜り抜けてきた戦友同士。

        軍の2を陰謀の首謀者呼ばわりしているのだ。











        「よかろう。今からユノーに会いに行く。一緒に来るかね?」







        すくっと立ち上がってドアへと向う。

        ヒューズとハボックが半ば呆然と立ち尽くしていたが、アルが「はい!是非!」と声をかけ、

        二人も我に返り後に続いていった。







        これは願ってもないチャンスかもしれないぞ!

        俺達では手の出せない特別階…







        待ってろ!ロイ!エド!必ずお前達の所に辿り着く!















        最強の味方を引き連れてユノー将軍のところへ乗り込んでやる!











        To be continues.





  
   






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