腐った林檎たち 18
ブラッドレイ大総統から直々に指示を受け、ヒューズ達は一気に盛り上がっていた。
とにかく、軍事演習前に確たる証拠を掴めばユノー将軍を追い詰める事が出来る…
それにはロイやエド達が監禁されている所を突き止めればいい。
ロイはともかく、エドの件は誘拐・逮捕監禁の罪に問える。
そこからクーデターの事実を探し出せばいい。
あの車が向った方向で将軍の関係しそうな場所をしらみつぶしに探している。
場所が絞られたとは言え、如何せん時間がない…
「中佐〜駄目だ〜俺ン所は空振りだった…」
「こっちもです…この店は関係ないですね…」
ハボックやアル、そして手の空いてるヒューズの部下たちが必死になって探し出していた。
地図の中に×印が増えていく…
目ぼしい所は殆ど探した。街中でないのは確実になってきたな…
ヒューズは部下に命じてかなり広い範囲の地図を持ってこさせた。
ハボックとアルも地図を覗き込む。
「セントラルシティでないのはもう確実だ。そうなれば後は郊外か、他の街か…」
「俺はセントラル郊外だと思います!中佐。」
「僕も少尉と同じ意見です。」
にやっと笑ってヒューズも頷いた。
「俺もそう思う。演習で何かするんなら司令部に出来るだけ近い方がいいからな。」
そう思って街中を探していたが街ではないと今は確信している。
となれば郊外のどこか、将軍に関係する所はあるだろうか…
「…何だ…住宅ばっかりだな…」
「それも高級住宅街です。政府高官の家ばかりありますよ。」
でもそう大きくはない…10数人の兵士を隠せるだけの家じゃない…
「もっと郊外にユノー将軍の別荘があるけど…」
「違うな。あの古狸なら自分が不利になる様な事はしないだろう。」
万が一自分の家や別荘でロイ達を見つけられたら言い逃れ出来ない。
だが全く将軍と関係のないところでこれだけの陰謀が巡らされるとも思えない。
僅かだが将軍と関わりがあり、でも何らかの時は切って捨てられる様な所。
将軍が出資した店や、よく通った店、知り合いが経営しているアパート、等など…
今までピックアップしてきた所はすべて不発だったが…
地図と睨めっこしながら腕を組んでいる二人を尻目に、アルがすっとある場所に指を指した。
「ここ…何ですか…?」
さした所は何もないただの空白の部分。高級住宅街の奥にあるかなり広い場所だ。
「…?何だろう…森か何かじゃねーのか?」
「森に…小屋か何かあります…?」
「…さあな…この地図上じゃ判らない。調べてみるか…?」
アルは黙って頷き、ヒューズも即座に理解したのかすぐにこの地域に詳しいものを呼び寄せた。
この土地は誰の物か…建物はあるのか…どういう情景なのか…
数時間後…調査の結果が渡される…
「ハボ!こいつはビンゴかもしれないぞ!」
「!?中佐?」
「ここの土地の所有者はフェルゼ将軍の親戚だ。ユノー将軍の配下の者だ。」
ヒューズは地図を広げ広い空白の部分の中心に指を立てた。
「地図上にはないが、ここにでっかい屋敷があるそうだ…もう何年も訪れていないとその親戚は証言したそうだ。」
「でっかいって…どのくらいっすか?」
「そうだな…まぁ、軽く10数人は泊まれるだろう。いや、こういった方がいいかな…」
監禁できる…と…
「中佐!!」
「見つけたぞ!ここだ!ここにロイ達がいるに間違いない!」
クシャッと地図を掴むと、ヒューズは諜報部隊と警察にすぐ出動できるよう待機を命じた。
「ハボック、アル、お前も準備をしておけ。俺は大総統閣下に会ってくる。」
そのまま翻すようにオフィスを後にした…
「大総統閣下、軍法会議所所属のヒューズ中佐が面会を求めておりますが…」
「お約束はありません。追い返しますか?」
「いや、会おう。ここに通しなさい。人払いもだ。」
ブラッドレイは深々と椅子に座り腕を組んでヒューズを迎えいれた。
「お忙しいところ失礼します!閣下!」
「挨拶はいい。何か見つけたのか?」
「はい!隠れ家と思わしき所を発見しました!出撃の許可を頂きたく参上しました。」
ヒューズは握り締めていた地図を、ブラッドレイの机の上に無造作に広げ、アルが指差した例の空間を指し示した。
「ここは…」
「ユノー将軍の部下のフェルゼ将軍が関係する土地です。ここに大きな屋敷があるそうです。」
ブラッドレイはじっとその地図を見続け、静かにヒューズの顔を見据える…
「確証はあるのか…?」
「ありません。状況証拠だけです。でも俺は確信してます。」
「ここに必ずロイはいます。時間がないんです、閣下。許可を…」
通常の手続きを踏んでいたら間に合わなくなる…軍事演習は明日なんだぞ!
訴える様な目で迫るヒューズに、ブラッドレイは苦笑しながら白い紙に走り書きをした。
紙の最後にブラッドレイの直筆のサイン…
「ほら。私の命令書だ。持って行け。だが心せよ!決して大掛かりにするな。」
「すべて極秘に行え。表沙汰にするな。」
「何故です?これでユノー将軍を失脚させられますよ!?」
ブラッドレイは静かに席を立ち、窓の方に目を向けた。
誰かを…思い浮かべるような眼差しで窓の外を見ている…
「表沙汰にすれば…マスタングを訴追せねばならないとも限らん…」
「何だかんだとあれは上層部の連中に良く思われておらん。何かきっかけがあれば、
奴らはマスタングを陥れるに違いない。」
それは私が許さん。あれの息の根を止めるのは私だからな…
にやりと笑いながらヒューズの方に顔を向ける。
逆光で判り難かったが…何故だかとても幸せそうにも見えた…
愛しい相手を殺す事を考えて、幸せそうに笑うのか…?
歪んだ愛情だな…いや、そうでしかロイとは愛し合えないのかもしれない…
「愛してる」と言えない間柄なら…傷つけてその愛情を示すしかない…
「深追いはするな。無理だと分かったらすぐに退け。チャンスは明日もあるのだ、よいな。」
はっ!と敬礼をかざし、ヒューズはブラッドレイの部屋を後にした。
マスタングは…ユノーの元に下ったのか…
私と敵対する為にユノーと手を組んだのか…
私の命を狙って…明日…私の元に来るのか…?
「ふ、ふふふ…久しぶりに血が踊る…胸が高鳴るよ…マスタング…」
今日のヒューズ中佐の出撃如きで終わって欲しくないな…出来れば明日まで無事でいて欲しいものだ…ユノー。
ブラッドレイは机の傍においてあるサーベルを手に取り、すっと抜き取った。
一つの曇りもないその剣に、自分の姿を映し出す。
お前の息の根を止めるのはこの剣で…だ。マスタング。
お前の心臓を貫いてその血を私に捧げよ…
そして同じく、私の息の根を止めるのもお前だけだ…
この剣で…私の生命に終止符を打て。
それが最高の愛の証…相容れぬ者同士のたった一つの愛し合う方法…
愛しているよ…マスタング…心から君を…
それから2時間後…ヒューズ率いる諜報部連隊と警察部隊が、ロイ達が監禁されている屋敷へと向って行った…
To be continues.