腐った林檎たち  19













        屋敷へ向う車の中で、ヒューズはハボック達と作戦を練っていた。





        何しろ出動を決めてたった2時間。行き当たりばったりの作戦だ。







        「やっぱり正面からか…?」

        「屋敷の状態が全くわかってませんからね…」



        土地の持ち主とは電話でしか確認できなかった。ざっと規模は聞いてはいるが…





        二班に分けて表と裏に構えるのがセオリーだが、極秘と言うことであまり大部隊を動かせなかった。

 



        「もう正面から堂々と!だ。行方不明者の兵士は12人。誰でもいいから捕まえればユノー将軍を追い詰める事が出来る!」

        「ロイでもエドでもいい!将軍の部下以外を確保するんだ。」





        部下を捕らえてもあの狸の事だ、「部下の単独でやった事」と開き直るし、きっと部下もそう言うだろう。



        行方不明の兵士なら開放されれば必ずこちらに有利な証言をしてくれるはずだ。







        とにかく…この誘拐事件にユノー将軍が関わっている証拠を見つければいいんだ…







        「大佐…いますかね…」

        「何だ、俺の勘を信じないのか?必ずいるさ!必ずな…」

        「でも、何で兄さん大人しく捕まっているんだろう…」



        アルの一言でヒューズとハボックが顔を見合わせた。



        そういやそうだな。何でだ?

        大将なら屋敷を半壊させてでも逃げ出してくるっすよ…?



        「何かしら離れられない理由があるのか…?」

        「理由??拘束されてるとか?あ、でも錬金術で簡単に解けるか…」



   

        皆、はっと表情を曇らせる…





        「使えない状態なのか…錬金術を…」

        「手か、足か…外されているのかも知れんな…」

        「そんな、兄さん…」



        表情の現れないアルの顔からも不安の気持ちが伝わって来る様な、力のない声。

        ヒューズは落ち込むアルの背中を思いっきり叩いた。





        「心配するな!今から俺達が助けに行けばいいんだから!な!」

        勤めて明るくそう言ったが…俺だって不安である事に変わりはない…





        半年で人形のようになったグローム中尉…

        ロイはまだ1週間だが…きっと何かしら影響を受けてしまっているに違いない。





        「大丈夫ですか…?」

        「あ、ああ。心配ない…」

        「いえ、中佐の手、です。今思いっきり叩いてたから…」



        言われてヒューズは自分の右手を覗き込んだ。

        真赤に腫れてズキズキ言ってる…あれれ…?



        「いって〜〜!!そうだった、お前は鋼なんだよな!」





        おどけた様に右手首を振り、周りの雰囲気を和ませる。

        ハボックやアルもクスクス笑っていた。





        これから繰り広げられるだろう死闘を少しでも忘れようと…









        「中佐!屋敷前です!」



        ヒューズはキッと戦闘モードに入り、部隊を止め部下を配置につかせた。



        「ハボ、アル、お前たちは俺と一緒に来い!」

        「ロイかエドを見つけたら大声で声をかけろ!こっちに来させるんだ。」



        こくんと頷き、配置につく。あたりはシーンと静まり返っていた。





        屋敷から反撃の様子はない。こちらに気がついていないのか…

        

        全員が配置についたのを確認し、ヒューズは右手を挙げ合図をする。







        「突入!!」





        バタバタと銃を持った兵士達が屋敷の敷地内に入り、

        ドアを押し開けようと玄関前まで突進してくる。

        銃のグリップでドアを壊そうと力を入れた時…





        ボゥッ!









        突然ドアが爆風で吹き飛び、数人の兵士が地面に叩きつけられた。





        「反撃か!?皆伏せろ!油断するな!」

        「アル!兵士達の様子は?そこから見えるか!?」

        「皆動きません…気絶しているのか、それとも…」







        突然アルの声が消えた…どうした…?





        「アル!?どうした?何が…」



        壁際で身を隠していたヒューズが、玄関の方に目を向ける。



        玄関は炎と煙でよく見えない…

        何だ…爆弾でも使ったのか…?





        白い煙の中からゆらりと動く人影が、ヒューズの目に映る。







        「動くな!両手を上げてこちらに来い!」

        兵士が一斉にその影に向って銃口を向け、狙いを定める。





        風が吹きぬけ、白い煙が一瞬吹き去った時…











        ハボックとヒューズは全身が凍りついた様にその場に立ち尽くしてしまった…











        発火布の手袋を纏ったロイが玄関から現れ、その指をまたヒューズ達に向けていた。





        「ロイ!!??」「大佐!?」



        ほぼ同時に叫んだ二人はロイの元に向おうと、震える足を一歩前に出した。



        重ねられた指に力が入る。その動きに躊躇はない。





        「ロイ!?」「中佐!危ない!」

 



        パチッ!!ボゥッ!!





        アルがとっさにハボックとヒューズを押しのけ、ロイの焔に自ら包まれていった。









        「アル!!!!」









        聞きなれた声に、アルが顔を上げ玄関の方を見る。









        「!!!兄さん!?」

        

        懐かしい兄はロイの後ろで自分を心配そうに見つめていた。

        …?何故…?兄さん…何故なの…?



        どうして僕の傍に駆け寄ってこないの…?





        焔は既に消え、だが鋼のアルの身体はその熱でほんのり赤く染まっていた。





        『中佐!裏口からかなりの兵士が逃げ出しています!応援を!!』



        無線機から聞こえてくる声にも耳に入らないほど、ヒューズは動揺していた。





        ロイ…?今お前は何をした…?

        親友の俺に向って何をした…?

        大事な部下に向って何をした…?





        「ロイ!!お前!今何をしたんだ!!」

      



        悲鳴にも似た叫び声を上げ、ヒューズは銃口をロイに向ける。



        ロイは無表情でその銃を見つめていた。





        ハボックは急いで車の無線機に駆け寄り、裏口の状況を把握する。

        裏庭を通り、大勢の敵が逃亡を図っている。そっちに兵士を回さなきゃ!







        中佐!?…て無理か…ショックを受け気が動転しちまってる…



        俺もおかしくなりそうだったが…中佐よりは大佐との繋がりが薄かったのかな…





        いや…俺は大佐がそう望むのならそれでも構わない…そう思っていたんだ…

        大佐が俺達を裏切って将軍の側につくならそれでもいいって…







        「ここはお前たちじゃ無理だ!俺達に任せて裏部隊の支援に回ってくれ!」

        うろたえている兵士達にそう告げると、ハボックは車から飛び降りヒューズの元に駆け寄った。





        ロイは表情変えずに親友と部下を見つめていた…





        右手は握られている。いつでも指を鳴らせる状態だ。

        その傍にエドも立っていた。勿論、ヒューズたちの方に行こうとはしない。



        「兄さん!?どうしたの!何でこっちに来ないの!?」

        「アル…ゴメン…俺…」



        アルはエドの右袖は揺れているのに気がつき、ハッと息を飲んだ。





        「右手…無い…じゃぁ、やっぱり…」

        「どうやらそれだけでもなさそうだな。エドの大将がこっちに戻らない訳。」





        大将、大佐に惚れてるからな…





        ポツリと呟き、胸ポケットからタバコを取り出し火をつけた。



        この緊張感に包まれている空気を何とか紛らわしたかった…









        「ロイ、もう一度言うぞ!両手を上げてこっちに来い!」

        ヒューズは銃口を向け狙いを定めたままロイに投降を促す。



        今ならまだ間に合う!!ロイ!正気に戻ってくれ!







        眉一つ動かさず、ロイは右手をヒューズに掲げた。



        ヒューズもどこうとはしない。銃を手にしたままロイの前に立ち塞がる。







        張り詰めた緊張感があたりを包み込む。やばいっすよ、中佐!





        大佐は何の躊躇も無くあんたを焼き殺す!!









        構わんさ…それでロイが正気に戻るかもしれない…









        ロイがグッと指に力を入れ、パチッと火花が散ろうとした時…







        「駄目!!大佐!!止めて!」



        エドがロイの左腕にしがみつき、そのためバランスを崩してロイの身体がぐらりと揺れた。

        火花が散って焔が発生したが、ヒューズには行かず、全く違う方向に焔が上がっていた。







        自分の腕にしがみつく少年を、やはり無表情でじっと見つめている…





        邪魔をした俺も焔で焼き殺すの…?大佐…





        僅かに目を細め、エドの金色の瞳を自分の漆黒の瞳に映す…











        



        ガガガガガ!!





   



        突然右からトラックが走りこみ、荷台に乗った兵士がヒューズ達目掛けて発砲してきた。



        「中佐!早くこっちへ!」

        「駄目だ!今ここでロイを逃がしたら!!」

        「早く!壁の向こうに隠れて!」



        トラックとヒューズ達の前に立ちはだかり、銃弾を防ぐアル。





        アルの身体の脇からヒューズが覗き込み、ロイの姿を探していた。







        「来い!マスタング!ここはもういい!逃げるぞ!」

        運転席から声が聞こえる。帽子を深々と被っていて顔が見えない。



        ロイは荷台の兵士の手を取り、トラックに乗り込んでいく。





        「鋼も来い!早くしろ!」



        エドは一瞬躊躇する…





        どうしたら…アルの所に戻る…?でも大佐は…?





        「…乗れ…」

        静かに話す聞きなれた声…差し出された白い腕…







        大佐…?俺、傍にいてもいいの…?あんたの傍にいてもいいの…?









        「兄さん!!!」



        アルが悲痛な声を上げ、兄の所へ駆け寄ろうとした。





        「ゴメン…アル…ゴメン…」



        エドは駆け寄るアルから視線を外し、差し出されたその腕をしっかりと握り締めた。







        ふわりと体が浮き、エドは荷台へと吸い込まれていく…









        「兄さん!!」

        アルがトラックの荷台に手をかけようと走り寄ると、荷台の兵士が一斉にアル目掛けて発砲した。

        その反動でアルはバランスを失い、ガシャンと地面に転んでしまった。





        「アル!!」

        荷台の上から心配そうに見つめるが、グッと拳を握り、アルから眼を反らし前を見る。







        ロイが荷台から屋敷に向って右手を掲げ、大きく指を鳴らす。







        バチッ!!





        指がなると同時に焔が吹き荒れ、屋敷は瞬く間に炎に包まれていった。











        「ロイのやつ!!証拠を残さないつもりか!」

        ヒューズがトラックの行方を眼で追いかけた時、既に車は裏へと回り、

        焔の音が一回聞こえた後は何も聞こえなくなった。











        唯一の証拠だった屋敷が崩れ落ちる轟音だけが閑静な住宅街に響いていた…









        To be continues.





  
   






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