腐った林檎たち  28









        司令部内を大勢の兵士が駆け回っている。





        エドは隠れながら何とかヒューズのオフィスへ向っていた。

        大佐の仲間に見つかると何かと面倒だ…



        何より、俺が大総統と一緒じゃない事がわかればクーデター失敗と判断してしまうかもしれない…







        「な!お前は!」

        「やべっ!見つかった!」



        時たまこうやって見つかるけど、両手の戻った俺にとってこんなの敵でも何でもない。





        仲間に通報される前に溝うちを打ち気絶させる。

        あんたら相手にしている暇はないってーの!



        辺りを警戒しながら軍法会議所に向かう。兵士達は一箇所に集まりつつあるみたいだ…

        クーデターが最終段階に入ったのかな…?一体どういう作戦になっているのか…





        大総統は無事なんだろうか…アルは…?大佐は…?





        一抹の不安を抱えながら足を前に進める。

        今はとにかく前進するしかない。    



        通り過ぎる兵士達の会話で少し気になる事…





        「ブラッドレイ大総統の死亡が確認され次第司令官はリーゼル将軍に移行する」





        どういう事だ…?今この反乱軍を指揮しているのは大佐のはず…

        それがリーゼル将軍に移るって事は大佐の仲間は孤立してしまうじゃないか…







        これが…クーデターの真の目的!?そうか!

        大佐にクーデターを起こさせ、それをユノー将軍率いる軍が鎮圧する…



        大佐はすべての罪を背負わされ殺される…





        クーデターが成功しなければ自ら命を絶ち…成功すればユノー将軍によって征伐される…





        何てこった!どっちに転んでも大佐がやばいじゃないか!





        早く…早く助けに行かなければ… 







        ヒューズのオフィス前まで何とか来た時…





        「おい!早くここからどかんか!」

        「貴様!我々に逆らう気か!」



        兵士がいる!?中にアルもいるのか…

        

        ドアに寄り添い、そっと中を覗き込む。





        オフィスの中央に置かれているソファにアルがデンと座っていた。

        その周りを銃を持った兵士が3〜4人取り囲んでいる。

        この部屋から連れ出し恐らく大総統府の軍上層部の面々と一緒にさせたいのだろう。





        「さっさと立って我等と共に来い!」

        「やだよ。僕ここで兄さんを待ってなきゃいけないんだもん。」

        「貴様〜〜抵抗するなら撃つぞ!」

        「どうぞ。でも怪我をするのはおじさん達の方だよ?」



        飄々と離すアルの態度に兵士達の忍耐も切れ銃を構えだした。



        「やれやれ…僕は忠告したからね。」

        溜め息をつきながらすくっと立ち上がり、その鎧の大きさで圧倒させる。

        一瞬怯むが、そこは訓練された兵士。銃の引き金に指をあて、力を込めた。





        バンバン!!



        カン!カン!!



        銃声と共にその弾丸はアルの身体を跳ね返り、アルを取り囲んでいた兵士達に次々と当たっていく。

 

        「ぐわっ!!!」

        「いてっ!!!」



        「だから言ったのに…銃を撃っても兆弾するよって…」

        

        運良く当たらなかった兵士が、仲間がのた打ち回っている姿を見て再び銃をアルにむけて構える。

        アルはまた深い深い溜め息をもう一度つき、兵士が持ってる銃を鷲掴みにした。



        「な!!離せ!!」

        「銃なんか向けても無駄だから…大人しく出てって貰えないかなぁ…」

       

        貴様っ!と更に敵意をむき出しにすると、アルは有無を言わさず兵士に拳を食らわせた。

        壁まで吹っ飛び、そのまま意識を失う。

        残った兵士達はすっかり戦意を喪失し、慌ててオフィスを出ようとドアに向い、

        ドアの傍にいたエドと鉢合わせになった。。





        「あっ!!お前!」

        「悪い!眠っててくれる??」



        不意をついて兵士達の急所を打ち眠らせる。

        今通報されると何かと面倒だからね。







        「兄さん!!」「アル!」

        二人ほぼ同時に声を掛け合い、お互いが駆け寄り無事を確かめ合う。



        「兄さん、もう大丈夫なの??」

        「ん…ゴメン…心配かけたな…でももう大丈夫。俺は解放されたんだ。」



        カンカンとアルの身体を叩き、その冷たい鋼に額を当てる…





        アルの暖かさが伝わってくる…そうだ…アルは魂があるんだよな…





        「兄さん…?」

        「何でもない!アル、俺を大総統府2階の執務応接室へ連れて行ってくれ。」

        「訳あって今占拠している兵士達に姿を見られる訳には行かないんだ。だから…」

        「分かった。僕の体の中に入って。多少強引に行くかもしれないよ?」



        任せたよ!と言いながらエドはアルの体の中に忍び込んだ。



      

        そっと部屋のドアを開けると、兵士達はどこかへ集合しているのか辺りに兵士の気配は感じられない。

        最上階から大総統府へアルは周りを警戒しながら向っていった。



        『そういやヒューズ中佐は?ハボック少尉も姿が見えなかったぞ?』

        鎧の中からエドが声をかける。



        「ユノー将軍の逃げ込みそうな所に部隊を派遣している。その指揮に当たっているよ。」

        『どういう事だ?』

        「大総統の命令なんだ。あの人はちゃんと考えてクーデターを迎え撃っていた。きっとクーデターは失敗して

         ユノー将軍は追い詰められる…」





        追い詰めちゃ駄目だ!大佐は命がけでユノー将軍を守ってしまう…

        引き離さなきゃ!ユノー将軍から大佐を引き離してから将軍を叩かなければ…





        『アル、急いで!!早く大佐の所へ!!』

        でなければ大佐は殺される…すべての罪を被って…

















        ユノーは執務室のソファでじっと吉報を待っていた…



        そろそろ知らせが来てもいい頃だ…と、同時にリーゼルが軍を率いて反撃にでる。

        最初はマスタングも抵抗するが、それは表面上でのこと…



        マスタングは我らを捨てて一時撤退を余儀なくされる。





        同時にラジオ局など各所で占拠されていた筈の軍が元の司令官の下反撃に撃って出る。



        僅かな兵を連れてクーデターの一味はやはりそこから撤退をする。





        すべては私の命令通り…後は合流したクーデターの一味を私自ら軍を率いて一掃すれば終わりだ。







        私はブラッドレイ亡き後の大総統に押し上げられ…そして我らの時代が再び始まるのだ!







        



        「失礼します!大佐!外を見回っていた兵士から報告があります!」





        来たか!待ちわびたぞ!





        通せ…とロイが静かに話す。ユノーは硬い表情のまま、だが内心は期待と高揚感で溢れかえっていた。

        兵士が敬礼をかざしながら入ってきた。何故だか後ろのドアは開いている…



        「先程、隠し通路出口付近でブラッドレイ大総統の死亡が確認されました!」

        「鋼のはどうした…」

        「はっ、大総統閣下を刺した直後、リーゼル将軍の部隊に見つかり、そのまま射殺された模様です。」





        向こうの部屋からどよめきが聞こえてくる…ククッ…こちらの兵士の声は筒抜けになっている様だな。

        鋼も死んだか…これでいい。計画通りだ。



        ロイは無表情のまま、上層部の人達が拘束されている部屋へと移動して行った。



        ブラッドレイが死んだのか?とかなり動揺している上官達に、ロイは静かに語りかける。

        あくまでも冷静に…だが実際は与えられた台詞をただ話すだけ…





        「大総統閣下は我らの手により死亡した。よって私が大総統に任命される様皆さんには協議して貰います。」

        「馬鹿を言うな!貴様如きに任命など!」

        「では任命する意思のある者をあなた達の代わりに据えます。したがってあなた方は今ここで消えて貰います。」



        ロイは右手を振りかざし、上官達の前にその指を向けた。

        その眼に戸惑いはなく…もう一度否と答えれば迷う事無くその焔で黒炭同様に燃やされるだろう。





        「待ちなさい!少し時間をくれ。私が説得しよう。」

        ロイと上層部の間にユノーが立ち塞がりロイの指をそっと掴む。



        ロイの目が僅かに揺れ、そのまますっと腕を下ろした。





        傍から見れば命がけで上層部の者達を救った様にも見えるがこれもすべて仕組まれた事。





        ロイは隣の部屋で待つとその場を後にし、仲間の兵士をドアの傍に見張りに立たせた。







        ユノーは上層部の将軍達の傍に近づき、そっと耳打ちを始めた。





        「大総統閣下を刺したあの少年は、リーゼルが銃殺したそうだ。と言う事はリーゼル将軍が恐らく抵抗勢力として

         部隊を編成しつつあるのだろう。」

        「今はマスタング大佐の言う事を聞き、彼を大総統に任命しよう。」

        「しかしっ!!ユノー将軍!」

        「時間稼ぎだ。敵を油断させるにもその方がいい。でなければ皆消炭にされるぞ?」



        ロイの冷徹な眼を思い出し、皆ユノーの言葉を信用する。







        ユノーは自分に任せてくれと将軍達の部屋を後にし、ロイの元へと向かって行った。







        はっはははは!!すべて私の思い通りだ!

        これでこの国は私の物だ!



        選ばれた家柄の者だけが支配できる素晴らしき世界へ…











        「マスタング、よくやった。後の事は分かっているね。」

        ロイの傍に近づき、その顎を厭らしくなぞる。

        ロイは微動だにせず、こくんと頷き、ユノー将軍をじっと見つめるだけだった。







        すっと顎を持ち上げ、その濡れた唇に自分のを重ねる。



        触れる様なキスから、徐々に深い口付けへと変わっていく。





        「んっふうっんん…」

        舌を絡ませ合いながらユノーはロイの口内を犯していく。だがロイは全く抵抗はしない。





        腕を回して抱きつく、と言う反応も示さない。



        ただ人形の様にユノーのなすがままに弄ばれる。



     



        リーゼルが反撃するまでまだ少し時間がある。どれ…最後にこの猫を味わうか…

        

        「従順な黒豹も中々楽しいものだな。」















        「愚か者め…マスタングは抵抗するからこそ美しいのだ。」











      

        部屋のどこからか聞こえてきたその言葉に、ユノーの全身が凍りつく…













        今のは…?まさか…?





        「いつまで待ってもリーゼルは反撃などせんよ。私が二つに切り裂いておいたからな。」

        



        執務室の中の壁の一角がギィィと音を立てて開かれる。













        暗闇の中から紅く光る眼が二つ…











        「ブラッドレイ…生きていたのか…まさか…」

        だがさっきの兵士は貴様の死を確認したと!



        「私の手の者が紛れ込んだのも気がつかぬとはな…詰めが甘いぞ…ユノー。」

 

        幾重にも作戦を重ねたこのクーデター。流石と褒めてやろう。

        だが私をただの人間扱いしたのが貴様の敗因だ…





        隠し扉から現れたブラッドレイの姿に、ユノーは一瞬眼を疑った。





        全身血だらけで、銃撃の後が残るその軍服。普通に想像しても生きているのが不思議なくらいだ。

        そして…その左目にはいつもの眼帯はなく…代わりに見慣れぬ模様を持つ左目がユノーの身体を突き刺し、

        ユノーはその場から動けなくなってしまった。







        「貴様の部屋にあった隠し通路、あれは私も知らなかったが…」

        「私の部屋にもこういう通路があったのをお前は知っていたかな?」



        にやりと笑いながらブラッドレイはサーベルを掲げ、ゆっくりとユノーに近づいていった。





        安心しろ…一思いには殺さぬ…

        一つ一つ肉片を切り刻み、最大の苦痛を味あわせてやろう。



        マスタングの苦しみと…エドワードの苦しみを…貴様に倍にして返してやる。







        「泣き叫んで許しを請うがいい、ユノー。マスタングもそうやって啼かせたのだろう?」





        後一歩で間合いに入るその時、







        「!?」

        「マスタング!?」





        さっきまで全く微動だに動かなかったロイが脱兎の如くブラッドレイとユノーの間に入り込み

        ユノーを自分の後ろに隠すように立ちはだかった。



        そしてその右手をブラッドレイに向けていた。







        『命がけで主人を守る』





        ロイの調教はそこまで完璧に仕込まれていたのだ…





        「マスタング!そこをどけ!貴様はこんな奴を守る義理はない!」



        ブラッドレイが叱責するが、ロイは全く動揺もせずその指に力を込める。

  

        「やれ!マスタング!その焔で焼き殺せ!!」

        ユノーの声にロイはピクッと反応する…







        貴様に殺されるのは本望だが、こんな輩のいいなりの貴様など私のプライドが許さぬぞ!





        



        ギリッと指に力が込められる。ブラッドレイもサーベルのグリップを握る腕に力が入った。

        

        

        



        

        こんな形でお前と対峙したくはない…マスタング!













        だがロイの表情が変わる事はなかった…













        To be continues.





  
   






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