腐った林檎たち  29







        ロイとブラッドレイは眼を決して反らさず、互いに間合いを取りながら睨み合っていた。







        向けられた指が緩む事はなさそうだ…それはそうだろう…





        私の息の根を止める事は奴の悲願であった事でもある。躊躇などある筈がない。









        ではどうするか。指を鳴らす前にその腕を切り落とすか…

        だがそれは美しくないな…どうせなら私を恨みながら死を迎えさせたいものだ。





        だから今の意思のないマスタングを相手にするのは全く持って面白くない…







        「何をしている!さっさと焼き殺さんか!」

        ユノーがロイに激を飛ばすが、ロイは静かに頷くだけで、一向に指を鳴らそうとはしなかった。



        そう…お前は判っているのだな…今指を鳴らせば私に切り裂かれる事を…

        そして私が一歩前に出ればたちまち焔に包まれるだろう。







        膠着状態か…役立たずの貴様にはこの間合いがわからんだろうな。







        二人の睨み合いが永遠に続くかと思われたその時…







        ドォォン!!



        「何だ!?今の音は!?」

        ユノーが廊下の方に眼をやると、血まみれの部下が息も絶え絶えに駆け込んできた。

        

        「抵抗軍が襲撃してきました!こちらは防戦一方です!いつまで持ち堪えられるか分かりません!早くここから…」

        そういいながらその場に倒れこみ、気を失ってしまった。



        抵抗軍!?リーゼルか?





        「リーゼルではないよ。グラン准将率いる私の部隊だ。他の占拠箇所にも向かっているはずだ。」

        お前の作戦はすべて失敗に終わったのだ…潔く諦めろ。ユノー…





        くっとユノーが唇を噛み、一方後ろに下がる。

        とにかくここから逃げなくては!リーゼル亡き後フェルゼ達と合流し、体勢を整えねば…





        こちらにはまだマスタングがいる!勝機はある!







        「大総統閣下!ご無事ですか!」

        廊下からグラン准将が銃を持ちながら飛び込んできた。



        ブラッドレイが一瞬グラン准将に気を取られたその僅かな隙を、ロイは見逃さなかった。







        バチッ!!!







        火花が散ったかと思うと、ブラッドレイ目掛けて焔が走る。





        ブラッドレイの左目に世にも美しい焔がくっきりと映っていく…







        「閣下!!」

        グランがとっさに錬金術を使いブラッドレイの周りを不燃物の物質に錬成し包み込む。

        焔はそれに弾かれ、部屋の周りに飛び散り延焼し始めた。







        「おのれ!マスタング!閣下に反旗を翻すか!」

        グランがロイのほうに眼をやり、ロイの後ろに隠れているユノーに気がついた。





        「ユノー将軍閣下??何故マスタング大佐があなたを庇って…?」

        「ちっ、マスタング!すべてを焼き尽くせ!」





        ロイの指に力が込められ、流石のグランも顔が強張った。



        「どけ!グラン!」

        グラン准将を押しやり、ブラッドレイがサーベルを掲げて突進して行く。

        不意に現れたブラッドレイに一瞬ロイが意識を反らし、その隙にブラッドレイのサーベルが

        ロイの手の甲を切り裂いた。





        それは神業と言えるかもしれない…





        ロイの白い肌に一筋の傷も付けずに、発火布のみを切り裂いたのだ。

        

        ロイが驚きブラッドレイに眼を見張る。

        ブラッドレイもロイの漆黒の瞳から眼を離さなかった。







        ユノーのいいなりのお前を殺すのはつまらん…さっさと意識を取り戻し、再びサーベルの錆となるがいい。







        ロイは身体をすっと後ろに下げ、腰の拳銃に手をかけブラッドレイに照準を合わせた。



        「閣下!」「撃て!」

        グランとユノーが同時に叫ぶ。と、同時に銃声が部屋中を轟かせた。



        



        







        「??銃声?」

        「グラン准将の部隊の銃じゃない。もっと小さい銃だ。」





        アルとエドは大総統府の2階廊下を走っていた。

        執務応接室に向う途中でグラン准将の部隊に会い、そのまま合流した。



        クーデターの内情を知らないグランにとって、エドは大総統を救った功労者でもあったのだ。

        疑われる事もなくすんなりと合流を許され、そのままグランと共にブラッドレイの元へと急いでいた。

        



        グランは部下を引き連れ真っ先に2階へ駆け上がりブラッドレイの元へ向ったのだ。

        エドはアルと共に反乱軍の鎮圧に力を貸しながら2階へと急いで行った。



        「大総統!!大総統は無事なんですか!?」









        応接室に飛び込んだエドは、思いがけない光景を見にした。







        あの大総統が右肩を押さえて床に膝立ちになっている…

        弾丸さえかわしてしまうあの人が…?







        そしてもう一つの人物に眼をやり、そのまま全身が凍り付いてしまう。







        大佐…?今の銃声は大佐が??



        あなたが大総統を撃ったの…?







        「大佐!!」



        叫び声にロイはとっさに銃を向けた。









        だがその引き金は動かない。

        眼を見開き、銃を持つ手は震えていた。





        エ…ド…?





        「何をしている!ブラッドレイに止めを刺せ!」

        背後からのユノーの言葉にロイは敏感に反応した。

        エドに向けていた銃を再びブラッドレイに向けると、その引き金に指をこめる。



        「閣下!!」

        グランが錬金術を使おうと拳を振り上げるが、すぐにロイが銃を向け発砲する。

        その弾丸は正確にグランの右手の甲を打ち抜いた。





        「ぐっあっ!!マスタング!!」

        「グラン准将!?」



        再び銃口をブラッドレイに向け、無表情で見つめている。







        撃つのか…?私を…?



        なれば私はここにいる者すべてを殺さねばならない…





        私は銃如きでは死ねないのだ…マスタング…







        「大佐!!やめて!撃たないで!」

        エドがとっさに駆け寄りブラッドレイとロイの間に立ちはだかった。



        「エドワード!どきなさい!」

        「大佐!!お願い撃たないで!」





        「何をしている!さっさと撃たんか!」





        ロイは腕が震え、眼を見開き、明らかに戸惑いの表情を映し出した。











        エド…エドワード…







        ロイが引き金を引くのを躊躇している様を見て、ユノーはそっと隠し扉の方へ移動していった。

        ブラッドレイがすぐに気がつく。



        「ユノー!逃げるか!」

        「来い!マスタング!一時撤退だ!」



        ロイはブラッドレイとエドから銃口と視線を外さずにそのまま後ずさりしながらユノーの後を追う。





        「大佐!」

        エドが叫ぶが、ロイは振り返りもせずにそのまま隠し扉の中へと吸い込まれていった。





        「大佐!!」「エドワード!追うな!グランに任せよ!」

        立ち上がってロイを追おうとするエドを、ブラッドレイは右手で捕まえそのまま抱き寄せた。



        グランは右手を押さえながらも、部下に命じてユノーとロイの後を追わせる。





        「大丈夫ですか?撃たれた所は…?」

        「かすり傷だ。心配ない。エドワードも無事で何よりだ…」



        くいっとエドの顔を引き寄せその小さな唇を奪う。

        エドのブラッドレイの首に腕を回し、互いの舌を貪り食う様に絡めあった。

        



        グランの眼も、アルの眼も気にせず、互いの無事を確認する様に長く長くキスを交わす。







        ようやく離れるとブラッドレイはエドを下ろし、ボロボロの上着を脱ぎ捨て机の引き出しから新しい眼帯を取り出した。

        きゅっと眼帯を締め、黒いシャツをも脱ぎ捨て上半身を露にする。





        引き締まった身体に一つの傷跡も見られない…





        上着もシャツも銃痕でボロボロなのに…



        先程のかすり傷も今は全くなくなっていた。







        ブラッドレイの執務室には常に替えの軍服とシャツが用意されている。

        いざと言う時着替えられる様に、との事だったが専らロイとの情事で汗をかき取り替えるのに利用していた。

        

        重厚な造りのクローゼットから黒いシャツを取り出し着替え、そして革のベルトを取り出した。







        ブラッドレイの為だけに作られた特別なベルト…

        背中に4本のサーベルを装着できる戦闘用のベルトだ。

 

        両手に同じく皮の手袋をキュッとはめる。

        

        エド達の方に振り返った時、ブラッドレイは既に戦闘モードに変貌していた…



        「君はここにいなさい。」

        「俺も行くよ。大佐を守ると約束したんだ。」

        「僕も行きます。僕は兄さんを守るんだ!」



        ブラッドレイはにやっと笑い、エドの頭をポンポンと叩いた。

                

        







        

        隣の部屋にいた上層部の将軍達は皆開放され、逆にロイの仲間だったクーデターの一味の兵士は

        グランによって拘束される。



        その中にあのグローム中尉も含まれていた。



        ブラッドレイがロイの仲間の元へと近づき声をかける。



        「ユノーの計画は失敗に終わった。お前たちはユノーに対して謀反の証言をすれば恩赦も用意するぞ?」

        グロームがゆっくりと顔を上げ、無表情でブラッドレイを見つめている。







        「失敗…?クーデターは失敗したのですか…?」

        「そうだ。ユノーはマスタング大佐を連れて逃げた。お前たちは見捨てられたのだ。」

        

        グランがゆっくりと近づき、大総統府、中央司令部内ほぼ鎮圧成功を告げた。

        ご苦労と労いの言葉をかけ、再びグローム達の方へ眼を見張る。



       

        

        この者達…何も感じていないのか…?先程から表情が変わらん…





        

        背後からエドも近づいてきた。ユノー将軍の所にいた人物か確かめる為だ。



        「鋼の…?あなたが生きてる…」

        「あぁ。何とかな。もう将軍の命令に従う事はないんだぜ?」



        だから開放されな。元の生活に戻るんだ…







        「あぁ…そうですか…失敗したんですか…」

        ぐったりとうな垂れるグローム中尉に、少しだけ人間味が感じられた。





        だが次の瞬間、グロームは傍にいたグランの腰目掛けて突進し、拘束されている両手で銃を奪い取った。

        その銃口を自分に向ける…





        「よせっ!!」

        エドが叫んで取り押さえようとした時、グローム中尉は一瞬微笑んだ…



        

        



        バーン…





        弾丸はグローム中尉の頭を打ち抜き、中尉は後ろにばったりと倒れる。

        その死に顔は安らかで…生きていた時より感情を感じられた。





        「何で…あんな奴の為に死ななきゃならないんだ…」



        失敗したら死を…そう命令されていたんだろう…





        「閣下!これを…」

        グランが慌てた風に声をかけ、拘束していた兵士達に眼を向ける。



        そこに居た者すべて…舌を噛み切って絶命していたのだ…







        「これで証言者はエドワード君とマスタング大佐のみになったな…」

        



        目の前で自殺者が出たのに、ブラッドレイは動揺もせず淡々と述べる。

        戦闘モードに入ったブラッドレイに情けはない。



        敵と見なせばエドですら切り裂くかもしれない。





        「大佐は!?大佐もこのままじゃ自ら命を絶ってしまう!」

        「それはないだろう。今となってはマスタングの力はユノーの戦力には不可欠だ。」

        「しかし、奴の発火布は閣下が切り裂いてしまわれたから…」





        「ユノー程の男ならスペアの発火布ぐらい用意させているさ。」











        さぁ…木箱はひっくり返した…

        後は腐った林檎を取り出すだけだ…











        

        楽しい宴の始まりだ…待っていろ…ユノー…

        











        マスタングが完全に腐敗する前に…大元の貴様をを叩き潰してやる!









        To be continues.





  
   






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