腐った林檎たち  9









        豪華な造りの特別列車がセントラルに向って走っていた。







        そこには南部視察を終えたブラッドレイが乗っている。

        その他護衛としてアームストロング少佐とグレイ准将が追随していた。





        暫く一人になりたいと言い、護衛の兵士を下がらせると、ブラッドレイは走り抜ける列車の窓の外を見つめていた。





        今回の南部視察は何てつまらなかった事…

        南部戦線の兵士達をねぎらい、南方司令部の将軍の下らん説明を聞かされて。



        つまらん…本当に面白くない…







        東方司令部の視察だったらさぞかし面白かっただろうに…





        窓の外を見ながらブラッドレイはクスッと笑う。誰かの事を思い出しているのか…

        黒い毛並みの…しなやかな豹…

        時折足元で懐くが、決してじゃれあったりはしない。



        決して野生の輝きを失わない。





        「あれを一人だけのものに出来る輩がいるだろうか…」

        この私でさえ完全には自分の物には出来ない美しい黒豹を…







        「お休みのところ失礼します!大総統閣下…」



        不意にドアの外から声がして「誰だ」とその声に答える。



        ガラッとドアが開き、グラン准将が敬礼をかざし立っていた。

        その後ろにはアームストロング少佐が控えている。





        「グランか、何用だ。私は一人にするよう命令したのだが?」

        「はっ、申し訳ありません。しかしセントラルについたら益々時間がないかと思い

         失礼とは思いましたが伺わせて頂きました!」



        僅かに声が震えている。豪腕な将軍でもブラッドレイの前では蛇に睨まれた蛙のように身動きできなくなってしまう。





        「あ〜あ…列車の中でも仕事か。少しは私を休ませてくれないかね。」

        烈火のごとく怒ると思ったが、ブラッドレイはにこりと笑ってグランを招き入れた。



        グランとアームストロングが胸を撫で下ろしたのは言うまでもない…







        「さて、何かね?」

        「はっ、実は1週間後の演習の事ですが。」



        演習…?あぁ、セントラルが戦場に巻き込まれた事を想定して行われる軍事演習か。



        「何か不都合でもあるのかね?あれはすべてユノーに任せておるが。」

        「はぁ…その演習の指揮を取る総司令官が発表されましたのでちょっと眼を通して頂きたく…」

 



        やれやれ…中央に戻ってからでもいいのではないか…??





        「…ん?リーゼル少将が指揮をとるのか…」



        典型的な貴族将軍のあやつに勤まるのか…?

        演習とはいえ街中で行うのだ。下手な指揮をすればそれこそパニックを起こす危険性がある…



        「はい。その他にもあまり実戦に赴いた事のない将校らが指揮官に任命されております。」

        「まぁ、演習ですから然程経験がなくとも勤まるとは思いますが…少し気になりまして。」

      



        フム…確かにあまり聞いた事のない将校らが名を連ねておるな…



        「ユノーが出来ると判断したのだろう。だったら何も言う事などない。」

        「しかし!」

        「それ程不満なら自分でユノーに売り込むがいい。指揮官に使ってくれと。」



        くすくす笑いながら書類を机の上にバサリと放り投げ、長椅子にもたれかかり眼を閉じる。

        こうなってしまえばもう何を言っても聞いてはくれまい。



        やむを得ずグランは眼を閉じているブラッドレイに敬礼をかざし、その場を後にした。







        再び孤独の空間に浸るブラッドレイ…



        静かに眼を開け放り投げた資料を手に取り一枚、一枚しっかりと眼を通す。



        計画は半年前から決まっていた。内容的には何ら問題ないはずだ…

        

        



        まして総責任者はあのユノー将軍だ…

        数々の戦渦を二人で切り抜けてきた戦友…        





        何だ…





        この違和感は…

        



        数多くの危険を回避してきたこの「勘」が、何かをブラッドレイに訴えていた。





        仕方がない。今度中央に戻ったら少しユノーを訊ねてみるか…

        



        



        全く…少しも休む事など出来ない…くだらない心配事ばかり持ち込みおって!





        セントラルについたら久々にマスタングを呼びつけるか。

        今度はどの手で行くか。電話か…?召集令状か?



        あやつは次に何を要求するだろうか…?



        情事の度に過度の見返りを求めてくる。与えるべきか、突っぱねるべきか。

        その駆け引きが楽しくて堪らない。



        マスタングに与える権限が強まれば強まるほど、自分の地位を確実に狙ってくる。







        そのスリルと高揚感が今の退屈な生活に張りを持たせてくれる。









       

        私の愛しい玩具は、今何をしているのだろうか…















        

        

        西部の砂漠を歩き続け、エドとアルはようやく駅のある街へと辿り着いた。

        水分を補給し、食料を手に入れ、いそいそと駅へと向う。



        「切符はどうする?どこに行くの?」

        「決まってるだろ?東方司令部だよ!大佐に会いに行く!!」

        「今から行くの?着くの夜になっちゃうよ?一晩泊まって明日の朝出発したら?」

        「やだ!!今すぐにでも大佐をやりたい!!」



        鼻息荒く切符売り場に向おうとする時、一人の軍人がエドに近づいてきた。





        「エドワード・エルリック、鋼の錬金術師殿ですか?」

        人なつこそうな笑顔で敬礼をかざし、エドが答える前にさっと手紙を取り出した。





        「…?何?これ。それにあんた誰?」

        「失礼を!自分はサイファン中尉であります!鋼殿をお待ちしておりました。」





        不思議そうな顔で中尉を覗き込むエドにかまわず、サイファンは手紙を手渡した。



        「だから何なんだよ!この手紙は!」

        「セントラルからです。あなたを探して渡すよう命令されました。」



        抑揚のない返事だ…ま、軍人って言うのは大概がそうなんだけど…

        にしてもよく俺がここにいるって分かったな…?





        「賢者の石の情報を辿ればお会いできると思いましたから。」

        エドの疑問を聞いていたかのようにサイファンがにっこり笑って答えた。



        「ふ〜ん…で、何なのさ、この手紙は。」

        「私はただこの手紙を渡し、セントラルまで護衛しろと命令されただけですので、お答え出来かねます。」



        そう言うとサイファンは切符売り場でセントラル行きの切符を2枚買うと一枚をエドに手渡した。



        エドはあっけに取られ、アルは一瞬のわだかまりを覚える。







        この人…僕が見えてないのかな…?





        「ちょ、ちょっと待てよ!アルの分は!?」

        「自分は鋼殿をお連れするよう命令されております。」

        「ふざけんなよ!アルは俺の弟でどんな時でも一緒なんだ!アルも一緒に連れて行くぞ!切符代出せよ!!ケチ!」



       

        兄さん…兄さんの方がせこいって…



        そう思いながらもアルはサイファンの方をちらりと見る。

        サイファンはエドの方しか見ていない。





        まるで命令以外は何も見えない様だ…



        エドが何度も訴えてもサイファンは「命令ですから」の一点張りで、とうとうエドも諦めアルの分は自分で買い求めた。

        セントラル行きの列車に乗り込み、サイファン中尉と向かい合わせに二人は座る。

        何の為にセントラルへ行かなくてはいけないのか、誰の命令なのか色々聞いてみたが全く答えようとはしない。





        何だか気味が悪いな…アル…

        ウン…命令に忠実なんだろうけど…何か変だね…





        考えても始まらない、と思ったのか、エドは渡された手紙をしげしげと見つめていた。







        白い封筒に赤い蝋で封印されていて、そこには大総統府の紋章が押されておる。





        大総統から…??そんなはずはないな…じゃ、誰からだろう…

        ピッと封印を破り、中の手紙を取り出す。



        『国家機密に関わる会議に出席を要請する。セントラルに召集せよ。他言無用。一人で来るように』





        何だ…?これ…





        「兄さん、何て書いてあったの…?」

        「中央司令部に来いってさ。わざわざ手紙で召集するなんてご苦労な事だね。」



        エドはにっこり笑いながら手紙をポケットに無理やり詰め込んだ。







        何だろう…嫌な予感がする…

        アルには何も言わない方がよさそうだ…



        サイファン中尉は護衛と言うより監視って感じだしな…







        まぁいい…セントラルまではまだまだかかる。一眠りさせてもらお〜っと







        アルの膝に足を乗せ、エドは座席にゴロリと横になり「着いたら起こして」とアルに告げて眼を閉じた。



        「あ〜あ、兄さんったら…すみませんサイファン中尉…」

        兄の態度を代わりに謝罪したが、サイファンはアルを見向きもせず、眠ってしまったエドにだけ視線を向けていた。

        勿論、声をかけてもそれが返ってくる事もない。





        何だ?この人…



        本当に僕の事見えてない感じだ…

        命令に忠実な為…?



        ううん、命令以外の事に関心がないみたいだ…





        まるで人形の様…人の暖かさを感じない。



        





        何だか…嫌な予感がする…

        



        二人の不安をよそに、列車は確実にセントラルへと向っていく。

        到着するのは恐らく夜遅くになるだろう。



        



        バラバラだったすべてのコマがセントラルに揃っていく…











        そこで何が繰り広げられるかは、まだ誰も知らない…











        To be continues.





  
   






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