ゲームを征する者 10
3:00 ゴーン…ゴーン…ゴーン… 「3時か…」 鐘の音を3つ聞き、ロイは肩を落とした。 たかが自分の執務室に行くだけなのに、何故こんなに時間がかかっているんだ… それはこのゲームのせい。 もうそんなに残っていないだろう参加者が、自分を見つけようと必死になっていた。 チームを組み、ローラー作戦で探しているらしい。 お陰で一人に見つかるとすぐに仲間が飛んでくる。 それらをなぎ払う為に戦っていると、あっという間に時間が過ぎていく。 それにまずい事が一つ… 発火布が使えない事がばれたらしいのだ。 これだけ襲ってきても、焔を出さないのはおかしいと感じた兵士の一人が、ロイの右手に触れてきたのだ。 すぐにその手を取り、なぎ倒してやったが… その際に、湿っている発火布の事に気がついてしまったのだ。 瞬く間にそれは広がり、襲ってくる兵士達にも余裕の表情が見えていた。 「焔の出せない大佐なら…」 そう思ってくる輩は多い。 だが、見くびってもらっては困る。 下士官ごときに組み敷かれるような私ではない… 以前よりも増して闘争心が生まれているロイに、誰一人敵う者はいなかった。 中庭に降り立ち、向かいの建物に向って歩き出す。 あたりの気配に気を使いながら、ロイは東の空を見つめていた。 まだまだ明けそうにないな… 苦笑しながらも気を引き締め、執務室へと向う。 この建物の2階の奥。 そこに行けば新しい発火布の手袋がある。 手袋さえ手に入れれば、もはや敵う者はいない。 そう、あのエドでさえも… 「いたぞ!あそこだ!」 ちっ、またか… 何度この言葉を吐き出したことか… 建物に飛び込み、急いで階段へと向う。 だが、その階段の上からバタバタと足音が聞こえてきた。 今はなるべく体力を使いたくないな… そう思い反対方向へと足を向ける。 だがその方向からも数人の足音が聞こえてきていた。 まずい…かなりの人数だ。 果たして逃げ切れるか… 「大佐!こっちです!早く!!」 声に驚き、聞こえてきた方向を見ると… 「フュリー曹長!?どうして…」 「早く!ここなら誰も気づきません!!」 考えている暇はない。今はこの場をやり過ごすことが先決だ。 ロイは素早く体を動かし、フュリーが隠れていた階段下の小さな扉の中へと身を潜めた。 「どこに行った!?」 「さっきまでいたはずだぞ?」 「くっそ〜また逃げられた!」 「夜明けは近い!早く探せ!」 バタバタと足音が遠ざかっていく。 辺りがシーンと静まった時、ロイとフュリーは同時に息をついた。 「大丈夫ですか…大佐…」 「あぁ…お蔭で助かった。ところでここは何だ?」 人が二人も入ればそれだけでいっぱいになりそうな小さな部屋。 周りに壊れた機械も散らばっていた。 「物置みたいなものです。時々壊れた無線機とか電話とか置いてあるんですよ。」 「ちょっと部品が足りない時なんかはここを覗いて少し失敬して…」 はっと慌てて口を押さえ、真っ赤になってロイを見つめた。 「今のは聞かなかった事にしよう。ま、壊れた機械なら別に構わんと思うしな。」 優しく微笑むと、フュリーの頭をそっと撫でる。 その時、首に光る物を見つけ、とっさに軍服の襟を掴みそれを見定めた。 「首輪…!?曹長…お前も参加者だったのか…」 フュリーは手で首輪を隠し、すまなさそうに頷いた。 ロイは頭を抱え、声を上げて笑った。 眼に涙を浮かべながら… 「大佐…?」 「情けない…お前にまでそういう眼で見られていたなんて…」 ハボックやブレダなら何となく分かる。 だが、まさかフュリーにまで… そう思うと自分の不甲斐なさに涙が出てくる。 「大佐、僕はそんなつもりは…」 「では、何故ゲームに参加した。あの時そのまま帰っても良かったはずだ。」 フュリーは恥ずかしそうに俯いて、事の真相を話した。 ロイはその訳を聞き、フュリーらしいな…と小さく笑った。 「だったら自分でその首輪を外せばいいじゃないか。何もこんな所で隠れてなくても…」 「で、でも受付で自分で外しちゃ駄目だって言われたから…」 「そんな事、誰もわからないじゃないか。今ここで外しても…」 その言葉を聞いたフュリーは眼を見開いて驚いていた。 「…大佐…ご存じなかったんですか…?」 「?何の事だ…?」 「そうか…僕だけが気がついたのか…いや、僕だから気がついたのかもしれない…」 フュリーの真剣な顔を見て、ロイはすべて話せと命令を下す。 ゲーム中は階級は関係ないのだが、フュリーにとってロイはどんな時でも『大佐』という存在だった。 「この首輪、無線機になってます。無線機特有のかすかな音が僕には聞こえましたから。」 「無線機!?」 「それと、無線機から出る周波数を上手く利用すれば、その人が今どこにいるかも分かるんです。」 だから、自分で外せば絶対にばれると思って… フュリーは切れた首輪を幾つか取り出し、ロイに差し出した。 「よく出来てますよ。こんな小さな無線機は僕も見た事がない。」 「不思議なのは、無線機の機械が布に組み込まれているって事です。こんな事が出来るのは…」 「錬金術師だけだ。それも並みの錬金術師では無理…」 エドだ…あいつがこれを錬成したのか… だが、あいつは片腕をなくしている。すると、その前からすでにこの首輪は作られていたって訳だ。 何が結晶の錬金術師の件の処分だ… このゲームは始めから仕組まれていたんじゃないか!! セントラルから大勢の上層部たちがここに来たのは、ゲームを開催する為だったんだ。 スカーの襲撃で私に対し、いい理由が出来たって訳だ。 私は始めから景品として扱われていたんだ… 怒りが更なる闘争心へと変わっていく。 そちらがそういう事なら、自分は逃げ切るまでの事! そう簡単に思い通りにはさせないぞ… 「フュリー、ありがとう。貴重な情報をくれたな。」 「い、いえ!お役に立てて光栄です!」 「首輪、今私が切ってやろう。」 「あ…あの…大佐…」 「何だ…?」 フュリーが真っ赤になりながら、ロイのほうに顔を近づけてきた。 「…一応…ゲームの参加者ですから…報酬を頂けたら…」 「フュリー???」 その気はないとお前ははっきり言っただろうが!! 「等価交換…で…あの…」 ロイはぐったりと肩を落とした。 その言葉を口にされたら、拒否する理由がなくなってしまうだろうが… 「…キスだけだぞ…」 「あ、はい!!それだけでもう!!」 やっぱりお前もその気はあったんじゃないか… そう思いながらロイはフュリーのキスを受け入れた。 To be continues.