ゲームを征する者 9
2:30 暗闇の廊下から、ゆっくりとエドが近づいてくる。 本来なら、この状況下、救世主になるはず何だろうが… 「何してんのさ、ハクロ将軍…あんたはゲームの参加者じゃないだろう?」 「鋼の…」 「あんたはただ巡回だけしてればいいんだよ…」 静かに、だが威圧的に言葉を発していく… エドは国家錬金術師とはいえ、ハクロと比べればはるかに階級は下だ。 それでもエドの方が威圧感を感じるのは、後ろに大総統の影が控えているからかもしれない。 いや…エド自身から滲みでるその力強さも影響している。 大総統とエド…この二人が手を組んだら、恐らく向う敵はいないだろう… ハクロもその事を本能で感じているのか、顔がみるみる青冷めていく。 「ま、待て、鋼の。私はただ…」 「さっさといきな…ゲームの邪魔だ。」 ハクロはロイから手を離し、屈辱に顔を歪ませながらその場を立ち去っていった。 「エド…お前もやっぱり参加したか…」 「当たり前じゃん。大佐は俺の物なのに、こんな好き勝手されて黙っていられる?」 ロイの目の前まで歩み寄ってきたエドを、ロイは苦笑交じりで見つめていた。 「お前が参加しないのは変だと思っていた。いつかは来ると思っていたよ…」 「だが、これはゲーム。私に触れたければ、戦え!鋼の!」 ロイが発火布をかざすと、エドが馬鹿にしたように笑った。 「そんな使い物にならない手袋かざしてどうするの…湿ってるんでしょ?それ。」 「?何故それを…」 「ヒューズ中佐とした時、それを咥えて声を殺してた。あんたを守る発火布をあんたの唾液で濡らすなんてね…」 何故…だ?どうしてそこまでエドが知っているんだ…? ハクロ将軍にしてもそうだ。 ヒューズの事を知ってたし、何より、何故私の場所を知ることが出来たんだ…? 「ふふっ…どうして俺がそこまで知ってるのかって顔してるね…」 「エド…」 「今はそんなことどうでもいい。俺も片腕だから、錬金術は使えねぇからな…」 「錬金術なしで私とやるか…」 「体術にも自身はあるよ。片腕でもあんた相手なら充分さ。」 ロイは手袋を外し、戦う体制をとった。 「馬鹿にするな。伊達に若くして大佐の称号を手に入れてないぞ。」 「へぇ!体だけで手に入れたのかと思った。」 そう言うと、エドはロイ目掛けて突進した。 素早い動きで、ロイに左手を突き出す。 ロイは右手でかわし、左手を逆にエドに突き出した。 「おっと!」 身を反転させてそれをかわし、体勢を整える。 「やるじゃん!」 「お前もな。」 二人の間に特別な空気が流れ出す。 ロイはエドが嫌いではなかった。 むしろ、真直ぐに自分に想いをぶつけてくるエドが好きだった。 時折、激しく自分を求め、それ故にプライドを粉々にされる時もある。 それでも、腹に何か含ませながら自分を求めてくる上官たちに比べれば、エドとの行為ははるかに心地よい。 そう…エドとロイは、歪んではいるが恋人同士なのだ。 「小さいから中々すばしっこいな。」 「小さい言うな!!」 我を忘れて突進してくるエドに、ロイは拳を見舞わせる。 「いてっ!!」 反動で倒れると同時に、左手で体を支え、足を回してロイの足元をすくった。 「うわっ!」 ふわりと体が浮き、ロイは尻餅をつく。 慌てて体を起こした時、エドがその上に乗っていた。 「俺の勝ち。」 「…ハァ、ハァ、腕を上げたな…」 「あんたもね。デスクワークばっかりだから鈍ってるのかと思った。」 お互いの頬にそっと触れる。 どちらからともなく唇を合わせ、夢中で舌を絡ませる。 エドが軍服に手をかけた時、ロイが慌ててその手を掴んだ。 「待て、ここでは駄目だ。」 「何で。ゲームなんだから、どこでどうしようと別にいいじゃん。」 こんな所でしたら、他の参加者に見つかってしまう。 そうなったら… 「私が他のやつらにやられるのが嫌で参加したのだろう?だったら…」 「ふーん…そう言うこともあるのか…それも結構いいかもしれないな。」 あんたを大勢で輪姦する。 そんな姿も見てみたい。 「エド!」 ロイは慌ててエドを振り払い立ち上がった。 今のは冗談なんかじゃない。本気だった。 本気で他の兵士達に自分をやらせようと思っていた… これだからエドが時々分からなくなる。 私の事を本気で愛しているのか… その時… 暗闇の廊下から、人の気配がしてきた。 ゲームの参加者だ。物音を聞きつけて集まってきたんだ。 「エド!」 「分かってる。大丈夫、さっきみたいな事させる訳ないでしょ…」 くすくす笑いながら、エドはすっと立ち上がり、暗闇の廊下の方を向いた。 「ここは俺が食い止めるから、あんたは早く発火布を取りにいきな。」 「しかし…」 「何?ここに残って輪姦されたいの?俺はそれでもいいけど…」 ロイの方を振り向いてにやりと笑う。 やっぱりエドは本気だ… ここにこれ以上いれば、とんでもない事になりそうだ。 「すまない。後は頼む。」 そういってロイは足早にその場を立ち去っていった。 「…ひでぇよな…一度も振り返らないで行きやがった…」 この借りは後できっちり返してもらうからな… 廊下から姿を現したのは、数人の兵士達だった。 「今、ここに大佐がいただろう??」 「いたよ。でももう行っちゃった。」 「では、どいてもらおうか。後を追いかければ今なら…」 「間に合うかもしれないけど、駄目。俺が通さない。」 数人の兵士達はとっさに臨戦態勢をとる。 こんな子供で、しかも片腕だから… そう油断したかもしれない。 だが、今目の前にいるのは、あの鋼の錬金術師、エドワード・エルリック… 兵士達がその事実を知ったのは、首輪が切り裂かれた後だった… To be continues.