ゲームを征する者   8










       2:00







       東方司令部の時計が鐘を二つ鳴らしていた…







       「二時か…夜明けまではまだまだだな…」

       「夜明けは大体何時ごろなんだろう…」

       「さぁな…ま、明けない夜はないから、いつかは朝になるさ。」





       人事だと思って…

       そう思いながらもこの重苦しい雰囲気を和やかにしようとしているその心使いがありがたかった。





       「発火布のスペアはどこにあるんだ?」

       「私の執務室の机の引き出しの中だ。ここからだとちょっとあるぞ…」





       広大な司令部内。ロイの執務室はこことは別の棟の奥にあった。





       「ヒューズ…」

       「なんだ。」

       「すまない…こんな事に巻き込んでしまって…」



       ロイがヒューズの顔をじっと見つめ、すまなさそうに俯く。





       参ったなぁ…そういう顔をするから、こんなゲームする羽目になったんじゃないか…





       頭をかきながら、「気にするな。」と肩を叩き、なるべくロイの顔を見ないように歩いていった。 







       ロイがあまり本調子ではなかったので、走らず、歩いて司令部内を進んでいく。



       なるべく体力は温存した方がいい。



       ヒューズの提案で、ロイはしぶしぶ歩いていた。

       





       本当ならすぐにでも手袋を取りに走りたい。

       だが、焔を出すには体力がいる。



       手袋をとっても肝心の焔を出す体力が失われてしまっては元も子もない。





       歩きながら、ヒューズは世間話をずっとしていた。

       殆ど娘の事だったが…



       一見すれば親友同士が司令部内を話しながらただ歩いているように見える。







       だが、今はゲームの最中…



       その景品は自分自身…



       

       油断しているように見えて、ロイは絶えず緊張感を維持し、あたりの気配に気を配っていた。







       時折物陰からゲームの参加者が襲ってきたが、発火布をかざすだけで逃げていく。

       構わず襲ってきても、ヒューズのナイフで首輪を切られてゲームオーバーになってしまっていた。







       「しかし、ひっきりなしに襲ってくるな…よほどお前さんとやりたいらしい。」

       「全くだ。私のどこがそんなにいいのかね…」





       その言葉を聞いて、ヒューズは苦笑した。



       本当にお前は自分の事を何も分かってないんだな…





       しなやかな黒髪、吸い込まれそうな漆黒の瞳。男を誘うような腰つき。





       そしてその性格。人を小ばかにしたようなその態度。







       いつか押し倒して啼かせてやりたい。







       東方司令部の誰もが描く欲望。







       こりゃ、1年毎にゲームをしなきゃ収まらんかも知れんな…



       「ヒューズ、何してる、さっさと行くぞ!」

       ロイに急かされ、ヒューズは笑いながらその隣に肩を並べ、歩いていった。











       ガタン…







       曲がり角の方から気配を感じる…



       ちっ、またか…

       二人がそう思った時…









       「ヒューズ中佐だな…」



       下士官とは違う、威圧的な声が聞こえてきた。



       「ハクロ将軍閣下!?」

       ヒューズとロイが思わず敬礼をしてしまう。



       今は階級は関係ないのに…身についた習性は怖いな…





       ロイとヒューズが恐らく同じ事を考えていたのだろう、同時に苦笑した。





       「失格者と排除しに来た。ヒューズ中佐。君は失格だ。早急に司令部から出て行くように。」

       「待ってください閣下!ヒューズは…」

       「マスタング大佐、君はまだゲーム続行中だ。景品は口出し無用。」





       景品と言われ、ロイは激しい屈辱を感じる。 



       冗談じゃない!好きでこんなゲームの景品になったんじゃない!

       怒りで拳を握り締めていると、その手をそっとヒューズが握った。





       耐えろ…こんなやつでも一応将軍閣下だからな…





       そう伝わってきたような気がする…





       ヒューズに触れられただけでロイは冷静さを取り戻していく。









       「ハクロ将軍、自分は大総統閣下に頼まれてロイの身辺を警護しております。」

       

       その言葉を聞いて一番驚いたのはロイだったのかもしれない。





       ヒューズもこのゲームの主催者側だったというのか…?





     

       「知っておるよ。だが、失格者、ヒューズ中佐を排除せよと大総統閣下直々に命令を受けてね。」

       「行きたまえ。これ以上命令無視をすれば、この場で銃殺もありえるぞ?」





       成る程…俺とロイの事がお気に召さなかったわけか…







       「仕方ねぇな…今死ぬわけには行かないし。」

       「ロイ…一人で大丈夫か…?」





       大丈夫…とはっきり言えればそれに越した事はない…







       だが、発火布なしでこのゲームを乗り切れるかどうか、自信が…







       「大丈夫だよな。焔の錬金術師、ロイ・マスタング大佐。」





       …そうだ…何を弱気になっているんだ…

       私は国家錬金術師、ロイ・マスタング…



       こんな事ぐらいでへこたれてどうする!







       「大丈夫だ。心配するな、ヒューズ。」





       ロイの瞳に強い輝きを確認すると、ヒューズはにっこり笑い、ロイの肩を叩いた。



       そのままグイッと自分に引き寄せ、唇を奪う。





       「んっふうっ…」

       舌を絡ませながら、長いキスをかわす。  

   



       濡れた唇を指でなぞりながら、おでこをコツンとあわせた。

       「幸運のキスだ。無事逃げ切れるようにな…」





       ハクロ将軍に促され、ヒューズは後ろ髪を引かれつつ、ロイの傍を離れ、東方司令部を去っていった。

    







       「ヒューズ…」

       「随分と気に留めるんだな…中佐を。やはり体を繋げた親友は気になるか?」





       ハクロが意地悪く声をかける。





       …?何故ヒューズとした事をこの男は知っているんだ…?







       「どいて下さい。ゲームの途中です。」

       「くくっ、ここの司令部の連中は本当に君に対しあらぬ妄想を抱いていたんだね。」





       無視して立ち去ろうとするロイの腕を、ハクロがグイッと掴み、壁に押し付けた。





       「閣下!?」

       「私ら上層部はこんなゲームなど参加せずとも、容易に君を手に入れることが出来る…」





       ロイの顔に舌をはわし、ロイは嫌悪感で顔を歪ませた。





       「しょ、将軍、止めてください。あなたはゲームの参加者ではありません。」

       「そうだ…だが主催者側でもある。これは特権かな…?」



       にやりと笑いながら、首輪が光るその首筋に唇を移していく。





       右足をロイの両足の中に割り込ませ、片手を下腹部へと這わす。



       「や、はな…せ…」

       「いかんなぁ、上官にそんな言葉を使っちゃ…」





       顎を掴むと、無理やり自分の方に向かせ、その唇を犯す。

      

       「んんっ!」

       ヒューズの時とは全く違う、欲望だけのキス…





       こんな所で、こんな事をしている暇はないのに…







       身体つきもがっしりしているハクロを、ロイは押し戻す事が出来ず、成すがままにされていた。









       ハクロの片手が、ロイのズボンのベルトにかかった時…















       「…何やってるんだい?ハクロ将軍…」











       聞きなれた声…





       いや、今の状況ではとても救世主になるとは思えない声の主…









       「エド…」





       片腕の錬金術師が暗闇の廊下から姿を現した。











       To be continues.





  
   




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