ゲームを征する者 14
4:20 重苦しい空気が執務室の中に充満する。 鋼と焔… 二人の錬金術師がその視線をそらさずに見詰め合っていた。 「大佐…」 思わず声をかけるが、それ以上言葉が出なかった。 「…これを錬成したのはお前だそうじゃないか…」 痛いほどの沈黙を破ったのは、ロイだった。 首にはめられてる首輪を右手でさすり、怒っているとも何とも言えない口調で語りかける。 「うん。よく出来てるでしょ?俺は腕輪にするつもりだったんだけど…」 「大総統が、欲情した狗が軍の狗を追いかけるんだから首輪がいいってさ…」 よく言うぜ…全く。あんた達にとって俺たちは犬畜生と一緒かよ… ハボックが心の中で悪態をつく。 言葉にする気力は到底あるはずもない。 「どう?皆に追いかけられた感想は…?」 「エド…」 「ここの人たち皆、大佐に邪な気持ちを抱いてたって言うの実感した?」 「エドワード…」 「ここに来る度に、俺がどんな気持ちでいたのかあんたは分かんなかっただろうけど…」 ハボック少尉を始め、皆が欲望の眼差しで俺の恋人を見ている。 一緒に歩けば、どす黒い嫉妬心を浴びせられる。 「子供の癖に…同じ錬金術師同士なだけだ…単なる遊び…」 「そう陰で言われていたの…あんたは知るはずもないだろうね…」 にこやかに…だが激しい想いを秘めてロイに語る… 「そんなときに大総統からこのゲームの話を聞いた。協力しろって言うからしたんだけど…」 「大佐に指一本触らせないって条件だったのにさ…」 チラッとハボックの方を見る。 それだけでハボックは背筋がぞっとなった。 さっきまで自分はロイと肌をあわせ、その顔を、その声を共有していたのだ… 「それでもここの人たちが少しでも大佐に対しての欲望が薄まるならって思ってた…」 「なのに!あんたは何人のやつに触れられた!?」 エドの声が段々大きくなる…感情のコントロールが利かなくなってきたのか… 「名も知らない下士官の精液を飲まされてた!」 「そうだ…」 「ヒューズ中佐ともしてた!」 「私の疼きを解消した…」 「ブレダ少尉にもやられてた!ファルマン准尉にだって…」 「仕方がなかった事だ…」 「ハクロ将軍にだって!」 「上官命令には逆らえん…」 「フュリー曹長だって!」 「…あれは予想外だったな…」 くすっと笑ったロイを見て、エドはついに爆発した。 「さっきまでハボック少尉に抱かれてたくせに!!」 その声の大きさに、ハボックはただならぬ恐怖を感じた。 子供ゆえに暴走する… 大佐!?ちょっとやばいんじゃないんですか?? 「可愛い部下の願いを聞いてやっただけだ…」 「大佐!!!」 エドとハボックが同時に声を上げ叫んだ。 エドが机から飛び降り、ロイ目掛けて突進する。 「大佐!」 ハボックが叫んでエドを止めようと駆け寄った。 バシッ!! エドの左手が、ロイの頬を殴りつける。 ロイは微動だにせず、その怒りの拳を受け入れた。 「ハァ、ハァ…あんたは俺の物だ…」 「エド…」 「俺だけの物だ…」 眼に涙を浮かべ、怒涛の表情を浮かべ、左手を握り締める。 そっとその手を取り、自分の頬に添える。 「私はお前の物だ…エド…」 「誰と体を重ねても…私は満足などしていない…」 「大佐…?」 「まだ…まだ…物足りない…エド…」 その手の甲にキスをすると、自分の首筋へとなぞらせ、そのまま下腹部へと誘導する。 そこにはしっかりと自己主張しているロイ自身があった。 エドは少し驚きながらロイの顔を見上げる ロイは優しく微笑むと身を少しかがめてエドに口付けをした。 ハボックも眼をそらしたくなるくらい濃厚なキスを交わすと、ロイは自分の机に腰掛けた。 「大佐!そんな暇ないっすよ?早く手袋はめて逃げなきゃ…」 「少尉!!邪魔しないで!!」 エドが激しく怒鳴りつける。エドもすっかりその気になっているのだ。 「ハボック…もう何も言うな…」 エドとは対照的に静かに諭すようにハボックを叱る。 何でです?大佐? さっきの放送聞いたでしょ? もうすぐここに大勢の兵士達がやってくるんですよ!? 大佐としての威厳も、何もかも捨て去る気ですか!? この小さな錬金術師に為に…? 大きめの机の上にエドも乗り上げる。 ロイは両手を広げ、愛しい人を迎え入れた。 唇を奪い、舌を絡め、互いの口腔を執拗に攻め立て、再び濃厚なキスを交わす。 ロイの表情は恍惚として、そのキスを思う存分味わっていた。 俺の時のキスは、あんな顔はしなかった… ハボックは、ロイにとっての自分とエドとの違いを思い知らされる。 エドがロイの首筋に唇を落としていくと、それだけでロイは小さく悶え、甘い喘ぎ声を上げ始めた。 その声があまりにも淫猥で、ハボックは眼をそらすことが出来なかった。 その時… バタバタバタ… かなりの足音が近づいてきた。 放送を聞いた兵士達が、執務室へと向かっているんだ… さっと我に返ったハボックは、二人を止められない今、このドアを締め切ってしまえばと思い ドアの取っ手に手をかけた。 だが、ドアは外からの強い力で押し開かれてしまった。 「なっ、どうして!?」 「いかんよ、少尉。このゲームの本当の目的はこれだったのだから…」 ドアの向こうから隻眼の男が現れ、ドアに手をかけているハボックの手をそっと取り除いた。 「大総統閣下…何で…」 「大佐はエドワードの物…それをこの東方司令部の皆に知らしめるのが、真の目的。」 「何を言ってるんです…?」 大佐の処分じゃなかったのか…? 「君を始め、ここの連中皆、大佐に対しあらぬ妄想を抱いていたからね…」 「エドが大佐に会いに行く度に、精神が病んでいった。」 さっきエドが大佐に訴えていた事か… 「大佐もちゃんと知らしめてやればよいものを、体裁ばかり気にしおって。あれではエドが壊れるのも無理はない。」 「荒療治も兼ねてゲームを開催したのだが…」 たいした人だ。あんた。たった一人の錬金術師の為にこんな大掛かりなゲームを開催しちまうんだから… 「思いの外私も楽しめたよ。マスタングは全く持って虐め甲斐のある狗だな。」 …本当にたいした人だな…あんたは… 大佐の未来に同情するぜ… ゲームに生き残っていた参加者が、部屋の前まで駆け足で来た時、ドアの傍に立つ人物に驚き足を止めた。 「来たか…大佐は中だ。だが、すでに戦利者の物となっておる。」 「果たして、貴様らに奪い取れるかな…?」 数人の兵士が部屋の中になだれ込んだ時… 「あっあああ…エド…」 執務室の机の上で横たわるロイは、足を大きく広げ、エドを迎え入れていた。 To be continues.