ゲームを征する者   16












       翌日…







       ごく一部(ホークアイ中尉など)を覗いては、東方司令部のほぼ全員が寝不足に陥っているだろう。





       今、敵に攻め込まれたら、恐らく瞬く間に陥落する。



       東方司令部の最高責任者は、とんだとばっちりを受けたと深いため息をついた。







       全く…マスタング大佐の周りは賑やかで退屈はせんが…







       大総統閣下の見送りはあの男に任せて、今日は早々に司令部内はお開きだな…

       皆、欠伸ばかりでは仕事にならん…





       白い髭の、人の優しそうな将軍は、用のない者は早々に家に帰るよう訓示を出した。











       「結局…俺たちは大佐とエドの大将の当て馬だったって訳??…」

       ブレダが欠伸をしながらハボックに話しかけた。





       「まぁ、そんな訳だ。いい迷惑だよな…東方司令部全部を巻き込んだんだからさ…」





       「…まぁ…悪い事はなかったけど…結構面白かったし…」

       「お前も俺もしっかり出来たしな…」



       「私も情報はばっちり手に入れましたし…」





       「フュリーもどさくさに紛れて大佐を可愛がったそうじゃないか…」





       「ぼ、僕はそんな!?」

       いきなり振られて、しどろもどろになり、慌てふためくフュリーを見て、ハボックは意地悪く笑った。





       「他の連中も皆こんな気持ちなのかな…?」





       なんだかすっきりしたような、晴れ晴れとしたこの気持ち…





       「大佐はエドの大将の物。それが瞬く間に司令部内に広まったからな…」

       最後まで残った参加者が見た光景は、司令部内にすぐに広まり、その時のロイの恍惚とした姿を想像しただけで、

          皆、体の中が熱くなっていった。





       と、同時にそれはエドでしか見せる事のない姿だという事も思い知らされる事となり、大多数の兵士達がロイに対しての

       邪な思いを拭い去っていった。







       後に残った感情は、大佐への諦めの脱力感とエドに対する敗北感…

       敵わないと悟った者は、後は笑うしかないのだ。





       「しかし、お前はラッキーだよな…最後のあの大佐の姿を見たんだろう?綺麗だったって噂だぜ?」

       ブレダが羨ましそうにハボックに詰め寄る。



       詳しく話せと煩く吼えるブレダを片手で制し、口を押さえ込む。





       「やだよ、勿体無い。あの光景は俺の特権。最後まで残った者への特別ボーナスだ。」







       それに、どう説明していいのか皆目分からない…



       あの美しさを言葉で表す事が果たしてできるだろうか…





       「そういや、大佐は?」

       「大総統閣下のお見送りだとさ。あの人が一番辛いのにご苦労なこった…」





       エドも腕を直しに故郷へ帰っていった。

       また…ここは静かになるかな…





       タバコの煙を嫌うホークアイ中尉の為に、ハボックは窓から身を乗り出してタバコを吸い出した。











        

       セントラル行きの列車の前で、大勢の軍服を着込んだ者たちが右往左往していた。

       多くの上層部の人間が、大量にこの田舎町に来たので、司令部の兵士達ではまかないきれなかったのだ。







       特別列車を用意し、そこに次々と乗り込んでいく。





       一際人数が多い場所に、隻眼の男が立っている。



       その隣には、昨日のゲームの主役が眠い眼を堪えて傍に控えていた。







       「ハボックから少し聞きました。全てはエドの為だったとか…」

       「君があまりにもつれなくあしらうからだ。エドはあれでも繊細な子なんだよ…」



       ロイは何も言い返せず、黙ってブラッドレイの顔を見つめていた。





       「ま、これで君も充分身にしみただろうがな…」

       すっと伸ばした手がその黒髪に触れ、さらりと手でかき分けていく。







       ロイは少し緊張した表情で、ブラッドレイの手の感触を感じていた。

      



       「でしたら、何もあんな大掛かりなゲームなど開かずとも、私に直接言って下さればすんだ事でしょうに…」

       「口で言うより、実際に体感させた方が効くと思ってね。」

       



       にこやかに笑い、ロイの頭をポンポンと叩く。





       まるで言う事を素直に聞かない子供を諭すように…





       「それに私もこの方が充分楽しめる。君を虐めるのは本当に心が弾む。私の安らぎのひと時だな。」

       頭に載せた手をそのまま頬へと移動させ、からかうように撫でまわす。



       キッとブラッドレイを睨みつけ、だがその手の愛撫に黙って耐える。。



       ふざけるな!私はあなたの玩具ではない!

       心で叫んで…声には出せない。





       出してしまえば、全てが終わる。







       「エドもこれで少しは精神的に強くなるだろう。後は君が支えてやる事だ。」

       「はっ、それはもう…」



       「君もエドワードも軍にとって大事な狗だ。これくらいの事で壊れてしまっては困る。」





       鋭い眼でロイを見据えながら、ブラッドレイは怪しく笑う。



       ロイがあからさまに不快感を示すような表情をすると、ブラッドレイは一変して高らかに笑った。





       「はっはっはっ、冗談だ。君は本当に私には隠し事は出来んな。全て顔に出ておるわ。」







       冗談?嘘だろう?本気でそう思っているはずだ。

       エドの事を心から思っての行動であるはずがない。全ては軍の為…





       あなたはそういう人だから…







       ジリリリリッ!!







       「ん?出発のベルだ。ではマスタング大佐、後は宜しく。」

       片手を挙げて軽く挨拶をすると、ブラッドレイは特別列車へと乗り込んで行った。





       「そうそう、君の可愛い部下に少し褒美をあげてきた。ゲームを面白くしてくれた礼だ。

        君も労うといい。あの金髪の長身の…」

       「ハボック少尉ですか?」

       「そうだ。彼にくれぐれも宜しくと伝えておく様に…」





       はっ、と敬礼をかわし、ブラッドレイの乗った列車が動き出した。



       ホームにいる軍人全てが列車にむけ敬礼をかざす







       ロイはその列車が見えなくなるまで見続け、もう戻る事はないと確認するまで気を抜く事が出来なかった。

















       「お帰りなさい、大佐。見送りご苦労様でした。」



       ホークアイ中尉が熱いコーヒーを持って労をねぎらう。

       ロイはそのコーヒーを飲み干し、椅子に深々と腰掛けため息をついた。





       「随分とお疲れのようですね…?少しお休みになったらどうです?」

       「いや、大丈夫だ。」

       「将軍閣下も用の無い者は早帰りをしても良いという訓示を出されました。ですから今日は…」





       ロイは眼を開け、ホークアイ中尉を見て「大丈夫だ」と微笑んだ。





       だが、その姿は誰が見ても疲労しているように映る。





       「大佐、仮眠室で少しお休み下さい。」

       「しかし、司令官たる者が昼間から仮眠室で寝るわけには…」



       「疲れた姿で椅子に座られると鬱陶しいんです!!ここは任せて、お休み下さい!」





       ほらほら、と椅子から追い出し、ロイを無理やり立たせる。



       「ハボック少尉、仮眠室まで見張って頂戴!ちゃんと休むまで眼を離さないでよ!」



       ほーい!と立ち上がると、ロイの腕をがっしり掴み、「さ、行きましょうか!」と引きずっていった。







       顔は勿論、この上なく嬉しそうに…







       昨日の件もある…ロイは身の危険を動物的勘で感じていた。



       「しょ、少尉…一人で行けるから…」

       「駄目ですよ〜〜俺、中尉に命令されましたから!上官の命令には逆らえませんもーん」  



       自分の方がはるかに上官なのだが、ハボックにとって、ロイよりホークアイ中尉の方が恐ろしい存在なのだ。 



 







      



       仮眠室につくまで、ハボックはロイの腕を決して放そうとはしなかった













       To be continues.









  
   



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