背負うべき罪   3









        広い、上質な家具が並ぶ部屋の中に、大きなベッドが一つ…







        部屋のカーテンは下げられ、外から部屋の中の様子を知ることは出来ない。



        一日中薄暗い中でベッドの上から起きる事も無く、ただ時間だけが過ぎていく。







        その眼は虚ろで、光を灯していない。

        そう…まるで死んでいるような漆黒の瞳…





        ふいに部屋のドアが開いても、その方向に眼をやることすらしない。

        大きな影がゆっくり近づいても、微動だにしないその身体。







        



        「マスタング…お前は生きているのか…?」



        ごつごつした手がその額に触れると、ゆっくりと声の主の方へ振り向いた。





        「かっ…か…」

        「フム…かろうじて生きているな…」



        動くことの無かった腕が、ブラッドレイの方へ向け差し伸ばす。

        その手を掴むと、そのままロイに覆いかぶさっていく。



        首筋に唇を落とし、内股に手を這わし、ロイ自身に触れた時…







        ロイの瞳に光が戻る。





        夢中でしがみ付き、その快楽を求め腰を振る。

        荒々しく突き上げては、生きている実感を身に沁み込ませる。



        ブラッドレイの腕の中にいる間だけ、ロイはかろうじて生きているような状態だった。



        一際高い声を上げ、何度となく果てた時、ロイは心の中で叫び続けていた。







        マース…マース…助けてくれ…







        俺を闇から救い出してくれ…











        気を失いながら小さく、常人には決して聞こえないような声で呟いたその名前を、

        ブラッドレイは聞き逃さなかった…







        「ロイ・マスタング少佐の周りに、『マース』という名のものがいるか至急調べよ。」

        「その者の素性、経歴、マスタングとの関係をあらいざらいな…」







        その2時間後…「マース・ヒューズ少佐、士官学校時代の同窓生」という報告書が

                ブラッドレイの元に届く。











        その報告書を読み終えたブラッドレイは、黒い微笑を浮かべ、秘書官にこう命令した。





        「ヒューズ少佐をここへ…」























        

        「大総統閣下が俺に?」



        いきなりの上官からの知らせに俺はいささか面食らってた。





        国家錬金術師なら話が分かるが、そんなど偉い人が何だって俺に用がある?

        訳分からずぶつぶつ言ってると、「さっさと行け!」とどやされた。





        大総統、キング・ブラッドレイ…

        イシュバールの戦いに国家錬金術師を投入させた張本人だ。

        形振り構わず…勝利の為だけに…非情なまでの殲滅作戦を展開させた。



        ロイとの連絡も取れず、どこにいるかさえわからないって言うのに…





        「上層部のおべっかは俺は苦手なんだよな…」

        頭をかきながら、仕方なく大総統府へと向かう。





        大総統の公邸も兼ねている大総統府。

        表側が公務室。裏に回れば公邸だ。



        こんな豪邸に一度でいいから住んでみたいよ…

        俺たち庶民には夢のまた夢だな…







        受付で案内され、大総統閣下のいる部屋へと通される。







        はぁぁぁ、ドキドキするぜ…こういうの苦手なんだって…



        「大総統閣下、ヒューズ少佐がお見えです。」

        「あぁ、入りたまえ。」



        重厚なドアがゆっくりと開かれ、部屋の中央にこの国の独裁者が座っている。





        穏やかな表情で笑うその顔に、イシュバールでの残酷さは感じられない。

        遠目で何度か顔は見たことあったが…こう間近になると流石に緊張する。



        「マース・ヒューズ少佐であります!お呼びと伺い参上しました!」

        ありきたりの挨拶をして、ありきたりの敬礼をかわす。



        何の用かしらねぇが、さっさと終わらせてくれ…







        「ふっ、早く終わらせてくれという顔をしておるな。」



        なっ、何で分かる?





        「余計な事は言わんでよいという事か。はっはっ…では単刀直入に言うとしよう。」



        なんて人だ。俺の心の内をすべて読み取ったみたいだ。







        「ロイ・マスタング少佐を知っておるな。」

        「ロイ!?見つかったんですか!?」



        俺はまさかその言葉を聞けるとは思わなかったので、思わず叫んで目の前の人が

        大総統閣下だっていう事を忘れてしまっていた。



        慌てて直立不動に立ち直し、「失礼しましたっ!」と敬礼をかざす。





        はっはっはっ、と高らかに笑い、「よいよい」と俺に楽にしろと告げた。





        「ロイが…見つかったんですね。どこにいるんですか…?」

        落ち着いて、もう一度大総統閣下に問いただす。

        にこやかに笑っていた閣下の顔が少し曇り、真面目な表情で語り始めた。





        「イシュバール戦線が終盤に近い頃、廃墟をふらふらと歩く人物を見かけた…」

        「気になって車を止めて近づいたら、いきなり倒れおってな。」

        「捨て置く訳にもいかず、そのまま車に乗せ本部の宿舎に連れて行った。」





        「それがロイ…だったんですか…」



        「そうだ。ロイ・マスタング少佐、焔の二つ名を持つ国家錬金術師。私もそれを知らされて驚いた。」





        試験に合格した時とはまるで違う、やつれて生気を失った死人のような顔だった。

        そう告げられ、俺は意識を失うかと思う程動揺してしまった。



        「正気を完全に失い、精神を蝕まれ、自殺未遂を繰り返していたようだ。」

        「手首に幾つもの切り傷があった。」



        自殺…未遂…?

        どうして…あいつはそんなに弱い奴じゃない…

        イシュバールで何があったんだ…ロイ…



        「今…どこに…」

        「私の公邸の一室で静養させている。軍の権威もある。外に漏れぬよう配慮はしてある。」

        



        軍の…権威…?

        ロイが壊れた事が外に漏れると、軍にとってスキャンダルになるとでも言うのか…

        病に倒れても…軍の事を第一に考えなきゃいけないのか…



        軍の狗…国家錬金術師はそう呼ばれる。





        ロイも、それを承知で資格を取ったんだろうが…





        「…会う事は出来ますか…」

        「何の為に君を呼んだと思うのかね?君ならマスタング少佐を救えると思ったのだよ。」



        「俺が…?ですか…?」

 



        何やら悪夢にうなされる時、決まってある名前を呼び続ける。





        『マース』と…



        「その名前から君を割り出した。是非とも会ってマスタング少佐を救ってやってくれ。」





        ロイが…俺の名を呼び続けていたのか…?

        あんな酷い事をしたのに…あいつを信じてやれなかったのに…

        それでもロイは俺を頼り、信じ、俺に認めて貰う為に精神を壊してまで戦ってきたのか…



        「閣下!今すぐにでも会わせて下さい!!」

        「いいだろう。私と来なさい。」





        イスから立ち上がると、閣下はドアへ向かって歩き出し、その向こうに控えていた秘書官に

        「今日の仕事は以後すべてキャンセルする」と告げて執務室を後にした。











        公務室から長い廊下を越えると、そこは大総統閣下の公邸内。

        美しい庭と綺麗な鳥たちの声が鳴き響く、独裁者の憩いの空間。



        この中に入れる者はごく限られており、俺なんて一生かけても入ることなど出来ないだろう。





        こんな特別なことを除いては…





        その奥の…一室…

        警備の為の兵士が置かれ、何だか物々しい雰囲気をかもし出していた。



        「マスタング少佐はこの部屋の中だ。明かりを嫌がっていたので部屋は暗くしてある。」

       

        「ロイ!!」

        俺は閣下の言葉を最後まで聞かずにドアを押し開けた。







        薄暗い部屋の中でベッドに一人横たわる…

       

        静かに近づき、その名を呼ぶ。



        「ロイ…俺だ…分かるか…」





        ベッドの上の人物が、ゆっくりこちらに振り向いた。









        「マー…ス…?」

        俺を認識したとたん、ロイは激しく動揺し、悲鳴を上げ頭を抱え込んだ。





        「ロイ!ロイ!しっかりしろ!俺が分かるか!お前を迎えに来た!」

        「あぁああ!嫌だ!マース!!嫌だ!離してくれ!!」



        激しく抵抗するロイを俺は力の限り抱きしめた。



        しなやかな黒髪をなで、ロイの名前を呼び続ける。







        「大丈夫だ…ロイ…俺が傍にいる…大丈夫だ…何も心配要らない…」

        「マース…マース…」



        腕にしがみ付き、嗚咽をあげながら泣きじゃくる。まるで子供の様に…

        ロイをここまで追い込んだイシュバール戦線…相当酷かったのか…





        一部始終を見届けると、大総統閣下が俺たちの傍に近づいてきた。

        優しそうな表情の中にどす黒いものが一瞬見えたのは、俺の気のせいか…





        「やはり、思い切って君に会わせて良かった。私や医者だけでは、一向に変化がなかったのだよ。」

        「閣下…ロイはこのまま俺が連れて帰ります。その方が閣下にご迷惑もかかりませんし…」

        「うむ。その方がマスタングの為にも良かろう。だが、医者は通わせるぞ?治療は続けねば効果はないからな。」



        感謝します!と頭を下げ、俺はロイの方を見た。





        眼に力がまだない様だ…虚ろな眼差しは、宙を仰いでいるようだった。









        大丈夫…俺がついている…

        必ずお前を元のロイに戻してやる!





        弱々しく俺にしがみ付くロイの手に、僅かに力が込められたのを、俺は自分の声に応えたからだと勘違いをしていた。









        俺の背中から黒い笑みを浮かべ、ロイを見据えていた闇への恐怖の為だとは、俺は全く気がつかなかった…  











        To be continues.





  
   




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