背負うべき罪   9









        ロイは順調にその地位を上げていく。





        訓練部隊から諜報、情報作戦部へ。

        そこで実績を上げ、更に上へとのし上がっていった。





        特殊作戦本部へ任命され、あちこちの戦線にも駆りだされていく。







        以前のように壊れやしないか心配だったが、冷静にその場を判断し、行動し…

        あの頃のロイとは思えないほど冷めた感覚で戦場に身を沈めていたと聞く。









        当然のように、例の黒い噂も付きまとう。



        上へ上がる度に「その部署の上官に媚を売った」とか…

        手柄を立てる度に「身体を張って得た売婦の手柄」と中傷され…



        それでも黙々と仕事をこなしていくロイ…







        その顔に笑顔が消えていたのに気がついたのは、情けない事に決意したあの日から相当経ってからだ。









 

        ロイの部屋で、ロイのベットであいつを抱く…

        そう望まれたから。「抱いてくれ」とあいつが望んだから…





        ロイが望まぬ限り俺からは抱かない。

        そう誓ったんだ。





        行為の最中でもロイは笑わなくなっていた。

        幸せそうな笑顔もない。

        ただ快楽に溺れ、淫らな顔を見せるだけ。



        それでも俺の首に腕を回し、俺の名前を呼び続ける間は気にも留めなかった。





        妙だと気づいたのはついこの間…







        いつもと同じ様に戦場から帰還したロイ。

        帰るとすぐロイは俺を呼び寄せ、求めていたが、今回はそれがなかった。



        「そんなに激しい戦闘じゃなかったのかな…?」

        ただそう思って気にしなかった。

        ロイから何も言わない限り、俺はただの親友として接するだけだ。





        ロイが帰還した次の日…



        大総統府に呼び出されたと聞いた。





        屈辱の行為の後も最初の頃はロイは俺を求めてきたが、最近はそれもなくなってきた。









        何故だ…?俺に気兼ねを…?いや、そんな間柄じゃないのはよく分かっている。

        グレイシアの事…?もしそうなら彼女と別れる。





        どうしたんだ…?ロイ…

        俺じゃ…お前を救えないのか…?









        「…ズ、おい、ヒューズ少佐!!」

        「あ、は、はい!?」

      

        オフィスで仕事している所だった…いけねぇ、いけねぇ…



        「何です?」

        「お呼びがかかっているぞ、大総統府からだ。」



        …大総統府…から…?



        「近々昇進でもあるんじゃねーか??お前、ここ暫く業績上げてるじゃねーか。」

    

        業績って言っても…ロイに役立ちそうな情報を調べているだけで…



        「諜報、情報作戦本部にでも行けば、もっと色々調べられるんだが…」

        頭を掻き、大きなあくびをしながら、「じゃ、行ってきます」と敬礼をしてその場を後にする。







        どうせあの男が呼び出したに違いない。

        ロイにこれ以上近づくな、とか。



        大総統閣下がロイに何しようと俺には関係ない。

        俺はただあいつを優しく包み込めばいい。

        受けた傷を癒せばいいんだ…







      







       



        「よくきたね、ヒューズ少佐。いや、中佐。」

        「は??何の事で…」



        大きな椅子に深々と座り、隻眼の悪魔は俺を見据えてにやりと笑う。

       

        「分からんかね?昇進だ。君は本日付でヒューズ中佐となった。おめでとう。」

        「何で俺が昇進するんです?俺は何もしてませんよ…」



        ただロイの為に、あいつの出世に役立つ裏情報を仕入れていただけだ。





        「君が色々調べているのは知っているよ。悪どい上官どもの情報をマスタングに流しているそうじゃないか。」

        

        ロイがその情報を使って上官を操作し、出世の為に利用する。

        その手が使えないときは身体を使い、意のままに操る。





        ロイが疲れたり、傷ついたりしたら、俺が抱きしめて癒していた。



        

        「マスタングは君のお蔭でかなり出世に意欲を燃やしている。その礼をこめて、ね。」

        「何を言っているんです…?何で閣下に感謝されなきゃ…」



        ロイの最終目的はあんたの地位だ。

        あんたを追い落とす為に俺達は頑張っているのに、何でその本人から感謝されなきゃいけないんだ。







        「私を目指して這い上がってくるマスタングの眼は生き生きしている。」

        「君を殺さず生かしておいて正解だった。マスタングはそうでなくてはならない。」







        「あやつを私の闇に染まらせたのは、他でもない、君のお蔭なんだよ…ヒューズ中佐。」

        「な…!?」



        ばかなっ!!そんな事があってたまるか!?

        俺はあいつをあんたの闇から救い出すために光となって手を差し伸べていたんだぞ!?





        「光が強ければ強いほど…影は濃くなるものなのだよ…ヒューズ…」



        「う…そだ…そんなはず…」



        俺の体が震えている…信じたくない事実を突きつけられ…体が悲鳴をあげている。





        「マスタングはもう大丈夫だ。君が傍にいなくてもあやつは闇に染まりながら私の元へと来るだろう。」

        「だが、君は更にあやつに情報を与えてやるといい。マスタングが上に上がれるようにな。」



        深々と椅子に座り、勝ち誇ったように俺を見る。

        すべてを掌握し、何人たりとも手を出すことも許されない至高の存在…



        だが微笑むその姿は、紛れもない悪魔そのもの…





        ロイは…俺達はこんな悪魔に勝てるのか…?







        「クククッ、信じられないと言う顔をしているな。では教えてあげよう。」

        閣下はゆっくりと椅子から立ち上がり、俺の傍に近寄ってくる。



        何だ…足が動かない…まるで魔法にかけられたみたいだ。

        閣下の顔が、俺の顔のすぐ傍まで近づいてくる。



        俺の耳元に吐息がかかる。クッ、嫌な気分だ…

        



        「昨日…マスタングは呼び出されたのではない。」

        「自ら私の元へと来たのだよ。抱いてくれ、とね…」



        戦場で生か死かの戦いをしてきたそうだ。そう、イシュバールのような、ね。

        自分が本当に生きているか、その証が欲しかったそうだ。





        「自ら腰を振り、私を誘い、今まで以上に淫らで淫猥だったよ。」

        「君のその優しさではマスタングの傷は癒せない。早くその事に気がつきたまえ。」



        拳を震わせ、その衝撃的な告白に怒りを噛み締める。



        そんな事はない!俺が光を与え続ければロイはきっと助けられる。

        俺は間違ってない…







        「それより、君には可愛い彼女がいるそうだね。あぁ、そうか、以前会ったな。」



        グレイシア!?彼女に手を出したら、ロイの出世を待たずに殺してやる!



        「君も罪な男だ。親友に手を出しておきながら、しっかりと女もいる。」

        「ロイの為になるなら、彼女と別れますよ。」



        それぐらいの覚悟は出来ている。





        「そうそう、面白い話をしてあげよう。マスタングが私の公邸で保護していた時…」

        「部屋を警備していた兵士が行方不明なのだよ。」





        何だって!?



        「あの医者もだ。ある日突然姿を消してしまった。彼と関わった者が次々と消えていく。」





        「その彼女も消えなければいいがね…」





        ロイに関わった者をすべて消すつもりか!?まさか!!グレイシアまで!?



        「彼女は関係ない!グレイシアに手を出したら!」

        「では君が守りたまえ。一生をかけて。私から彼女を…」







        周到な罠が幾つも仕掛けられ…俺はやつから逃げる事は出来ないのか。







        

        グレイシアを…巻き込むわけにはいかない…

        いや、彼女はすでに巻き込まれてしまった。俺はその罪を背負わなければいけない。







        その日のうちに俺は彼女にプロポーズし、彼女もそれを承諾した。

        一生彼女をあの悪魔から守る為に。





        ロイには詳しい事は何も話さず、ただ結婚する事だけを伝えた。





        おめでとう…とたった一言…俺に告げた。

        久しぶりに見せた笑顔は…少し悲しそうで…





        思わず俺はロイを抱きしめていた。

        ロイも俺を抱き返す。強く…しっかりと…





        ロイは俺を求めなかったが、それでも俺はあいつを抱いた。

        あいつの意思を無視して。



        ロイも分かってくれていたのか…抵抗もせず俺に身を委ねてくれた。





        閣下から聞かされた事実と、グレイシアの事と、ロイへの想い…



        それらが重なって俺はいつもと違い、ロイを激しく抱いてしまっていた。

        己の欲望を押し付けるように。ロイの事も考えずに。









        「やぁあああ!マース、あぁあ」

        甘美な喘ぎ声が俺の中を刺激する。



        夢中でしがみ付きその激しい愛撫に敏感に反応する姿を、俺は眼を閉じ視界から消した。







        闇に染まっていくロイを見たくなかったんだ…













        だが、その時ロイが安らかな顔で俺を感じていた事を知っていれば…



        俺が生きている証を与えていた事を知っていれば…









        俺はお前を救えたかもしれなかったのに…













        すべては俺の背負うべき罪。

        ロイを闇に落としたのも、闇に染まらせてしまったのも…

        そこから救い出せなかったのも… 







        それから数日後、ロイは中佐に昇格、総司令部配属で東方司令部副司令官に任命された。



        栄転と人は言うが…体のいい左遷だ。

        俺から引き離すのもあったんだろうが…



        そこからまた這い上がって来いという、閣下の親心かね。

        中央に戻る為にロイは更に闇に染まっていくだろう。恐らくそれが狙いだ。



        分かってはいるが…どうにもならない。



        せめて暗闇で迷わないように光を与えてあげるしかないのか…?

        



        俺は中佐となり、諜報、情報を管轄する軍会議所に配属された。

        そっちがその気なら、大いに利用させてもらおうじゃないの。



        ロイの為に…俺は信じる事をするだけだ。







        光が、闇を征する事を信じて…









        To be continues.





  
   




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