夢が叶った後 3
45年前…二等兵からブラッドレイの軍歴は始まった。 一等兵、伍長、曹長までは何もしなくても順当に上がっていった。 当時から各地で起きていた戦場で武勲をあげ、軍曹、准尉と上がっていく。 この頃から上官にも目をかけられ、その補佐として実力を発揮していった… 「だが、私の得意な分野はやはり戦場でね。各地の紛争地帯によく派遣されて行ったよ。」 薄らと汗で湿っているロイの前髪をタオルで拭いながら静かに語っている。 まるで寝付けない子供に物語を話している様に… 大尉までは武勲さえ上げればのし上がれた…だが難しいのはその上だ。 少佐以上になれば権限も増え、軍の機密事項にも関わってくる。 よほどの功績やつてがないと中々這い上がれない。 「お前は士官学校を出ていたし、国家資格も取っていたから卒業と同時に少佐の地位についたがな。」 だが一兵卒から来た私では少佐になるのは一苦労だった… 身元もはっきりしていなかったしな… 「だが私は胸に秘めた野望があってな。どうしても上を目指さねばならなかった…」 さぁ、お前ならどうする? 「まさ…か…」 「…昔も今も…軍の上官の質は変わらんな…」 揺ぎ無い決意を利用し、それを弄ぶ。野望の為ならその屈辱も受け入れる。 「お前は…今の地位になるまでに何人の上官に身を捧げた…?」 「閣下…」 「私は…もう忘れたな…いや…覚え切れない数…だったのかもしれない。」 准将に上がるまでの間…上官どもはこぞって私を欲した… 実力もあり、当時の大総統にも一目置かれだした私は鼻につく存在だったらしい。 生意気な部下を意のままに操る快感は、魔薬の様に取り付かれていく。 「…お前は私によく似ている…マスタング…」 今のお前の上官達も、お前をこぞって弄ぶ。 強い意志を持つお前は決して逆らわずその屈辱に耐えている。 「ですが、私を一番弄ぶのはあなたです!閣下。」 言葉で攻め、権力をひけらかせ、あなたの前で何度となく唇を噛み締めながら身を捧げてきました。 私と同じ苦しみを知っているのに…何故また同じ様に私を苦しめるのですか… 何故私にこんな話をするんです…閣下… 困惑しているロイの頬を優しくなで、天井を見つめながらそっと呟いた… 「私が…野望を成就して大総統となった時。最初にした事…君は覚えているかね?」 40歳で大総統になった時、君は…そうか9歳か。 ロイは過去の記憶を巻き戻していた。そう…確かこの国の大総統が変わった時… 子供心でも記憶に残る大きな出来事があった… 新大総統による粛清の嵐。数多くの上層部の軍人が粛清され、 ろくな裁判をされず銃殺、または監獄送りになったのだ。 そうしてブラッドレイの周りに不利になる人物はすべて排除され、意のままに動く部下のみが残り、 ブラッドレイは独裁体制を整えたのだ。 「そう…粛清だ…私に不利になる者すべてを退けた。」 「私の過去を知る者…すべてを…闇に葬ったのだ。」 自分を抱いた上官すべて、一人残らず。 「お前は私によく似ている…夢が叶った後…お前はどうするつもりだ…」 弄んだ上官も部下としてお前に忠誠を誓うと思うか…? 大総統になった途端、昔の事を持ち出してお前を操ろうとするぞ… 大総統になる、それだけが夢ではないのであろう…? その先のあるもっと大きな夢があるのだろう… 「お前は優しいからな。果たして私の時のように冷酷になれるかな。」 クスクス笑いながらベッドを離れ、温くなったタオルをまた冷やしにキッチンへ向った。 冷たく絞ったタオルをまた額に当て、汗を拭う。 そのひやっとする感覚が今はとても心地いい… 「マスタング…私以外の者にもう身体を委ねるな。」 「閣下…」 「今ある上官でお前の利益になるような者はおらん。今日みたいな事があるなら私に告げよ。」 お前の望む事をしよう。勿論、等価交換を前提に…だ。 「粛清するのは…私一人で充分だろう…」 お前が辛い思いをするのは…一回でいい… 再び顔を近づけ、そっと唇を重ねる… だか今度はそのまま離れず、またロイも離さず互いに舌を絡めあう。 熱のある腕をブラッドレイの首に回し、自分の中にしっかり受け止める。 長い長いキスが終わると、ロイは虚ろな瞳でブラッドレイを見つめていた。 それは決して熱のせいではなく… 「あぁ、いかん…今夜はお前に触れまいと誓ったのに…」 首筋に唇を落としながらロイの身体を弄り始める。ロイもその手に反応し、小さく喘ぎ始めた。 「憎しみを…与えるおつもりなら、このまま抱いて下さい…」 「熱で朦朧としている私を…いいように弄ぶ…いつものあなたと変わらない様に…」 夢が叶った後…迷いもなくあなたを粛清出来る様に… 二人分の重みに耐える様にギシッとベッドがきしむ。 シャツのボタンを外し露になった胸に唇を落としていく… 「はぁっああ…」 噛殺していた声が堪らず溢れて、その声が益々ブラッドレイの性欲を高めていく。 「お前の声は魔薬だな…こぞって抱く上官どもの気持ちも分からんでもない…」 すでに硬くなっている胸の突起を舌で転がし、時折歯を立て刺激を与える。 「んっはぁああっ…か…っか…」 だからこそ他の者にこの姿を見せたくない。 美しく喘ぐ私だけの狗。私だけの玩具。 私だけの愛すべき者… ほんのりと紅く染まっているのは、熱のせいだけじゃない… 下腹部に手を伸ばすと、そこには既に起ち上がっているロイ自身がブラッドレイの愛撫を待ち望んでいるかの様に トロトロと先走りが流れていた。 「感度が良いな。もうこんなになっている…厭らしい奴め…」 いつもなら蔑むこの言葉も、今は全く意味を成さない… 屈辱的な言葉も、憎しみを与える為だと知るとそれさえも愛しく思えるのは何故だろう… あなたを愛してはいけない… 遥かなる高みにある夢の為に… 愛してはいけないのに… To be continues.