腐った林檎たち  31







        廃墟と化した旧大総統府。







        ユノーは議事堂を占拠していた部隊と共に一足早く辿り着いていた。



        懐かしい…もう20年にもなるのか…

        まさかここにもう一度足を踏み入れるとは思わなかったな…



        上を目指すと誓ったのはもう40年も前の事。その為に不本意だったがブラッドレイの力を利用した。







        だが私がなる筈だった大総統の地位を奴は奪い取った。その時の屈辱を決して忘れはしない     

        あやつが大総統になってすぐ…何故私を粛清しなかったのだろうか…







        ここはすっかり荒れ果ててしまったな…

        だが廃墟はいい砦となりうる。ここで踏み止まり、体勢を整える。

        上手くいけばブラッドレイを倒せるだろう。そう、奴さえ亡き者にしてしまえばいいのだ。





        そうすれば何とでもいい逃れは出来る。長年培ってきた人望はそう失われる事はない。







        いざとなればマスタングもフェルゼも切って捨ててやる…

        私が勝つか、ブラッドレイが勝つか…







        私は黙ってこのまま沈みはせん!必ず一糸報いてやる!



        



        「ユノー将軍!フェルゼ将軍の部隊が到着しました。」

        「分かった。至急私のところへ来るように。」

        「それと…マスタング大佐が…」

        「マスタングがどうかしたのか!?」





        兵士はロイを抱えながらユノーの元へと連れて来た。



        足取りはおぼつかなく、ユノーの元に来た途端その場に崩れ落ちた。息も少し荒くなっている

        目は虚ろな状態で何かを訴えていた。





        「薬が切れてきたか…第2段階開始時点でお前は用済だったからな。」

        ロイの顎をくいっと持ち上げ、蔑むように吐き捨てる。



        だがロイには既にその声は聞こえていなかった…今はただ薬を求めて奉仕するだけ…





        ユノーのズボンのベルトを外そうとするロイの手を、パシッと叩いて制止する。



        「今はそんな事をしている暇はない。薬が欲しかったらブラッドレイを殺せ!」

        だがこのままの状態ではろくに戦えんな…



        ユノーはポケットから携帯用の注射器と小瓶を取り出し、薬を注射器に注入する。





        ロイはただじっとそれを見つめていた。





        「腕を出せ、マスタング。これが最後の薬だ。」

        すっと腕をまくりユノーの前にその白い腕を差し出す。



        手首には手錠の跡がくっきりと残っている。肘の裏側には注射痕が紫色の痣となり

        ロイの薬漬けの日々を物語っていた。





        ロイの腕に注射器を差し込み、液体をロイの体の中に注ぎこむ。

        恍惚としながら薬が体中に行き渡るのを感じていた。





        「薬はこれが最後だ、マスタング。ブラッドレイを倒さない限り薬は手に入らんぞ。」



        どの道、倒さない限り我らの命もそれまでだがな。







        薬がすべて身体に行き渡ると、ロイはすっと立ち上がり先程とは打って変って整然とした表情を見せた。





        ユノーは徐に白い布を取り出し、ロイに渡す。

        それはロイの力を最大限に発揮できる愛用の手袋。



        ロイはそれを受け取るとキュッと両手にはめ、最前線の部隊の元へと向っていった。













        「エド!!アル!!」

        「ヒューズ中佐!今来たの!?」



        東に向けて進行中のエドの車の横に、ヒューズが車を走らせながら横付けした。

        「ハボックも後ろから来てるぞ!ロイはどうした?ユノー将軍は??」

        「大佐は無事!でもユノー将軍と一緒に撤退した…」

        



        ヒューズは少し安心した様に微笑むと、いきなり助手席から身を乗り出しアルに向って手を伸ばす。

        アルはとっさにその手を掴むと、ヒューズはエド達のいる車に飛び乗った。





        「って!危ないよ!!ヒューズ中佐!?」

        「色々詳しい話を聞きたかったのさ。旧大総統府についてからじゃ時間がないからな。エドはもう大丈夫なのか?」

        「うん。俺はもう大丈夫。それより大佐が…」



        エドの顔色は冴えない。ロイのこれからの事を考えると、居ても立ってもいられなかった。

        きっと自分達を攻撃する。主人たるユノー将軍を命がけで守るだろう…



        ブラッドレイがそれを許すだろうか…

        自分に刃を向けた狗を、あの人は見逃してくれるだろうか…







        「ロイのマインドコントロールはまだ抜けていないんだな。」

        「大佐は躊躇わず大総統を撃った。グラン准将にも…」

        「お前にはどうだった?エド…」



        真剣な顔でエドに尋ねる。エドとアルは一瞬考えながらはっとした顔で質問に答えた。





        「大佐!俺には撃たなかった!戸惑ってた!それって…」

        「まだまだ希望はあるって事だ。」



        ヒューズはポケットから小さな箱を取り出し、エドに見せた。

        それはエドがあの屋敷の中で見たあの箱…



        「ユノー将軍の別荘で見つけた。エド、見たことあるか?何だか知ってるか?」



        エドは震えながらその箱を受け取り、蓋を開け中身を確認する。

        同じ様に中には注射器と薬の入ったビンが収められていた。





        「大佐に打ってた薬…だと思う。大量に打てば疼きが止まらなくなり苦痛を与え、少量だと快楽を引き出す

         媚薬になるって…」



        その薬欲しさに大佐は何でも言う事を聞いた。

        俺に媚を売り…将軍達に身体を開き…ユノー将軍の靴を舐めた。



        こんなもの!二度と見たくない!





        エドがその箱を投げ捨てようとした時、ヒューズが慌てて箱をエドから取り上げた。



        「何すんだよ!中佐!」

        「それは俺の台詞だ。大事な証拠品だし、これがロイを救う薬になるかもしれないんだぞ!?」

        「そんな薬!大佐を苦しめるだけだ!」





        食って掛かるエドにヒューズは落ち着いて答える。

        エドの頭をなでながら…静かに、諭すように…



        「薬の成分が分かれば中和剤も作れる。薬のせいにすればクーデターの罪も免れるかもしれない。

         それには証拠が要るんだ。」





        「でも大総統は大佐を許してくれるかな…」



        自分に忠誠心無しと見なせば戸惑う事無く粛清するだろう。

        そこに情けは存在しない。あの人はそういう人だ…





        「大丈夫だろうさ。閣下はこんな事でロイが潰れるのを何より嫌う。特にユノー将軍の言いなりって言うのが

         気に入らないらしい。」

        

        必ず生きて捕らえ、元に戻し、再び野に放ち自分に向わせる。

        誇り高き焔の錬金術師として自分に牙を剥かない限り、ブラッドレイはロイを見捨てたりはしない。





        それを愛情と言う人もいるだろうが…複雑な愛情表現だな…

        自分の命を狙わせる為に…自分の一番近い手元に置いておく。







        「兄さん!見えてきたよ!旧大総統府だ…」





        アルの一言に皆が前方に目を向けた。







        荒野の一角に不気味にたたずむ建物の跡。





        ブラッドレイが大総統に就任してすぐに新大総統府と中央司令部を今の場所に造り移転させた。

        無人と化して20年余りしか経っていないのにそこは大昔の遺跡の様に荒れ果てていた。





        

        まるでその頃の過去を封印するかの様に…













        懐かしい…そう、20年ぶりだ…





        私とユノーが上を目指すと誓い合ったのは40年近くも前の事…

        その頃からユノーは私を蔑み、見下していた。所詮はどこの馬の骨とも分からぬ下賎の者と…



        



        私はそれを承知でお前と手を結んだのだ…







        お前の政財界への人脈は、後ろ盾が何もない私にとって不可欠だった。

        お前の力を最大限に利用し、お前を押しのけ私は上に上り詰めた。





        その時の屈辱に満ちたお前の眼は今でも思い出される…        





        では何故お前を粛清しなかったのか。





        偽りとはいえ、長年右腕として私の傍らにいたお前を粛清するのは流石にまずいと思ったのも一つ。

        まだまだ利用価値があると感じていたのも一つ。









        だが最大の理由はこれだ。このクーデターそのもの。





        お前は必ず私に反旗を翻すだろう。それが最大の理由だったのだ。

        





        いつの日か必ずこういう日が来ると私は今か今かと待っていたのだよ…ユノー。











        「お前は必ず私を楽しませる…ククッ、そうだ。私は始めから木箱に腐った林檎を入れていたのだ…」

           

        その為に私の愛しい玩具と子羊が巻き込まれてしまったのは計算外だったがね…







        エドとロイに全く悪いとも思わない表情で旧大総統府を見つめていた。

        その顔には笑みがこぼれている。この状況が楽しくて仕方がないといった雰囲気だった。









        「突入準備をせよ!念を押すが、マスタング大佐は必ず生きて捕らえよ!それ以外はなぎ払え!」





        廃墟の周りを囲むように配置されていく。エドとヒューズも正面入り口に陣取った。

        ハボックは背後の部隊に合流した。もしそこから逃げる様な事があればかまわず打ち払えと命令を受けていた。





        そしてそこにロイがいたら必ず保護する様に…とも…











        どちらから仕掛けるわけでもなく緊張感が辺りを漂い、ピリピリとした空気が肌を刺す。











        それを一掃したのは入り口付近でたたずむ一つの影だった。





        「止まれ!!投降せよ!でなければ撃つ!」

        兵士の一人がそう叫び、銃口を向ける。と、同時に一斉に銃口がその人物ぬ向けられた。







        ゆっくりと前に進み間合いを取る…



        その人物の顔が確認出来るまで近づいた時、エドとヒューズが声にならない悲鳴を上げた。











        「ロイ!?」「大佐!」









        その声がロイに聞こえる前に、ロイの指が辺りに鳴り響く。











        



        その瞬間、ブラッドレイの部隊の最前戦は世にも美しい焔に包まれていった…









         To be continues.





  
   






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