腐った林檎たち 32
ボォォォ…
辺り一面に火の粉と煙が立ち込める。
誰もが最前列は駄目だ、と思ったその時、煙が風で流され、そこには大きな土の壁が聳え立っていた。
ロイの焔はその壁により遮られ、最前線の部隊は傷一つ負っていなかった。
「あっぶねーなぁ…大佐、本気出してんじゃん…」
エドが両手を地面につきながら少し渋い顔で笑っていた。
助けなきゃ!大佐を何としてでも助けなきゃ…
そう思いながらもエドの体の中の血が沸き立つように興奮していくのが分かる…
本気を出した大佐なんて見たことない…第一大佐が戦っているところだってまだ見た事ない。
どのくらい強いだろうか…どのくらい凄いのだろうか…
一度手合わせしてみたかったんだ…
こんな場面でそれを願うのは不謹慎なんだろうけどね…
「撃て!!!」
後方にいたグラン准将の一声でこちら側の部隊はいっせいに砲撃を開始する。
少しづつ前進しながら廃墟に向って発砲が続いた。
「撃て!」
ロイが静かに命令を下す。今やクーデター部隊の総司令官となっていた。
廃墟からも砲撃が放たれる。一挙にその場は戦場と化していった。
「状況は…?」
「こちらが少し不利になっております。大佐の焔で何とか食い止めていると…」
「フム。マスタングをこちら側に引き込んだのは正解だったな。」
廃墟の中から外に眼を向ける。そこは銃撃が飛び交い、多くの兵士が負傷していた。
「ブラッドレイはどうしている?」
「未だ後方で待機しております。こちらに踏み込む構えはないと…」
確かに…後方の部隊で戦況を計算中なのであろう…
ではこの廃墟の中におびき出すとするか…
「マスタングを下がらせろ。私の元に控えさせるのだ。」
「閣下!?そんな事をしたらこちらに突入されてしまいます!」
「構わん。ブラッドレイさえ倒せばよいのだ。奴をこの廃墟の中に誘い込まねばならん。」
マスタングが最前線にいる限り、奴は出てはこないだろう。
中に下がらせ、誘き寄せる。白兵戦になれば勝機はある。
「最後の賭けだ。これに負ければ私の命運も尽きるだろう。」
「閣下!まだ北の閣下の故郷には余力が残っております!最後まで諦めない様…」
「ここでブラッドレイを倒さねば、私は反逆者として追われ、軍蜂起をしても誰も賛同しないだろう。」
「それでは駄目だ。最終目的はこの国を手に入れることなのだからな。支配するには揺ぎ無い地盤が必要なのだ。」
ここが最期の決戦の地なのだよ…
小さく笑うユノーの顔にすべてを覚悟したその想いが見えて取れる。
フェルゼはぐっと言葉を飲み込んで敬礼をかざし、ロイの元へと向っていった。
ロイの放つ焔は迫り来る戦車や大砲などをことごとく破壊し、だがエドの錬金術がそれを阻みながら前進もする。
戦況は一進一退を繰り返していた。
「大佐の焔って凄いなぁ…俺の錬金術でも間に合わない時がある…」
「かなり本気でやってるな、あいつ。相当薬漬けにされているんだな…」
こりゃ、保護した後の治療が一苦労しそうだな…
薬欲しさにユノー将軍のいいなりになって、俺達にまで牙を向けている。
その攻撃に情けは見受けられない。いや、今は人間を相手にしていない。白兵戦になればもしかして…
「エド、アル!廃墟に突入する。こんな人の顔が見えない戦い方をしていてはロイを保護できない。援護を頼む!」
「俺も行く!大佐は俺を見ればきっと正気に戻ってくれるはずだ!」
「僕も行くよ。いざとなればこの身体が役に立つからね。」
じゃ、ついてきな!そう言ってヒューズは銃を構え、アルを先頭に廃墟へと突入していった。
銃声が聞こえた段階で、裏側のハボックの方も銃撃戦が始まっていた。
「ったく往生際が悪いっすね!」
「お前が追い詰められてる側なら、大人しく投降するか?」
ハボックは両手の銃を撃ちながら暫く考え、咥えていたタバコをプッと吐き捨てる。
銃の弾を入れ替えながら笑ってこう答えた。
「最後の弾が無くなるまで諦めないっすね。」
大佐!!今行きます!俺は最後まで諦めませんよ!
降り注ぐ銃撃の中、ハボックは廃墟目指して突入を試みる。
「援護宜しく!!」
そう言い放つと、いきなり駆け出して行った。
「わっ!あの馬鹿!」
その場にいた上官達はハボックを援護しながら、後に続ける者は次々と廃墟へと突入していった。
「マスタング大佐が後退していきます!閣下!」
「うむ…妙だな…まだ戦況は均衡しているのだが…」
マスタングが最前線にいるからこそ成り立つこの戦況。何故後ろに下がらせる?
「グラン、援護しろ。私も出向くとする。」
「閣下!?何をおっしゃいます!?閣下は総大将なのですから後方で指示を下されば!?」
グランを始めとする司令官達が驚きながらブラッドレイを止めにかかる。
だがブラッドレイは剣を携え、車から飛び降りた。
「マスタングの眼を覚まさせるにはこんな銃撃戦ではなく、肉弾戦で行った方が効果がありそうだからな。」
恐らくユノーが私を誘っているのだろう…最後の決着をつけようと…
「お前たちはここで私の代わりに指揮を取れ。万が一私が死んだらその後の行動は自由とする。」
「閣下!?」
敵を討つも良し、武器を捨てユノーにつくも良し。好きにしろ…
そう告げると、銃撃の嵐の中に一人飛び込んで行った。
To be continues.