腐った林檎たち  33







        飛び交う銃撃戦の中、ブラッドレイは廃墟目指して突進していた。    



        敵兵はブラッドレイ目掛けて発砲を繰り返す。

        だが弾丸は当たる事はなく、また向かってくる兵士には戸惑う事無く切り裂いていく。



        ブラッドレイが救うのはロイただ一人。それ以外はなぎ払う。



        



        ロイは完全に後方に下がり、廃墟の中に消えていった。

        最前線にいた筈のエドワードもいない…ヒューズと共に突入したか…



        マスタングとの命をかけた戦いが今始まろうとしている。

        それは望んでいた事。だがこれは私が望む展開ではない。





        互いの誇りをかけた戦いを私は望んでいるのだ…





        それは私の奴への最大限の愛情表現…薬漬けのお前を斬るなど、私のプライドが許さない。



       





        廃墟の中に足を踏み入れる。目的の物はどこにあるのか…





        物陰から飛び出す兵士達に、否応無しに切りつける。



        愚か者が!貴様ら如きに用はないわ!





        正規軍の兵士も何人か突入に成功し、廃墟の中でも銃撃戦があちらこちらで始まっていた。

        ブラッドレイの姿を見て、双方の兵士が一瞬強張るが、すぐにユノー側の兵士が反応する。



        ブラッドレイに向け発砲する。それは自らの死刑執行にサインをする様なもの。



        弾丸を素早くかわしながら撃った兵士を次々とサーベルで沈めていく。

        そこに人間性は見られない。あるのは自分に逆らった者への完膚なまでの粛清。





        正規軍側の兵士達は、この独裁者に決して逆らわない事を心に誓う…



        「私は上階に向う。貴様らはここで踏みとどまり敵を撃破せよ。」

        「はっ!!」



        折角のマスタングとの対決を、貴様ら如きに台無しにされたくはないからな…

   



        エドワード達ややヒューズはどうしたのか…マスタングは何処だ…





        カタン…





        3階の階段を上がった所で人の気配を感じる…ユノー側の兵士か…?





        「ブラッドレイ!私はここだ!来い!最後の決着をつけるぞ!」





        ユノーの声が辺りに響く。この私に勝負を挑むとは愚かな奴め…

        ブラッドレイはサーベルを握り締め、声のした方へと歩いていく。





        ボゥッ!!!





        いきなり放たれた焔に、流石のブラッドレイも避けきれずその勢いで壁に打ち付けられた。



        「くっ!!」

        背中の痛みを押して顔を上げ、煙の向こうに眼を見張る。







        

        しなやかな黒髪と、漆黒の瞳がブラッドレイを見据えていた。

        その後ろにはユノーがいて、ロイはユノーを守る様に右手をかざして立っていた。



        「マスタング!?」

        「ブラッドレイ!私を倒す前に貴様の狗に焼き尽くされるがいい!」



        ブラッドレイ目掛けて躊躇なく放たれる焔を何とかかわし、柱の影に身を潜める。

        なんて奴だ。まるで戸惑うことなく攻撃してくる。あんなに可愛がってやったのにな。

   



        苦笑いしながら間合いを図る。発火布さえ切り裂いてしまえば恐れるに足らん。



        命令する側を叩かねばマスタングは眼を覚まさない。

        命をかけて主人たるユノーを守り続けるだろう。それでは困る…





        お前の主人はこの私だ、マスタング…





        バッと飛び出しロイ目掛けてサーベルを振りかざす。ロイも指に力を込めた。

        それが擦り合わされる前にブラッドレイのサーベルが振り下ろされる。





        「ちっ!!」

        舌打ちをしながらサーベルをかわし後ろに下がる。発火布は僅かに切れ目が走り、錬成陣が乱れてしまった。





        「こんな狭い所で焔を使うな。お前も私もただではすまん。」

        もっともユノーはそれを望んでいるのだろうがね。 





        「マスタング!」



        ユノーが背後から何かを投げ渡した。



        ロイはそれを受け取り、シュッと剣を鞘から引き出した。





        「愚か者が…この私に剣で勝負を挑むのか…」       



        静かにサーベルの剣先をブラッドレイに向ける。ブラッドレイもロイの正面に立ちはだかった。

        ロイは無表情のまま間合いを計っている。







        「つまらぬ…血湧き踊る筈のこの状況なのに、お前の表情が見えない。もっと苦悩の表情を浮かべて欲しいものだ。」



        ロイ…お前が私に剣を向ける理由は何だ…

        ユノーの為か…薬の為か…





        お前には穢れ無き野望があったのではないのか…





        「マスタング!お前は何のためにこの私と命をかけて戦うのだ!?」





        ロイの表情に僅かに変化が浮かぶ。その一瞬の隙をブラッドレイは当然見逃さなかった。

        ロイ目掛けてサーベルを突きつける。ロイもその剣を自分の剣で受け止めた。







        ガッ!と火花が散り、ブラッドレイとロイは剣を挟んで睨み合った。







        「お前が目指したものは何だ…私を引き摺り下ろしてまで達成したい夢とは何だ…」





        ロイの眼が揺らいでいく。



        …私の…野望…夢……







        あなたを倒し…この国のあり方を変える…







        「か…っか……」







        ロイの意識が僅かに戻りかけたその時、





        バーン!!



        「つっ!!ユノー!!貴様!」

        ブラッドレイが右肩を押さえ倒れ込む。ユノーが拳銃を構え近づいてきた。

        



        これで最後だ!ブラッドレイ!

        ブラッドレイのこめかみ目掛けて狙いを定める。



        ブラッドレイは薄く笑うだけだった。そんな銃後時では私は死なんよ。ユノー。





        「燃やせ、マスタング。こやつは銃では死なない化け物だ。お前の焔で跡形も無く焼き尽くせ。」





        ほう…流石はユノーだ。私の矛盾に気がついたか。

        なおさら貴様を生かしておくわけには行かんな…



        ロイは左手をブラッドレイの前にかざした。その手には発火布がはめられている。





        ユノーが両手に発火布をするよう手渡したのだ。万が一の事を考えて。







        確かに、お前の焔で骨まで焼き尽くされれば私も死ぬことが出来る。それは私の願いでもある。

        だが今私はお前に殺されてやる訳には行かないのだ…





        兄弟や父の計画はまだ最終段階まで来ていない。もう少し、私は人間のフリをしなければならないのだ…







        サーベルを握り締めタイミングを計る。焔を出される前にお前を切り裂くしかないのか…









        ロイの目が細まり、指が僅かに震えている…

        どうした…何故指を鳴らさない…?





        動揺しているのか?私の命を取る事に…?







        「何をしている!さっさと焼き殺せ!」

        「ロイ!止めろ!」







        廊下の奥から人影が三つ駆け寄ってくる。ヒューズとエドとアルだった。

        ヒューズがタガーをロイ目掛けて投げつける。勿論急所は外して、だ。



        ロイはさっとそれをかわし、ユノーを庇う様に後方に下がる。





        「マスタング、一端引くぞ!」

        ユノーのその声にマスタングは頷き、左手をかざしながら後ろに下がり、そして廃墟の奥へと消えていった。





        「大佐!」「待て!エド!大総統閣下が!」

        「私に構うな!追え!」



        エドとアルは一瞬ブラッドレイに眼を向けたが、ブラッドレイが顎をしゃくって行けと示すとこくんと頭を下げ

        ロイの後を追った。







        「閣下!お怪我は?」

        「かすり傷だ。心配ない。お前も追え!マスタングは自我を取り戻しかけている。」





        故に、ユノーの命令と自分の意思とが相反してマスタングが壊れてしまうかもしれない…        





        「ユノーが自爆させる前に取り押さえよ!マスタングを死なせてはならん!」

        「はっ!言われなくても取り押さえますよ!」



        ヒューズはブラッドレイを残しロイの後を追う。そのすぐ後ろから一人の兵士が近づいてきた。

        だが軍人が独裁者に話しかける口調とは思えない馴れ馴れしい態度を取り始めた。



        床に座り込んでいるブラッドレイの首に背後から腕を回し、抱きすくめる。

        バリバリと音を立ててその身体が崩れると、あの黒髪の少年に姿を変えた。



        「一階はあらかた制圧したよ。2階も時間の問題だろう。で、どうする?

         捕虜達例のあそこに連れていちゃっていいの?」

        「構わん。どうせ裁判になっても反逆罪で死刑だ。時間と金の無駄をするよりは我らの糧になった方がいい。」

        「了解。一番の上玉は?」

 



        ブラッドレイがすっと立ち上がり、握っていたサーベルを持ちかえる。





        「ユノーは私の手で始末する。私が仕掛けたとはいえ、奴は少しやりすぎた。」





        可愛い子羊を泣かせた罪、その命で償って貰おう…











        血糊で切れなくなったサーベルを捨て、腰から新たな剣を抜き取ると、

                ブラッドレイもまたロイの後を追っていった。













         To be continues.





  
   






裏小説TOPに戻る  Back  Next  



  

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル