腐った林檎たち  34





   

        私は何をしているんだ…





        何の為に戦っているんだ…



        何故命がけでこの人を守る…









        私を追ってくるあいつは誰だ…







        美しい金色の瞳を持つあの少年は誰だ…









        「エド…ワード…」

        ロイはふと立ち止まり、後ろを振り返り背後から追ってくるエドに眼を向けた。



        「マスタング!何をしている!?」

        「…ワカラナイ…私は何をするべきなのか…解らない…」





        エドとアルはユノーたちに追いつき、エドは両手をあわせて壁に手を着いた。

        壁が青白い光を放ち、バリバリと音を立ててユノー達の行く手を阻む。





        「逃がさねーぞ!大佐を返せ!」

        「ちっ、マスタング!なぎ払え!」



        ユノーの声を受け、左手をかざす。だがその指に力は入らない。

        力を入れてはいけない…



        頭の奥でそう誰かが叫んでいる…





        「何をしている!さっさと殺せ!」

        「馬鹿だな、あんた。こんな狭い所で焔なんか出したら俺だけじゃなくあんたも黒焦げだぜ?」



        荒野での攻防でロイの焔の凄まじさを肌で感じ、今この場での錬金術対決に危険を感じていた。

        左手を使っているって事は、右手の発火布は使いものにならないんだな。





        なら左手の手袋も切り裂けばいいんだ…





        パンと両手を合わせ、右手の機械鎧を剣に変える。

        所詮あんたは焔がなきゃ何も出来ない。



        だから中尉に雨の日は無能って呼ばれるんだ…





        「大佐ぁぁ!!眼、覚ませよ!」



        エドは声を張り上げながら、ロイに向って剣を突きつけた。

        





        ガキッ!!



        エドの剣をロイが先程のサーベルで受け止める。





        ギリギリと音を軋ませ、エドの腕を押しやっていく。その力は強大で…



        エドはそのまま後ろに突き飛ばされてしまった。







        何て力だ…あんな細い腕からどうやってそんな力が出るんだ…?

        それに俺の剣を的確に受け止めた。



        成る程…





        「大佐の称号は伊達じゃないわけだ…」



        面白い…



        



        エドはロイを見ながらにやりと笑い、黒い上着を徐に脱ぎだした。

        

        「アル、下がってろ。絶対手ぇ出すなよ。」

        「兄さん!?」

        「一度ぶん殴ってやりたかったんだよね。今なら記憶もないだろうし…」





        何言ってるの!?正気じゃない分本気でかかってくるよ!?



        だから俺も本気になれる。大佐が本気で俺に向き合うなんて事はなかった…







        「眼を覚まさせるのはこの方法しか無いかもしれない…」





        じりっと間合いを計り右手で臨戦体制をとる。

        ロイはただ無表情で見つめているだけだった。



        「殺せ!マスタング!でなければ薬は手に入らんぞ!」

        その言葉にピクリと反応を示す。





        だらりと下げていた右手のサーベルの剣先を、すっとエドに向けた。





        眼は僅かに細まり、この状況を把握し切れていないのかもしれない。

        ただ「薬」を手に入れるだけに目の前の敵をなぎ払うだけ。





        「はぁぁぁあ!!」

        エドはロイ目掛けて突進した。

        ロイもサーベルを構えてエドを迎え撃つ。



        剣と剣とがぶつかり合い、辺りに金属音が響き渡った。

        ロイはエドから繰り出される剣をことごとく受け止め、一瞬の間合いを見て切り込んでくる。



        エドはその度に一歩下がり、また体勢を整えなければならなかった。







        強い!体術をしっかり学んだ俺に匹敵する強さ。

        今は何も考えず本気で俺に向って来ている。おかしな心境だが、それがとても嬉しい。







        大佐…俺はいつも本気だったよ。ううん、今でも本気だ。

        本気で愛してる…



        腕を下から振り上げ、左手の発火布を狙う。

        ロイは寸前でかわし、逆にサーベルを振り下ろす。



        エドはとんぼ返りをしてその剣をかわし、着地と同時にロイ目掛けて突進していった。





        ロイはとっさに左手をかざし、指に力を込める。







        いいよ…鳴らしなよ…あんたの焔を受け止めるさ…





        エドはロイから眼を反らさず、ロイもエドから眼を反らさず互いの瞳を見つめ合う。











        エドワード………







        ロイの瞳がかっと開き、無表情だったその顔に戸惑いの意思がはっきりと表れていた。







        「わ…たしは…何故…ここに…」

        「大佐!?」





        大佐の意識が戻った!?

        馬鹿な!マスタングがあの薬から逃れられる筈が!?



        「マスタング!殺せ!!忘れるな!薬は私の元でしか手に入らんぞ!」

        「貴様!!いい加減に観念しろよ!」





        ロイの右手のサーベルがエドに向って再び振り下ろされる。

        だが先程とはうって変わってその動きはぎこちない。



        ハァハァと荒い息を着き、ロイの体の中でユノーの命令と自我とが戦っているようだった。





        エドは振り下ろされるサーベルをかわし、攻撃は仕掛けない。

        苦悩に歪む大佐の顔を、ただ見つめているだけ。



        大佐…愛してるよ…

        どんな時でも愛してるよ…

        何があっても愛してるよ…





        「マスタング!!!」

        「大佐!!」



        ユノーとエドがほぼ同時に叫ぶ。ロイはサーベルをエドに向って振りかざした。







        「エ…ド…ワード…」



        その言葉が口から発せられた時、ロイの漆黒の瞳から一筋の涙が零れ落ちる。







        愛してる…私はこの少年を愛してる…







        心から…愛してる…









        カラン、とサーベルが床に転げ落ち、ロイはその場にがくっと崩れ落ちた。



        「大佐!」

        「マスタング!何をしている!殺せ!!」





        だがユノーの言葉はもうロイには届かなかった。

        ロイは傍に駆け寄った愛しい人を強く抱きしめて、その瞳からは涙が止め処なく溢れ出る。





        「エド…エド…」

        「大佐…正気に戻ったんだね…俺の元に戻ったんだね…」



        ロイはただエドを抱きしめ、何も答えなかった。

        完全に正気に戻るにはまだ時間がかかるのかもしれない…





        「おのれ!!ならば貴様ら共々道連れにしてやる!!」



        ユノーが手榴弾を掲げ、そのピンを抜き取りエドとロイの方に投げつけた。

        

        「兄さん!危ない!」

        「大佐!早く逃げて!」

        アルとエドが叫ぶがロイはただ抱きしめて泣くだけ。その場を動く事は出来なかった。





        空を舞う手榴弾は綺麗に弧を描きエドの元に真直ぐ飛んでくる。

        アルが駈け寄って来るが間に合わない。



        エドの金色の瞳が絶望に歪んだその時…







        バーン!バーン!バーン!







        銃声が3発聞こえたかと思うと、エドたちに向ってきたはずの手榴弾はユノーの方へ転がっていった。







        「!!!」



        ユノーは声にならない悲鳴を上げ、その直後爆発音が鳴り響いた。





        アルがエドとロイの上に覆いかぶさり、その衝撃から二人を守る。

        煙が辺りに充満し、一瞬視界が失われていく。



        「兄さん、大丈夫?」

        「ああ、助かったよ。ありがとう、アル…」



        ロイの方を見るとその衝撃で気を失っていて、エドの腕の中で静かに眠っていた。





        でも今の銃声は誰が…





        「大将にいい所取られちゃいましたからね。これぐらいは俺もさせて下さいよ。」



        背後からタバコの匂いをさせながら大柄な男が近づいてきた。





        「ハボック少尉!?今の銃声はあんたがやったのか!?」

        まるで信じられない様な口調のエドにハボックが苦笑交じりでロイの傍にしゃがみ込んだ。





        「ホークアイ中尉には劣りますけどね。俺だってあれくらいの銃の腕はあるぜ?」

        さらりとロイの黒髪に指を絡ませ、少しほっとしたような表情を見せた。



        「やっとあんたの場所を嗅ぎ付けましたよ…大佐…」





        遅くなりましてスイマセン…





        服の端端から見える痣の後をハボックが悔しそうに指でなぞる。

        俺がもっと早く気がついていれば…

        俺があんたの傍から離れなければ…





        あんたにこんな辛い思いさせずにすんだのに…





        「で、こんな身体にさせた将軍閣下はどこすっか!?」

        一発殴らなきゃ気がすまないっすよ!





        そうだ!ユノー将軍は!?この爆発じゃもう…





        「エド!?」「エドワード!」

        廊下の奥からヒューズとブラッドレイも駆け寄ってきた。



        エドの腕の中にいるロイを見て、ヒューズはほっとし、ブラッドレイは満足そうに頷いた。





        「ユノーはどうした、エドワード。」

        「あそこ。手榴弾が爆発したからもう駄目かもしれない。」





        ブラッドレイがサーベルを握り締め、警戒しながらユノーがいた場所へ近づいていく。

        エドが足止めをした壁の傍まで近づいた時、ブラッドレイは一瞬驚き、立ち尽くしていた。





        「大総統??」

        「ヒューズ…来て見ろ…」





        ヒューズがブラッドレイの隣に行くと、同じ様にその光景に眼を疑った。





        「これは…」

        「流石の私も気がつかなかったな…」





        エドが作った壁にぽっかりと開いた穴。

        爆発で開いた穴とは思えない綺麗な切り口。

        そしてユノーは死体どころか姿はどこにも見られなかった。





        「この穴の作りはまるで…」

        「錬金術…あいつ、錬金術を使えるのか…」



        エドがいつの間にか傍にいて、その切り口に手を当てていた。

        ただかじっただけの錬金術ではない。この切り口が物語っている。





        「あの薬も錬金術で作っていたのかもしれない。」

        だとしたら分析して中和剤を作るのは至難の業だぞ…

        ヒューズが渋い顔をしながらロイの方に振り向いた。





        「私はこのままユノーを追う。お前たちはマスタングを連れて後方へ下がれ。戦況はこちらの勝利、

         クーデターは失敗に終わったのだ。」

        ブラッドレイはサーベルを鞘に収め、切り口の向こうに身を進ませた。



        「俺も一緒に!」

        「お前は大佐のそばについていてあげなさい。エドワード。ユノーとは私がかたを付ける。」





        静かに笑うと、行け、とエドを促した。

        エドはもう何も言わず、後ろに下がってロイの傍に駆け寄っていった。







        終わったんだ…大佐…終わったんだ…

        あんたの悪夢は終わったんだよ…







        未だ眼を覚まさないロイにエドがそっと唇を落とす。











        だがロイの本当の悪夢はこれからだった。













         To be continues.





  
   






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