腐った林檎たち  36











         ヒューズはクーデターの後始末に追われていた。



         



         殆どの者が捕まり、軍法会議所内は一気に忙しくなった。

         ただ単に上官の命令に従っていただけの下士官。

         「ユノー将軍閣下万歳!」と言いながら舌を噛み切る兵士。



         黙秘権を行使する上級将校たち。どうせ死刑だろうから情報はすべて墓場に持っていく、と言う一番厄介な輩だ。

  



         お陰でちっとも全貌が掴めない。





         ふーとため息をつきながら取調室を後にし、自分のオフィスに戻る。

         お気に入りのカップにコーヒーを入れ、ぐったりしながらソファに座り込んだ。



 

         結婚祝いにロイから貰ったカップ。一応夫婦茶碗だったのだが片方は何故かロイが持っている。





         『必ず割るだろうからもう一つは俺が持っておく。』

         そういって笑ったロイの顔は何故だか寂しげだったな…





         あれから一週間…

         ユノー将軍側についていた者の取調べはいまだ続いている。

         リーゼル将軍は死亡が確認された。大総統がエドと逃げようとした所を襲ってきて、

         ブラッドレイに一刀両断されたそうだ。

         一緒に何人死んだのか数えるのが困難だったがな。



         フェルゼ将軍等の将軍達は流石に表沙汰にするのはまずいから、と秘密裏に取調べが続いているそうだ。



         俺如きの出る幕ではないらしい。





         ブラッドレイ大総統は一人ユノー将軍を追いかけ、その後暫く帰還しなかった。

         一時は生存が危ぶまれたが、次の日、ひょっこり戻ってきた。



         ユノー将軍は取り逃がしたらしい。だがもうあの人に味方をする者はいない。

         恐れることはない、と言っていたが、どうにも不に落ちない。





         クーデターに関わった人の人数が少なすぎる気がしてならない。

         死体の数を数えた訳ではないが…もっと大勢いてもいい筈なんだが。



         百人近くが行方知れずになっているといっていい。どこに消えたのか…

         それにあのユノー将軍を逃がしたまま放っておけだなんて。





         この件が片付いたら少し調べてみるか…?







         「中佐!大総統府から電話が入ってますが。」

         「あ、ああ。わかった。」





         そうか、もうその時間か。参ったなぁ…

         



         ヒューズは手にしたカップを置き、あるビンを取り出した。

         その中身を一気に飲み干す。



         「中佐??何飲んでるんです?」

         「いや…何でもない。」



         苦い表情をしながら電話を取る。

         はい、はいと頷きながら深いため息をついて受話器を置いた。



         「どうかしたんですか?中佐。」

         「大丈夫だ、なんでもない。俺はちょっと大総統府にいってくる。今日はもうこちらには戻れないかもしれないから、          

          もし家から電話があったらそう伝えておいてくれ。」





         はぁ、と不思議そうな顔をしながらヒューズが出て行くのを見送った。















         「とにかく、マスタング大佐をもっと追及すべきです!閣下!」



         大総統府、ブラッドレイの執務室でグラン准将がブラッドレイに息巻いていた。

         クーデターを阻止したその総指揮官として一応武勲を挙げたのだが、グランはどうにも納得がいかなかった。



         フェルゼを初め、多くの将軍たちが捕まり、秘密裏に処分を受けていると言う。

         だがその中にロイは含まれていなかった。





         ヒューズの中間報告でロイは薬で自我を失い、自由意志を殺がれていたとなっている。

         その証拠となる薬も提出され、エドや生き残ったユノーの兵士の証言もあり、

         ロイは罪の意識を捉える事が出来ない状態だった、という結論に達したのだ。





         何よりブラッドレイがロイをかなり弁護していた。

         といってもたった一言、「訴追の必要なし」と告げただけだったが。



         だが独裁者のその一言が裁判官の判断を一つに纏め上げた。

         ヒューズの弁護と証拠も功を制し、かくしてロイはクーデターの首謀者としての罪は免れたのだ。







         だがグランはその結果に納得していなかった。



         もともと鼻につく部下ではあった。自分を上官とも思わないその態度に何度か怒りを噛み殺した事もある。

         だがクーデターのあの日、ロイは何の躊躇もなくブラッドレイ大総統閣下を撃った。



         そして自分の右手をやはり迷う事無く打ち抜いた。





         本当に自由意志を殺がれていたのか?怪しいものだ。



         それがグランの本音だった。







         「閣下!!私はマスタング大佐が反逆の意志なく撃ったとは思えません!」

         「薬のせいとはいえ、普段そういう意識があったからこそああいう行動に出たのだと思います!」



         グランは右手の包帯をわざとらしくブラッドレイに見せ付ける。

         ブラッドレイは困った様な顔をしてグランの相手をしていた。





         その時…



         RRRRRR…



         「大総統閣下、ヒューズ中佐からお電話が入っておりますが…」

         「繫げてくれたまえ。」



         まだ食って掛かろうとするグランを制し、電話にでる。





         「…わかった。すぐに交代しよう。と、そうだ、少し荒療治でもするか。」

         そう言いながら受話器を置く。



         その少し前に電話口から悲鳴の様な声がグランには聞こえていた。



         「閣下…?今の電話は…?」

         「君が気にする事ではない。さて、マスタング大佐の件だね。」

         「君はクーデターの罪と言うよりも、右手を撃たれた事への個人的な恨みがあるようだ。」



         いきなり核心を付かれてぐっと苦い顔をする。

         ブラッドレイはそのグランの表情を見てにこやかに笑った。





         「図星のようだな。では、マスタング大佐本人に詫びを入れさせれば君の気は済むかな?」



         え?と言う顔をして、ブラッドレイを見る。

         にやりと笑って椅子から立ち上がり、「着いて来るように」とグランを促す。



         グランは訳が分からない状態でブラッドレイの後に続いていった。









   



         大総統府最上階。

         ブラッドレイ以外めったに来ない特別な階。



         その一番奥の部屋にグランは案内されていた。





         『こんな所、来たことないぞ…?一体何が…?』

        

         通された控えの間でグランはソファに座り、この状況を必死で把握しようとしていた。





         ブラッドレイは奥の部屋に行ったきり出てこない。

         それよりも扉から時折聞こえてくる悲鳴のような叫び声がグランは気になっていた。





         あれは…マスタング大佐の声じゃ…?







         ギィッと扉が開き、中からブラッドレイが出てきた。

         グランはその姿にぎょっとする。



         軍服は切り裂かれ、ボタンはすべて引きちぎられている。

         その首にはくっきりと指の後が残されていた。





         「か…閣下…そのお姿は…それに、あの声はマスタング大佐では?」

         「いや、なに。黒豹が暴れてね。手が付けられないのだよ。」

         「私やヒューズではもう効かないらしい。マスタングが君にした事への詫びもこめて。」





         好きにしなさい。なに、乱暴に扱っても構わんよ。大佐はそれが好みらしいしな。

         

         グランの耳元にそっと囁く。

         ごくっと喉を鳴らし、ブラッドレイに目線を合わせる。



         ブラッドレイは疲れた表情でにっこりと微笑み、ソファにどさっと座り込む。

         グランはふらふらと奥の部屋へと吸い込まれていった。





         扉を開け、中に入る。



         その広い空間には天蓋付のベッドがまるでその部屋の主の様に置かれていた。



         その上で揺れ動く一つの影。







         「マ、マスタング大佐!?」





         シャツを一枚纏っただけのロイが侵入者の方に目を向ける。

         それがグランだと認識すると、ふらふらと傍に近づいてきた。





         これはっ!一体!?



         近づいてきたロイの姿を見て、グランは一瞬眼を疑った。





         生意気なあの表情は全くなく、すがるような眼で自分の足元に跪く。

         その顔はやつれ切っていて、頬はこけ、眼の下には隈が出来ていた。





         薬…そのせいなのか…?





         いまだ状況を把握しきれないでいるグランをよそに、ロイはズボンのベルトを外しにかかる。

         そして器用にグラン自身を取り出すと、何の躊躇もなくそれを口に含んだ。





         「!マスタング大佐!?」

         どんなに要求しても決して受けなかったあの大佐が…?



         自ら進んで身を委ねようとしている…?





         「ふっ、んん…ま、待て大佐!」

         あまりの舌使いの上手さに、イきそうになり、思わずロイを制する。

         だがロイは構わず奉仕し続けた。



         それがグランの気に障ったのか。いきなり思うがままにされたのが気にいらなかったのか。





         「やめんか!」

         パシッとロイの頬を右手で叩いた。その痛みでグランは思わず顔をしかめる。



         ロイは叩かれた衝撃でドサッと床に倒れこんだ。







         上目使いでグランを見る。その眼は明らかに欲情していて、グランを煽っているようだった。





         右手の痛みを感じながら、グランの中から嗜虐心がふつふつと湧き出してきた。









         「好きにしていい、とおしゃってたな…」









         ぺろりと唇を舐めるグランを、ロイはただ潤んだ瞳で見つめているだけだった。











         To be continues.





  
   






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