腐った林檎たち  38









        東方司令部の資料室奥。





        そこでハボックはいつもの様に昼寝をしていた。







        クーデター殲滅の一員に加わり、その功績も上げ大総統直々に労も労って貰った。

        金一封も貰ったし…言うことなし、なんだが…





        「大佐に会えずにこっちに戻されて…何か不に落ちねぇな…」





        ヒューズ中佐は薬物中毒の治療中だって言ってたけど。

        今、あの人が苦しんでいるんなら力になってあげたい…



        「俺じゃぁ、何にも出来ないかもしれないがな…」



        それでも傍にいて抱きしめてあげたい。





        片思いだとしても。実らない恋だとしても。

        鋼の大将が好きだとしても…







        「あぁ、いたいた!ハボック少尉!ホークアイ中尉が呼んでましたよ。」



        資料室のいつもの場所を覗きに来たフュリー曹長がごろりと横たわっていたハボックの顔の傍にしゃがみこんだ。



        「中尉が??何だろう。サボってんのばれたかな?」

        「少尉のサボり癖は大佐仕込みですからね。」



        くすくす笑いながらハボックの顔を覗き込む。

        「大佐もどうしちゃったんですかね。これでもう2週間は戻ってません。」

        「中央で特別な任務に就いちゃってたからね。もう暫くは戻れないだろう。」

        フュリーは何も知らされていない。ごく一部のものしかクーデターの全貌は明らかにされなかった。



        「早く帰ってきてくれませんかね。大佐がいないと東方司令部もつまらなくて…」

        「そうだな…早く帰ってこないかな…」

        むくっと身体を起こし頭を掻きながら資料室を後にする。







        その後、ホークアイ中尉から中央のヒューズ中佐が至急来るよう電話が入った事を聞かされた。





        ハボックはろくな準備もせずセントラル行きの列車に飛び乗った。











        その頃、エドとアルは西のとある町で賢者の石を探す旅を続けていた。

        クーデター鎮圧後、エドはロイには会わず、早々に旅に出てしまっていたのだ。



        町の駅のホームで次の目的地に向かうべく列車を待っていた。





        「兄さん…大佐に会いに行かなくていいの…?」

        「大佐は今、治療中だって言うじゃないか。俺がいても邪魔なだけだ。」





        治療はヒューズ中佐と大総統が責任を持ってするって言ってたし。





        「俺達は俺達の目的の為に今は前に進むしかないさ。次の街はどこだっけ?」

        「えっと…南の方だ。一度セントラルで乗り換えなきゃ。」

        そっか…と俯きながら駅のホームで列車を待つ。



        大佐は今どうしているんだろう…ちゃんと治療してるのかな…



        今度会った時は元の大佐に戻っているといいんだけど…





        それから20分後、二人はセントラル行きの列車に乗り込む。





        ロイを想い、だが会う事は止めようと心に決めながら。









        

        列車がセントラルに着いた時、辺りはもう暗くなっていた。

        エドは乗り換えの列車に乗る為にホームを歩く。アルも後に続いていく。

        

        「ねぇ、遅くなっちゃったからここで泊まっていかない?」

        「何で?早く目的の町に行ったほうがいいじゃないか。泊まるんならそこで泊まるさ。」

        「でも…本当にいいの…?折角セントラルに戻ってきたのに。」





        「…いいんだ…今は大佐に会わなくても。中佐だって元に戻ってから会った方がいいって言ってたじゃないか。」





        エドは俯きながら構内を進む。本当は凄く会いたい。

        でも会うのを怖がっている自分もいる。



        会っても自分の事がわからなかったら…?拒絶されたら…?



        あの屋敷での事を何も覚えてなかったら…?名前を読んだ事も忘れていたら…?



        「……会いたい…」

        「兄さん…?」

        「やっぱり大佐に会いたい!行こう!アル!」



        いきなり思い立った様にエドは身体を反転して、改札口へと向かって行った。

        あぁあ…いつも兄さんは突然なんだから…



        アルはクスッと笑いながら兄の後に続いていった。







        





        その一足先にセントラルに到着していたハボックは、ヒューズの案内で大総統府の最上階へ連れられていた。  

        ロイがいるあの部屋の一つ手前の部屋で待機している。



        今は落ち着いているのか、あの悲鳴も聞こえてくる事はなかった。



        「すまんな。待たせた。」

        「はっいいえ!大総統閣下にはご機嫌麗しく…」

 

        奥の部屋から出てきたブラッドレイに、ハボックは慌てて敬礼をかざす。

        そのハボックの言葉にブラッドレイは苦笑する、。



        「ご機嫌麗しく…か。君にはそう見えるかね?」



        いいえ。そうは見えませんよ、閣下。

        やつれた顔、疲れた声。一体何があったんです?





        「ハボック…よく来てくれた。早速だがロイと会ってくれないか。」

        「はっ、え?でも今治療中だと…」

        「お前の力が必要になってきた。ロイの望む事をしてやってくれ。」



        同じように奥の部屋から出てきたヒューズも、やはりやつれて疲れきった声を出す。



        ハボックは何がなんだかわからない状態で奥の部屋に通される。





        薄暗い部屋の中で一際目立つベッドが一つ。

        その上に揺らめく影があった。   





        「大佐…?ヒューズ中佐、一体これは…?」

        「…薬の…後遺症だ。」

        「後遺症…」



        ハボックはゆっくりとロイの傍に近づき、その姿を眼に映した。



        全裸で横たわるロイ。落ち着いているのか、息は静かで穏やかだった。

        だがその白い肌には無数の痣が残され、手足には手錠の痕もまだ残っていた。

   

        「…ロイが打たれていた薬は、快楽を与えるものだったんだ。」





        薬が効いている間はロイはその快楽に酔いしれ、一度切れるとそれを求め奉仕をする。

        

        「薬を貰う為にそうやっていたらしい。ここに連れてきた最初に日に俺のベルトを外そうと必死だった。」

        「だが薬はもうない。作ろうにも分析が出来なくてね。」

        「中佐が見つけた薬から中和剤は作れなかったんですか…?」

        「ユノー将軍が錬金術で作り上げた薬だ。分析に3年はかかると担当医が言ってきたよ。」



        身体の中を駆け巡る快楽への疼き。それはロイに耐えがたい苦痛を与えた。



        「それから逃れる為にロイは何でもした。恥じらいもなく自慰をして、それでも満足できず俺に懇願してきた。」



        抱いてくれ…と…



        「あの誇り高い焔のロイが、涙を流し跪いて俺に擦り寄って来るんだ。」

        「そんな姿を見たくなくて、俺は治療も兼ねてロイを抱いた。」



        最初の数日はそれでも満足していた。だが日を追う毎にロイの身体の疼きは止まらなくなり…

        ヒューズ一人が与える快楽ではとても解消できなくなっていた。



        抱いても抱いてもまた求めてくる。

        流石にヒューズも限界を感じ、それを見守っていたブラッドレイも手を差し出す事となった。



        「だが私が何度弄んでも、マスタング大佐は満足しなくてね。連日連夜、抱き続けたが…」



        もう限界だ。私もヒューズも、そしてマスタング大佐も…





        「そのうち、満足する快楽が得られないと、暴れ出す様になって来た。今ではSEXした後は命がけだよ。」

        ブラッドレイは徐に襟元を緩め、ハボックにその痕を見せた。

        ヒューズも苦笑しながらシャツの前を外し、胸に刻まれた無数の引っかき傷を見せる。





        「今は…睡眠薬で眠らせてある。だがもうそろそろ目が覚める頃だ。」

        「最近では俺たちの顔を見るだけでも暴れだすから、席を外すよ。」

        「何かあったらすぐ飛んでくるから…ロイを頼む…少尉…」



        ハボックは震える手でロイの髪にそっと触れる…

        …望みを叶えろって…抱けって事ですか!?



        「親友の中佐や大総統閣下が駄目だったのに、俺が大佐を満足なんてさせてやれませんよ!」

        「お前はロイに信頼されていた。」

        「中佐…?」

        「陰謀があるとかぎつけ、だからこそお前を一緒に連れてきたんだ。」





        何かあった時、必ずお前が自分の居場所を突き止めてくれるだろうと信じて…





        「ロイは…今心を許せる者が必要なんだ…ハボック少尉…」



        それは俺では駄目らしい…





        「大佐…」

        ハボックはロイの傍らに跪くと、そっとその唇にキスを落とす。

        まるで眠り姫が眼を覚ますかの様に、ロイが薄っすらと瞼を開けた。





        「…ハボック…やっと来たか…遅いぞ…」

        「大佐…!?」



        一瞬正気が戻ったのかと思えた。だがロイの眼はまだ虚ろで、自分はまだあの屋敷に監禁されていると思っていた。

        そしてすぐに意識は飛び、身体の中の疼きがロイを狂わせていった。



        「んっはぁああ!!」

        突然喘ぎ声を上げ、ハボックを抱き寄せキスをかわす。

        歯列を割り、ハボックの口内に舌を滑り込ませる。



        驚くハボックをよそにその舌を絡ませ吸い付いた。



        キスに夢中になりながら、ハボックの服のボタンを器用に外していく。

        長いキスを終えた時、ハホックの前はすべて肌蹴られ、ロイはその下のベルトに取り掛かっていた。



        その手をそっと握り、ベルトから外させる。



        「あんたは上官なんだから…俺が自分で脱ぎますから。」







        ハボックは意を決した様に服を脱ぎ取った。

        引き締まった身体はほんのり紅く上気していて、その中心はすでに天を仰いでいた。









        俺の出来る限りの事を…大佐…







        ハボックはそのままロイに覆いかぶさり、首筋に唇を落としていく。

        身悶えるロイの姿は美しく、淫らだ。











        ロイの身体を愛撫しながらハボックはロイに語り続ける…









        大佐…愛してます…だから戻ってきて下さい…

        俺、迎えに来ましたよ…早く東方司令部に戻りましょう…









        その言葉にピクリと反応し始める。







        「ハボック……」











        そう呟きながらロイは再び快楽の渦に意識を沈めていった…









         To be continues.





  
   






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